その3 勇者、墓所から聖剣を盗む
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商人「いやあ、この暑さたまらねえなあ・・・」
賢者「この砂漠地帯は日を遮るものが何も無いですからねえ」
騎士「ぼやくなぼやくな、もう少し行けばオアシスに築かれた街につく」
騎士「到着したら、しっかり休養をとろうじゃないか」
賢者「しかし、一向に勇者に追いつく気がしませんねえ」
商人「まあ、勇者の行く先々でトラブル処理やらされてるからな」
商人「追いつけるもんも追いつけねえよ」
賢者「・・・ん?なんですかあれ」
商人「あ?ああ、あれか」
商人「併合前の侯爵家、砂の国の王家の墓地。ピラミッドだよ」
賢者「へえ、あれがそうなんですか。見事なものですねえ」
騎士「賢者くんでも知らないことはあるんだな」
賢者「それはもちろん」
オーイ
商人「・・・ピラミッドの方から誰か来るぞ」
騎士「あ、盗賊さんだね、おーい!」
タイヘンデスー
賢者「嫌な予感がしますね」
商人「あ、お前も?」
騎士「・・・」キリキリ
盗賊「勇者がピラミッドで盗掘しやがった!」
騎士「言葉遣い」
盗賊「あら、失礼しました」
賢者「なかなか、治りませんね」
商人「俺たちと居るときは、普通なんだけどなあ」
盗賊「いえ、すみません・・・」
盗賊「皆さんと別行動中は、役人であることを隠して情報を集めているので」
盗賊「どうしても、口調が荒くなっちゃうんです」
騎士「役人であることを、隠してるの?」
騎士「なんでまた、そんなことを?」
盗賊「ええと、役人だとわかっちゃうと国民の皆さん口が堅くなっちゃう傾向がありまして」
商人「なるほどなあ、藪へびをつつかないようにってことか」
賢者「まあ、そういう理由があるならしょうがないんじゃないですか?」
騎士「それもそうだな、ただし」
騎士「正式に役人に取り立てられたら、ちゃんと治すんだよ」
盗賊「はい!」
盗賊「えっと、報告いいですか・・・?」
騎士「・・・いや、とりあえず街についてからにしよう」
騎士「ここは、暑い」
商人「そうしましょう」
盗賊「はい!」
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商人「じゃあ、勇者様御一行の悪行について伺いましょうか」
騎士「その言い方は・・・」
賢者「まあ、あながち間違いではありませんね」
盗賊「えー、先行している勇者一行ですが昨日の昼に、この街に入りました」
商人「へえ、一日遅れか」
賢者「だいぶ追いつきましたね」
盗賊「それでですね、ピラミッドに隠された伝説の聖剣の噂を聞きつけたようで」
商人「もう、先が読めたな」
盗賊「はい、隠し通路をあっさり見つけて聖剣を持って行っちゃいました」
騎士「あぁ・・・もう・・・」
騎士「なんで、勝手に持っていくかなぁ・・・」キリキリ
賢者「まあまあ、騎士さん落ち着いて」
賢者「ところで、ピラミッドってそんなに簡単に入れるものなんですか?」
盗賊「入れますね、むしろ観光地になってるぐらいです」
商人「結構、有名だぞ」
賢者「へえ、じゃあ研究、発掘もあらかた済んでいたんでしょうね」
賢者「そんなところで、新たな通路を発見するとは」
賢者「流石は勇者ですね」
商人「やってることは墓荒らしと変わんねえけどな」
賢者「墓か・・・墓ねえ・・・」
賢者「通常なら、衛生局の管轄ですけど・・・」
騎士「いや、ピラミッドに関しては別だね」
騎士「あそこは、歴史的建造物だから文化局だね」
盗賊「ということは国の財産ってことになるんですか?」
騎士「まあ、一部はね」
盗賊「でしたら、国有財産を勇者に支給したってことで」
賢者「無問題、とはならないでしょうねえ」
商人「理屈で言えば盗賊ちゃんが正しくないか?」
賢者「権利関係ってのは、そう甘くないですよ」
商人「権利関係か、ということは砂の王家の末裔である侯爵家が絡んでくるわけか」
賢者「ええ」
騎士「未発見の遺物、当然侯爵家は所有権を主張してくるだろうし」
騎士「その権利はあって然るべきだろう」
商人「ちなみに、勇者が聖剣持ち出したことはばれてんの?」
盗賊「街中で噂になる程度には」
騎士「ということは、侯爵家の耳にも入っているだろうな」
