第82話 怒りの炎を灯せ Ⅲ
「“FIRE”!」
「“ストーン”!」
レッドの飛ばした炎に対し、ゲブは目の前に岩の柱を繰り出して防ぐ。
炎が岩にぶつかるれば、すぐに四散。だが、レッドはこれしきの事では動じなかった。
すぐに岩の陰に回り込んでゲブとの距離を詰めた。そして、赤い大剣を振り上げる。
「……甘いんだよ! “ウィンチ・ストーン”!」
レッドのその剣筋は、ゲブに読まれてしまった。
またしても、鎖付きの岩がレッドの頭を襲う。ぶつかった箇所から火花。
しかし、レッドはひるまずにゲブの顎を蹴り上げながら起き上がった。さらに大剣を水平に振り抜く。
至近距離の“フレア・ウィング”を受けて、ゲブは部屋の外へと吹き飛ばされた。
「これ以上あんな狭い中じゃ、戦いづらいんでな……」
「ホントは仲間を燃やしかねんのが怖ェんだろうが!」
「……かもな。さぁ、始めるぞ」
レッドが大剣を再び構えると、ゲブは不敵な笑みを浮かべた。
「“ブリック・メイデン”!」
ゲブが指を鳴らせば、アザミたちが無数のレンガに捕らわれてしまった。
「“神判の右腕”!」
さらに、巨大な右腕が“ブリック・メイデン”を握る。ググっと力をゆっくり籠めると、檻がミシミシと悲鳴をあげる。
「くっ……なんて、卑怯な奴だ!」
「だったら、最初から守りやがれってんだ!」
ゲブは、レッドの頬を蹴り上げた。
対抗して、レッドも蹴り返す。しかし、ゲブには“ブリックメイル”がある。
ただ殴っても、ただ蹴っても、硬いレンガの装甲の前には打撃は効かない。
「もっとだ……もっと! 精神のエネルギーを燃やすんだ、俺!」
レッドが、全身に力を籠め始めた。溢れる熱気が、廃材を発火させる。
「俺なら出来る……俺なら限界を簡単に超えられる!」
「あの試合の事を思い出そうってのか? ……無理だな。てめぇの炎じゃ、俺の岩に勝てるわけねぇだろ!」
ゲブは、岩で武装した右足で回し蹴りを浴びせた。
「てめぇは、低レベルなんだよ! 覚悟、度胸、温度、技、戦略、攻撃力、持久力……何もかものステータスが貧弱だ!」
喋りながら、煽りながら、殴る蹴る。言葉の重みが、身体のダメージと同時に体にしみこんでくる。
「RPGで俺たちを考えるのはやめな。レベルだとか、ステータスだとか……んなしょっぺぇ単位系に収まるつもりはねぇ」
レッドは、大見得切ってマシンガンをぶっ放した。
猛攻再び。防がれようと、お構いなし。ただただ、攻撃としてその怒りをぶつけるのみ。
ゲブも“ストーン”を盾に対抗する。しかし、レッドの放った炎は、彼の怒りの限界を超えて燃え盛る。
鉄よりも硬い岩をも徹す炎。融かして穴を開ける。ゲブは、その炎の威力に驚いていた。
「なんと……! てめぇも岩を融かせるとは!」
「これさえ出来ちまえば、仲間を助けられる……」
「わきゃねぇだろ! 仲間を蒸し焼きにする気か! ……ったく、強すぎるってのも酷だねぇ。かえって弱ェ仲間を救えなくなっちまうんだからよォ!」
ゲブが、煽る煽る。
岩をも融かす高熱の炎。確かに、生身の人間では、骨も灰も残さぬことであろう。
しかし、だからといって、檻をどうにかしないわけにもいかない。神判の右腕が握りつぶすのも時間の問題である。
方法を考える。考え抜く。それで咄嗟に思いついたことが、一つ。思いつけば、ただ行動あるのみ。
「ならば、狙い目は一つだ!」
レッドは、ゲブの右手首を狙う作戦を選んだ。
神判の右腕を操るゲブの右手さえ封じてしまえば、少なくとも石の檻は無事である。
