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寄港

 ふと気づくとあの夢の中だった。


 穏やかに発光する乳白色の輝く小川と暗い夜の夢。

 小川に横たわる俺の周りをグルグルしている光の玉の夢。


 俺はびしっと言ってやることにした。


「いいか、もう二度と俺を脅かしたり恐ろしい声で叫ぶの禁止だからな!」


 光がピタリと止まって、不思議そうに震え始めた。

 どうやら意思疎通は可能らしい。


「はっきり言ってお前正体マジで怖いんだからな! 俺と散歩したいなら大人しくしてろ、いいな!?」


 光が俺の胸に飛び込んできて、頭をぐりぐりしてきたぜ。いやどこが頭か知らんけど。


 こいつ犬みたいで可愛いけど、その正体はやべー化け物だからな。この程度の予防線は張らせてもらう!


「よし、おて!」


 光が手のひらに乗ってきた。こいつ賢いな。


 そんで俺らは再び小川を歩いていく。何も考えずぼんやりのんびり歩いてく。

 夜がいつ空けるのか知らんけど、小川をのんびりジャブジャブ足音立てながら散歩するのは嫌いじゃない。俺海いったら浜辺じゃなくて浅瀬歩く派だし。


 このあとめちゃくちゃ何も起きなかった。





「本日は先生にお越しいただきました。さあ拍手を!」


 狭い船室に俺の拍手だけがパチパチ鳴り響く中、ルーが入室してきた。

 ごめんなさいルー先生は要らないです。


「お帰りください」

「失礼な人ですぅ。あたしじゃなくて、アシェル様です」


 ルーの後からアシェルが入ってきた。大きなお腹をマタニティドレスで包んだアシェルは露出へってるのに逆にエロいです。くっっ、人妻属性にまで目覚めちまったのか俺!?


「さあアシェル先生、講義の方をどぞ!」

「いったい何の話なんだい……?」


 カトリたん先生呼んでおいて説明さえしてなかったのね。

 俺がめっちゃ早口で説明するぜ。


 説明しているとアシェルとルーの表情がどんよりしてきた。


「そんな基本さえ知らずにどうやって機眼に覚醒したのですぅ。ルー、この人が怖くなってきました……」

「あたし一応ナイフ使いとしても一流で通ってるんだけどね、基礎の魔力操作すらできない坊やに為すすべなく捕まるとか……」


 ステルスコート先生は最強だからね。

 油断してるとこにいきなり背後から急所めがけてミスリルソードでチャージド・ストライクぶちこまれて平気な人間ってそういないからね。確定クリティカルで攻撃力倍増してるし。


 そういえば以前ギルドで俺から逃げ出した時アシェルはなんで抵抗しなかったのかな?

 魔導師なのに魔法で抵抗しなかったの不思議だわ。


「坊やがあたしをどうこうしようって悪人だったならともかく、鑑定しろって追いかけてきただけじゃないさ。アシェラの巫女がお客を焼き殺したなんて悪評立てるわけにいかないだろ、神殿追い出されちまうよ……」


 そりゃそうだ。


「何が問題なのか視るからさ、とりあえずやってみておくれよ」

「よしきた!」


 目覚めよ、我がちからよ。

 応えよ、我がちからよ。


「うわー、またその変な呼吸するー」

「なんだいその変な呼吸法?」

「かっこわるいですぅ」


 お前ら俺の集中乱すんじゃないよ。大人しくしてて。

 では気を取り直して。


 俺の名はリリウス、世界最強の戦士。

 銀河よ、宇宙よ、世界よ、我が呼びかけに応えよ……


 いいぞいいぞ、魔力が膨らんでるのがわかるぜ。調子いいな今日。いいぜいいぜ……

 調子よすぎやしませんかねえ……?


 もう二分チャージしてますよ? 七秒が最高記録なのにまだいけちゃうの? おかしくね? あ、霧散しちゃった。


 アシェル先生感想をどうぞ! どこか悪いとこありましたか?


「できてるじゃないかい」

「ええぇ……ルーより上手じゃないですかあ」


「そんなはずはないんだけどな。も一回やってみるから見てて」


 今度は一分もできたが体が重い!

