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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第8章 覚醒するエースの風格
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第83話 “豊穣”のディメテル Ⅰ

「レイジ、随分と早かったな。やっぱり、そのジャンパーが似合ってるぜ!」

「ありがとう、ルベール。俺たちのために戦ってくれて」

「いいって事よ。ダチじゃねぇか! そんな事より、もう吹っ切れたのか……って訊くまでもねぇか」

「ああ。それより、こっちだ」


 ルベール絶体絶命のピンチに颯爽と駆けつけたレイジとバハラ。まずは、アザミたちの搬入。

 アザミたちをバハラのジャンク・ダルク号に乗せた後、レイジはバハラに彼らの応急処置を施すように頼んだ。


「さぁ、ルベール。アンタも少しは……」

「俺はいい……どうしても、あの男に一泡吹かせてやりてぇんだ」


 腹を貫かれ、それでもなお立っているゲブ。言葉こそ発しないものの、威圧感はタップリ。

 どうしても倒したいと、ルベールは強がった。しかし、ルベールは、レイジの方へとよろけた。

 レイジは、その背中を支える。支えた左手には血がベッタリ。流れた血の量に驚いた。


「気持ちは分かるけど、その状態で戦えるわけないだろ!」

「それより、サクラたちだ。アイツらは無事なんだろうな?」

「もう大丈夫だ。アンタも、応急処置を……!」

「だから、俺にはいらねぇ。俺のタフさをしらねぇお前じゃあるめぇ!」


 援護を蹴ってまで、ゲブとの真剣勝負に勝ちたい執念。見上げた勝負度胸だが、レイジは理解に苦しんだ。

 満身創痍のルベールと一緒に戦うのは、さすがのレイジも心苦しい。気が散って、マトモに戦えなくなるのだ。さらに……。


「ぬぅ……レイジ! 来い、その身体をずたずたに引き裂いてくれる!」

 恐るべきゲブの生命力ではあったが、レイジはひるまなかった。


「悪いな、ルベール。向こうは、俺を指名しているらしい。そして、この男は……元より俺の敵だ」

 レイジは、ルベールの脇腹に、肘鉄を一発決めた。


「くっ……レイジ! てめぇ……」

「案ずるな。アンタがアイツから受けた屈辱も、仲間をやられた怒りも背負って戦う!」

「そういう事を言ってるわけじゃ……」

 ルベールは、必死にレイジの肩を掴み、上目遣いで睨んできた。


「選手交代だ。応急処置を受け、少しでも体力を回復させるのも、真剣勝負には重要なこと」

 レイジは、ふらついたルベールを無理やりジャンク・ダルク号へと乗せた。

 そして、再びゲブを見据える。ルベールがダメージを与えてくれた影響で、いくばくか有利な状態でのスタート。


「うおおおおおぉぉ!」

 レイジは、炎の弾丸をゲブに向けて撃った。


「“怒りの左腕”!」

 ゲブは、岩で巨大化させた左腕で、炎の弾丸を防ごうとした。だが、レイジの炎は、これしきの事で消えない。

 レイジが気迫を見せれば、弾丸の火力が上がる。巨大な左腕に風穴開けるほどの火力となりて、ゲブを焼き尽くす。


「“Wウィンチ・ストーン”!」

「“フレア・グラップ”!」


 振り下ろされる二つの岩の塊。それに対抗するように、レイジはアッパーカットを決める。

 すると、突き上げたその拳から、巨大な炎の拳が現れた。相変わらずの火力、“ウィンチ・ストーン”が爆発四散する。

 最初から闘志全開。仲間をやられた怒りに震えているのは、ルベールだけではない。フォードの一味がエース・レイジも同じこと。


「来い、ゲブ! 俺の怒りは、まだまだこんなモノじゃない!」

「怒りに任せて飛ばし過ぎるそのクセ……あのマスクと同じじゃねぇか! 野郎ども!」


 ゲブの怒声とともに、再び無数の白スーツ姿の男が現れた。今度の標的はレイジ。

 これほどの数を目の前にしても、相変わらずレイジは闘志に燃えている。


「あのマスク……ルベールの事か。俺とアイツは、同じようでちょっと違うぞ。二刀流“ロッソカリバー”」


 逆手持ちの炎の刃で、次々と白スーツをなぎ倒していくレイジ。ルベールと同じだとナメてかかられていることに怒りを覚えた。

 今の自分はルベールとは違う。そう言いたそうに、片方のロッソカリバーを投げ捨てた。


「“サンダーブレイザー”!」

 今度は、雷の剣。これで切り裂かれた者は、稲妻の衝撃に襲われ、全身がビリビリと痺れる。

 完全に調子を取り戻し、炎と雷を巧みに使いこなしているレイジ。調子は絶好調、今なら新しい境地にたどり着けそうな気がしてきた。


「さてと、ここで新しいものを試してみるか! “ウィンド”!」

 レイジは、ゲブの目の前に右手をかざした。すると、一瞬ではあるが突風が吹き荒れた。

