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やはり狂人であったか

感想ありがとうございます。

後書きでおなじみのコッパゲ先生登場回です。

「リリウス君の馬鹿!」

「はい七度目の馬鹿が出ましたー」


 元日の夜中、カトリーエイルはシシリーの家で飲み会してる。


 どれだけ待っても帰ってこない奴なんか放っておいて親友のところに遊びに行ったのだ。ついでにこたつセットも抱えてきたので、二人そろってこたつでヌクヌクお酒を飲んでる。


「しっかしこれ温かいわねー。おかげで外出れなくなっちゃった」

「床暖房ついてんじゃん」

「それでもやっぱり寒いもの。いやいや雪国の知恵は偉大ですわ」


 お幸せな表情でとろけるシシリーはさっきから一歩もこたつから出ていない。出る必要もない。ギルドもしばらくは半日営業なので、下っ端職員以外はほとんど一週間程度の休暇を取っているので、明日も出ないと思う。心の中にルーのいつもの悲鳴がこだまする。


「これさ、売れば大儲けできるんじゃない?」

「バケツに魔石放り込むだけだから、売るのは無理じゃないかな?」

「湿気も強いしなにか一工夫必要だね。ん~~~~、そうだ!」


 シシリーが出ていったと思ったら物置き部屋から何か抱えて戻ってきた。

 おつまみの焼肉用に使っている火鉢だ。炭に火をつけてこたつに入れるとちょうどいい感じになってきた。


「不快な湿度はこれで解決♪」

「代わりに煙くさくなっちゃったよ?」

「素人の浅知恵じゃ無理かー……熱だけ発生させる方法ないかな?」

「魔法的になら可能だと思うんだ。焼き芋作るみたいに焼いた石をこたつに入れるじゃん、その石を魔法的に冷めないようにするのはできるとおもうよ」


 こたつの一般化についてというどうでもいい話題でも酒を飲んでいれば楽しいもので、二人はすっかり話し込んでいる。どれも空想の域を出ないお話だけどおしゃべりってのはそのくらいで丁度いい。


 ずいぶんと酒が回ってきた頃、シシリーが本題みたいに言い出した。


「カトリはさ、前に進めたんだね?」

「うん?」

「過去と向き合って前に進もうとしてるんだよね」

「あははは、その節はうちの弟がご迷惑かけました」

「いいのよ、別に何かされたわけじゃないんだし」


 誘拐された女性のセリフとは思えないが、迷惑料ももらってるので許しているようだ。

 いや最初から許している。カトリーエイルの弟というだけで許せてしまう。愛している。だから彼女の愛する者さえ愛しく思える。それを友情と呼ぶ事はできない。


 愛は、もっと即物的なものだからだ。


「わたしカトリが好き」

「お、なんだなんだあたしへの愛に目覚めたか? こいよシシリー、今夜は寝かさないぜ?」

「うん♪」


 カトリーエイルは友情からハグを求めた。

 シシリーは愛情からキスをした。とろけるほどのキスの後、カトリーエイルは「???」って感じだった。頭上にも???が浮かんでいる。


「シシリーさん?」

「わたしカトリが好き。ずっとずっと好きだった。この想い……前に進めるね?」


(これやばい奴じゃないッ!?)


 逃れようと身をよじるとシシリーが絡みついてくる。

 蛇のようにするすると身を這う手つきは優しくも淫らにカトリーエイルを這いまわる。シシリーの目がグルグルしてる。これは本気だ。本気で貞操の危機だ。


「ちょ―――待ってシシリー! シシリー!? そこは、ちょ、ダメだって……」


 でもカトリーエイルはちょっとだけ思っていた。


 これはこれで面白いかもしれない。


 真人間宣言はしたけれど、女の子同士というのも少しだけ興味がある。磨きに磨いたこのテクニックで普段澄ました面してるシシリーを徹底的に鳴かせてやるのも面白い、というか燃える。最初は受け入れてやろう。いい具合に火照ってきたら逆襲しよう。

 プランニングを完成させたカトリーエイルが舌なめずりする。


 変態が真人間になんて土台無理な話だったのだ……





 どんどんどん!


