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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第8章 覚醒するエースの風格
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第93話 カトルーアの最終作戦

 場所は変わり、工業地帯。レッドセラフィムを救出したレイジは、力尽きて倒れていた。

 思えば、今日の未明から修業の一環としてジョウとモンスター狩りに出かけていた。その疲れがロクに癒えぬまま、ゲブ戦。さらに、フェルグス警視正との殴り合い。

 最初からずっとボロボロの状態でディメテルと戦ってきた彼の身体は、とっくに限界を超えていた。

 まだ、ディメテルを倒したわけではない。最終作戦を残している。それでも、レイジは指一本動かす事すらできずにいた。


「アザミ殿! ここにレイジ殿が……!」

 偶然、カトルーア軍の一人がレイジを見つけてくれた。


「……レイジはん、カトルーアはん。しっかりするんやで! “エルキュアー”!」

「う、うぅ……。姐さん、ありがとう……」

「礼言うんなら、全部終わってからや! アンタには、まだ一番の大仕事が残ってんねやろ?」

「そ、そうだった……。でも……ガフッ!」


 レイジがせき込めば、血混じりの痰が出る。即効性の高い回復魔法でも、立ち上がるのがやっとの状態。

 あまりの出血量に、兵は目を背けた。自分の命を顧みず戦い続けた漢の傷は、あまりにも生々しく、具体的に戦禍を伝える。 


「大丈夫ですか、レイジさん」

「身体が重たい……目が霞んできた」


 ギュトーの問いかけに、レイジは額の血を拭いながら答えた。

 これ以上ないくらい追いつめられているレイジ。火事場の馬鹿力を出せる限界など、とうに超えている。

 目はうつろ、焦点が合わない。リーグでエルトシャンやルベールを相手した時の比ではないほどの疲労と出血量。回復魔法が追い付かなない。


「アカン……これで最後の回復やわ」

 アザミの魔力も尽きた。レイジは、ようやく一人で動ける程度には回復した。


「そうだ、アニキたちは?」

「市街地に赴いた巨大怪物を止めるために向かいました。ですが、どうなったか……むおっ!」


 レイジたちの真上をレッドセラフィムが飛んで行った。レイジたちが振り返れば、ユグドラシルも周りを吹き飛ばしながら海を目指していた。

 今なお繰り広げられている空中戦。両者が何度もぶつかり合うが、ユグドラシルの方がやや押しているように見える。

 現在のパイロットはリュイ。機体と己の安全を考え、ルベールほど無理なブーストを掛けられず苦戦しているようだ。


「リュイ! 今、レイジの姿があったぞ!」

「ああ、確かに見た。だが、カトルーアという女は見当たらないが」


 レイジの無事を確認することができたレッドとグリーン。だが、カトルーアがいない。

 作戦の要を担うカトルーアがいなければ、最終作戦に移ることが出来ない。作戦の詳細は、すべて彼女の頭にある。

 彼女を探すため、レッドセラフィムは海上をさまようように飛んでいる。夜の海は暗く、特定の人物を探すことは困難を極める。

 レッドセラフィムの剣に火が灯る。攻撃ではなく、たいまつの代わりとしての役目を持たせる。


 ユグドラシルの長い新緑のブレスが飛んでくる。レッドを落としかねないと判断したグリーンは、どうしても急に曲がったり速度を上げたりできずにいた。

 グリーンには、カトルーアを探すと言い出したレッドの安全が何より大事だった。

 すぐそこまで、ユグドラシルのブレスが迫っている。耐えかねたレッドは、コクピットの窓に顔を乗り出して叫んだ。


「リュイ! さっきから遅いぞ!」

「……あなたを肩に乗せたまま、これ以上飛ばせると思うか? 機体の安全もある」