安全を確保した先のことまでは、分からない。どうやって脱出させるかは、その時に考えればいい。
しかし、狙いは良くても、ゲブにすぐに気づかれた。狙えども狙えども、攻撃が当たることはない。
そればかりか、左手だけで軽くいなしていく。レッドは、歯がゆさすら感じる。
レッドは、マシンガンを槍の形に変形させ、右手を狙いにかかる。諦めきれないのだ。
このしつこさ、粘り強さに、ゲブも呆れた顔。実力差はハッキリしているのに、これ以上何をあがこうというのか。ゲブは、逆に理解に苦しんでいる。
「これ以上やったって、どうにもならねぇのに……。何をそこまで躍起になってやがる!?」
「大事な奴を守り抜く、大事な奴を傷つけたヤツを許しておけねぇ。そういった人間の血が通った理由だ」
レッドが大真面目に答えれば、「くだらねぇ、くだらねぇ」と何度も高笑いしながら叫ぶゲブ。
“ウィンチ・ストーン”をブンブン振り回して、レッドを決して近づかせない。
レッドが大剣でゲブを斬ろうとすれば、その大振りな武器が災いして軽々といなされてしまう。
実力差は、明確。だが、レッドにはヒートアップという強みがある。
「“FIRE”!」
レッドの左手から、真紅に燃ゆる炎が飛び出した。その炎が“ウィンチ・ストーン”を融かしつくす。
敵からの攻撃は防げても、仲間を救うにはあまりにも熱すぎるこの炎。ジレンマを感じたレッドは、歯ぎしりが止まらない。
ゲブは、左手の指を鳴らした。すると、今度は無数の岩の弾丸がレッドを襲う。
レッドも、これに対抗して、大剣をマシンガンに変形させてる。弾丸の撃ち合いに持ち込む。
ペースは、レッド優勢。マシンガンをぶっ放しながら、レッドは少しずつ前進してゲブに近づく。
「“JET・クリムゾン・ドラゴン”」
レッドは、全身に真紅の炎をまとった。マシンガンになった武器は、今度は槍に変形。
さらに、高速で突進。その姿が真紅の龍に見えることから、この技の名をつけたのである。
真紅の炎が、岩の弾丸を融かす。突き立てたその槍が、ゲブの腹を穿つ。
「ぐ……ぐはっ……」
この勝負始まって、初めてゲブに大ダメージが入る。ゲブは、思わずよろける。
これをチャンスと言わんばかりに、レッドの槍が追撃を加える。
「これしきのことで俺がくたばると思うなよ! “憤怒の左腕”!」
無数の岩が、ゲブの左腕を取り巻く。それが、巨大な左腕となり、レッドの槍による猛攻を防いでいく。
融かせども融かせども、次々に新しい岩が修復してくる。最終的に、タッパのいいレッドの5倍ほどの大きさとなった。
「……くたばれ、赤い戦士。お前は、しつこかったぜ」
ゲブは、憤怒の左腕でレッドを殴った。その威力は、この倉庫を壊しながら猛然と進むほど。これまでの技とは、破壊力がケタ違い。
レッドは、倉庫の奥の部屋にあったサクラたちの檻へと激突してしまった。
さらに、ゲブの追撃。何度も何度も、憤怒の左腕によるパンチがレッドを襲う。サクラたちの檻を巻き込み、岩石の雨は降りしきる。
「俺の仲間に……ダチに手を出して、タダで済むと思うな……よ」
気が付けば、変身は解けていた。ルベールの額と左腕からは、おびただしいほどの出血。
それでも、ルベールは立ち上がる。仲間とダチを背にして、手出しさせてなるものかとゲブを睨む。だが、その仲間たちもまた、大ダメージで気絶している。
生身の状態でも諦めきれないルベールは、叫びながらゲブに突進していく。