 元日の夜中過ぎ、朝から続いた宴会のせいでハウスにはまだ酒の香りが漂っている。

 リビングではグランナイツの面々が死屍累々と転がっていて、まるで目覚める様子もない。


 どんどんどん!


 風呂を浴びていたバトラが玄関から聴こえるノックに舌打ち。なぜか来客は必ずこういう時に来るからだ。間が悪いのだ。


「待ってろ、すぐに行く!」


 どんどんどん!


 バスローブだけを羽織って風呂を出ると、ようやくラトファが起き上がったところだった。顔色が青かった。


「酒に弱いのだから無理をするな」

「バトラが強すぎるだけだって……うぷっ」


 ラトファが洗面台へと駆けていった。

 なおも鳴りやまぬノックの音に辟易しながらドアを開けるとエルフがいた。


「…………レテか?」


 玄関にいたのはレテだ。

 なぜか大きな風呂敷を担いでいる。まるで家出だ。


「新年の挨拶という雰囲気ではないな。どうした?」

「バトラぁ~~~、フェイが家出しちゃったよぉ~~~!」

「君が家出してきたように見えるんだがな。ま、話は中で聞くよ」


 話を聞けば、どうも些細な行き違いが原因らしい。


 レテはフェイと交際しているつもりだった。

 フェイは行き倒れを拾ってお世話していただけだった。

 そんな想いのすれ違いについてギャンギャン言い争いをした挙句、もう限界だ!とフェイが出ていったらしい。


(ま、修行中だからなあ)

「おかしいと思ってたの! デート行こうって言っても大きな魔物のとこ連れてかれるし、おかしかったの!」

(修行中だからなあ)

「フェイってば田舎者だからデートを魔物退治と勘違いしてるんだろうなって思ってたけど、お前と付き合うつもりはないですって!?」


 その後もギャンギャン言い立ててくる愚痴に付き合うくらいは大した手間ではない。

 愚痴で死ぬ事はないし、聴いてやればレテもすっきりするだろう。多少の睡眠時間を裂いてやるくらい大した事ではない。バトラは大人だった。


 肯定する、同意する、どんな話にだって頷いてやって悪いのはフェイだって言ってやるくらい大した事ではない。フェイには後でこれこれこういう事があったから宥めておいたと口裏を合わせればいいだけだ。


「色々聞いてくれてありがと。バトラ優しいんだね……?」


 様々な苦労を経験した結果精神的な余裕を得たバトラは何事にも揺るがぬ強固な精神ゆえに、ふところの深い頼れる男性という強力なモテポジションを得た。


「なんでこんなに優しくしてくれるの?」

「…………」


 選択肢1 君がステキな女の子だからさ

 選択肢2 君を愛しているんだ

 選択肢3 寝室に行こう、全て忘れさせてやる


 リリウスならチャンスと捉えて口説き始めるだろうがバトラに隙はない。こういうちいさな積み重ねが破滅の道に繋がる事は理解しているのだ。

 なによりラトファを裏切る気はない。かつて愛するファラ・イースに裏切られた痛みを、彼は未だ覚えているのだ。愛する事を怖がるバトラをここまで立ち直らせてくれたのは、ラトファの直向きな愛情に他ならない。


 選択肢4 一度は共に戦った仲間じゃないか ←


「えへへ、バトラはいい人なんだね」

「仲間だからな、辛い時は頼ってくれて構わないさ」


 ふらふらともたれかかろうとしたレテを一歩引いた距離で支える形に話を治めると、ラトファがニヤニヤしながら洗面台から出てきた。全部聞いていたらしい。


「そこは好い男っていうのよ?」

「どうやら酔いはさめたらしいな」

「おかげさまでね」


「レテとフェイには互いに時間が必要だろう。しばらく君の部屋に置いてやってくれないか?」

「りょーかい!」


 ダメな子三号が敬礼したところで、酔い潰れて転がりながらも意識だけはあった三人は……


(お見事です、宥めつつも依存させぬように一線をきっちり引く細やかな心遣い。集団を率いる者としてこれ以上ないバランス感覚といえるでしょう!)

