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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第8章 覚醒するエースの風格
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第95話 オルアースの思惑


 最大級の一撃を放ってディメテルに勝利したルベールとレイジだったが、あれやこれやと訊かれた。

 もはや話す気力さえロクに残っていない二人の前に、仲間が駆けつけてくれた。その仲間たちが、この戦いにおける両名の活躍を語る。

 明日のシバ経どころか、世界各地の新聞は、この活躍が一面になる事であろう。それだけ、デズモンド社の最高幹部が敗れた事は大問題である。

 ユグドラシルたちを駆って街で暴れた事も併せて、シバレーの報道機関はこぞってこれを伝えに伝える。


「カトルーア、後でお前も来いよ」

「来るって……どこに?」

 カトルーアは、首を傾げた。


「俺たちの拠点で祝勝会やるんだよ。どうせ、今は仲間と別行動で一人……寂しいだろ?」

「ありがとう、兵を纏めたら行くわ」

「じゃ、ここで会おうぜ」

 ルベールは、メモを渡した。


 カトルーアは、二人の生傷の数々を見た。これで生きていて、さらに意識を保っている方が奇跡なくらいだった。

 救急隊員に肩を貸してもらいながら、二人は近くの病院へと搬送される。その間際、ルベールはカトルーアに手を振った。





「んじゃ、サクラが戻ってきたのと、強敵ぶっ飛ばしたこと! それから……」

「アザミもギュトーも無事だったし、フォードたちとバハラが仲間になった事もチョーアゲアゲじゃん! だから、乾杯!」

 メディアの取材と応急処置から数時間。祝勝会は、派手に始まった。メレは、ノリノリな音楽をアンプで流す。


「……しっかし、ユグドラシルとマザーゴーレム倒しただけで、この額だなんてなぁ」

 ルベールは、煌めく小切手を見ながら、しみじみとしていた。額面は2700万ルド。これまでに得た報酬の倍近いものであった。

 同じものを、フォードの一味も受け取っていた。ユグドラシルもマザーゴーレムも、それぞれ4000万ルド。これを3つの冒険団で分割した結果である。

 巨大戦力の修理をしたとしても、お釣りがくるレベル。仲間を取り返すために戦った結果がこれなのだ。ルベールには、どうにも高すぎるように思った。


「大所帯の一員であるお前が2700万ルドでも良かったのに」

「もう、その話はいいでしょ。アナタたちが頑張ったんだもの、私はその手助けをしたまで」

「お前が満足なら、それでいいけどな……」

 アズールは、小切手の額面の話を何度も確認していたが、彼女の強気なまでの意見に納得せざるをえなかった。


「それにしても、レイジさん……本当に起きませんね」

 サクラは、心配そうにレイジを見た。


 フォードやメレ、ルベールがどんちゃん騒ぎをしていても、レイジはぐっすり眠っていた。

 包帯やギプス、チューブといった医療器具を装着しているレイジは、見るに堪えない状態だった。

 身体のいたるところに火傷や擦り傷、切り傷。両腕は今もビリビリ痺れている。全身の筋肉、関節の痛みが取れない。

 よほど疲れているのだろう。そんな彼の寝顔を見て、フォードは旅の計画を練る。


「これから先、ディメテルのようなヤバい奴を相手することを考えりゃ、医者を探すのが急務だな」

「せやなぁ。でも、シバレーにおって冒険行きたいって言いはる医者なんて、そうおらんしな」


 医者は、どこにいても需要はある。市街地の病院に勤めるのであれば、下手な冒険者についていくよりも安定して生活できる。

 冒険者としては、医者はどこに行くにしても必要不可欠な人材。


「そういえば、勇者は元気か? 一緒じゃなくて、寂しくねぇか?」

「全ては、彼が大義を成すため。そのためなら、私は何だってする。寂しいなんて感情は……」


「はっはーん。クールなフリして、死神女もお年頃ってわけだ。こんなナリで尽くす系女子とは、いいギャップ萌えじゃねぇか! 勇者様も幸せ者だな。俺もそういう女に……」

「……っ! 茶化さないで!」

 カトルーアは、錫杖でルベールの口をふさいだ。明らかに顔は赤く染まっているし、ルベールとも視線を合わせようともしない。


「私とアル……彼とは、ただの幼馴染よ。知り合った頃から、彼は魔王を倒すための訓練に明け暮れていて……私がそれに釣り合うわけがないわ」

「ああ、なるほどね。“大きくなったら結婚しようね”的なアレを今でも持ってるけど、ってな具合か」

 ルベールにからかわれて、カトルーアは涙目。

 勇者への信頼、忠義。それ以上のものは持たずに来たつもりだったが、それを出会って間もない男に見透かされている。それで、彼女はずっと動揺している。


「カトルーアちゃん、大丈夫? ゴメンね、ウチの馬鹿がデリカシーのない事言って」

 メレは、カトルーアの肩をさすりながら言った。

「……気にしないで。平常心を満たした私にも、少しだけ問題があったから」

 カトルーアは、メレの手を払いのけた。目つきは、いつもの凍てつくようなものに変わった。


「カトルーアちゃんって、ウチらとそんなに歳変わんないのにオトナ女子だよね」

「私、少し風に当たってくるわ」

 カトルーアは、宴の席を外した。


「で、フォードたちはこれからどうするつもりだ?」

「今日明日と体を休めて、それからシバレーを出る。医者を仲間にしなきゃいけないし」

「平均寿命が最も長いザポネの医者なら最も信用できるが……手っ取り早く探すなら、スサナンド砂漠を超えた先にあるカロイ・ラマの街を尋ねればいい」

「そこを目指せばいいんだな?」

「……なのだが、砂漠のルートならエルフの集落は避けて通れない」


 リュイは、テーブルに世界地図を広げた。アザミの出身地でもあるザポネは、ほぼシバレーの裏側に相当する。

 シバレーより西南西に約1400キロにあるスサナンド砂漠を南に600キロほど。砂漠を超えた先のイリアーフ地方を西に400キロ横断。そこに医療の発達した街があるという。

 しかし、問題点がいくつか。ジャンク・ダルクで行く以上、このカロイ・ラマという街へ行くには、人間嫌いで知られるエルフの生息地・イリアーフ地方を超える必要ある。

 イリアーフ地方とカロイ・ラマを含むヴァレリア地方との間には、数百キロにも及ぶヴァレアーフの壁が太古の昔から存在する。軍事的な意味はなく、単に他種族を拒絶する意思表示である。

 エルフとの接触を避け、他の陸路を取ろうにも、ヴァレリア峡谷を大きく迂回することになる。道なき道を行く冒険が出来なくなった今、ルート一つとっても慎重にならざるを得ない。


