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118曲目 鬼人

 あれから1週間、森の入口では何とか約束の日に辿り着いたおよそ200人が、疲れ切った表情と不安を抱え休憩していた。

 この人数で休憩を取っているのに誰一人言葉を発さない。

 ただ黙々と乾燥したパンと水を口に運ぶだけであった。


 そして1時間が経過すると、数人が声を震わせ指を指す。

 その声にうつむいていた者達が空を見上げると、そこには魔王ディアナの姿があった。


「待たせたな」


「いえ、それほどでもありませんよ」


「ん?主はこの間…おうおうそうじゃ、王の隣におったのう」


「私の名はこの騎士団を率いているフーベルトと申します。以後お見知りおきを」


「よいよい、固っ苦しいことはよい。では皆よ、妾についてまいれ」


 フーベルトは素早く指示を出す。


 いつ魔王ディアナの機嫌が変わるかわからない状況で、少しでも機嫌を損なう行為を避ける為に無駄な動きを無くした。


 鼻歌交じりでゆっくりと先頭を歩くこと約2時間、キレイに整備された広大な土地が現れた。


「ここは本当に森の中なのか!」


 前から人が1人歩いてくる。


「ソウ!こっちこっちじゃ」


 フーベルトの前に現れた男は線の細い普通の人だったが、魔王ディアナにタメ口で話している。

 とても不思議な光景であった。


   ☆   ☆   ☆


 そして3ヶ月が経とうとしていた。


 不思議な光景である。

 人と魔人が仲良くしている。


 始めはソウジの話を聞き、一部の職人が興味を示してやる気を出した。

 その姿と技術に一部の魔人が職人に歩み寄り、お互いを認めあうようになり、日が経つに連れて人が抱いた恐怖と魔人が抱いた嫌悪感などがなくなってきた。


 森の中に出来た広大な土地にはソウジが住む平屋も完成して、井戸や畑もも出来た。

 近くにある小さな川も少し広がり、鮎などの魚も棲むようになった。

 この世界に無い魚である。

 日本にある、もしくはいるソウジの望むものが不思議と手に入る。

 それは神の所業だろう。


 更に3ヶ月が経つと平屋の隣には道場が建てられ、庭にはトマトや胡瓜、茄子などの野菜も実り、祠を祀り、今では醤油や味噌、お酢や砂糖だけでなく日本酒の製造も始めた。


 それからは露天風呂も出来た。

 炭窯も出来た。

 包丁や刀の製造も始めた。

 小さな茶畑も作った。

 米などの穀物も収穫した。

 牛や山羊、豚や鶏も飼育している。

 少し離れた所には林檎や葡萄、梨や柿、そして蜜柑まで、季節ごとに果物も実った。

 海へ行く道も切り開き、塩や昆布、それに他の魚やワカメも手に入る様になった。

 

 この世界にいない家畜や穀物などが出来上がり、1つの村と遜色ない程豊かになった頃には、1年が経とうとしていた。

 不思議な事にこの村で手に入る家畜や食物は一切病気にかからず、神物とされている。

 肉を生で食べようと食あたりすることもないし、穀物なども不作になることはなく常に豊作といっていい。

 誰もが暮らしたくなる豊かな土地へとなった。


 だが、人と魔人の間に垣根もなく暮らしていると、業を煮やした森に住む鬼人族が数人でやってきた。


「た、大変だ!鬼人オニがきた!鬼人が来たぞ〜〜〜!」

 

 先頭に立ったのはラルフとデリアとデボラの3人とフーベルトと数人の騎士団だった。


「若長!魔人ラルフ=シュトロームです」


 鬼人族にとって強さは絶対!強き者に従うのが掟、過去に鬼人族先代の長が魔人ラルフ=シュトロームに敗けてからこの森の隅で大人しく暮らすようになった。


 しかし今は違う!


 先代の長も亡くなり、現長の息子が自分の側近5人を引き連れてきたのだ。

 現長も止めはしなかった。

 それだけ若長の実力に自信があるのだろう。


「お初にお目にかかる私は現長であるレッドショックの代理を務める者である」


 鬼人には名がない。

 唯一、長となる者だけに名を許されている。


「私の名はラルフ=シュトローム、鬼人がここに何用かお訊ねしても宜しいですか」


「貴殿らに用は無い。我らは下等な人族がこの森で自由にしていることが許せんのだ」


「なるほどなるほど、確かあなた達の種族は、強く者にしか従わない…でしたっけ?でしたらあなた達も人に従うしかありませんねぇ〜」


 鬼人達全員が一斉に笑い出した。


「世迷い言を…人族が我らより強い?片腹痛いわ」


「ではあなた達も闘うがいいでしょう。私はもう負けましたから」


「!!…ふっ、所詮は過去の者、前長に勝ったと言ってもラルフ=シュトロームもその程度ということか。もう貴様達に従う必要もないな」


 そこへ揉め事とおもいやってきたソウジが前に出る。

 そして隣には魔王ディアナもいた。


「ま、魔王ディアナ!くっ!」


「不敬である!鬼人よ、ディアナ様を呼び捨てなど…」


「よいよい、それより何やら面白い事になっとるのう」


 ラルフがディアナに事情を話すと、ディアナは楽しそうに笑みを浮かべた。


「ソウよ。相手してやれ」


「いいのディア?何か少し怯えているけど…」


「人の分際で我らが怯えているだと!」


「ふふっ、鬼人よ。こういうのはどうじゃ」


 魔王ディアナが提案したのはこうだ。


 ソウジに勝てば、この森の所有権を全て鬼人族に譲渡する代わりに、負ければソウジの配下となり、この森と村、そしてここへ住む人を命を懸けて守っていくこと、鬼人にとってはとても分かりやすい提案だった。


「その言葉に偽りは無いだろうな」


「もちろんじゃ」


「ちょっとディア〜」


「ということじゃ。頼んだぞソウよ」


「頼んだぞって言われてもねぇ〜」


「安心しろ下等な人族よ。手加減してやる」


 相手は鬼人6人、ソウジにとってはこの世界での多人数との戦いは未経験、それに魔法というものにイマイチ理解が薄い。

 鬼人が持つ強さも能力も分からないまま手加減は難しいと考えていると魔王ディアナは手加減をしろと要求する。


「さあ、かかってくるがいい」


 鬼人族の若長だけが一歩前に出て構えるとディアナが声を上げる。


「鬼人よ!あまりナメるでないわ!!キサマ1人でソウに勝てると思っているのか!!!」


「魔王ディアナよ。あなたこそ我々鬼人族をナメすぎではないのか」


「鬼人ごときがディアナ様を呼び捨てしおって…」


「ラルフよ。いいから下がれ」


 魔人達もさすがに苛立ちはじめてきたが、ディアナは気にせずソウジに耳打ちすると、ソウジは頷き刀を持ち構えた。


「では参る」

 ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。


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