第41話:天空の浮遊島。空気抵抗を指で掻き分けろ
父の真実を知り、少しだけ目つきが(ほんのわずかだが)凛々しくなったヴォルガッシュの元に、空から「それ」は降ってきた。
地下倉庫の換気口を突き破り、床に突き刺さったのは、羽のように軽い銀の槍。そして、背中に翼を持つ小柄な少女――天空族の使者、エアだった。
「……お、お願いです……。伝説の『隙間を埋める者』様……。空の、空の通り道が……詰まってしまったのです……」
「空が詰まった? 交通渋滞か何かか?」
「いえ……天空の浮遊島を結ぶ魔力の風道が、数百年の『乱気流の垢』によって塞がりました。このままでは浮遊島は気圧のバランスを崩し、王都の上に墜落します……!」
またしても「詰まり」が原因の世界危機。
アイリスは手際よく荷物をまとめ、ポチの背中に積み込んだ。
「ヴォルガッシュ様。地上を救い、隣国を救い、今度は空を掃除する番ですね。……行きましょう、天空へ」
ポチの翼で雲を突き抜け、一行が辿り着いたのは、高度一万メートルの聖域。
そこには、かつて見たこともないほど巨大な「雲の塊」が、まるで鼻の穴に詰まった巨大な岩のように、空の要所をガッチリと塞いでいた。
「あれが風の通り道を塞いでいる『魔雲の塊』です。あまりの密度の高さに、鳥一羽すら通れません……」
「なるほどな。……デカすぎて笑えるが、要するに『空の鼻詰まり』ってことだろ」
ヴォルガッシュはポチの背から飛び出し、気圧の壁へと右指を突き立てた。
父の手紙を読んでから、彼の指には迷いがない。
「空気の層、魔力の流れ……そのわずかな『隙間』を見極める。スキル発動――『聖なる指先・大気圏開孔』!!」
ズババババババババババババッ!!!!!
指先が空気を切り裂くのではない。空気の分子と分子の間に指を滑り込ませ、滞っていた気圧の澱みを「掻き出して」いく。
本来なら気圧差で耳がキーンとなるはずの場所だが、ヴォルガッシュが指を動かすたびに、周囲の空気が「スッ……」と浄化され、驚くほど澄み渡っていく。
「な、なんて鮮やかな指さばき……! 私たちの島が、呼吸を取り戻していく……!」
エアが感動に目を輝かせる。
「仕上げだ! 空の重りも土下座して道を譲れ! 『全自動・土下座』――成層圏突破!!」
俺は空中で逆さまになり、雲の塊に向かって全力の土下座圧力を叩き込んだ。
真空に近い負圧が発生し、詰まっていた雲が「スポォォォォン!」と王都の遙か彼方(誰もいない海の上)へと射出された。
ゴォォォォォォォッ!!!!!
天空に心地よい風が吹き抜ける。浮遊島を繋ぐ虹の道が再び輝きを取り戻した。
「……ふぅ。空の上も、意外と埃っぽいな」
「ヴォルガッシュ様、お疲れ様です。……ですが、今の衝撃でミレーヌ様の残りの服が完全に雲の彼方へ消え去りました」
「あはは! でも空の風は気持ちいいね! 私、このまま雲のブラジャーでも作ってみようかな!」
「師匠! 零号機が『この高度での除菌効率は地上より30%向上する』と喜んでいます! ここにレストランの支店を出しませんか!?」
感動回を経て成長したはずのヴォルガッシュ一行だったが、天空の島でもやることは変わらなかった。
不名誉な指先は、今や地上の汚濁から天空の清浄まで、あらゆる「詰まり」を解消する世界の守護神(不審者)へと進化を遂げていく。