騎士「盗掘の件は、発掘調査扱いにしてしまえば何とかなるだろう」
騎士「そっちの書類作成は、商人くんお願い」
商人「へーい」
騎士「盗賊さんも、後学のために商人くんを手伝ってあげて」
盗賊「はい!」
商人「盗賊ちゃん、手とり足取り教えてあげるよ!」
盗賊「セクハラ相談って、どこにすればいいんだっけ・・・」
賢者「人事局かなあ・・・」
商人「じ、冗談だって!やだなあもう!」
騎士「じゃあ、賢者くんは私についてきて・・・」
賢者「え、まさか・・・」
騎士「うん、侯爵家に事情を説明しに行くよ」
賢者「うげえ・・・」
騎士「まあ、君も出世頭だしね」
騎士「人間がどれだけ頭を下げられるか見せてあげるよ・・・」
騎士「これも後学のためだと思いなさい」ヒヒッ
盗賊(騎士さん、邪悪な笑みだわ・・・)
商人(騎士さん、順調に心を病んでるな・・・)
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商人「で、どうでした」
騎士「いやあ、お怒りお怒り、すさまじかったよ」
賢者「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
盗賊(賢者さん、一体何を見せ付けられたんだろう・・・)
商人「てことは、お許しはもらえなかった感じですか?」
騎士「そうだねえ、聖剣の所有権をがっちり主張されちゃったよ」
騎士「補償しようにも、聖剣がどの程度の代物かもわからないしねえ」
騎士「このままだと、国に対して訴訟を起こしそうな勢いだったよ・・・」
商人「そうですか・・・参りましたねえ」
騎士「そちらの進捗はどうだい?」
盗賊「とりあえず、文化局に出す発掘調査申請書ができあがりました」
商人「勝手ながら発掘調査隊のリーダーである勇者様には、考古学博士号を取得してもらいました」
商人「国立學所と文化局には話を通してもらえますか?」
騎士「うん、学位取得のごり押しぐらい楽勝楽勝」
騎士「そちらは何とかなりそうだね」
騎士「問題は、侯爵家だ」
賢者「ハッ!ワタシハイッタイナニヲ!」
盗賊「おはようございます、賢者さん」
賢者「長い・・・長い悪夢を見ていたようだ・・・」
商人「はいはい、じゃあ侯爵家の問題に取り掛かりましょうか」
騎士「何か、いつもの悪知恵はあるんだろう?」
商人「まあ、あるには・・・あるんですけど・・・」
盗賊「えらく、歯切れが悪いですねえ」
賢者「もう勇者は目前なんです、手段は多少は選ばない方向で行きましょう」
商人「では申し上げましょう」
商人「勇者には侯爵家の家族になってもらいましょう」
騎士「なるほど」
賢者「では、さっそく侯爵家の家族構成を洗いましょう」
盗賊「ちょっちょっと!待ってください!」
盗賊「皆さん、物分かりが良すぎます!説明してください!」
商人「賢者くん、よろしく」
賢者「説明しましょう!」
賢者「要は、他人の物を勝手に持ち出したから悪いわけです」
賢者「ですので、勇者には侯爵家の血縁に入っていただきます」
賢者「すると、あら不思議」
賢者「侯爵家血縁である勇者にも、かつての砂の王家の遺産を受け取る相続権が生まれます」
賢者「そうなると、あとは簡単」
賢者「国と侯爵家の問題は、侯爵家と侯爵家血縁である勇者の所有権争いにすり替わってしまいました」
盗賊「でも、勇者は国の事業に基づいて動いているんですよ?」
盗賊「その場合、責任の所在は明らかではないですか?」
騎士「国、特に軍においては、兵士が自身の資産で武器や装備を調えることを禁じていない」
騎士「むしろ、奨励している節すらある・・・」
商人「我が国の財政もシビアだからねえ・・・」
盗賊「剣や鎧が支給されないのって、そういう理由があったんですか・・・」
賢者「ということだから勇者は、自身の財産で装備を調えたってことになるね」
盗賊「ん・・・てことは、私と商人さんで作った発掘調査申請書もろもろは・・・」
盗賊「全部無駄ってことですか・・・?」
賢者「いや、いくら所有者であっても歴史的建造物から勝手に物を持ち出すのはアウトだよ」
盗賊「よかった・・・私たちの仕事も無駄にはならないんですね」
商人「勇者に博士号まで取らせちゃったしねえ」
盗賊「でも、侯爵家の家族になってもらうって・・・」
