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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第8章 覚醒するエースの風格
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第96話 海を渡るルーキーの活躍

 レイジたちがディメテルを倒したという記事は、世界を駆け巡った。


 ここは、ザポネから遥か東にあるエデンの島。誰かがカルミナを一周するまでは、ここが世界最東端の場所だと信じられていた島。

 様々な色の花が咲き乱れる草原、サンゴ礁が創るエメラルドグリーンの海。まさに、最果てにある楽園の孤島。


「ここを東に行けば、でっけぇ滝に出くわすんだロ? オデ、怖ぇよ」

「デカい図体のくせにだらしがないねぇ。そんな滝、あるわけないだろうに……」


 そんな楽園に、似つかわしくないであろう人間が数人。黒髪の花魁はまだしも、忍者、天パの神主、身長210センチのハゲマッチョ。

 さらには、健康的な筋肉美が目を惹く金髪の女。機関銃を肩に担いでいるあたり、チームの狙撃手のようだ。

 極めつけは、紋付袴の上からトレンチコートをマントのように羽織ったリーゼント男。このバンカラ風の彼が、このチームのリーダーである。


 そんな奇妙なチームがここに来た目的は、単なる休息である。一日休めば、また海に出て新天地を目指すつもりだった。

 どこまでも穏やかな時が流れるエデンの島。その空を一羽のウミネコが飛んで行った。そのウミネコは、この冒険団を狙っていたかのように新聞を落としていった。

 新聞を拾い上げたリーゼントは、一面を見て感慨に浸っていた。


「……アイツも、随分と出世頭になったモンだ。日本円で55億飛んで2000万ってか」

「また、アイツの事を気にしてるんだね」


 金髪女が、リーゼントの読んでいる新聞を覗き込みながら言った。

 フォードの一味がこれまでに稼いだ額は、推定で4600万ルド以上。とてもルーキーの冒険団とは思えないほどの額。 

 このチームも新進気鋭の冒険団の一つ。ザポネで大立ち振る舞いを演じたこともまた、海を渡って世間の耳に届くところとなっている。


「そういうアタイたちだって、十分に名声を得たじゃないか」

「そうですぜ、ダンナ!」


「ナメたクチ聞いてんじゃねぇ! 向こうは、大正義の一角を落としたんだぞ……俺たちが、アイツらに後れを取るわけにもいかねぇ」

 リーゼントは、声を荒げた。この冒険団は、レイジに対して異常な執着を見せている。

 ザポネから海を渡ったのも、レイジを探すため。しかし、そのレイジは、今はカルミナの裏側。そのことは、彼らも知らない。


「少し頭を冷やされよ、……殿。貴殿の悪いクセでござる」

「そうそう。レイジの事になると、荒々しくなる。ダンナの悪いクセっすよ」


「もうグズグズする暇はねぇぞ。お前ら、すぐに出航するぞ!」

 上陸から数時間。リーゼントの一派は、せわしなく海へと繰り出す。



 シバレーより北北西に約2400キロ。ここは、コスモバレット。宇宙から銃弾を撃たれたかのような跡がある事から、この名がついた。

 ここはかつて、高名な魔術師が“スターダスト”の習得のために選んだ地である。その伝説にあやかり、“スターダスト”の習得を目指す者は、例外なく訪れている。

 ここに出てくるモンスターも、不気味に笑う土星のような顔や、マッチョなタコ型宇宙人に始まり、グレイ似の3等身モンスター、UFOのような飛行物体……などなど。

 落下した隕石に混じって、地球にやってきた事が考えられる。彼らは、クレーターの辺りを中心に生息しているようだ。