(さすがバトラだぜ。俺みたいなだらしない奴にゃできねえな……)

(バトラさん大人だなあ……)


 バトラはこの一時だけでもクランの仲間からきっちり好感度を上げていた。


 一方、当のフェイはスラム街のカトリーエイル宅の前に座り込んでいた。


「リリウスめ、元日からどこで遊び惚けてやがる……」


 二時間前からずっと帰宅を待っていたが家人は帰る気配もない。

 修行の遅れを同等以上の猛者との戦闘で補おうとしたが、どうやら選択を間違えたらしいと考え始めていた。しかし今から宿を探しても見つかるはずもない。


 レテの泣き顔と罵倒を思い出しながら、悶々と夜が更けていく。

 夜明を前にした空にフェイの大きなくしゃみがこだましていった。





 ラサイラ魔導学院はその怪しげな言葉の響きとちがってオープンで明るい校風だ。何しろヘンテコな執事がつれてきた見学者を快く受け入れてくれたからね。俺のことさ!


「フェイター朝後期、錬金術会派は大きく分類して原理主義と国富主義の二つに分かれました。古代から連綿と続く金を生み出すという見果てぬ欲求を目的とする原理主義、そして国家に仕え国を豊かにする応用術理に腐心する国富主義です。どちらが高尚であったかと些末な論議を重ねる輩もしばしばおりますが、どちらも現代錬金術に大いに貢献しているのです」


 なおフェイター王朝から五百年後の現代においても金の錬成に成功したという研究者はいないらしい。金作れたら金貨なんて駆逐されてるよね。

 ちなみにベイグラントやフェスタでは最上位通貨にミスリル硬貨という物があり、砂のジベールでは宝石貨幣があるのだとか。ファンタジー世界だねぃ。


「国富主義の代表的な錬金術師アルソークはそれまで無価値とされていた石油に目をつけ、幾つかの揮発性薬剤の精製に成功した人物であります。この発明によりポーションの品質は大いに向上したといえます。また薬剤の販売を国が管理しマジックギルドの免状を持つ薬剤師にのみ販売する方式を取ることで怪しげな偽薬売りの駆逐に成功しました」


 人によっては退屈なんだろうけど俺こーゆー授業大好き。学生やってた頃は右から左だったけど、最近こーゆーの純粋に面白いんだよね。


「では本日からの聴講生のリリウス君に質問です。揮発性薬剤の使用により新たに開発されたポーションを三つ挙げてください」


 颯爽と手をあげるぜ!


「わかりません!」

「もう少し考えてから答えてほしかったですね。実はハイクラスポーションのほとんどが揮発性薬剤の登場によって作られるようになったのです。それ以前のポーションは効能もまちまちでとてもハイやエクスの名を与えられるようなものではありませんでした。特にスペシャルポーションの誕生は人族の寿命を大きく引き上げた歴史的な発明品といえるでしょう、時代は治癒から治療へと移り変わっていったのです。ではどなたか壇上に出てきてリリウス君にもわかるように治癒と治療の違いについて説明してください。ちゃんと説明できたら五ポイント差し上げましょう」


 また俺かいな!?

 もしかして面白い玩具と勘違いされてない? てゆーかクラスのほとんどが挙手してるけどみなさんやる気満々ですねぇ……


 おい! みんな挙手してルダール先生の指名待ちしてんのにルルがフライングで登壇しやがったぞ!?


「ふふん、真打ち登場というやつだ」

「留年がかかってますからねぇ、普段もこれくらいやる気を見せてくれれば単位あげるんですけど……」


 先生による言葉の急所打ちが放たれたがルルはめげない。

 ハート強えなマジで。


「では少年、ヒールによって失った腕を治せるか?」


 回復魔法は基本的に治る怪我を治すものでしかなく致命傷は治せないし眼球や四肢欠損のような自然に治らない怪我は治せない。


 そういう怪我を治すのは高価なスペシャルポーションの出番だ、指定部位の復元を可能とするこいつがあればガン以外はだいたい治せる。なお非常に高価なため保険外医療だと認識したほうがいいくらいだ、庶民ではまず手が出せない。


「できないでしょ」

「では歯はどうだね?」


 う~~~~~ん? 普通に考えたら永久歯は治らないのか? でも赤ちゃんって元々存在しない歯を後から生やすから……そういやこの世界で歯科医見た事ねえな。


「治る?」

「正解。癒しの術の根幹は細胞の活性化であり、人体が最初から有する再生機能に根付いた回復のみを可能とするわけだ。逆に言えば食われた腕を蜥蜴の尻尾のように戻す事はできんのだな」


「今少し思いついたんだけどさ、でも人体は最初は女性の子宮内で形成されるよね? ということは全ての部位を作る事は可能なのでは?」

「そこはほれフェルヌークの合成人間という問題だな」


 ルルがどや顔ですね。でもそれは知らんのですよ詳しい解説お願いしますよ?