盗賊「具体的には何をどうするんですか?」
騎士「まあ、真っ当にいくなら勇者の血筋と侯爵家の血筋を辿ってクロスするところを探し出すとかかな」
騎士「要は勇者が、砂の国の王家の末裔にあたることを証明すればいい」
騎士「人類みな兄弟、ひたすら遡っていけば、いつか見つかるだろ」
賢者「途方もない仕事量になりますよ、それ」
騎士「でも、適法だ」
商人「えっと・・・俺が考えていたのは」
商人「侯爵家に妙齢の女性がいれば、番わせちまうのが手っ取り早いかなって・・・」
盗賊「番わせる・・・?」
賢者「結婚させるってことですよ」
盗賊「なっ///」
商人「まあ、最悪、未婚の女性であれば年齢はどうでもいいか」
商人「腐っても勇者だ、侯爵家も血縁に迎えるのに『NO』とは言わんだろ」
騎士「本人のあずかり知らぬところで婚姻関係を成立させるってのは」
騎士「私の道徳心が、軋むほど痛むがな」
盗賊(前回のが相当こたえたみたいですね・・・)
騎士「まあ、それは最終手段にしよう」
騎士「まずは、両家の家系図を洗う」
商人「正気ですか?どれぐらいの仕事量になるか、見当もつかないですよ?」
騎士「まずは、真っ当にやろうじゃないか」
騎士「そもそも、君が提案したことだろ、商人くん」
商人「ま、まじかよ・・・」
盗賊「うげえ・・・」
賢者「うわあ」
騎士「さあ、デスマーチのスタートだ!」
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盗賊「えっと、勇者の大叔父の従弟がハーフエルフで・・・」
賢者「エルフ筋は、砂の王家に絡まないでしょう」
盗賊「そ、そうですね・・・って商人さん寝てる」
盗賊「商人さ~ん、商人さ~ん、寝ないでくださ~い」
商人「 ZZZ 」
賢者「回復魔法キュア・・・」
商人「!?」
騎士「お~い、休むのは仕事が終わってからにしようじゃないか」
商人「す、すみません」
盗賊「でも、もう3日はやってますよ~騎士さん・・・」
賢者「とりあえず、宿屋に帰って水浴びをしたい・・・」
騎士「何を言っているんだ~、甘いぞみんな」
騎士「せっかく、勇者に追いつきそうだったんだ」
騎士「いま、働かずして、いつやるんだー」
盗賊「 ぐぅ・・・zzz 」
賢者「キュア・・・」
盗賊「はっ!?」
騎士「ほらほら、盗賊さんは次はこっちの資料を洗って」
盗賊「うぅ・・・髪がべとべとだ・・・」
商人「勇者ぁ・・・勇者ぁ・・・絶対に・・・許さねえ・・・」
騎士「いやあ、久しぶりだなあ、こういうの」
騎士「昔は、どこの部署もこんなもんだったのに」
騎士「今の若い連中ときたら・・・」
賢者「い、異動願いを申請・・・」
騎士「却下」
騎士「ほら、みんな元気がないぞ!元気出して国のために働こうじゃないか!」
盗賊(鬼・・・っ!)
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騎士「いやあ・・・見つからなかったね・・・」
賢者「何代遡ったかわかりませんよ・・・」
盗賊「勇者の大叔父の従弟の祖父の孫の姉の・・・」
賢者「もういいんです!もう終わったんですよ盗賊さん!」
盗賊「はっ!?」
商人「諦めは尽きましたか・・・騎士さん?」
騎士「まあ、ここまでやって見つからなかったんだ、致し方ない」
騎士「調査報告をまとめれば、我々の面目もたつだろう」
騎士「商人くん、手はずは?」
商人「侯爵家に未婚の女性は一人」
商人「かつて数多の男性方から求愛受け、かつ薙ぎ払ったことから鉄壁と呼ばれた、絶世の美女」
商人「侯爵家娘」
商人(御年50幾年・・・)
騎士「うむ、じゃあ侯爵家に御見合い写真を持って行こうじゃないか!」
盗賊(さようなら・・・勇者様の操っ!)
賢者「うまくいくといいなあ・・・」
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騎士「うまくいきました」
商人「エクセレント!」
賢者「すばらしい!」
盗賊「ブラボーっ!!」
騎士「よしっ!勇者の結婚祝いだ今晩は私の奢りだ!」
商人「ひゅー↑↑」
賢者「パーッと飲みましょう!」
盗賊「おーっ!!!」
盗賊(勇者様、結婚おめでとうございます・・・)




