106曲目 氷壁
「出発するぞ!」
ドミニクの声で商人たち皆が渋々動き出す。
遅れた分、少しペースを上げるも食べ過ぎた男共は苦しそうに付いてくる。
「みっともないわ。うちの男共は」
「リーダーぐらいだね。いつも通りは」
「ふふっ、そう云うな。あんなに美味い食事だ。仕事でなければ私ももっと食べた」
「私も私も」
「しかし本当に彼女達は凄いな」
その強さは疑う程であったが、そばで見た者、今までの彼女達の行動、見たことのない魔法、そして規模、総合的にみんなが納得した。
何よりも食事、普通は依頼主が用意する味気無い保存食、温かい食べ物があれば当たりを引いたと思うぐらい美味しくはない。
仕事中の食事は単なる栄養補給、だから仕事が終わるとみんなはギルドに報告した後、真っ先に酒場に行き、飲み食いを楽しむ。
女性達は足取りが軽い。
「いつもより調子いいわ」
「そうね。まるで出発した時みたいに体調がいいわ」
へばっている男達のケツを叩かながら遅れた分ペースを上げるが、1つ違和感を覚える。
「おいドミニク。少しおかしくないか?」
「お前もそう思うか」
グレータとドミニクが気付いた異変は気温、北に向かって徐々に寒くなるのは当然だが、気温の変化がおかしい位に低すぎる。
ルビーアイがこんな所まで来たのも気温が関係あるのだろう。
食事をしっかり取り、防寒対策もしていたので、周りの人達も気づくのが遅れたが、普段よりも10℃は低い。
こんな場所でこの気温はあり得ない。
「一旦休憩を取る。暖を取るぞ」
予定外過ぎた。
持ってきた防寒具では凌ぐのが困難な程に寒くなっていた。
「みんな、今のうちに持っている防寒具を出来るだけ着込む様に」
この冷え込みかたは日が暮れる前に町に到着しなければ、生死に関わるぐらいの気温になってしまう。
ここでしっかりと身体を温めて、早めに移動しなければならない。
「良かったら昼食にしませんか?」
アカネがドミニクに案を出す。
「有り難いが食べ過ぎた者達が多く、まだ腹が減る程には消耗もしていないんだ」
「お腹はそんなに空いてないかもしれないけど…ここに温かいシチューが用意してあるの。身体の内側から温めて出発したほうがいいんじゃないかしら」
「確かにそうだ!それがいい!!」
護衛中に温かい物があるということが抜けていた。
「は〜い。みんなビーフ?シチューよぉ〜。今回はぁキノちゃんとワカバちゃん作でぇ〜〜〜す。美味しいわよぉ〜」
「…ふふっ、…食べるがいい」
「ほーい、温かいロールパンもあるよ」
キノ、ワカバ、モモカがみんなに配り終わる頃には男共はやはりロールパンはかぶりつき、ビーフ?シチュー否ベアーシチューはおかわりを頼んでいた。
「うんめぇーーー」
「このシチュー、はあ〜〜〜温まる〜〜〜」
「に、肉が口に入れた瞬間、溶けてなくなるぅーーー」
「どんな魔法だ!これはもう奇跡のスープだ」
「パンもふわっふわ」
「美味すぎる!」
男共のだらしない食べ方に一歩引いている女性達もパンとシチューを堪能している。
「本当に美味いな」
「ねぇ〜、このシチューはキノさんとワカバさんが作ったの?」
「…ぶい」
「そうだよぉ〜」
「モモカさんだけじゃなくキノさんとワカバさんまで料理が出来るなんて、本当に羨ましいわ」
「こんな待遇受けたら、みんなアルテミスに入りたいって言うんじゃないかしら」
「「「確かに!!!」」」
みんなが食べ終わり、ドミニクが先頭に立ち出発する。
パンとシチューで身体を温めたが、やはり尋常ではない寒さに1時間も立たないうちに動きが鈍る。