「大昔にフェルヌークなる人物に治療を頼んだ大富豪がいたのだ」


 戦争で右腕と左足を失って戻ってきた息子を治してほしい、そう頼まれたフェルヌークは一年待てと言って息子を連れて研究所に帰っていったらしい。一年後に何の怪我もない息子が戻ってきた。大富豪はこれを喜び、大けがを治してもらった息子もフェルヌークにいたく感謝していて、彼の研究のために資金援助をしたいと言い出した。ここまではよくあるいいお話。


 ここからやばい話。しかし大富豪は内心首を傾げていた。戻ってきた息子が以前とは何かちがうというか、どこかおかしいのだ。見た目は息子そのものなのに、中身が別人に思える時がある。


 大富豪は不安になってフェルヌークのアトリエに侵入すると、薬液漬けの実の息子を見つけてしまうというお話だ。治すのではなくクローン作っちゃったわけだな。


「これは腕を生やすよりも新たに全身作る方が簡単だったというクソみたいな寓話なわけだ」

「合成人間から腕取ってさ、本物の息子にくっつければよくね?」

「ま、その通りなのだが、現代にはスペシャルポーションがあるから薬作って飲ませれば解決なのだ」


 そりゃそうだ。

 一年かけて換装用クローン作るより発注して三日でできる特ポの方が安くて早いんだ。


「はい、そろそろ時間なのでリリウス君にまとめてもらいましょう」

「本日は勉強になりました。みなさん、ありがとうございます!」


 講堂が温かな拍手に包まれた瞬間に大鐘の音色が鳴り響いて授業終了。

 みんな一斉に講堂から出ていった。


「伯爵、次はなんだったかね?」

「コッパゲ教授のスキル総論ですね。一時間空いた三限からになります」

「……ハゲてそう」

「実際ハゲ上がっておるよ、ツルッパゲだ」


 ハゲてるんだ。ツルッパゲなんだ。それはもうツルッパゲ教授だよね?


「よし、空き時間の間にメシが食えるな。はははは! みなのもの食堂へゆくぞ!」


 ルルってロマン武器職人とかいう珍しい変態だけど行動力はあるよね。

 見た目陰キャなのに。


 学院校舎の廊下を歩く人影はけっこう少ない。どうやらお正月休みでほとんどの生徒が帰省しているらしい。つまり今授業出てるのは補習者なんだ。


 それでも食堂は混んでいる。領地が遠方だったり外国から来ている生徒は寮に残っているので、二限目真っ最中の午前九半時は絶好の朝食タイムなのだ。お正月だしね。


 学院にはオシャレなカフェテリアと、歴史と威厳感じる学院創設時代からある学生食堂の二つがある。ルルは何の迷いもなく学食へ踏み入った。痺れるねえこの決断力!


「お嬢様はお金がないだけです」

「ですよねー」

「伯爵ッ、マイナス八ポインツ!」


 謎の減点をされた伯爵が肩をすくめている。マイナス点が貯まると何が起こるのか怖いぜ……


 学食内の黒板には本日のメニュー。


『A定食』

『B定食』

『本日のおすすめランチ』


 潔いな! この簡潔さこそがうまい早い安いの理由なんだな。


 でもこれだけじゃ何もわからねえぞ? せめて内訳を書いてくれませんかね?