「お前……俺の仲間やダチを攫って何がしてぇんだ?」
「レイジという男を始末するためだ。攫われたと知れば、来るはず……だった!」
ゲブは、半ば八つ当たりでルベールの頬を殴った。
「アイツを狙う理由は何だ? しょうもねぇ回答だとぶっ飛ばすぞ!」
「俺が知るわきゃねぇだろ! そもそも、てめぇら……俺たちデズモンド社に楯突いて何がしてぇんだ!」
「答えはただ一つ。仲間を返してもらって、ここを出る!」
「不可能だ。お前はここで散ると何度も言わせんな!」
“ウィンチ・ストーン”が、生身のルベールに容赦なく襲い掛かる。
満身創痍となったルベールは、一瞬は持ちこたえた。が、それでも度重なるダメージが重くのしかかり、血を吐きながら倒れてしまった。
それでも、サクラたちを諦めきれないルベール。ゲブに交渉を持ちかけることにした。
「だったら、他の連中は見逃せ……俺一人の命で勘弁してもらいてぇ!」
「そういうわけにはいかねぇな!」
即答だった。ここに来た時点で、ゲブは、最初から人質もろともルベールを殺す気でいた。
さらに、ゲブは、倒れてしまったルベールの顔を容赦なく踏みつけた。さらに、足裏で頭蓋骨を地面にこすりつけ、ルベールに屈辱を与える。
ルベールは、手を伸ばし何とかVフォンを手繰り寄せようとした。しかし、そのわずかな望みさえも、ゲブに取り上げられてしまった。
「くそ……俺は、俺は……!」
ルベールは、その行き場のない拳を床に叩きつける。
あれだけ威勢よく啖呵を切っておきながら、仲間を救えなかった。許せない敵を倒せなかった。
「遺言はねぇか? この世に未練はねぇか……?」
ゲブが、ルベールに問いかける。
「……ひと思いに、トドメを刺せ。こんな屈辱……もう……!」
「潔くて、気持ちがいい!」
もはや、ルベールに戦意はない。その目は死んでいた。
ゲブは、岩の剣をルベールに突き立てる。ルベールに、ジタバタするという選択肢はない。
すべてを受け入れ、殺される覚悟ができた、その時であった。
「“ツイン・プラズマ・ドラグーン”!」
突如、二匹の稲妻のドラゴンがゲブを襲った。背中から撃ち抜かれたゲブは、剣を落としてしまった。
ゲブは、振り返った。そこには、高さ15メートルほどのスチームパンクな機械があった。その上には、ゲブが待ちわびたレイジがいる。
レイジは、スチームパンクな機械から降りると、ゲブの左手を蹴り上げてVフォンを奪った。
「そ……その技は、まさか!」
ルベールの目に光が戻った。
「レイジ氏、本当にこっちでいいのですかな?」
「ああ、大丈夫。向こうにはアニキがいるし、こっちはダチが倒れてた」
「飛んで火にいる夏の虫とは、まさにこのこと! てめぇを倒して報酬をたんまりをいただいてやる!」
「バハラ、やれ」
レイジは、ゲブを指さしながら言った。
「あいあいさー! レイジ氏のご友人を助けるためとあらば! このジャンク・ダルク号の大砲が火を噴く!」
バハラは、ボタンをぽちっと押した。すると、いくつもの大砲が一斉にゲブを向いた。
発射の掛け声とともに、砲弾の雨がゲブに撃ちつける。ゲブが吹き飛ばされ、ルベールが自由になった。
レイジは、ルベールにVフォンを投げ渡した。それから、廃倉庫の最奥部で倒れていたアザミたちに近づく。
「遅くなってゴメン。みんな、助けに来たぞ!」
「待ってたぜ、レイジ!」
レイジは、半袖ジャンパーの裾を直した。
背中にフォードの一味の団旗を掲げるその姿に、エースの風格あり!