 しかし、弱ったゲブを吹き飛ばすほどの威力はない。レイジの目論見は、結局は失敗に終わった。


「ここにきて、新しい魔法を試そうってのか。ナメたマネしやがって!」

「魔法なんかじゃない……気合、精神だ!」


 どっちでも同じモンだろ、とゲブは吐き捨てるように言った。だが、明らかに違う。

 レイジの本質は、尽きることのない精神力。その精神力を風という形に乗せて撃ち出すはずだった。

 しかし、レイジは失敗した。それでも、ある程度の手ごたえを感じている。

 ともあれ、再び試すチャンスは、今は巡ってこないだろう。


「レイジ氏、お主のご友人も仲間も意識を取り戻しましたぞ! 某はこれからどうすれば……!」

「ぶっ放せ! バハラも援護を!」

「あいあいさー! って、レイジ氏ィ!? 話がビミョーに違いますぞ!」


 ここに来る直前、バハラと話をしていたレイジ。その内容は、捕らわれていたサクラたちを助けたらすぐに撤退するものだった。

 だが、ここに来てゲブが増援を呼んだことで、退路を塞がれてしまったのだ。やむなく、バハラも戦わざるを得なくなった。


「予定が少し変わった。コイツらをさっさと倒してアニキたちと合流するぞ!」

「それなら、ガッテン承知の助ですぞ! ……ポチっとな!」


 バハラが赤いボタンを拳で押すと、ジャンク・ダルク号からドローンのような戦闘機が5機ほど飛び出してきた。

 ドローン戦闘機が、一斉に白スーツ軍団に弾丸をぶっ放す。ゲブがけしかけた増援も虚しく、ジャンク・ダルク号の前に惨敗。


「レイジめ……こんな隠し玉を用意していたなんて……!」

「敵の数が読めなかったからね。どうしても、少しでも戦力が欲しかったところだ」

「何でもいい……何が何でも、貴様だ! “ブリック・メイデン”! “神判の右腕”!」


 ゲブは、先ほどアザミたちにして見せた芸当をレイジにもやってのけた。

 案の定、レイジもレンガの檻に閉じ込められてしまった。そして、それを巨大な右腕がギチギチと握りつぶそうとする。

 だが、レイジは、全身を震わせ気合を込めた。少しずつ、神判の右腕とブリック・メイデンが赤く光りだした。

 それからほどなくして、ドロドロと岩が融ける。その中から、レイジが颯爽と飛び出してきた。


「くっ……! あの赤い戦士と同じ炎と聞かされていたが、これは予想以上だな」

「ルベールが? どうやって知った?」

「自分から言いやがった。てめぇと同じだってよ!」

「だったら、アイツよりも熱い炎で倒すまでだ。“クリムゾン・ファイア”!」


 レイジが右手をかざし、神経を集中させれば、真紅の炎が部下ごとゲブを焼いていく。

 あっという間の決着、レイジは空しささえ覚える。


「ルベール、悪かったな……美味しいところだけ持って行ってよ」

「ま、まだまだ……」

 もう戦えないはずのゲブは、地べたを這いずり回り、その手でレイジの足首をつかんだ。

 レイジは、ゲブのその手を簡単に振り払った。



 場所は変わり、ジャンク・ダルク号内。いかにもヲタクをアピールしている部屋に、目が覚めたばかりのアザミたちは戸惑っていた。



「ここはどこなんや? ってか、アンタが噂のバハラはんでっか?」

「いかにも。某こそがレイジ氏に指名されて新しく一味に入らんとするバハラですぞ!」

 バハラは、ドヤ顔で自己紹介をしてみせた。


「……何を言われたら、そない急に仲間になる話になるんや?」

「才能を買うと言われまして……1200万ルドで。そして、アザミ氏たちを助けてほしい、と300万ルドを上乗せされちゃって……」


 バハラは、照れくさそうだった。

 ブロール・リーグで得た賞金のすべてをつぎ込んででも仲間にしたい、仲間を助けたい。そんなレイジの意思がありありと見えたアザミは、呆れて言葉も出なかった。


「我々の仲間になるというのであれば、バハラさん……あなたも、いささか運が悪いようで」

「ど、どういう意味ですかな?」

「我々は、大正義とされるデズモンド社を倒すべく、果てしない旅を続けていますから」

「な、なんですと!?」


 誰もが知るデズモンド社。それを倒すために強くなり、仲間を集める旅。バハラは、その見果てぬスケールの大きさに驚く。

 カルミナで最初に訪れたアイン村の無念を晴らすべく、レイジたちは動いているのである。

 その旅を円滑にするために、少なくとも医者に料理人、技師が必要だったのだ。それで、バハラに才能を見出し、レイジが指名したのである。


「まだ、フォードはんの決定はないけど……レイジはんの意思やったら、まず加入は間違いないやろなぁ」


「おい、そこの和風のヤツ……頼む! さっさと俺に“キュアー”をかけてくれ」

 満身創痍のルベールは、その右手にVフォンを握りしめながら、アザミに頭を下げた。


「ルベールはん! その傷やと普通に戦われへんで! それに、体力までは回復できひんで?」