「バハラ、アレの最高速度は?」

「せいぜい40キロくらいが限界ですぞ。砂漠を超えることは想定しておりませぬゆえ、悪しからず……」


 ヴァレリアルートは、距離にして約4500キロ。最短距離を不眠不休で稼働させても四日以上。思った以上の長旅である。

 実際は、物資の補給や休息を考えれば、早くても10日はかかるだろう。


「スサナンド砂漠を超えるとなれば一週間くらいだが、メンテナンスというかアップグレードすれば……」

「その改良なら、丸二日も必要ですな。なにより、レイジ氏の容態が復活するまでは、動くに動けませんぞ?」

「……分かった。出発は、レイジの容態が問題ねぇ状態になってからだな。医者が言うには、早くて60時間だそうだ」


 出発の目途が立った。三日後、フォードの一味は、シバレーを出て西南西の砂漠を超えるルートでカロイ・ラマを目指す事になった。

 それまでに、魔力油に食料や水、金属類といった物資の補給を済ませる。

 この準備にかかる費用は、およそ1600万ルド。主に、ジャンク・ダルク号の改良である。


「次は、カロイ・ラマ……やね!」

「我々の旅も、いよいよ本格的になってきた……って感じですね」

 かつてない長旅の予感に、フォードの一味は胸を躍らせるのであった。

 旅の計画は立てられた。されど祝勝会は続く。フォードは、酔い醒ましがしたくて外へと出る。





「カトルーア、やっぱりここにいたか」

「フォード。どうして、ここに……?」

「ずっと姿が見えねぇから、ちょっと気になったモンでよ」

「……ちょっと、疲れたから。スーアやドルトアも、ああいう場だと騒がしいけど……ルベールたちはそれ以上ね」


 拠点を出てすぐ、消えた街灯の下でカトルーアはたたずんでいた。早くも、東の空が赤く染まっている。

 彼女も、祝勝会や宴といったものには慣れているつもりだった。だが、オルアースの仲間以上に騒がしいルベールやメレ達のノリに疲れたらしい。

 スーアたちが豪快なやつらだとするならば、ルベールたちはパリピといったところだろうか。


「VFマスク戦隊もあなたたちも、本当に賑やかなチームね。和気あいあいとしていて」

「羨ましいだろ。そう思ったんなら、俺たちと来るか?」

「……私には、絶対に裏切ってはいけない彼がいるから」

「だろうな……ほんの冗談だ。それより、いくつか聞かせろ。お前は……いや、勇者は戦争する気でいるな?」

 フォードの目が一気に変わった。真剣なまなざしで、カトルーアを見る。


「戦争なんて、そんな物騒な話の根拠は?」

「こないだのシバ経を読んだ。ロンブルム公の息子・オラルファと同盟を結んだらしいじゃねぇか。それでなくても、既に7つの冒険団を傘下に加えてるだろ」


 デズモンド社がロンブルム同盟を滅ぼして数カ月。反撃の旗手として名乗りを挙げたのが、キャプテン・オールAであった。

 戦争や虐殺で荒れた旧ロンブルム領の復興に尽力した。オルアースの報奨金の多くが、その地に寄付された。それでも、デズモンド社による支配からの脱却は、未だ目途すら立っていない。

 そこに、伝説の冒険者である“将軍”ジェネラル・オルエスの孫という血筋、“勇者”という肩書を持つ者が現れた。本来であれば盟主になるはずだった公子・オラルファの心を掴んだ。