 そんなクレーターの中には直径200メートルにも及ぶものも。そんな穴を見下ろせば、赤く光る巨大な隕石。

 宇宙の神秘を感じられるようなこの地に、隕石がまた一つ落とされた。そう、落とされたのである。


「お主の“スターダスト”……まだ、ホンモノじゃないのう」

「そうですね。僕の求めている威力は、こんなものじゃない。隕石じゃなくて、本当に流星群を……」


 隕石を見に来た者が二人。一人は、髭を縛れるほどに蓄えた老人。もう一人は、エルトシャン。

 クレーターは、直径25メートル、深さ7メートルほど。落ちてきた隕石の直径は、およそ1.5メートル。

 この隕石を落としたのは、エルトシャンだった。並みの魔術師であれば、十分ともいえる宇宙からの攻撃。だが、エルトシャンは、赤く光る岩を不満げに見つめる。

 このコスモバレットに落ちてくる隕石の中では、おそらく最小クラス。高みを目指す彼には、小さく見えてしまった。


「先のリーグ、ビデオをちゃんと見たぞ。何がスターダストじゃ! あれじゃ、まだヒヨッコの“メティオ”じゃ!」

「だから、こうして再び戻ってきたんです。本物の流星群を撃ちたくてね」


 ブロール・リーグ決勝戦、レイジとの戦いで一度は撃った“スターダスト”。土壇場で決めたものだったが、威力は不十分だった。

 エルトシャンは、リーグが終わった後、物足りなさを感じてここに戻ってきたのである。


 今日は、未明から特訓を繰り返していて、既に魔力の限界が来ている。

 結局、隕石を落とす程度にとどまっているまま。エルトシャンは、一度爺さんの家に戻り、今日の出来を反省する。だが、その糸口も掴めぬまま、いたずらに時が流れていく。


「エルトシャン、少しは肩の力を抜きなされ。ほれ、今日の新聞じゃ。読むか?」

「ありがとうございます」

 エルトシャンは、爺さんから新聞を受け取ると一面の記事に驚いた。


「……へぇ。レイジも随分とやるじゃないか」

「確か、お前さんとレイジは、ライバル同士って話じゃったな。どうじゃ、今度会った時……あやつと戦うチャンスが来たときは、勝つ自信があるかの?」

「次も、負けるつもりはありませんよ。完全な“スターダスト”を決めたうえで……ね」

 エルトシャンは、拳をグッと握った。



 場所は変わり、ビッグマハルはディーニ、その郊外にある一軒家。かつてレイジが修業で世話になった、ファウスト老師とその玄孫エマの家である。

 新聞を読んでいた彼女は、女の子らしくなく慌てていた。バタバタと廊下を走ったかと思えば、ノックもせずにファウストの書庫の扉を勢いよく開けた。

 彼女を焦らせた今朝のディーニ・タイムス。その一面の記事には、こう書かれていた。


 レイジらフォードの一味、ルベールらVFマスク戦隊、並びにオルアースのカトルーアは、大金星を挙げた。

 大正義の一角とも言える豊穣を落とした奇跡。この功績は、3組合計で8000万ルドとするには、シバレー政府も足元を見ていると言わざるを得ない。

 台風の目となるルーキーは、虹色のエルトシャン、勇者キャプテン・オールAの他にもいる。この事実を我々は改めて認識しなければならない。


「エマや、どうしたんじゃ? そんなに血相を変えて……」

「ねぇ、おじいちゃん! 今日の新聞、読んだ?」

「ああ、読んだとも。レイジ君、随分と頑張っておるの」


 ファウストは、エマと目を合わせることなく答えた。それから、彼女の手から新聞を取ると、ハサミで切った。早速、教え子の活躍をスクラップにしている。

 その昔、デズモンドに対抗意識を持っていたが、結局は足元にも及ばぬまま冒険家を引退してしまった。一度は老いぼれ、託すことになった夢に、フォードの一味たちが大きく近づいた。