「さっきも言ったぞ……俺は、アイツと同じ炎の使い手だってよ。そこは精神力でどうとでもなる」

「あの義兄弟もムチャする人らやけど……アンタはそれ以上やな。何がそんなにアンタを駆り立てるんや?」

「仲間をやられて、ただ指くわえて見てるってワケにもいかねぇだろ! 頼む、ヤツに一矢報いることが出来なきゃ、俺は一生心残りを抱えて生きることになっちまう!」


 ルベールの意思は固かった。レイジに“休むのも真剣勝負に大事なこと”と諫められたばかりだったが、居ても立ってもいられなくなった。

 ゲブがレイジの敵だろうが何だろうが、ルベールの知ったことではない。


「……もう、どないなっても知らんで! “エルキュアー”!」

 鬼気迫るルベールに、アザミは折れた。いつもより効能のある回復呪文で、ルベールの治癒力を高める。

 細かい傷は、みるみるうちに塞がっていく。体も、いくばくか軽くなったような気がしてきた。



 手負いのゲブを簡単にいなしたレイジではあったが、彼の背後に二人の気配あり。

 倒しても倒しても、援軍は来る。だが、今回のそれは、明らかに違った。この二人はヤバい……と本能が訴えかけてくる。


「これは、何の冗談ですの? たかがルーキー二人を相手に、ここまで手こずるだなんて」

「デズモンド社のゲブという人物に任せっきりにしていたバチが当たった……そう考えるのが妥当であろう」


「フェルグス警視正……それと、ディメテル様!」


 ゲブは、青ざめた。そこには、直属の上司にしてデズモンド社の最高幹部が一角・ディメテルがいた。

 ふくよかな体型、消えぬほうれい線、うねった長い茶髪。さらに、派手な宝飾品の数々から、まさにマダムと呼ぶにふさわしい格好のディメテル。


 さらに、シバレー警察のお偉いさん。頭がパトランプのような形をしたロボットを大量に引き連れている。

 彼の名はフェルグス警視正。軍服のような制服を身にまとい、腰には何丁もの拳銃とザポネの刀。


「このような無能、我がデズモンド社には必要ありませんわ。“ザクーム”!」

 ディメテルが右手を高く掲げれば、ゲブの足元から芽が生えた。一瞬にして育ち、果実をつけると、その果実がゲブの口に入る。

 果実は一つや二つではない。何十、何百とゲブの口から無理やり気道に入り込む。

 あまりにも苦く、脂ぎったその果実は、とても食えたものではない。だが、吐き出したくても吐き出せない。ゲブの腹がパンパンに膨れ上がる。


「む、むがあああああ!」


 ディメテルが指を鳴らせば、ゲブは爆発四散。有無を言わさない処罰。レイジは、目を見開き驚いていた。

 一瞬にして大樹と爆弾の実を生成する彼女の魔力は、相当のもの。そして、地属性のようで地属性でない異質なもの。

 魔法で大地の恵みを生成し、攻撃に変える。そんな彼女の異名は“豊穣”。

 もっと恐ろしいのは、これが実力の片鱗であること。これが、単なるデモンストレーションであること。


「この辺りでいざこざがあったと聞けば……あなたたちであったか。10対0であなたたちに非がある」

「……ざけんな! ダチを誘拐されて俺たちに非があるだと?」

 ルベールは、思わずジャンク・ダルク号から飛び出してきた。理不尽にも思えるこの理屈、ルベールは激怒していた。


「この暴れっぷり……どう見ても、器物損壊の罪は逃れようがないと思うがね。それに、大事なお友達とあるならば、最初から攫われないように尽力すべきではないのかな?」

「くっ……」

 頭に血が上っていたルベールは、聞く耳を持つことができなかった。


「おい、レイジ! もう我慢ならねぇ。本気で戦うぞ!」

「ルベール、もういいのか?」

「ああ。ちょっと休み過ぎたくらいだ……。それに、2対2なら俺が戦っても文句ねぇだろ?」

 ルベールは、首をひねりながら言った。それから、レイジと背中合わせになる。


「どうしますか、ディメテル殿……。我々と本気でダブルスをやるつもりだそうだ」

 フェルグスは、ため息交じりに言った。そして、やる気が無さそうにデリンジャーを構える。

 別に警視正の方は怖くない。鬱陶しい敵を連れてこられただけの話。だが、問題は、もう一人の方だ。顔を合わせるだけでも、レイジの足が震える。

 最初に感じた明らかにヤバい雰囲気の大半は、このディメテルが持っていたもののようだ。ディメテルは、部下であるゲブの失敗を一切認めず、残酷な手段を簡単に使って殺すほどの女だったのだ。


「ルベール、心してかかれ。この女……とんでもない相手だぞ」

「おい、ブルってんのか?」

 ルベールは、心配そうにレイジの方を横目で見た。


「……いや、武者震いしてる。真打が出たからさ」

 レイジがそう答えると、ルベールは鼻で笑った。

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