しかしアルテミスのメンバーは差ほど寒さを感じない。
「ねぇ、何で私達はそんなに寒く無いのかしら?」
「どうしてでしょうか?」
「やっぱぁ〜、女神の恩恵?」
「…心頭滅却すれば火もまた涼し」
「アカっち、魔法じゃない?」
「そうなの」
「いつも魔力を感じてるよ。微量だけど」
「魔法障壁的なのぉ〜〜〜?」
「ボクもよくわかんないけど、見えない魔力の服みたいな感じかな」
「キノさんならみんなにその魔法かけること出来るんじゃないですか」
「うぅぅぅ…やってみるよ。…ほいほーいっと」
キノの魔法は商隊全体に見えない大きな結界の様なものを張り、風を防ぎ中の温度を一定に保つ様にした。
「これ、結構疲れる」
「ありがとうキノ、どれ位持つの?」
「目的地に着くまで平気と思うけど…ボクちょっと休みたい」
「ハイノさんに頼んで荷馬車で休ませてもらえるよう頼んでみるから、キノは休んでいいわよ」
アカネは事情を説明してキノを休ませた。
その頃、先頭を歩くヒュドラのメンバー達は…
「何か急に暖かくなったな」
「何かキノさんが魔法を使ってくれたらしいぞ」
「そんな魔法まであるのか」
「彼女達には本当に感謝の言葉しかないな」
「ああ」
「リーダー、彼女達はなにものですかねぇ〜」
「さぁな。ただ見た目とランクで判断する様なことはしないようにしないとな」
「そうよね」
足取りも軽くなり、予定よりも早く進んでいくと、徐々に目的地へと近いてきた。
「おいおい、何だありゃ!」
「まるで氷山だな」
足を止め、思わず見上げてしまった。
それは見た目こそ美しいが、何故このような事態になってしまったのかと…、ただ前に進むしかない。
足を動かし、前に進む。
やがて町が見え、その先に国境がある。
だが、国境をなぞるように氷で覆われていて、アイスベルクを孤立させるようにも見えた。
「おお、ようやく町に着いたな」
「無事に護衛任務完了っと」
「皆さんお疲れ様でした。長旅ありがとうございました」
「「「「「お疲れ様でした〜〜〜」」」」」
「さてギルドに報告にいくか!」
ドミニク、グレータ、アカネとハイノや依頼主の商人達もギルドまで同行して報告にいった。
ギルドに着き、中へ入ると職員達は慌ただしくしている。
気にはなるがとりあえず任務完了の報告、確認、依頼料の受け取りを済ませる。
商人達は確認とサインを済ませると挨拶を済ませて宿屋を探しにいった。
ドミニクがここまでの経緯と天候、そして氷山の様な壁も気になり、ギルド職員に訊ねてみた。
「少し聞いていいか」
「はい、何でしょう?」
「ここに来るまでの天候、魔物の生息地がだいぶ変わってしまった様だが何かあったのか」
「町に入る時に見たと思いますが、今国境が氷で覆われていて、こちらからアイスベルクへ行くことが出来なくなってしまったんですよ」
「いつになったらアイスベルクに行けるんだ」
「実は…あまり声を上げて言えないんですが、アイスベルクが魔王の怒りに触れたみたいなんです」
「おいおい!それは本当か!!」
シッーーーーー!
「私も扉の外でたまたま聞いただけなので、本当かどうかはわからないんです」
「いいのか?こんな重要事項、簡単に喋って」
「あくまでう・わ・さ、噂ですよ〜」
すると離れた所から大きな声が聞こえた。
「ああーーーーーーーーーっ!」
ここまでのお付き合い、誠にありがとうございます。
次話も月曜日更新予定です。
ここまで読んで「面白かった」「続きを読みたい」と思われた方は、ブクマ・評価・ご感想という形で応援して頂けますと、とても嬉しいです!