「A定は肉だ。我はいつもこっちだ」

「B定食は?」

「そっちはサラダメインのヘルシーな奴だ」


 女子力死んでるね。ちなみにおすすめランチは日替わり定食らしいが少しだけ豪華なので食券三枚取られるらしい。


「おっちゃん、俺おすすめね!」

「こやつ…なんと剛毅な少年なのか……」


 おすすめ頼んだだけでルルから恐れ慄かれたぜ。

 銅貨三十枚で豪華なメシ食えるとか普段ギルドでまずくて高いメシ食ってるのが馬鹿らしくなるぜ。その分学費高いんだろうけど。ここ貴族の子弟の中でも難関試験を潜り抜けたエリートしか在籍してない超大国の最高学府だし。


 おすすめランチは子牛の骨付き腹肉バターソース添えだぜ……

 高級レストランのメインディッシュ普通に出てくるとか……

 さすが超大国の貴族が通う学校だぜ。こんなもん外で食ったら金貨数枚は要求されるぞ。農民にとって牛は貴重な労働力だから基本的に働けなくなった牛を肉にするんだ。こいつは当然臭いし固い肉なんだ。


 生後半年の子牛を肉にするなんて贅沢ハイランクの貴族にしか許されないぜ。しかもこいつは肉に良い香りをもたせるために香草を餌にした、いわゆるA5ランクの肉なんだ。今思えば日本が一番やべー国だわ。貴族御用達の会員制牧場でのみ購入できるような肉が普通に買えるんだからね。


「少年は楽しそうに学ぶね?」

「楽しいからね」

「左様、好奇心を満たすのは喜びに相違ない。学ぶことで満たされる欲求だからね。だから疑問なのだよ、なんでまた冒険者などやっておるのだね?」

「冒険もまた未知なるものを追い求めるロマンある行いだからさ」

「だが実際の冒険者は冒険などできまい、あれは小銭で命を切り売りする街の便利屋だ。ほとんどの冒険者は旅に出る余裕などなく、危険な仕事で稼いだ金を日々の生活に費やしている」

「反論はないな。Eラン以下の冒険者はまさにそんな感じだろう、強い刺激に慣れた中堅所だって同じさ。日常にまで刺激を求めて飲む打つ買うで金をなくしてる。言っちゃ悪いがたしかに冒険者なんてのは街の便利屋だ」


「だから最初の問いに戻るわけだ。なんでまた冒険者などやっている? 人品卑しからざるというが、我とこうして知的な会話を楽しめる時点で少年の正体も透けて見える。ノーブルなのだろう?」

「庶子ってやつさ。兄弟とソリが合わなくてね、実家を出てきたんだ。だが正しい答えはこうじゃないよな。学徒の道を考えなかったのかって奴だ?」

「うむ。その気になれば学費には困らんはずだろう?」

「ちょいとぶっとばしたい奴がいてね。今は学問よりも戦闘力を磨きたいんだ」


「どうやら勧誘は難しいようだな。我がアトリエには空き部屋もあるでな、有能な新入生なら受け入れてもよいと思ったのだが……」


 マジかよ、俺の事そんな気に入ってくれたのか……

 ルル変態だけどいい人なんだな……


「冗談はここまでにするか」


 エッッ、どこが冗談でしたのん?


「そのヘンテコなコートを解析させたまえ」

「俺の存在をステルスコートのおまけ扱いするのはやめろよな! 傷つくだろ!」

「だが実際におまけ程度の価値だろう?」


 神代のやべー魔法具と最低ランクの冒険者じゃ百人載せても天秤が釣り合わないよな。

 自覚はあるが傷つくなあ。しかし交渉する気があるのかないのか、たぶん正直な女ってだけなんだろうな。理系によくいるタイプの裏表のない女だ。


「お嬢様はまともな人間ではないので、気にされない方がよろしいかと」

「伯爵! 君がッ、どの口で!?」

「さて、そろそろ授業の時間ですね」

「スキル総論だっけ、教室は?」

「言ってもわからないでしょうに。ついてきなさい」

「我を無視するんじゃあない!」


 ルルを放置して伯爵と移動教室する。ちなみにルルはまだ定食が残っているので急いで食べ始めた。


「今夜はもう寮を離れたほうがよいでしょう」

「なんで?」

「交渉は不成立でしたので、お嬢様が無理やり奪いに来ます」


 ルル、あんた自分の欲望にほんと正直な人なんだな。


 こいつら戦闘力高そうなんで普通に殺してでも奪い取るされる気がするぜ。ほんで伯爵さんはやっぱりまともサイドの住人なんだね。


「一応聞いとくけど何で教えてくれたの?」

「機眼持ちはウィザードの天敵ですからね、避けられる争いなら避けたいだけです」

 機眼か、フェスタのチャラ男にも言われたな。

「それ最近よく言われるんだけど、機眼ってなんだい?」

「後天性スキルの一種……いえ、ちょうどいいので最も詳しい人物からご教授ねがいましょう」


 講堂に入ると厳めしい人物が待ち構えていた。

 僧兵を思わせる頑健な肉体を持つ大男だが、ずいぶんと老齢だ。七十は越えているだろう。そして綺麗にツルッパゲだ。コッパゲ先生かな?


