第46話:【覚醒】自分自身をピッキング!? 限界突破(リミット・ブレイク)の土下座
「……お前の体には、指を入れる『隙間』がねえ。だったら、俺自身の中にある『最大の隙間』をこじ開けて、お前の理屈を上回るまでの出力を出すしかねえだろ!」
ヴォルガッシュは、喉の奥に突き立てた右指をさらに深く、脊髄の魔力神経が集中する「聖域」へと滑り込ませた。
「な、何を……!? 己の神経を直接ピッキングするというのか! 狂気の沙汰だ、そんなことをすれば廃人になるぞ!」
無機質なバキュームの声に、初めて驚愕が混じる。
「廃人? 上等だ! 俺は元から『不名誉な地下住人』なんだよ! スキル強制進化――『自己内面開通・限界突破』!!」
ズババババババババババババッ!!!!!
ヴォルガッシュの脳内に、宇宙が爆発したような衝撃が走る。
己の指先が、自身の魔力回路の「詰まり(理性)」を光速で掻き出し、深淵に眠るレガシー家の真の力を強制的に引きずり出した。
「ああああああああああッ!! 見える、見えるぞ……! バキューム、お前の『完璧』の中に潜む、分子と分子の、コンマ数ナノメートルの**『呼吸の隙間』**が!!」
ヴォルガッシュの全身から、不浄な濁気をすべて浄化した純白のオーラが噴き出した。
彼は地を蹴り、真空の王へと肉薄する。その速度はもはや光をも置き去りにしていた。
「無駄だと言っている! 隙間がないものに指は……っ!? な、何だと……!?」
ヴォルガッシュの右指が、バキュームの完璧な鎧の「表面」に触れた瞬間――。
指先の超高周波振動が、鎧の原子結合のわずかな歪みを「隙間」へと無理やり拡張し、ズブリ、と中へ進入した。
「……取ったぜ。お前の『心核』だ」
「バ、バカな……! 私の『無』の領域に……鼻をほじるような手つきで侵入されるなど……ッ!!」
「これで終わりだ! 宇宙の塵ごと、一掃してやる! 『全自動・土下座』――超次元・不名誉爆砕!!」
ヴォルガッシュは空中で体を丸め、バキュームの胸元に指を突き立てたまま、地上最強の重力加速を伴う土下座を叩き込んだ。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
天空の島全体が揺れ、真空の王の体が内側から弾け飛ぶ。
それは、完璧な無を拒絶する、圧倒的な「生命の不完全さ(汚れ)」の勝利だった。
「……おのれ、レガシー……。だが、これで終わったと思うな……。真の『詰まり』は、まだ深淵に……」
バキュームは黒い霧となって消散し、天空には再び穏やかな風が吹き抜けた。
数分後。
黄金の光が消え、ヴォルガッシュはボロボロになって床に倒れ込んでいた。
「ヴォルガッシュ様!! 息をしてください、ヴォルガッシュ様!!」
アイリスが駆け寄り、彼を抱きかかえる。
「……ゲホッ、ゲホッ。……アイリス、うるせえよ。……自分の喉、ほじりすぎて……ちょっと、オエッてなっただけだ……」
「お兄様! 鼻から……鼻から見たこともないほど神々しい光の鼻水が出ていますわ! 聖なる奇跡ですわ!」
「主よ、よくやった。……だが、その指、自分の喉を掃除した後に、我の鼻をほじるのは勘弁してくれよな」
ヴォルガッシュは、薄れゆく意識の中で、青い空を見上げた。
父が守りたかった「不名誉」の意味が、少しだけ分かった気がした。完璧じゃなくていい。汚れていても、詰まっていても、それを笑いながら掻き出せる指があれば、世界はまだ生きていける。
「……アイリス。……帰ったら、究極の……耳かき、してくれ……」
「……ええ。とびきり不名誉なやつを、用意しておきます」
天空の危機の終わり。
だが、バキュームが遺した「真の詰まり」という不穏な言葉が、新たな波乱の予感となって雲の間に溶けていった。