 長い長い人生の果てに、悲願を達成してくれるかもしれない。そんな予感に、ファウストは心を躍らせていた。


「レイジ君なら、きっと成し遂げるじゃろうな……ワシの悲願を」

「おじいちゃん……大事な話があるんだけど、いい?」

 エマは、気まずそうにファウストに訊いた。


「私……もう、待ってるだけなんてイヤよ! 旅に出て、レイジ君たちに合流して……フォードの一味に力を貸してあげたいの」

「気持ちは分かるが、レイジ君は迎えに来るって約束してくれたんじゃろ?」

「そうなんだけど……またどこかで無茶をしているんじゃないかって思うと……本当に心配で心配で」

 エマの目が潤んだ。


 殺人鬼J・Jの一件で、身を挺して助けてくれたレイジ。そんな彼が、海を渡っても無理をしている。今日の記事は、暗にそれを伝えるようなものに思えた。

 別れてから一か月ほどが過ぎても、迎えに来てくれる様子がない。まだ、仲間に思われていないのかもしれない……そういう不安もあった。

 それでも、フォードの一味の戦力になる一心で、彼女も修業の日々を過ごしていた。レイジたちがビッグマハルを出てから、その思いは日増しに強まっていく。


「おじいちゃん、後生の頼みを聴いて」

「急に改まって、どうしたんじゃ?」

 ファウストは、ようやくエマの方を振り返った。


「私……どうしても、海を渡りたい! 一日でも早くフォードの一味に会わせてほしいの!」

 絶対に譲らないとばかりに、エマは真剣な目でファウストを見つめた。

 乙女の意志は強く、ちょっとやそっとでは揺るぎそうにない。




 6月29日、シバレー。初夏の日差しが、日増しに強くなる。太陽がコンクリートを焼けば、街は灼熱地獄へと変貌する。

 ワイシャツの袖を捲り、ハンカチで額を拭うサラリーマンがスクランブルを横断する季節だ。冷たいジュースがコンビニやスーパーから消え、建物の入り口ではミスト交じりの扇風機が首を振る。

 工業地帯にほど近い市街地西部は、今もなおディメテル戦の傷跡を残したままで、一日でも早い普及を目指して作業員が汗を流す。


 VFマスク戦隊の拠点では、ディメテル戦の功労者たちが名残惜しそうに会話をしていた。

 レイジとルベールの容態も概ね回復、いつでも動いて問題ない状態である。

 フォードの一味の新たな足となるジャンク・ダルク号も、長旅仕様に。あとは水や食料、医療品といった物資を積み込むだけである。


「私は、そろそろキャプテンの元に帰るわ。このシバレーにも、アナタたちにも世話になったわね。ありがとう」

「そうだ、カトルーア。……想いが実るといいな」

 ルベールは、小指を立てながら言った。


「それって、どういう意味かしら?」

「ま、いろんな意味で……だな。次会うとき、どうなったか聞かせてもらうぜ?」

 ルベールは、したり顔で応える。


「いいわ。アナタの方も教えてもらえるのなら……って言いたいけれど、結果は見え見えかもね」

 カトルーアは、ルベールがからかっている事を見抜き、皮肉を返した。


「どういう事だよ?」

「女心の分からないルベールじゃ、ダメって事じゃね?」

 メレに追い打ちをかけられたルベールは、うなだれた。

「カトルーア……お前は結局、最後まで食えねぇ女だな」

 ルベールは、口を歪ませながら言った。


「それじゃ……レイジ、ルベール。またどこかで会えるといいわね。先の戦い、凄く興味深かったわ」

「ああ、お前もいてくれて助かったぜ。また、どこかで……な」

 カトルーアは、一足先にレイジやルベールたちと別れることになった。


「バハラ……こっちの事情にも付き合ってもらってすまなかった」

 リュイの両手には、抱えきれないほどの図面。

「礼には及びませぬぞ、リュイ氏。……完成するといいですな、“レッドセラフィム改”と“シルバネルラ”」


 同じ技師同士、気が合うところが合うのだろう。珍しく、リュイが笑顔になっていた。

 図面に記されているのは、先の戦いで無理をさせてしまったレッドセラフィムの改造計画。及び、新たな巨大戦力。

 これから先、どんな敵と戦うか分からない。それを見越したうえでの改造である。


「レイジ! 色々と楽しかったぜ」

「ありがとう、こっちも何かと世話になったよ」


「ルベールはん、その荷物はどないしたんや?」

「俺たちも、シバレーを出ようと思うんだ。……また、どこかで会おうぜ!」

「ああ! ルベールたちも元気でな!」

 二人は、握手を交わした。別れが惜しいのか、なかなか手が離れない。


「おーい、レイジ! そろそろ行くぜ!!」

 フォードが呼ぶと、レイジはジャンク・ダルク号に飛び乗った。

 ジャンク・ダルク号が動き出す。ルベールたちが少しずつ遠くなっていく。レイジは、何度も何度も手を振った。

 ルベールたちの姿が見えなくなったところで、レイジは室内へと戻る。


「ライバルであり、友達でもある……。出会ってから短い時間なのに、本当にいい関係ですね」

「昨日の敵はなんとやら……って言うじゃねぇか」

 フォードは頭の後ろで手を組んだ。


「でも……今日だけじゃない。明日もあさっても……永久だ!」

 レイジは、握りしめた拳を見つめながら言った。

 てのひらに、微かな煙。ルベールと競い合った情熱が蘇った気がした。

これにてシバレー編完結でございます。次回更新より、外伝の更新となります。

更新の日程が乱れることが多々あった事をお詫び申し上げます。

今回も、激闘に次ぐ激闘を最後まで追いかけた読者の皆様に感謝です。

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