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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第8章 覚醒するエースの風格
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第84話 “豊穣”のディメテル Ⅱ

 ゲブを圧倒したレイジの前に現れたのは、フェルグス警視正とディメテル。このディメテルという女は、手負いの部下にさえ容赦ない人物であった。

 ルベールと共闘戦線を張ることになったレイジの足は、震えていた。


「行くぞ、Vチェン……ぐふっ!」

 ルベールが変身しようとした矢先、フェルグスの地獄突きがルベールのヘソに命中した。

 思わぬ一撃に、ルベールが膝をついてしまった。


「変身できなければ、ただの軟弱だな。超ルーキーとは、大それた称号だ」

「この男は俺が引きつける。“ファイア”!」

 レイジの手のひらから炎の玉が飛び出してきた。しかし、フェルグスは、それをも簡単にかわした。

 フェルグス曰く、かなり遅い火の玉らしい。レイジがフェルグスを相手にしている間に、ルベールに変身してもらうという策は、脆くも崩れ去った。


「しくじった……。ルベール、しばらく、変身なしで戦えるか?」

「その辺は問題ねぇ!」


「もう、ゴチャゴチャとうるさい人たちね! “ザクーム”」

 ディメテルは、再びあの爆発する果実を生成した。


「“ファイア”!」

 一度、その攻撃を見ていたレイジは、炎でザクームの実を狙い撃ちした。脂ぎったその果実は、よく燃える。

 爆発が連鎖し、パトランプ警部たちを次々と巻き込んでいく。


「切り崩すなら、あの女からか? “FIRE”!」

「“プーチンム―”!」


 ディメテルの目の前に、一本の大樹。しかし、その大樹には葉は全くなかった。

 この木の最大の特徴は、どれだけ火を浴びようと、燃え尽きないこと。ルベールがどれだけ気合を込めて“FIRE”をぶっ放そうと、全く燃え尽きる気配がない。

 とんでもない木が現れたものだ、とルベールに焦りが見える。


「や、焼き尽くせねぇだと……!」

「あのさ、火力が足りないんじゃないか? “木”だよ?」

 レイジが言うと、ルベールは歯ぎしりしながら舌打ちした。


「なぜか、お前に言われるとシャクだな。だが……やってやる! 手刀から放つ“フレア・ウィング”」

 ルベールは、右手をグッと振り抜いた。そこから炎の鳥が舞う。

 しかし、いつもの武器でない分、切れ味は劣る。さらに、プーチンムーの前に“フレア・ウィング”は空しく散ってしまった。


「チキュウはチュウゴクだったかしら。その地の伝承にまつわる木ですもの……燃えるはずもないわ!」

「カルミナにはねぇ植物を使う……ってか。とんでもねぇ奴を相手にしちまったってことか」

「自覚が遅いですわ!」


 不尽木。中国の伝承によれば、南の果てにある火山の中にあり、尽きることがないとされる木。

 木は簡単に燃えるからレイジたちにとって有利、という浅はかな考えを潰すには十分すぎる伝説の木である。


「燃やせなくても、所詮は木! 砕けるはずだ……“スパーク”!」

「そんなことを許すとでも……?」


 フェルグスは、ムチのようなもので、レイジの右腕をからめとった。そして、ムチの遠心力を使ってレイジを投げ飛ばす。

 さらに、パトランプ警部どもからケンカキックを食らい、袋叩きにあってしまう。

 ただでさえ身動きが取れない状況で、ディメテルはレイジに追撃。


「“プーチンムー”!」

「レイジ、すぐに離れろ! 囲まれちゃマズいぜ!」


 ルベールとレイジにとっては相性最悪の大樹が数本。燃えることのない木に囲まれる前に脱出したかったが、不可能だった。

 数人のパトランプ警部が、レイジを厳重に取り押さえたのである。プーチンムーは、パトランプ警部ごとレイジを取り囲んだ。

 どれだけ情熱を燃やしても、燃やせるのはパトランプ警部だけである。


「ダブルスじゃ、どうにもならないな……おい、そこのメカ! あの“プーチンムー”っつー木を切り倒せるか?」

「斬るとなれば、某たちの仕事ですな。行きますぞ……デュフフ」


 バハラが気持ち悪い笑みを浮かべながらボタンを押すと、ジャンク・ダルク号のハッチが開いた。

 そのハッチの向こうから、メイドのような格好をしたロボットが、チェーンソーを振り回しながら飛び出してきた。

 いざ斬らん、と息巻いていたメイドロボではあったが、フェルグスの持つ刀の前に阻まれた。


「ポンコツに、この私が後れを取るとでも?」

 フェルグスは、左足でメイドロボの腹部に蹴りを入れた。腹がへこむほどの威力、メイドロボは呆気なく倒れてしまった。