 なんだこの疲労感、二日酔いの朝よりきついぞ!


「それは魔力切れさね。でも循環路を正しく理解してしっかり搔き集められてるじゃないか。カトリー、これのどこに問題あるんだい?」

「おかしいなー。昨日一昨日までできてなかったのになー」

「変な呼吸法は治した方がいいと思うのですぅ」


 なんだか知らないけどいつの間にか覚醒してた奴だな!

 気づいたら暗黒騎士からパラディンになってた感がひでえ。覚醒イベントどこかにありましたかねぇ……


「なんだかわからないけどアシェル先生ありがとね!」

「なんもしてないのにお礼言われても困るねえ……」


 と言いつつ二人でハグする。

 ひぃぃ! 俺の息子お腹蹴りすぎぃ! これ確実に俺が嫌いで蹴ってるな。すでに知性あるとか中にはどんな化け物が……


 船旅はとても退屈で、とても有意義な時間となった。


 来る日も来る日も穏やかな洋上を眺めながら自己の中にあるちからを探る。多くのちからを集めるためには自己を深くまで探るしかない。それは己の中にある細胞一つ一つに名前をつける行為にも似ている。己の中にあるちからを一つ見つけるたびにちからはより強くなった。

 探して、認識して、呼びかける、こうした地道なプロセスを無意識にできるようになるまで繰り返す。メシを食う時にスプーンの使い方を心配していては食事だっておぼつかない。それと一緒だ。


「チャージカウント!」


 己の中にちからを呼びかけて、分けてもらったちからを束ねる。

 束ねたちからを全身の皮膚の上にもう一枚皮膚を重ねるみたいに纏わせる。皮膚のレイヤーを何枚も重ねていく……


「防御強化チェインアーマー!」


 俺の全身が真っ赤に輝いたぜ。成功だ! 何度やってもできなかった防御力強化系魔法だ。


 カトリたんとアシェルがやったねといった感じで微笑んでるぜ。俺やるじゃん。


「次は加速系と障壁、その後は中級強化だね!」

「ま、今の坊やならフェニキアに着く前にはできるだろうさ」

「それもいいけど攻撃魔法覚えたいな!」

「おおぅ調子の乗ってさっそく浮気しよるか……」


 だって異世界ファンタジーといえば攻撃魔法でしょ?

 念願の攻撃魔法も今ならできる気がするんだ!


「ま、今の坊やならそう難しくないのならね」


 結論から言うと無理だったぜ!

 この期待させてからの落差がほんま……





 魔法習得のためには洗礼なる儀式があるそうな。

 神殿でお布施払って洗礼を受けるとその属性の魔法が使えるんだってさ。初耳ぃ!?


「平民なら知らなくても当然さね、高い金払って魔法覚えようなんて裕福な家じゃないとできないもんさ」

「そんなに貧乏だったんですぅ……?」

「てゆーかリリウス君貴族だよね……」


 俺ちょっとだけ心当たりあるんだよね。


 何年前か忘れたけど親父殿が神殿に参拝に行くとか言い出した時があったな。来いって言われたけど往復一ヵ月って聞いてスルーした覚えあるんだ。あん時はワイバーンが出て忙しかった時だわ。


「あれか……」

「心当たり?」

「遠いからってサボった」


「「「馬鹿すぎる」」」


 ハーモニーで罵倒すんなし。親父殿ちょっと説明不足すぎんよ……

 あれか、俺がいっつも魔導書読んでたから当然知ってるって思い込んでたのか? 俺の五年間なんだったの? マジの徒労ですか?


「はぁ~~~~~(クソデカため息)」

「そう落ち込まないの」

「今は余計な色気を出さずに魔力運用の鍛錬を続けるさね」


 というわけで俺は毎日毎日訓練中。

 今日も今日とて広い甲板で魔力弾をぶっぱすんぜ!


「マジック……」


 右腕の先に集めた魔力を圧縮する。

 手のひらの二倍ほどまで膨らんだ乳白色の魔法弾の形成に成功。


「アロー!」


 手のひらから高速で射出された魔法弾は五メートルも離れない内に魔力散乱を起こして自壊する。

 つまりは制御に失敗している……んだがどうすればいいんですかね? 教えてアシェル先生!