「俺の事なら気にすんな! しっかり掴まっておくからよ! それに……コイツ、200%にも耐えてくれたんだぜ?」

 レッドは、拳をグッと握って言った。


「お前が緻密に計算し、開発したメカだ……本気になりゃ、ユグドラシルなんて振り切れる」

「メカに気合を求めないでいただきたい。……と、言いたいところだが、今はそうせざるを得ない状況。しっかり掴まっていろ!」


 グリーンは、レッドセラフィムの出力を上げた。200%、本気の本気で勝つことを望んだがゆえの選択肢。

 アクロバット飛行で、ユグドラシルのブレスをかわし続ける。時には、その剣を振って、炎の衝撃波をぶつける。

 最初の交戦で疲弊しているはずの世界樹だが、全く疲れを見せない。そればかりか、マッハ2のメカに肉薄するほどの速さで飛んでくる。

 レッドが振り返った先には、大きく口を開いた世界樹の龍。レッドセラフィムの限界さえも、超えてくる。豊穣の切り札はダテではない。


「出力を限界を超えた限界まで上げろ……300%だッ!!」

「分かった……だが、それより先は無理だ。あなたの身体も、機体も持たない」


 レッドセラフィムが自壊する限界ギリギリ、レッドは気合で耐える。6枚羽根のジェットエンジンが火を噴き、赤く染まる。

 マッハ3の領域、機体の周りで炎が巻き起こる。コクピット内は、危険信号が短い周期の高音で鳴り響いている。

 当たって砕けろ。レッドの頭には、それしかなかった。理論上、壊れる寸前の領域。その領域に達して初めて、ユグドラシルを振り切ることに成功。

 捜す余裕ができたため、海上すれすれを飛び回る。ソニックブームで巻き起こった飛沫が、機体の熱で瞬時に蒸気に変わる。

 レッドも、あたりを見回しながら、必死にカトルーアを探している。それからほどなくして……。


「おい、アレ……死神女じゃねぇか!」

 レッドは、9時の方向を指した。彼の指さす向こうには、作戦のブレーンが浮いていた。

 レッドセラフィムは、翼の砲台でユグドラシルの目をくらませてから舵を切った。


「……大丈夫そうだ、気を失っているだけだ」

 レッドは、カトルーアを回収すると、耳を口元に近づけた。さらに首筋にそっと触れた。

 あれほどの衝撃を受けていながら、脈も息もあるのは奇跡。

 カトルーアとレッドを左手に乗せたレッドセラフィムは、レイジのいる工業地帯へと急ぐ。



「こ、これは……」

 レッドセラフィムの左手の上で、カトルーアが目を醒ました。


「ああ、良かった……」

 カトルーアが右に目をやれば、レイジが胸をなでおろしていた。


「やっと目が覚めたか。お前……あのゴーレムの一発で海まで飛ばされたんだぜ?」

「ありがとう。私、奇跡的に生きていたのね。……それで、あのモンスターたちは?」

「見ての通りだぜ。それから、マザーゴーレムって奴なら倒した」

 レッドは、飛び回るユグドラシルを指さした。


「本当に……?」

 その報告に、カトルーアは驚いた。レッドは、力強くうなずいた。


「流石はルベールたち、やってくれると信じてた」

「だが、喜ぶのは早いぜ。まだ、もう一匹残ってんだからよ」 


「で、俺たちメインの作戦があるんだってな?」

「ええ、アナタとレイジを今からダンジョンタワーの最上階に連れていくわ」

 レッドセラフィムは、その両肩にレイジを乗せて飛び始めた。


 カトルーアは、改めてルベールに作戦を説明する。

 作戦の舞台は、ダンジョンタワー。ブロール・リーグの二次予選会場ともなったツインタワーである。全50階構成で、その高さは450メートル。

 タワー間の距離はおよそ100メートル。ユグドラシルの翼長をギリギリ超える程度。レッドセラフィムは、この二人の間にユグドラシルを誘導するのである。

 ルベールとレイジは、そのダンジョンタワーの屋上で準備。VFマスク戦隊の巨大メカとジャンク・ダルク号のバトンを受け、最大の一撃を撃つ。