「燃やしても、電気も効かないとなれば……」

「そのまま木の檻に絞殺されるしかないわね、黒飛レイジ! デズモンド様のために、あなたには……ここで朽ちてもらうわ!」

「いや……方法ならあるはずだ!」

 この逆境に遭っても、レイジの目はイキイキしている。


「だったら、その前に……! “ヤテペオ”!」


 ディメテルが指を鳴らすと、今度は巨大な牙を何本もそろえた花のような怪物が現れた。

 ヤテペオは、プーチンムーで造られた檻に上から入り込み、レイジの右肩に噛みついた。

 血がドクドクと流れ、牙がズブリと肉を引き裂く。


「う……うぐっ!」

「レイジ、しっかりしろ!」

「大丈夫だ、こんな食人植物……どうってことはない! “クリムゾン・ファイア”!」

 レイジは、ヤテペオに向けて、真紅に燃える炎を飛ばした。

 食人植物・ヤテペオは、一瞬にして消し炭にされてしまった。こんなモノを仕向けられても意味はない、とでも言いたげに呆気なく。

 だが、あまりにも高い木におおわれて、出られない状況は変わらない。


「そうだ、俺が試そうとしていたことがある! “ウィンド”!」


 レイジは、両手をプーチンムーへと伸ばし、目いっぱい力を籠める。

 だが、一瞬だけ風の吹くような音がしただけで、何も起こらなかった。手ごたえの「て」の字もない。

 レイジは、諦めなかった。諦められなかった。諦めきれなかった。諦められるわけがなかった。


「何度だって、試してやる! 感覚を掴んで、それが当たり前になるまで……何度でも!」


 檻の中からは、何度も“ウィンド”と叫ぶ声が聞こえてくる。木を風の力でなぎ倒すしか、今は選択肢が残されていないのだ。

 だが、ルベールもバハラも、この檻への対抗策を持っていない。特にルベールは、フェルグスの猛攻に遭い、変身したくても出来ない状況。


「アカン、レイジはんが……勝てへんって分かってても、ウチは助けるで!」

 アザミは、いても立ってもいられず、飛び出した。


「アザミさん! ……仕方ありません、僕も行きますよ」

「ちょっと、皆さん!」


 アザミに感化されてギュトーが、二人を止めようとサクラもジャンク・ダルク号を出て行った。

 しかし、バハラだけは籠った。この巨大な兵器のパイロットゆえに。それから、理由がもうひとつ。


「某は行きませんぞ。レイジ氏たちをサポートすることこそが、某たちエンジニアの花道ゆえ……フヒヒ」

 またしても不敵な笑みを浮かべるバハラ。レバーをひねれば、一斉にジャンク・ダルク号の大砲がディメテルの方を向いた。


「一斉発射!!」

 バハラの掛け声とともに、ジャンク・ダルク号からの総攻撃が始まった。砲弾の雨が、ディメテルを襲おうとした。

 しかし、パトランプ警部たちが身を挺してディメテルを守った。


「Vチェ……きゃっ!」

 サクラがVフォンを構えて変身しようとしたときだった。フェルグスの蹴りが、サクラの右手首に命中。

 強烈な手首の痺れに遭ったサクラは、思わずVフォンを落としてしまった。さらに、フェルグスは容赦なくそのVフォンをどこかへと蹴飛ばした。


「サクラは下がってろ! こいつらの前じゃ、変身する暇も与えてくれやしない」

 変身できない状況でも、ルベールは生身で戦い続ける。己の精神力から出る炎を武器に。

 この状況下、チームで唯一戦えるのは自分しかいない。そんな逆境が、ルベールを奮い立たせる。


「いいえ、私だって!」

 サクラは、ジャンク・ダルク号に備え付けてあったマシンガンを失敬した。


「理屈は、熱や電気と同じなんだ。この精神の力を、空気の運動エネルギーに変えるだけなんだ! なのに……なのに!」


 レイジもレイジで、必死にもがいていた。

 何も特別なことではない。別に複雑な事をしようというワケでもない。今までにやってきたことを応用させるだけの事。

 しかし、新たな試みは、総じて上手くいくものではない。狭い空間の中でトライアンドエラーを繰り返す。


「おい、レイジ! まだ、その“ウィンド”ってのはできねぇのか?」

「何度でも試しているッ! だけど……成功するビジョンが見えてこない!」

 焦りさえ覚えてしまうレイジ。炎や雷が出来て、風が出来ない理由が分からないのだ。


「そういえば、お前……電撃が使えたはずだ。それで、こんな木くらい……砕いちまえッ!!」

「アンタが言うなら試してやる! 砕けろ……“サンダー”」


 レイジは、目いっぱい右腕を振り下ろした。遥か頭上から雷が落ちてくる。

 しかし、木を砕くには至らない威力であった。“ファイア”の反動を利用して脱出しても、空中に放り投げられた身体は、フェルグスからすれば格好の標的である。

 やはり、強風でなぎ倒すか、真空の刃で切り裂く他ないようだ。


「“ウィンド”! ……なぜ、炎が出てしまうんだ!」

