第33話:姫の婚約者候補(超絶潔癖症)現る! 地下倉庫を『焼却』せよ
地下倉庫の入り口に、まばゆいばかりの純白の陣が敷かれた。
現れたのは、全身を隙間なく白い特注魔導衣で包み、周囲に浮遊する「自動除菌ポッド」を従えた美青年――バルスカ王国の若き公爵、クリーニング・レボ・キレイ卿。
カノン姫の幼馴染であり、自他共に認める大陸一の潔癖症である。
「……おぉ、神よ。これほどまでに不浄な場所がこの世に存在するとは。……カノン、今すぐそこを離れるんだ。そこは『指を鼻に突っ込む野蛮人』が支配する、菌の巣窟だ!」
「あら、キレイ卿。失礼ですわ。ヴォルガッシュ様の指先は、女神に選ばれた究極の衛生器具ですのよ?」
カノン姫が擁護するが、キレイ卿は鼻を白いハンカチで押さえ、絶望に顔を歪めた。
「衛生……? 笑わせるな。指先を直接粘膜に接触させるなど、医学的、公衆衛生的にも言語道断! 私は認めない、カノンがこのような『指先不潔男』と行動を共にすることなど!」
キレイ卿が、浮遊するポッドに命じた。
「ポッド群、作動せよ! 術式展開――『聖なる滅菌』!!」
ポッドから放たれたのは、熱も煙も出さない、だが対象の「汚れ」を分子レベルで消滅させる苛烈な白光。彼にとっての「掃除」は、不浄なものをこの世から焼却することと同義だった。
「ちょっ、待て! 地下倉庫を焼くな! 俺のコレクション(貴重な鼻腔模型)が!」
「ヴォルガッシュ様、下がってください! 彼の魔法は『不潔』と定義したものを自動追尾します!」
アイリスが盾を構えるが、キレイ卿の滅菌光は無慈悲に地下の家財を消し去っていく。
「ふん。不潔な騎士よ、貴様のその『指』こそが、この世で最も滅ぼすべき汚物だ。消えろ!」
白光が俺の右指に集中する。……だが。
俺のオリハルコンの指先が、その滅菌光に触れた瞬間――**キィィィィィィィンッ!**と、心地よい金属音が響いた。
「……何だと? 我が滅菌魔法が、弾かれた……!?」
「……キレイ卿。お前の言う『清潔』ってのは、ただの排除だ。だが、俺の指先が目指すのは……**『共生のためのメンテナンス』**なんだよ!」
俺は一歩踏み出し、キレイ卿の完璧に磨かれた白いバリアの「ごくわずかな歪み」を見抜いた。
「お前のバリア、外側は綺麗だが……自分の『毛穴の奥』までケアできてるか? スキル発動――『超高速・精密除菌ほじり(ナノ・クリーニング)』!!」
ズババババババババッ!!!!!
俺の指先が、キレイ卿の浮遊ポッドの間をすり抜け、彼の鼻の穴へと滑り込んだ。
ただの掃除ではない。指先に宿る「女神の癒やし」と「超高速振動」を融合させ、彼の体内の免疫細胞を活性化しつつ、完璧すぎて逆に溜まっていた「微細なストレス汚れ」をピンポイントで掻き出す。
「あ、あああ……!? な、な、何だ、この清涼感は……! 私の人生でかつて経験したことのない、内側からの『真の白』が見えるぅぅぅ!!」
「トドメだ! 心の汚れもひれ伏せ! 『全自動・土下座』――超音波洗浄!!」
ズドォォォォォォンッ!!
キレイ卿は純白の礼装のまま、床に頭を打ちつけ、そのまま「昇天」した。
彼の浮遊ポッドは、ヴォルガッシュの指の振動を「最高位のマスターデバイス」と誤認し、俺の周囲をくるくると回りながら除菌ミストを噴霧し始めた。
「……ふぅ。これで少しは地下も綺麗になったかな」
「ヴォルガッシュ様……。敵の婚約者候補を、物理的にも精神的にも『真っ白』にしてしまいましたね」
アイリスが、呆れながら真っ白になった床を指差す。
「いいじゃないか! このキレイ卿、目が覚めたらきっと私の侍従になってくれるよ。地下倉庫の除菌担当としてね!」
カノン姫は上機嫌だ。
「主よ……今の指の動き、我の鱗の間のノミも一掃できそうだな。次は我の番だ」
こうして、地下倉庫には「超絶潔癖症の除菌スペシャリスト(気絶中)」という新しい人材が、不名誉な指先の虜となって加わった。
聖騎士ヴォルガッシュの周囲は、不潔と清潔が高度に融合した、よりカオスな空間へと進化していくのだった。