 チャンスは、たったの一回きり。タイミングもシビア。音速を超えるユグドラシルに当てられなければ、あるいはレッドセラフィムに当ててしまえば、勝利はない。

 レイジたちに求められることは、最大の一撃を撃つために必要な精神エネルギー、及びそれを確実に敵に命中させる集中力と瞬発力。


「こ、これは……!」

 レイジは、燃える摩天楼を見上げ、驚いた。見下ろせば、この戦いで巻き込まれ、傷ついた市民たち。

 アイン村の惨劇がダブって見えたレイジ。手足が震え、視界が流転する。


「全部、あなたが巻き起こした事よ。……黒飛レイジ!!」

 後ろから、ディメテルの金切り声。倒すべき敵を見据える彼女の目は、殺意に満ち満ちていた。

 レイジを探すためにビルを崩し、道を断った。市民を潰し、ガレキを砕いてでも血眼で探した男だ。喜びも憎悪も混じっている。


「耳を貸さないで、レイジ! 彼女は、アナタを動揺させようとしている」

 レイジには、到底理解の及ぶ話ではなかった。いや、納得してはならぬ理不尽であった。

 こうして市街地でディメテルと相対するのは、今が初めてだ。


「聞き捨てならねぇな! レイジが起こした惨劇だって? ……てめぇのやった事だろうが!」

 すべてを見ていた男は、叫んだ。


「あなたが早く現れれば、誰一人として犠牲は出なかった。誰も抵抗しなければ、私だってこんな惨劇を起こすことはなかった」

「俺を探すためだけに、アンタは罪もない人間に手を出した。謝って世間が許そうとも、この俺だけは許さない……ッ!!」

 レイジは、早くも怒りに燃えていた。ひとたび火がついてしまえば、もうレイジは動ける。闘うために、トランス状態へと入る。

 ディメテルも、ユグドラシルの背中に乗り、最終決戦へと臨む。


「某も同意見ですぞ!」

 バハラは、超合金たちをディメテルにけしかけた。羽虫のようにベッタリとくっついてくる超合金たちを、ディメテルは必死に振り払った。


「誰もかれも、同じキレイごと振りかざして……! あなたたちが抵抗しなければ、戦わなければ! 犠牲者が出なかったというのに!」

「……ダメね。もう、感情だけで動いているわ。アナタは、人間でもヒトでもないわ……ケダモノよ」

 カトルーアは、怒りを通り越して呆れていた。哀れみのまなざしで、モンスターを見下ろしていた。


「私だった、考えに基づいて動いているわ。社長には、幼いころから教えられたわ。目標を達成したければ、全てを足蹴にしてでも、市民の安寧を潰す方法であろうとも、それが達成できる手段であるならば迷わず遂行せよ……そう叩き込まれた。今回だって、明確な力の差を見せつけ、絶望させ……確実にレイジの息の根を止めるつもりだった!!」

「考えに基づいて、って言ったな。デズモンド様の考えに基づいて……だろ? しかも、その考えで取った選択は、一番の誤算を生むだろうぜ。俺もレイジも、燃えに燃えている……!」

 ルベールは、ディメテルを睨んだ。「今に見てろよ」とでも言いたげな態度に、ディメテルのプライドはズタズタ。


「さっさと行くぞ、こんなヤツ振り切って……」

「レイジさん、あなたにこれを……! 絶対に切らないでくださいね!」

 全速力で向かおうとした矢先、サクラはレイジに自分のVフォンを投げ渡した。


「どうして、これを俺に……?」

 受け取ったレイジは、不思議そうな顔をしていた。


「冒険者パスじゃ、離れた相手と話出来ねぇだろ? フォードのアニキには、メレのやつを渡してるぜ」

「……そういうことか」


 レイジの原動力の一つ。それは、アニキの激励。これまでの旅でも、アニキの言葉に何度も助けられた。ブロール・リーグにおいても、これが決め手となった試合もあった。

 全ては、レイジに全力の一撃を叩きこんでもらうため。Vフォンでの通話を通して、アニキに激励してもらう。VFマスク戦隊の小粋な計らいに、レイジは思わず笑みがこぼれた。

