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「神速の指先」を聞き間違いで授かった僕が実は最強だった件  作者: ギア丸


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第38話:地下倉庫の反乱。ポチの尻尾が抜けない!

 その日の朝、地下倉庫は異常な熱気に包まれていた。

 換気扇は空回りし、窓のない地下室の酸素は刻一刻と薄くなっていく。原因は、倉庫の中央で「くの字」になって固まっている巨大な銀色の塊だった。

「……ヌシよ。すまぬ。……抜けぬのだ」

 見れば、ポチが換気用の巨大ダクトに、その太く猛々しい尻尾を根元までガッチリと「パイルダー・オン」させていた。

「お前、またキレイ卿のレストランの余り物を全部食っただろ! 尻尾の節が肉付きよくなりすぎて、ジャストフィットしちゃってるじゃねえか!」

「仕方なかろう。ドロリの『熟成カビ肉』が美味すぎたのだ。……ぐぬぬ、抜こうとすればするほど、鱗がダクトの継ぎ目に引っかかって……痛いのだ」

「ヴォルガッシュ様、冗談では済みません! ポチ様の尻尾が排気口を完全に塞いだせいで、ミレーヌ様の魔力残滓(むせ返るような香水の匂い)が室内に充満し、毒ガスレベルになっています!」

 アイリスがガスマスクを装着しながら叫ぶ。

「あはは……。呼吸するたびに、自分の魔力で酔っちゃいそうだよ……」

 ミレーヌはフラフラと千鳥足で、もはや服を着ているかどうかも怪しい状態で床に転がっている。

「師匠! ダクトの強度は限界です。このままポチ様が暴れれば、王都の地下下水道ごと崩落します!」

 ハルパスがポッド(零号機)と一緒に除菌ミストを噴射して温度を下げようとするが、焼け石に水だ。

「……よし、わかった。ポチ、一瞬だけ我慢しろ。……アイリス、全員を壁際に退避させろ。地下倉庫の全圧力を、一点に集中させる!」

 俺はポチの尻尾とダクトの、わずかコンマ数ミリの『隙間』に右指を添えた。

「まずは滑りを良くする。スキル発動――『超高速・皮脂攪拌ナノ・ルブリカント』!!」

 ズババババババババババババッ!!!!!

 指先の振動で、ポチの鱗から出る微量の油分を瞬時に気化・再結晶させ、究極の潤滑剤へと変貌させる。鼻の奥で固まった「頑固なアイツ」をツルリと出す、あの応用だ。

「仕上げだ……。王都の重力よ、我が指の先に集え! 『全自動・土下座』――特異点・吸引ブラックホール・プル!!」

 俺はダクトの反対側に回り、地面に向かって魂の土下座を繰り出した。ただし、ただの土下座ではない。指先で地面に「負の圧力」を刻み込み、ダクトの中の空気を一気に吸い出す**「真空土下座」**だ!

 シュボォォォォォォォォンッ!!!!!

 凄まじい気圧の差が発生し、ポチの尻尾が「スポォォォォォン!」と、耳に心地よい音を立ててダクトから射出された。

「……はぁ、はぁ。……抜けたか」

「……うむ。ヌシよ、感謝する。……尻尾が、かつてないほどツヤツヤに磨き上げられておるな」

 ポチの尻尾は、潤滑剤と摩擦熱によって鏡面仕上げになり、地下倉庫の照明を反射してキラキラと輝いていた。しかし、ダクトから逆流した数日分の「ゴミ」と「ミレーヌの魔力臭」が室内に爆散し、結局全員が気絶する羽目になった。

「……ヴォルガッシュ様……。助かりましたが……。……掃除。……一週間ぶっ通しで、掃除です……」

 アイリスの遺言のような呟きが、静まり返った地下倉庫に響いた。

 平和への道は遠い。だが、ヴォルガッシュの指先がある限り、どんなに「詰まった」事態も、最終的には(物理的な被害を出しつつ)解決へと導かれるのであった。

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