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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第8章 覚醒するエースの風格
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第87話 何度でも這い上がって

 レイジの“ウィンド”は、目にも止まらぬ蹴りから放たれる衝撃波。体の負荷に対して、その威力は見合っているとは言い難い。己の身を削る、まさに諸刃の剣。

 “ウィンド”を繰り出してから一分、それでもレイジの右足は痺れていた。筋肉の痙攣が止まらない。再び使えるようになるには、数分。さらに、当たり前のように使っている炎や電撃と違って、そう簡単に使えない。


「……試せて、6発くらいってところか」

 魔法じゃない。カトルーアのそれと違って、気合で風を巻き起こす技。しかも、初めてドンブリンを倒したときと同じように、尋常ではない脱力感がレイジを襲う。

 フェルグスがすぐにでも攻めてくるというときに、味方の助けを期待できない位置なのでサシで戦わなければいけないときに。このデメリットは、重すぎた。


「こりゃ、勝負が終わればアニキと修業だな」

 “ウィンド”を撃つために耐える身体が必要になってくる。体力やパワーだけではない。強力な技を使うに耐えられる頑丈さが足りないのだ。


「修業をしても、我々を超えられるとは思えないが?」

「そんな事、やってみなきゃ分からないだろ!」

「たかが失敗作……それを成功させただけで、強がるなよ。粋がるなよ!」


 またしても、フェルグスのデリンジャーがレイジの虚を突いた。心臓こそ直撃しなかったものの、右肩を撃たれた。

 抑えれば左手に血がベッタリ。痛みを、けだるさを耐えて、レイジはフェルグスを睨んだ。それから、左足で回し蹴りを放つ。


「“ウィンド”!」

 その蹴りに、キレも勢いもない。不発で然るべき一撃だった。

 フェルグスに脚を掴まれたレイジは、そのままジャイアントスイングを食らい、廃工場の壁にぶつけられた。

 背中に激痛が再び走る。フェルグスは迫ってくる。気力を振り絞って立ち上がるも、フェルグスはすぐ目の前。


「……くっ!」

 レイジは両手をフェルグスの前に突き出し、手を鳴らした。今度は、レイジがフェルグスの一瞬の隙を作った。

 一か八かの猫騙し。どんなに泥臭かろうが、何度でも這い上がって粘る。レイジのその諦めの悪さには、フェルグスも呆れた。


「たぁあ!」

 今度は掌底。フェルグスのみぞおちにクリーンヒット。フェルグスは、レイジの気迫の前に怯んだ。


「“レッド・クライシス”!」

 一瞬もあれば、全身に炎をまとうのは十分。レイジは、頭突きでフェルグスの顎を狙った。


「何がそこまで貴様をたきつける? こんなにボロボロで、なぜそんな力が出る?」

「気合と根性と……仲間!」


 レイジは、右手に炎、左手に電気をまとった拳を同時にフェルグスに叩きつけた。

 仲間を想い、ピンチをチャンスに変える力がフェルグスに炸裂する。フェルグスが吹っ飛んだ。

 起死回生の一撃、追い込まれるほどに真価が出る特性が、一発逆転を呼んだ。


「さて……持ってるんだろ?」

 レイジは、フェルグスの服のポケットを強引に破いて、ルベールのVフォンを探し出した。

 しかし、簡単に見つかるようなものでもないし、当然ながらフェルグスも抵抗してくる。


「何を探している?」

「一発逆転のカギ」 

「どうしても欲しければ、この俺を倒してみることだ。……落ちこぼれの貴様では不可能な話だが」

 フェルグスは、手招きでレイジを挑発した。


 レイジは、インファイトに応じた。

 右フック、左掌底、右地獄突き、左回し蹴り、左裏拳、右アッパー。そこから、高く飛び上がって、二刀流の“ロッソカリバー”を振り下ろした。