「こちらがスキル総論のコパ教授です」


 最悪だな、コッパゲ先生じゃなくてコパ先生じゃん!

 コッパゲってのは生徒の陰口らしいですねえ。ツルッパゲ教授と呼ばれてないわけがわかったぜ。


「君がルル君の新しいモルモットか、噂で聞いているよ」

「最悪な周知のされかたしてますね。リリウスです、本日は聴講させていただきます」

「コパだ。まさかその年齢で機眼と危機察知を発芽しているとはね、いずれは大過か身の破滅か、いやいや恐ろしい子だ」

「その機眼ってなんですかね? それに危機察知も?」


 どうもコッパゲ先生は鑑定持ちらしい。


 アシェラ神殿の鑑定師は生来持っているスキルしか教えないけど、別の学派に属する先生は見えるすべてを教える親切派らしい。つまり鑑定スキルってのは世間に知られてるより多くの情報が視えているってわけだ。初耳! でもゲーム通り!


 ぼちぼち生徒が集まってきたところで鐘がなって授業開始。


「本日はちいさな聴講生が来ている。皆、彼の旺盛なる好奇心に拍手を」


 立ち上がって挨拶すると拍手されたぜ。照れるぜ。


「本日は聴講生のリリウス君も持つ機眼について講義しよう。これはパッシブに属するスキルだ」

「先生! パッシブってなんですか!?」

「パッシブとは後天的に発芽する才能を意味する。これは所持しているだけで効果があり、熟達するとちからが増大する、生来持ち合わせたタレントとは異なるスキルだ」


 マジかよ、クソみたいなスキルに嘆いてたけどそんな才能を手に入れてたのか。

 俺すごくね?


「機眼はCRT値とEVA値にプラスする稀有なスキルだ。これを持つ者は他者の呼吸や油断を高い確率で把握できる。フェイントなどが意味を為さないと理解してもいい」


 クリティカルと回避率上がるのか。

 俺すごくね?


「発芽においては多くの生命を奪ってきたか、多くの敵を経験したか、そういった者が特に発芽しやすい傾向にある」


 講堂がどよめく。

 俺やべー奴じゃね?


「十二歳で機眼Sなど聞いたこともない。君はいったいどれだけの生命を害してきたのかね?」


 やめろ! 俺にやばい殺人鬼みたいなレッテル付けるな!


「見た目どおりか」

「俺は最初からわかってたよ、やべーアサシンだってな」

「あの目つき千人は殺してるな」


 あぁもう、生徒さんまでどん引きだよ。

 隣の席の女子がすげー勢いで遠ざかるしショックだよ。


「待て、待ってくれ! 俺はまだ二人しか殺していない!」


 しまった自爆こいた。

 だから遠ざかるのやめて!


「二人だけで機眼がそこまで成長するはずがない。となると魔物かね?」 

「そっちだと思いますよ。七歳から領内の魔物狩り尽くしてきたおかげで都市部には出なくなりましたから」

「面白い現象だな。知性を持たぬ魔物でも恐れは持つ、君の存在は彼らにとっておぞましい伝承や口伝のような形で広まったのだろう」


 やべー野良犬がいると飼い犬も散歩コース変えるしね。

 あれ、俺もうとっくに悪魔だったの?


 その後もスキルについて色々教わった。ほとんど未知の情報ばかりだが度々質問して講義を止める気はない。きちんと学費納めてる生徒さんにそれは申し訳がなさすぎる。質問が山ほどあるけど、教育でお金貰ってる人からタダで教えてもらうのはさすがにね。


「では本日の授業はここまで。あぁリリウス君はこの後暇かね?」


 質問チャンス到来!

 日頃の行いが良いおかげだな!

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