 オルアースの本隊でも、既に50人を超える規模。そこに傘下として、のべ1000人近い冒険者が加わっている。冒険団としては、異例の速さでの成長だ。

 オラルファとしては、飛ぶ鳥を落とす彼らの勢いが欲しかった。そして、オルアースとしてもロンブルムの残存勢力が欲しかった。まさに、WINーWINな同盟。


「オラルファと同盟組んだって事は、戦争の相手はデズモンド社ってところか。俺たちと一緒だな」

「手を出してしまったからには、デズモンド社もそうなるわね。でも、魔王軍が優先なのは変わらないわ」


 オルエスの時代から、魔王を倒すための組織は幾度となく立ち上げられてきた。だが、そのいずれも魔王にたどり着く事すらできなかった。

 魔王の居場所がカルミナを離れて月にある事を突き止めたのも、ここ十数年の話。5年前に発足したカナベラル宇宙開発チームが最も近づいたとされるが、戦力増強の実験に失敗。チームは解散に追い込まれた。

 オルアースは、確かな兵力で魔王の拠点を目指す。そのために、政府や王侯貴族からのクエストをこなし、資金を貯めている段階だ。

 もはや一つの冒険団というよりは、ちょっとした軍隊。勇者も、魔王軍を殲滅するために必死なようだ。


「デズモンド社は、私たちにとっては金脈……10の何十乗ってレベルの金が眠っているわ」

「世界の何割かの金を持ってる、っつー企業だもんな。それともう一つ……俺たちを狙っている理由だ。俺たちとお近づきになって、レイゾンへのパイプが欲しいってところか」

 フォードは、瓶に残ったテキーラを飲み干した。


「本当ならそれも狙うつもりだったわ。けれど、アナタ……レイジと一緒に冒険する名目で組織を抜けたじゃない。それで、彼がどんな人物か気になったのよ」

「で、最後にレイジの評価を訊いても?」

「……少しはチームのエースらしくなったんじゃない? 私のキャプテンには遠く及ばないでしょうけど」


 カトルーアからの風当たりは強かった。ライバル宣言を受けた冒険団、その遥か高みにいる主将の右腕からの評価は厳しかった。

 フォードは、口角を上げて「よかった」と呟くように返した。まだ道半ばであるという事を再認識できたのが、嬉しかったようだ。


「弟分を辛口で言ったのに……おかしな人ね」

 カトルーアは、口元を抑えながら笑った。


「俺たちは、デズモンドの首を狙ってる。この旅は、そのための武者修行だ。まだまだ及ばねぇって分かっただけでも収穫だぜ」

「もし、共闘戦線を張ったとしても、大将の首は私たちには取らせない……そう言いたげね」

「当然だろ。俺たちの目的なんだからよ。でも……本当に一緒に戦ってくれるってんなら歓迎だぜ」

 少しでも戦力が欲しいのは、フォードとて同じことだった。もし、オルアースを味方につけられるのなら、これ以上信用できる戦力もそうそうないだろう。


「一緒に戦う? 傘下にしてください、って素直に言えないのかしら?」

「……お前も、食えねぇ女だぜ。勇者以外の男に興味ねぇ……そんな感じか?」


 フォードは、ため息交じりに言った。しかし、カトルーアは一言も返さずにフォードを流し目で睨む。

 オルアースと手を取り合い、デズモンド社を倒す話。目的は同じなのに、その共闘は夢物語になりそうだ。

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