第51話 ダンスという地獄
私は殿下も手袋をしていることから、しぶしぶダンスを引き受けた。嫌だったけれど、こればっかりは逆らえない。
殿下には「俺に捕まって、俺が動いたとおりにすればよい。」とだけ言われた。不思議なものか、ダンスはすぐにできた。
「本当にはじめてなのか?」
「あはは。実に嬉しい褒め言葉ですね〜。」
私は殿下の言葉にそう返す。
これぞまさにヒロインチートってやつだと思うけれど。
それにしても、アダムラフテリア。勉学、剣術、魔術、体術などの幅広いことができるのに、まさかダンスもできるなんて。乙女ゲーの王子は優秀なものだな。前世では、こんな女子の理想的存在はいないだろうな。
だからこそ、この世界でも彼を狙うものが多いのだろう。
…睨まれているような気がするな。どうしたものか。
そのときだった。急に曲調のテンポがはやくなったのは。
「!? なぜはやく!?」
「どんどんはやくしていき、最後に残るダンスペアに祝福が渡る、というものだな。」
あ〜。だから、ゲームでも大事だったんだね。
「祝福…って、たかがダンスごときでですか?」
「優勝品は、ロイヤルチョコケーキ、というものらしいが?」
「殿下、絶対残りますよ。」
「やる気出したな。」
アダムラフテリアはフッと笑みを浮かべた。
「少し、触るぞ。」
「…はえ!?」
私は殿下の腕の中に引き寄せられるのであった。
ちょっと!こんなに近い距離じゃ、私のメーターが死ぬんですけど!!
でも、これはロイヤルチョコケーキのためだから…。
◇◇◇
ちょっとあれはどういうことなのよ!私でさえ、去年殿下と踊ったときにあんなテンポでできなかったわよ!なのに、どうしてあの女は!?
私の視線の先には、マイナ・ポタインと殿下がいた。
よりにもよって殿下はなぜ、あの女と?この私を差し置いてですって?たかが平民のくせして?
「おい、あの2人を見ろよ!」
「テンポがあがっても、まったく動じていないわ。」
「今年の祝福は、あのペアにあがるかも知れないな。」
「お似合いですわ〜。」
私はそう言った方々に視線を送ります。少し、睨むと、その方たちはすぐに言うのをやめた。
まったく。私がいるというのにその発言。…彼らは、下級貴族の…。後でお父様に言いつけてやるんだから。せいぜい残りの暮らしに感謝しておくことね。
「セシリア嬢。」
「なんでしょう?デューク様。」
本当は、アダムラフテリアが本命なのだけれど、たまにはデューク様も悪くないわね。ダンスは、はやく終わってしまいましたけれど…
「さきほどダンスで足を痛めたそうですが、大丈夫でしょうか?」
「心配くださってありがとうございます。だいぶ痛みも引いてよくなりましたわ。」
足が痛いというのは嘘ですけど。あんなはやさ、私がついていけるわけないじゃない!
私は近くにあったシャンパンを通して、2人を見る。そしてこう発した。
「あそこに立つのは、間違いなくこの私になる。」
っふっふっふ。あの女が地獄に落ちるのが楽しみなことね。
◇◇◇
「残すは私たちとあのペアですね。」
私たちは残っているもう一組に視線を向ける。
「あぁ。あのペアは前回優勝しているところだ。3年生で、まだ一回も負けたことがないらしいぞ?」
「強敵だぁ…。」
私はうわぁって顔の表情をする。私のその表情を読み取ったのか殿下はニヤリと口角を上げ、口元を私の耳元に近づける。そしてこう囁いたのだ。
「目の前の男から目をそらすとは。いい度胸だな。」
彼はそう言って、指を私の指を絡ませるようにした。
いやいやいやいや。流石に度を越えてるって殿下。こうなったらーーー
私は殿下の足を踏む。今、私はヒールを履いているから痛いはずでしょ?
「あら。殿下にとんだご無礼を。」
「足が疲れているのだろう。疲れさせた俺に非があるな。」
「うわぁぁぁ!!!」
殿下は私の腰を持ち、なんと、持ち上げたのだった。私は足がつかない状態である。
「お、お、おろしてください!!!」
殿下は地面ギリギリのところまできてくれた。だが、また浮いている状態だ。
「このまま続けるぞ。」
「正気なんですか⁉殿下も腕が。私の体重大丈夫ですか?」
「重いな。」
こいつ…。今すぐ、殴ってやりてぇ。
「冗談だ。」
「笑えない冗談ですね。」
私はフンとそっぽを向く。
「みろ。効果があったようだぞ。」
殿下が残ったもう一方のペアの方へ視線を向ける。もう一方は私たちのことを見て、少々焦っていた。
「周囲が私たちに注目しているから、負けないようになにか作を考えているんでしょうか?」
「どうだろうな?」
私たちは、この状態のまま踊り続けていた。正直、殿下と目線が同じなことに嬉しかった。
「同じですね。」
「なにがだ?」
「身長がです。いつもは見下されていたのでなんだか新鮮で。」
「見下してなどいなかったぞ。」
「嘘つき。」
私たちがそんな会話をしながら踊っていると、周囲はざわつきはじめた。
♢♢♢
「なんですの?あの光景は⁉殿下がマイナを軽々しく持ち上げるなんて。...羨ましいですわ!なんてことですの!」
セシリアは二人を拝み、悔しい表情をしながらそう言っていた。
「見てください。セシリア様があんなにも思いつめた顔を…。」
「今こそ、セシリア様に恩を返すときなのよ。殿下には申し訳ないけれど、私たちがなんとしてでも止めるわよ!」
「なんだか、みんな怖いね。」
オリバーがショートケーキを食べながら、デュークに向かってそう言った。
「あのペアが暴走をするからだろう。」
「今年は、あの伝説のペアを追い抜いての優勝だったりしてね。あの二人。」
オリバーは笑顔でそう言っていた。
「うれしそうだな。」
「だってアダムのあんなにうれしそうな顔、久しぶりにみたんだもん。」
「そうだな。」
デュークはもの寂しそうにそう言った。オリバーはその様子をさとったのか、ケーキののっていた皿を机に置き、真っすぐデュークの目を見て、こう問いかけた。
「マイナちゃんと踊りたかったの...?」