 しばらくして、一行はダンジョンタワー最上階へとたどり着いた。作戦通り、タワーの左右それぞれに、レイジとルベールが陣取る。


 レッドセラフィムは、ユグドラシルをおびき出す。二人が気合を溜めている間、オトリ役として時間を稼ぐ。

 それを補佐するのが、バハラ率いるジャンク・ダルク号。及び超合金クルセイダースである。

 すべては、二人のために。すべては、倒すべき敵を倒すために。


「Vファイターオー、って言ったっけ。それより強い一撃を撃つ自信はあるか?」

「自信があるからこそ、死神女の作戦に乗ったんだぜ。お前も、そんなクチだろ?」

「はは……訊くまでもない事だったな。じゃ、始めるぞ……ルベール!!」

 レイジは、半袖ジャンパーを脱いだ。赤いノースリーブに七分丈のパンツと、かなりラフな格好だが、やる気を見せている。

 アザミに巻いてもらった包帯もガーゼも全部破り捨てて、遠くにいるユグドラシルを睨んだ。


「ああ、さっさと始めようぜ!」


 早速、二人は全身に気合を込めた。一瞬にして、熱波が二人を取り囲む。

 無垢なる市民が巻き込まれた光景を見るのは、これが初めて。アイン村では目を背けてきた現実に、レイジは今、立ち向かっている。

 怒りが、腹の底から込み上げてくる。脈々と湧いてくる怒りが、精神エネルギーを増幅させる。

 東京やニューヨーク等の比ではない人口を誇るシバレー。その一角とはいえ、巻き込まれた者は10万単位でいる事だろう。

 ディメテルと自分との戦いにおいて安寧を奪われた市民の不安、あの日倒すと決めたデズモンド社への想い。全部全部、糧に変えて闘志を燃やす。


「な、なんて熱気なの……? あの時の一戦と同じくらいだわ」

「いや、まだまだだな。レイジは、あんなモンじゃねぇぞ。そうだろ!」

 一見すれば自分の数倍の規模はあろうかという巨大な炎。ユグドラシルを倒せそうと思えるほどの規模。

 だが、フォードは厳しかった。もっと出来るはずだ、と誰よりも信じる漢は、喝を入れる。


「アニキ……! そうだ、俺たちはまだまだ!」

「一度は俺に勝ったんだろ? だったら、もっとやれるぜ」


 ルベールは、足を肩幅に開き、さらに気合を入れた。汗が滝のように流れ、顔が赤く染まる。

 レイジも、負けじと炎を強める。自分の10倍はあろうかという炎を巻き起こす。


「ルベール、まだ準備は出来ないのか!?」

 アズールからルベールへ、Vフォンに連絡が入る。


「ああ、俺もそうだが……レイジがまだ本気の本気になっちゃいねぇ!」

「こんな炎じゃ、ユグドラシルもディメテルも倒せやしない……!」


 ダンジョンタワーは今、二本の巨大なロウソクのようになっている。それだけ二人の熱気が凄まじいということではあるが、それでも足りないと二人は言う。

 まだまだ、甘い。まだまだ、ヌルい。悔いのない一撃のために、レイジたちは気合を入れ続ける。


 遠くでは、ユグドラシルを誘導するレッドセラフィムの姿。ボディーには無数の凹みと傷。煙を噴いてでも、ダンジョンタワーに近づけさせまいとグリーンが必死になっている。

 愛機の惨劇を外から見るのは、ルベールには心苦しいことだろう。だが、ルベールはグリーンを信頼し、辛さを振り切る。

 この一撃に賭けるために、超合金たちが散っていく。ユグドラシルの羽ばたき一つでガレキに叩きつけられる。

 そんな巨大怪物が上空にいる中、フォードはアズールたちとともに市民の救助に勤しむ。


「レイジ……大丈夫か? 少し勢いが落ちてるぞ」

「ちょっと落ち着かない。色んな感情が込み上げてくるというか……」

「色んな感情ねぇ……。俺は、ただ一つだぜ」


 レイジと心を重ね、必ずディメテルを仕留める。ルベールの思いは、それだけだった。

 というより、他の事を考える余裕なんて、ルベールにはない。ただ敵に集中し、なすべきことに全神経を注いでいるだけ。


「頼むぜ、レイジ……俺と心を重ねてくれ。強く、アイツを倒したいと望んでくれ!」

「……言われなくたって!」

 レイジがさらに気合を込めれば、彼の周りでスパークが巻き起こり始めた。

 たった一発のプレッシャーを、レイジは跳ね除けることができるか……。

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