 その一発一発に、魂がこもっている。しかし、そのいずれもフェルグスからすればアクビが出そうなほどに遅いものばかり。


 それでもなお、レイジは諦めない。どれだけ防がれようと、ただただ果敢に攻めるのみ。

 左ストレート、右回し蹴り、左エルボー、左逆水平チョップ、さらには錐揉み回転しながらの右アッパー。電撃をまとったアッパーは、まさに龍が天に昇るような拳だった。

 一瞬だけフェルグスの腕が痺れた。それだけ、レイジの一発が重かったのだ。


「もっともっと速く……!」

 攻撃の手を緩めれば、攻め入る隙を作るだけ。もっともっと速く……レイジの意識は、完全にスピードにあった。

 猫騙し、左裏拳、右横蹴上、左地獄突き、“サンダーブレイザー”振り下ろし、“ロッソカリバー”水平斬り、右フック、左アッパー、左膝蹴り、サマーソルトキック。

 右逆水平チョップ、アームブリーカー、大外刈りからのケンカキック。フェルグスが立ち上がったところで、ハイキックを顔面にぶち込む。


「せいぜい、これくらいが全力といったところだろう?」

 フェルグスが言うように、レイジの息が上がりつつある。


「“ウィンド”!」

 鋭い蹴りから放たれた烈風の一撃が、再び蘇る。

 フェルグスは、その一撃を蹴りごと食らってしまった。フェルグスの口からは、胃酸。


 レイジは、両腕を目いっぱい後ろに引いて、腕全体に意識を集中させた。腕全体に青白い稲妻がほとばしる。

 この一撃にすべてをかけて、フェルグスを倒す。そんな彼の心意気は、ちょっとやそっとで抑えられるようなものではない。

 フェルグスは、何としてでもレイジを止めようと、躍起になって突っ込んできた。だが、もう遅い。


「“ツイン・プラズマ・ドラグーン”!」


 雷鳴が辺りに響いた。フェルグスの全身に何十何百と稲妻が落ちる。

 颯爽とルベールを助けに来た時の比ではない。巨大な二頭の稲妻の龍が、バリバリとフェルグスを食っていく。

 これほどの電撃、タフな警視正と言ってもそう簡単に立ち上がることは出来ないだろう。


「……ようやく取り返したぞ」

 レイジは、ぼろぼろになったフェルグスから、ルベールのVフォンを奪取することに成功した。

 一発逆転のカギを手に入れた彼は、すぐにディメテルと戦っているカトルーア達の救援へと急ぐ。


「アカン、寝てる場合やあらへん。サクラはん、ギュトーはん!」

 ずっと気絶していたアザミが、ようやく意識を取り戻した。


「うぅ……強すぎる」


 簡単にノックアウトされ、頼みのVフォンも今はすぐに見つからない。変身できない中での勝負を強いられているサクラ。

 たかが三人が目を覚まして臨戦態勢に入っても、捌ける敵の量はたかが知れている。

 ディメテルに近づいて一発でも攻撃を浴びせられるなら、何度もそう歯がゆい思いをするカトルーア。


「数が多くて処理しきれないわ!」

 黒羊に乗った女は、湯水のごとく成る。あの大樹さえどうにかできれば、とは分かっている。

 しかし、それ以前に兵力に圧倒されて近づくこともままならない。カトルーアが連れて来た魔道部隊にも疲れが見え始めてきた。

 ジリ貧の戦いを強いられ、カトルーアも少しずつ冷静ではいられなくなっている。


「これ以上の対抗、何をどうしようと?」

「絶対に守りたい人がいる。大事な人の役に立ちたい。それだけのこと」


 すべては勇者のために。すべては魔王を倒すために。そのために、レイジに降りかかる火の粉を全力で払う。

 敵が何千何万いようとも、己が道を拓くために邪魔な者はすべて打ち倒すのみ。しかし、それはディメテルとて同じこと。


「あなたたちでは、デズモンド社に勝つことは不可能なこと。“レウケーの巨人”!」


 巨大戦力には巨大戦力。白ポプラの巨人は、その大樹のような腕を振り下ろしてジャンク・ダルク号を狙った。

 とんでもない事を植物で次々とやってのけるディメテルに対し、バハラは恐怖すら覚えた。

 レイジの仲間になったからには、こんな連中を相手し続けなければならないのだ。改めて、敵組織の大きさを痛感する。


