↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔王様、今日はどのくらい切りますか?』  作者: 酔どれワンコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/20

第10話 魔王ってなんだろう

朝食を済ませ、工房へ向かう準備をした。

 俺は昨夜の紙を机から取る。

 明るいところで見ると、鋏の絵は、さらに歪んでいた。

 右の輪が大きい。

 左の輪は、やけに細長い。

 このまま作られたら、困る。

 俺は横に、実物の形は相談して決める、と書き足した。

「何か不足がありましたか?」

 セレスがのぞき込む。

「絵の腕が少し」

「形はわかりますよ」

「使いやすい形かどうかは、別なので」

 紙を広げ、昨日書いた条件を確認する。

 刃の長さ。持ち手の形。開閉の滑らかさ。

 重さは数字で指定するより、手に持って相談したい。材質や刃の作り方についても、職人の話を聞く必要がある。

 俺が知っているのは、何を使いたいか、どう使いたいかだ。

 それを作る方法まで、全部知っているわけではない。

「まず、普通の鋏からですね」

「はい。すきバサミもお願いしたいですけど、こちらの道具でどこまでできるか、見せてもらってから相談します」

 セレスは下の方へ目を移した。

 そこで、止まる。

「……『指を入れるところに、牙は不要』」

「はい」

「これは、昨夜のうちに?」

「寝る前に思い出したので」

「そこまでお気になさっていたのですね」

「最優先事項です」

 セレスが口元を押さえた。

 昨日は魔王も娘も見ていたので、笑うのを控えていたのだろう。

 今日は、だいぶ余裕がある。

「職人には、先に伝えておきます」

「お願いします。竜そのものが嫌いなわけではないんですけど」

「ええ。指を入れる場所には、必要ありませんね」

 ちゃんと通じた。

 この一点だけでも、付き添ってもらえるのは心強かった。

     *

 工房は、城の別棟にあるという。

 廊下を歩く間、セレスは今日の段取りを説明してくれた。

 まず、担当する職人に紹介してもらう。手持ちの道具を見せてもらい、寸法や用途を相談する。

 材料や作業にかかる時間も、その場で聞く。

「今日中に作っていただけるとは限りません」

「もちろんです。ほかの仕事もあるでしょうし」

「はい。魔王様からは、ユウ様の話をよく聞き、必要なことを相談するようにと」

 俺は少し、歩く速度を落とした。

「……セレスさん。一つ、聞いてもいいですか」

「何でしょう」

「魔王様って、ずいぶん話を聞いてくれる方なんですね」

 セレスが、こちらを見る。

「昨日も、俺が知らないことを急かさなかったですし。泊まる場所まで用意してくれて。今朝も、無理に今日中に作れ、という話ではないんですよね」

「必要な道具が、急いで使えないものになっても困りますから」

「確かに」

 俺は紙を持ち直した。

「俺のいた世界の物語だと、魔王は、だいたい怖い敵だったんです。ゲームでも、最後に倒す相手で」

 セレスの眉が、少し上がった。

「魔王という名前だけで?」

「そういう話を、よく見てきたので。正直、昨日も最初は身構えました」

「お会いになって、どうでした?」

 頭に浮かんだのは、娘の感想を待っていた顔だった。

 そして、こちらの都合で招いた者を外へ出すつもりはない、と言った声。

「……今のところ、よく話を聞く王様と、娘さんに格好よく見られたいお父さんです」

 セレスが笑った。

「どちらも、間違ってはいないと思います」

 それから、少し真面目な顔に戻る。

「ただ、お仕事のことは、これからご覧になる機会もあるでしょう。昨日の魔王様は、ご家族の前でもありましたから」

「そうですね。まだ、一日しか知りませんし」

 娘に弱いだけで、国を治められるわけではない。

 けれど、怖い名前だから邪悪だと決めつけるのも、違うのだろう。

 魔王とは、そもそも何なのか。

 俺の知る物語と、この世界で、その意味が同じとは限らない。

 その辺りは、もう少し落ち着いたところで聞いてみたい。

「まずは、今日の道具ですね」

 俺が言うと、セレスがうなずいた。

「はい。使い道を一番よく知っているのは、ユウ様ですから」

 廊下の先で、金属を打つ音がした。

 一定の間隔で、硬い音が響いている。

 別棟へ渡ると、空気の匂いが変わった。火と、熱した金属。それから、削った木の匂い。

 開いた扉の向こうには、作業台が並んでいた。

 壁に掛かった工具。積まれた材料。使い込まれた手の人たち。

 俺はメモの端を、指でそろえた。

 こちらの欲しいものを、わかるように伝えよう。

 作り方は、教えてもらおう。

「こちらです」

 セレスに続いて、工房へ入る。

 奥にいた職人が、手を止めて顔を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。