第35話:魔界の料理長(シェフ)襲来。地下の『不潔対清潔』料理対決!
地下レストランが繁盛し、キレイ卿が「今日も完璧な無菌状態です!」と床を舐めて確認していたその時。
地下倉庫の壁がドロリと溶け、紫色の異臭を放つ煙と共に、一人の巨漢が現れた。
「……フン、鼻持ちならぬ清潔さだな。食材の『汚れ』こそが深み。カビこそが華。私は魔界の王宮料理長、デスト・クッキング・ドロリ。不名誉な指先とやら、私の『究極の不潔(発酵)料理』とどちらが上か、白黒つけようではないか!」
ドロリが取り出したのは、三百年放置され、自我を持って蠢いている「魔界ブルーチーズ」と、あらゆる病原菌を煮詰めた「混沌の毒スープ」だった。
「ひぃぃ!? 菌が、私の除菌バリアを食い破って侵入してきます! なんという野蛮な繁殖力!」
キレイ卿が除菌ポッドを抱えてガタガタと震えだした。
「ヴォルガッシュ、あれはマズいよ。あのスープの匂い、私の服(残りの布)が自動的に溶けて消えるレベルの強酸性だ!」
ミレーヌが珍しく危機感を感じて背後に隠れる。
「……よし、受けて立つ。ドロリ、お前の言う『深み』とやら、俺の指で根こそぎ『掃除』してやるよ」
料理対決のテーマは「スープ」。
ドロリは、毒々しいキノコを放り込み、魔力のヘラで鍋をかき混ぜる。
「見よ! これぞ魔界の知恵、『万病を呼ぶ腐敗旋風』! 一口飲めば、三日は生死の境を彷徨うが、その後の余韻は天国だ!」
対するヴォルガッシュ。彼は、普通の野菜と水が入った鍋の前に立った。
「キレイ卿、例の『極限まで除菌された黄金水』を出せ」
「は、はい! 師匠!」
ヴォルガッシュは右指を突き出し、鍋の中に突っ込んだ。
「スキル発動――『超高速鼻ほじり・分子攪拌』!!」
ズババババババババババババッ!!!!!
指先の超高速振動により、水と食材の分子が激突し、火も通していないのに摩擦熱でスープが沸騰し始める。
本来なら鼻の奥の異物を取り除く繊細な動きが、スープの中の「不純物」だけを選別し、鍋の外へと弾き飛ばしていく。
「トドメだ! ドロリ、お前のスープの『深み(汚れ)』も、俺の指で浄化してやる! 『全自動・土下座』――圧力抽出!!」
ヴォルガッシュが鍋に向かって強烈な土下座圧力を叩き込むと、ドロリのスープから「毒気」と「悪臭」が物理的に分離され、真っ黒な塊となって排出された。
残ったのは、クリスタルのように透き通った、だが食材の旨味だけが超圧縮された究極のコンソメ。
「……バ、バカな!? 私の三百年発酵させた深みが、一瞬で『透明』に……!?」
アイリスが判定を下す。
「……勝負あり、ですね。ドロリ様のスープは、一口飲んだ瞬間にギルドの保健衛生法により即座に営業停止レベルです。対してヴォルガッシュ様のスープは……一口で全身の毛穴が開き、鼻の通りが良くなる『飲む除菌剤』です」
「……負けた。私の汚れが、これほどまでに清々しく掻き出されるとは……」
ドロリは、透明になった自分のスープを飲み、あまりの清涼感に涙を流しながら土下座した。
「ヴォルガッシュ殿……。私を、このレストランの『下処理係』として雇ってくれ。この指先に、一生洗われていたい……」
「……断る。地下にこれ以上、むさ苦しいオッサンを増やすな」
こうして魔界の料理長をも「清浄」にしてしまったヴォルガッシュ。
地下倉庫は、ついに魔界の保健所すら注目する「世界一クリーンな魔窟」へと変貌しつつあった。