「魔力制御ってのは身体から離れれば離れるだけ難易度を増すからねぇ。でも今回のは別の問題さね」

「才能?」

「そういう言い方は好きではないねえ。要は魔力の質の問題さ、こいつは大きく分けて三種類あるんだがね、坊やの魔力はフォルトナ類さ」


 ここでエプツール六大神の名前が出るとはね、懐かしいぜ。

 帝国で信仰されている六つの神の一柱で剣の女神フォルトナ。あらゆる神々の中で最も勇ましい、戦士を祝福する女神だ。なんでまた剣の女神が出てくるんだい?


「フォルトナ類は瞬発力に優れ、回復も早い強化系向きの魔力さ。結合性が高く様々な形に変化しやすいダーナ類は魔法攻撃に向き、親和性に優れたアルテナ類は治癒魔法に向いている」


 ひでえ、やっぱり才能じゃないですか。

 期待して聞いてたら希望を打ち砕かれるとかマジひでえ。


「でもね、こいつは努力で補えるよ。少しばかり向いてる人より時間がかかるってだけさ」

「それを才能っていうんだよね……」


 ちょっぴり期待させてからの、主義主張の問題とかマジひでえ。


「努力すれば可能なことを無いなんて言いたかないのさ。あたしらは鑑定師だからそいつができる事できない事は一目でわかっちまう。あたしらはあたしらの発言の重みを理解している、可能性を摘むようなマネだけは決して口にしてはいけないのさ」


 主義主張はわかるんだけどね。


 遅々として進まない修行をしていると船長さんと船主さんが揃ってやってきた。


 隻眼の海賊みたいな面をしているのが船長のガイナックさん。

 穏やかな顔つきをした恰幅の良いトルネ〇みたいな商人が船主のオストコさん。オストコさんはサン・イルスローゼを中心に海洋貿易をする商会の主で、アシェルの上得意で今回の帰郷に船を出してくれている。


「特訓はどうですかな?」

「笑いものになる程度には順調ですよ」


 魔法に失敗するとその辺の船員が笑い出すんだぜ。エンターテイナーと呼んでくれい。


「何事も一朝一夕にはいかないものですな。ですがそろそろ切り上げていただかねばなりません」


 なんですかね?


「嵐かい?」

「ええ。逃げ切れるとは思っていたのですがここにきて風が上手くいかない、夕刻の前には追い付かれるでしょう。そこでアシェルさんにお願いがありましてね」


 面構えは凶悪なのに口調はいたって紳士的なガイナック船長が右の海を指差す。この船は南東に向かっているから南西の方角で、今は海しか見えないけどその先に何かあるんだろうね。


 海上での嵐の切り抜け方は二つある。縮帆しての漂蹰か近海の島に逃げ込むことだ。


「十海里先にボルモアという島があります。寄港してやり過ごすのがベストですが足が足らんでしょうな」


 寄港前に嵐に追いつかれるから魔法を貸せって話ですね。

 アシェルは二つ返事で助力を引き受け、やけに仰々しい舞と祝詞を唱えて風を呼び出したぜ。さすが客商売の人だぜ演出は大事だね!


 ここで疑問、そもそも寄港する必要あんの?


「ねえ、この風を使えば嵐から逃げきれたんじゃないの?」

「あんたねぇ……船では船長に従うもんだよ」


 船長さんの面子を立てただけでした。

 狭い船内だし人間関係って大事だよね。プライド持って仕事してる人ほど素人の口出し嫌がるし!


 召喚した風のおかげで船足は快速。嵐の予想時刻のだいぶ前に離島の港町に到着したぜ。


 腕を組んで威風堂々と甲板に立つガイナック船長が「あ!」と叫んだと思えば、汗をダラダラ流しながら角みたいに伸ばした顎髭をさすり始めたぜ。どうやら俺達の気遣いに気づいてしまったらしいね。


 その夜、港町の酒場でみんなと夕飯食べてると……


「あちらのお客さんからだよ」


 と大量の詫びの酒や食い物がきたんだ。

 視線の先ではダンディに酒杯を掲げる船長の姿があったぜ。互いを尊重し合うとこういう良いこともあるよね! ごくまれにだけど!

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