 レイジの目の前でちょっとした爆発が起きた。だが、木が燃えることはなかった。


「くっ……刃が通らない!」

 ギュトーは、両手に構えた鉈でプーチンムーを切り裂こうとしたが、刃が止まってしまった。

 ディメテルは、レイジを助けようと動いたギュトーとアザミを煩わしく思った。


「“ザク……”」

「遅いぜ! “フレア・ウィング”!」


 ディメテルの植物が育ちきるよりも先に、ルベールの手刀から放たれた炎の衝撃波が発生した。

 爆弾の実をつける木は、あっという間に燃え尽きてしまった。しかし、ルベールの後ろにはフェルグス。

 フェルグスは、ムチでルベールの首を締め上げる。それを助けようとサクラがマシンガンを抱えながら動いたが、フェルグスの足技の前には無力。

一発ごとに狙いが狂わされ、無数にあった弾丸がすべて空砲と化した。


「厄介な二人さえ封じてしまえば、後は何とでもなるだろう」

「ええ。どうせなら、苦しんでから死んでもらいましょう。“ヤテペオ”!」

 ディメテルが指を鳴らせば、再び食人植物が現れた。しかも一体や二体ではない。


「ルベールさん!」

 ギュトーは、鉈でルベールを締め付けるムチを切ろうとした。しかし、そう簡単には切れない。

 もたもたしているうちに、フェルグスの強烈な手刀がギュトーの後ろ首を捉える。

 料理人ギュトー、一発KO。助けに行ったつもりが、逆にルベールたちを苦しめる結果となった。


「仕方ありませんね。メイドロボ初号機! 起きてルベール氏を助けてくだされ!」


 今度はラジコンのコントローラーのようなものを握ったバハラ。人間離れした指さばきでコントローラーを操作する。

 これまで倒れていたメイドロボは、水を得た魚のごとく滑らかに動き始めた。メイドロボのチェーンソーが、再びうなりを上げる。

 ヤテペオが気絶したギュトーを狙いだした時、メイドロボが颯爽と駆けつけてくれた。


 メイドロボは、食人植物をチェーンソーの一刀のもとに切り伏せた。だが、やはりフェルグスが立ちはだかる。

 フェルグスは、左手で刀を構えると。再びチェーンソーとの競り合いに持ち込んだ。

 しかし、先ほどと同じように強烈なキックを食らってしまったメイドロボ。さらにヤテペオの歯牙が襲い掛かる。


「こんな可愛らしい植物も、凍らしたら動かれへんやろなぁ。“フリーズ”!」

「甘いですわ。魔法を打ち消す“モーリュの薬”!」


 ディメテルが両手を大きく広げると、緑色の粉塵が拡散した。それは、アザミの魔法である氷を簡単に打ち消した。

 これでアザミは無力。ディメテルは、そんな彼を殴り倒すと、おしろいで染めた顔を容赦なく踏みつける。


「今、魔法を……っつったな。だったら、俺の炎までは打ち消せねぇだろ!!」

 ルベールが、不敵な笑みを浮かべた。根気を振り絞って右手から火を撃ちだした。

 それは、小さな小さな火。タバコすら満足につけられぬような弱さ。だが、それだけで十分だった。

 霧状に拡散したモーリュの薬が、粉塵爆発を起こす。アザミやパトランプ警部たちを巻き込み、ディメテルをも焼く。


「な、なんという魔術……いえ、妖術!」

 煙が晴れると、ディメテルは少し驚いていた。だが、その身体には、かすり傷さえもない。

 様々な植物の特性を知り尽くし、それを巧みに操るだけではない。とても四十の女とは思えぬほどのタフネス。これも、彼女の武器の一つである。


「俺たちの炎はな……魔法とか妖術なんかじゃねぇんだよ。強敵に出会い、苦境に立たされる度に磨き上げてきた……血と汗と涙の結晶だ!」

「うるさいわね! “蓬莱の玉の枝”!」


 ディメテルの左手には、金色の枝と白銀の根、そして財宝の実を持つ一本の木。それでできた槍がルベールを容赦なく狙う。

 竹取物語に登場する幻の逸品が今、ディメテルの得物として振るわれている。彼女は地球に伝わる伝説の植物への造詣が深いようだ。

 こんなにも豪華な装飾の武器ではあるが、しょせんは木。燃やしてしまえば一緒だと思ったルベール。蓬莱樹の槍を狙って炎を手当たり次第にぶっ放す。

 だが、ディメテルは、右手にプーチンムーで造った盾でその炎を防ぐ。それでも、どうにかしてディメテルに一矢報いることが出来ないか、とルベールは足掻き足掻いて足掻きまくった。


「俺には分かってるんだぜ、ピンチはチャンス……お前なら絶対に“ウィンド”を成功させられるってなァ! そうだろ、レイジ!」

 ルベールは、プーチンムーの檻を背にしながらレイジに言った。煽るような言葉選び、レイジは奮い立った。

「もちろんだ、マブダチ! こんな檻、さっさと脱出して! アンタと一緒に仲間を守るんだ!」


 レイジは、ライバルでマブダチの漢の信頼に答えられるか……。

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