「ああ、もうダメですぞ! こんな木の巨人に大軍に……!」


「“ファイア”!」

「“FIRE”!」


 二つの方向から、ほぼ同時に炎の弾丸が飛んできた。レウケーの巨人は、Wエースの炎によって炭へと変えられた。

 二人とも、生傷が絶えない。なのに、彼らはこれ以上なく良い表情をしていた。まるで歯が立たない相手なのに、そんな逆境さえ楽しんでいるかのようだった。


「氷みてェに冷たいオンナかと思えば、アツいハート持ってんじゃねぇか」

「ルベール、アナタ……!」

「おっと、長話は無用だぜ」


 ルベールが海から上がってきたのだ。その右手にはサクラのVフォン。ルベールは、それをサクラに投げ渡す。

 ずぶ濡れで傷だらけ。普通ならばとても戦えるような状態ではないが、むしろルベールは燃えていた。


「諦めるには、随分と早いぜ! 死神女!」

「俺も同じ気持ちだ。皆がいるじゃないか!」


「何度でも立ち上がってしつこいったらありゃしないわ! “ゴータミーのケシ”!」

 またしても、地球の神話上の植物。ディメテルが黄金色の種もみのようなものをばらまくと、倒れていた黒羊たちが息を吹き返した。

 次から次へと兵は実る。倒せど倒せど、蘇らせる薬が向こうにはある。まさに無尽蔵の兵力。ロンブルム同盟を破っただけのことはある。


「E=mc2乗。恐ろしいのは、あの女の魔力の量ね。あまりにも保有量が多すぎて“ドレイン”なんてロクに効きそうにないわね」

「それもそうだけど、もっと怖いのは俺の星じゃ伝説になってる植物を巧みに使っていること。俺も知らないものばかりだ」


 これだけの植物を簡単に生成しようと思えば、それ相応の魔力を要求される。ディメテルには、その限界が見受けられない。

 炎では決して消えることのない“プーチンムー”、食人植物“ヤテペオ”、爆弾の実“ザクーム”。魔力を封じる“モーリュの薬”。

 日本ではかぐや姫が求めたとされる“蓬莱の玉の枝”から作った槍。身代わりになり呪いもかけられる人形“ストロドール”。

 巨大戦力として“レウケーの巨人”。そして、無尽蔵の兵力を生み出す“バロメッツ”と“マカリフォン”。それを補佐する“ゴータミーのケシ”。

 まさに変幻自在。植物を愛し、知り尽くし、圧倒的なまでの魔力を持つディメテルだからこそ使うことの出来るものばかり。


「ディメテルのこの技の多さ、アイツがダブって見えた」

「……“彼”やな」


 レイジは、ディメテルに天才でライバルの男の影を重ねた。また負けてしまうのではないか、と不安に駆られた。


「伝説の木のオールスターじゃねぇか!」

「これが、これこそが! 大正義の力よ! たかがルーキー3組に後れを取る戦力じゃないわ! “ヤテペオ”!」


 黒羊の女騎士たちにまぎれて、食人植物が放たれた。そのヤテペオの背中には爆弾の実“ザクーム”。

 命知らずの特攻ヤローがまぎれている。少しずつ疲弊している中で、このプレッシャー。レイジは、押しつぶされそうになっていた。

 明らかに技にキレが無くなっている。見かねたルベールは、レイジを心配する。


「レイジ、大丈夫か?」

「……勝てるビジョンがまるで思い浮かばない!」

「それは、私も同じね。特に、兵を実らせるあの二つの木……あれさえどうにかなれば」

 だが、とても近づくことが出来ない。魔道部隊が炎や風の弾幕で援護射撃しても、敵は増えていく一方。


「切り倒すってんなら、適任のヤツがいるぜ。サクラ、連絡を取ってくれ!」

「でしたら、少し安全なところで!」


 さすがにラチが開かない状況。ルベールは、仲間を呼ぶことにした。

 サクラは、ジャンク・ダルク号の近くによると、すぐにVフォンでアズールたちとの連絡を試みた。

 ランドたちとの勝負に決着がついていれば、すぐに駆け付けられるが、果たして……。

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