第36話:「不名誉な騎士、外交官になる。沈黙の聖域を開通せよ」
地下レストランの騒動も一段落した頃、アイリスがまたしても「厄介な特命」を持ってきた。
「ヴォルガッシュ様、今度は隣国との平和を司る『古の平和門』が、経年劣化による魔力の錆で完全に固着しました。これを開けなければ、両国は物理的に分断され、戦争が始まります」
「……鍵師を呼べよ。なんで俺なんだ?」
「鍵師ではダメなのです。あの門の鍵穴は、女神の魔力で保護された『聖なる隙間』。不純物(鍵)を拒絶するその場所に、女神の指先を持つ貴方が直接……その、**『指を入れて掻き出す』**しか方法がないのです」
国家の命運が、俺の「指」にかかっていた。
「……よし、行ってやるよ。バルスカ王の軍隊が地下に来るよりはマシだ」
国境にそびえ立つ、巨大な黄金の門。両国の軍隊が殺気立つ中、俺は脚立に登り、巨大な鍵穴の前に立った。
確かに、中には数百年分の「魔力の垢」が、鼻糞のようにカチカチに固まって詰まっている。
「ヴォルガッシュ様……頑張ってください。貴方の指先が、平和の鍵です」
カノン姫が祈るように見つめる。
「(……全軍が見てる前でこれやるのかよ、不名誉すぎるだろ)」
俺は覚悟を決め、黄金色に輝く右指を、聖なる鍵穴へと突き入れた。
「スキル発動――『超高速・外交特権』!!」
ズババババババババババババッ!!!!!
軍隊のどよめきを無視し、俺は鍵穴の奥にある「数百年の詰まり」を一点に集中して掻き出した。
突如、カチリ、と軽やかな音が響き、門からまばゆい光が溢れ出す。
「お、開いた……! 『平和の門』が、不審な騎士の指先一本で開通したぞーー!!」
両国の兵士たちが抱き合い、歓喜の声が上がる。
こうしてヴォルガッシュは、歴史上初めて「鼻ほじりの技術で戦争を止めた外交官」として名を馳せることになったが、本人は「……門の奥、意外と指が届きにくくて指がつった」と、相変わらず不名誉な感想しか漏らさないのであった。




