第13話 シザー試作品完成
俺は髪を切る動きを、ガルドにゆっくり見せた。毛束を取るつもりで左手を上げ、鋏を開閉する。次に刃を閉じ、櫛を使うときの持ち方へ変えた。
「そこで、親指を抜くんだな」
「はい。このとき、持ち手の出っ張りが指に当たります」
ガルドは鋏を受け取り、俺が示したところを確かめた。
「ここは直そう。ただ、全部を一から作るには時間がかかる。まずは今ある鋏で刃の調整を試して、持ち手は別に形を決めるぞ」
「はい。お願いします」
ガルドは候補を二本残し、ほかの鋏を片づけた。
俺も、刃と持ち手で直したいところを紙に書く。そこで、皿に残った数本の髪が目に入った。
「昨日カットした魔王様の髪の毛って、まだあれば試し切りに使えたりしませんかね?」
「ユウ様。カットした毛とはいえ、魔王様の髪の毛を試し切りに使うのは、さすがに……」
セレスの声が、少し低くなった。
顔を上げると、笑っていなかった。
「……ぁっ、はい。そうですよね。すみません」
切った髪がたくさんあったので、つい口にしてしまった。
「試し切りに使う髪は、こちらで用意できるか相談してまいります」
「ありがとうございます。普段のお手入れで抜けた髪などで大丈夫です。無理に抜いたり、切ったりする必要はありません」
「承知しました」
ガルドが皿を見て、息をついた。
「助かる。これだけでは、何度も試せんからな」
試すための髪の毛の調達から始める美容道具開発。
元の世界では、考えたこともなかった。
*
ガルドは鋏を分解し、刃の状態を確かめ始めた。
刃を光にかざしては角度を変え、黙って手を動かす。俺も話しかけずに、少し離れて作業を見守った。
やがて、組み直した鋏が差し出された。
「試してくれ」
まず、残してあった髪を切ってみる。さっきは滑って逃げた刃先でも、今度は切れた。
「切れますね。ただ……」
何度か開閉して、動きを確かめる。
「開閉が硬いです。これを繰り返すと、親指が疲れそうです」
「少し緩めてみるか」
ガルドがねじを調整した。
今度は動かしやすい。けれど、刃先で切ろうとすると、また髪が滑った。
「締めると髪は切れるが、開閉が硬くなる。緩めると動かしやすいが、髪が逃げるか」
「切れ味と動かしやすさ、両方欲しいですね」
「簡単に言ってくれるな」
そう言いながら、ガルドは鋏を光にかざした。
「だが、使うたびに親指が疲れるようじゃ、仕事道具にはならん。刃の合わせ方から、もう一度見直す」
「お願いします」
俺は、開閉したときに力が必要だった位置を、もう一度ゆっくり示した。
*
その日のうちに、鋏は完成しなかった。
刃の調整を試し、持ち手の形を相談する。俺が使って気になったところを伝えると、ガルドは手元を見て、直す場所を確かめた。
「使っていた鋏を一本でも見られれば、話が早いんだがな」
「俺も、持って来たかったです。少なくとも、この絵よりは役に立ちます」
ガルドが紙へ目を落とした。
「それは、そうだな」
そこは少しくらい、否定してくれてもよかった。
その後も工房へ通い、調整した鋏を試した。
セレスが手配してくれた髪を使い、刃の根元から先まで切れるか確かめる。持ち手は、指の収まり方と、何度も動かしたときの疲れ方を見た。
セニングは、まだ図面の段階だ。先に普通の鋏を仕上げることになっている。
工房を初めて訪ねてから、三日後。
ガルドが、布の上に鋏を置いた。
「まずは一本、形になったぞ。持ってみろ」
俺はさっそく手を伸ばした。




