第14話 試し切りの成果
試作品は、既存の鋏の刃を調整し、持ち手を俺の指に合わせて作り直したものだった。
薬指を入れ、親指を浅くかける。前より自然に持てて、開閉も楽だ。
「持ちやすいです」
「切れ味も見てくれ」
ガルドから試し切り用の髪を受け取った。
刃の根元、中央、先端と、使う位置を変えて切る。次に薄い毛束を作り、指で支えて試した。
髪が滑ったり、刃に挟まったりすることはない。開閉を繰り返しても、親指に余計な力を入れずに済んだ。
「これなら、実際のカットにも使えそうです」
「なら、儂の髪を頼む」
顔を上げると、ガルドが耳の上を押さえていた。
「ここを、前に気にしていただろう。儂も膨らむのには困っていたんだ」
「厚みを調整すれば、今より収まりはよくできそうです」
「頼む。作った鋏が、仕事に使えるかも確かめたい」
「では、お願いします。使い心地は俺からお伝えしますので、ガルドさんも、髪が引っ張られたりしたら教えてください」
「おう。使って気づいたことは、何でも言ってくれ」
「はい。そこは遠慮しません」
「だろうな。この三日で、よくわかった」
ガルドは笑って、俺を隣の小部屋へ案内した。
*
火や道具のある作業場を避け、小部屋で髪を切ることにした。
セレスが鏡と椅子、櫛、それからカットクロスに使える布を用意してくれた。
道具を清潔に整え、ガルドに座ってもらう。
「普段は、どなたに切ってもらっています?」
「手の空いたやつに頼んでる。邪魔になったら、短くしてもらう」
「短くして、困ることはありませんか?」
「横が立つ。だが、伸びると今度は膨らむんだ」
触ってよいか確認してから、櫛を通した。根元の生え方を見て、指で持ち上げた髪を離す。
横の髪は、短くしすぎると立ちやすそうだ。上からかぶさる長さを残し、厚みを調整する方がよさそうだった。
「耳の周りは短くしますが、その上は少し長さを残します。短くしすぎると、かえって立ちやすそうなので」
「長くても、膨らまないようにできるのか?」
「厚みを減らして、収まりを見ながら整えます。前髪は、今くらいで大丈夫ですか?」
「目に入らなければいい。襟足も、首がちくちくせんように頼む」
「わかりました」
鏡で仕上がりの形を説明し、了承してもらった。
クロスを掛け、髪の汚れや絡まりを確かめてから、最初の毛束を取る。
鋏を入れると、髪は狙った位置で切れた。
「引っ張られませんか?」
「平気だ」
続けて切り進める。
魔王の髪を切った小さな鋏より、一度に切れる幅が広い。刃先も使えるので、細かな調整がしやすかった。
「刃先でも、きちんと切れています。開閉も、今のところ硬くありません」
「そうか」
ガルドがうれしそうに笑い、俺の手元を見ようと頭を傾けた。
俺はすぐに鋏を離した。
「ガルドさん。頭は動かさないでください」
「……すまん。つい、鋏が気になってな」
自分が作った道具の働きを見たいのだろう。その気持ちはわかるが、今はじっとしていてほしい。
*
セニングはまだないので、普通の鋏で少しずつ毛量を調整した。
横は表面の長さを残し、内側の厚みを減らす。襟足も生え方に合わせて整えた。
切るたびに櫛を通して髪を離し、自然に収まるかを見る。手で押さえなくても形が保てるよう、少しずつ仕上げていく。
しばらく使うと、薬指の輪の内側が少し当たることに気づいた。痛くはないが、何人も続けて切るなら直したい。
その点を覚えておき、最後に左右と後ろのつながりを確認した。
「お待たせしました。いかがですか?」
ガルドは鏡を見て、左右へ顔を向けた。それから、いつものように耳の上を押さえようとして手を止めた。
「……もう、膨らんでないな」
「触って確かめてみてください」
ガルドは横の髪をなで、手を離した。
「短くしすぎると立つのに、長さを残した方が収まるんだな」
「ガルドさんの髪は、この長さが合いそうです」
手鏡で後ろも見てもらう。襟足を触ったガルドが、満足そうにうなずいた。
「首も楽だ。切っている間も、髪が引っ張られることはなかったぞ」
「よかったです」
細かな毛を払い、クロスを外した。
「鋏の方は、一か所直していただきたいところがあります」
薬指を輪に入れ、当たる場所を示す。
「ここの内側を、もう少し滑らかにできますか。使い続けると、指に当たります」
「少し持っただけでは、わからんかったな。そこは直そう」
「それ以外は、使いやすかったです」
ガルドは鋏を受け取り、輪の内側を指で確かめた。
試し切りでは気づかなかったことが、一人分のカットでわかった。試作品を作って終わりにはできないらしい。
「そこが直ったら、また使ってみてくれ」
「お願いします」
話していると、ガルドが扉へ目を向けた。
「お前ら、何だ」
入り口に、工房の若い職人が二人立っていた。一人が、ガルドの髪を見ながら口を開く。
「俺も、切ってもらえますか?」
もう一人もうなずいた。
「親方、横の髪がすっきりしましたね」
ガルドが自分の頭をなでる。
「そうだろう」
声が、少し得意げだった。
俺は二人に向き直った。
「大丈夫ですよ。ただ、先に鋏を少し直してもらうので、日程を相談しましょう」
道具も、髪を切る場所も、まだ借り物ばかりだ。
それでも、仕上がりを見て「自分も」と言ってもらえるのは、やっぱりうれしい。
「どの辺りが気になっていますか?」
二人が、それぞれ自分の髪を指した。
俺は二人の髪を見比べ、紙に希望を書き留めた。




