第80話 怒りの炎を灯せ Ⅰ
「野郎ども、かかれ!」
ムジコリザードの怒号とともに、デズモンド社の軍勢が二人に襲い掛かってきた。
「あらよっと!」
フォードは、サマーソルトキックで一番手近にいた漢の手首を蹴った。機関銃が宙を舞う。
さらに、ムーンサルトで機関銃を空中でキャッチ。空中で瞬時に構えると、早速ムジコリザードに弾丸の雨を降らせる。
しかし、威嚇射撃のためだけに用意したのか、あっという間に弾数が尽きる。フォードは、地面に叩きつけるようにその機関銃で一人の後頭部を殴った。
ここまで、刹那の出来事。何が起こったのか、デズモンド社にもアズールにも理解が出来なかった。
「……な、なんて身のこなし!」
ランドは、あっという間に二人やられたことに動揺した。敵に回すべきではなかった、と後悔の念すら込み上げてくる。
「俺は、腐っても元・軍人なんだぜ? それも、世界中の猛者どもとシノギを削って副将まで上り詰めた漢だ」
今度は、まるでムチのようにしなる強烈な回し蹴り。横腹に受けた一人が、胃液を吐き、白目をむきながら気絶。
さらに掌底で一人、銃を奪ってヘッドショットを三発。逆水平チョップで一人、フィギュアのトウループのような強烈な蹴りで4人。
あっという間に10人をなぎ倒したフォード。その勢いを借りんとばかりに、ブルーも刀を振って雑魚を散らしにかかる。
「……予想以上だ。だからこそ、ライバルとして負けられない」
「何をごちゃごちゃ言っている? お前なんか、カツオの効いていない味噌汁も同然!」
ムジコリザードの安い挑発にも、ブルーは動じなかった。
「“アクアスラッシュ”!」
ブルーが剣を振り抜けば、揺蕩う水が斬撃となって白スーツに襲い掛かる。
高圧の水は、分厚い鉄板さえも切り裂く威力。ここにリベンジに燃える闘志を乗せて、ブルーはもう一発飛ばす。
今度は、ムジコリザードのプロテクターを切り裂いた。
「“フロウ・ザ・バレット”!」
今度は、カタナで敵を突く。さらに刀の切っ先から、水の弾丸のようなものが飛び出してきた。
水の弾丸が、一人、また一人と敵を穿つ。交戦開始から少しと経たず、デズモンド軍の半分近くが倒れた。
「サラリーマン程度じゃ、話にならねぇな。俺と一戦やりたきゃ、本物の軍隊を一師団連れて来い! ロンブルムのあの軍隊とか」
「ならば、お望みのものをご用意いたしましょう……」
「今夜ハ、パーリナーイ!」
「飛バスゼ、飛バスゼ!」
ランドが指を鳴らせば、魔法陣があちこちに現れた。そこから飛び出してくるのは、バイクにまたがりハンマーを振り回す者たちが20名ほど。
無機質なボディと赤く光るモノアイが不気味な、このモンスターの正体は、“パラリラナイト”。
切り込み隊長がブブゼラを吹けば、隊長についていくぜとばかりに後続もついてくる。バイクゆえに機動性も高く、一瞬でアズールがハンマーで殴られ、バイクで引きずりまわされた。
しかし、フォードは、その特攻隊長の単車を真正面から受け止めた。特攻隊長がスロットルを回せば、さすがのフォードでも踏ん張りがきかない。
「ナンダ……ソノ身体能力ハ……!」
「さっきもアイツから聞いたぜ……。てめぇら、もっと語彙力磨こうぜ!」
フォードは、特攻隊長のバイクを豪快に横倒しにした。下敷きになったパラリラナイトから、シャフトやネジといったパーツが吹っ飛んできた。
そして、少したってからパラリラナイト特攻隊長真正面から戦えば苦戦するであろうロボット相手さえも、フォードは簡単に一機撃墜してしまう。
特攻隊長の仇を撃たんと舎弟たちが一斉に襲い掛かってきた。
「……遅いッ!」
ギリギリまでパラリラナイトを引きつけたフォードは、バック宙で突進を回避。
120キロ近いスピードを出していた舎弟たちは、そのまま工場の壁に激突。パラリラナイトの軍勢があっという間に鉄くずと化した。
ここまで手早く敵を倒されるとは思わなかったランドは、皮肉を込めてフォードに拍手を送った。
「さすがは、レイゾンの元副将。鍛えに鍛え抜かれただけはありますね」
「さてと……大将さんよぉ。てめぇの首、頂戴するぜ? どんだけ仲間をけしかけても、俺の前じゃ前座にもなりゃしねぇって勘付いてんだろ?」
「ですが、時間稼ぎにはなるでしょう?」
ランドは、一瞬、夜空を見上げた。ちょうど、飛行機が飛んでいるのが見えた。
「ああ、ルベールたちが来る前に俺たちを仕留められたら……ってなタヌキの皮算用か」
「理由はご自由に想像していただいて結構です」
「勝てるビジョンが見えねぇからって、強がってるようにしか見えねぇぜ? 虚勢とか空威張りとかやめて、かかってこいよ!」
「では……参りましょうか」
ランドは、慇懃無礼な態度をそのままに、フォードとにらみ合った。緊張の一瞬、デズモンド軍も思わず動きを止める。
風が、強くいなないた。フォードが構える。それと同時に、ランドが指を鳴らす。
「“ストーン”!」
先に動いたのは、ランド。選んだのは、基本的な大地の魔法。岩の柱が、次々と地面からせりあがってくる。
岩の柱で取り囲んで、身動きを封じる作戦。昨日、アズールに仕掛けたのと同じ作戦。
「……来るぞ、フォード!」
「予測済みだ!」
アズールの注意もなんのその。フォードは、岩の柱が来る事を予測して、軽くステップを踏んでかわした。
ただただ派手なパフォーマンスだけにとどまらない。反射神経だけでなく、攻撃の軌道の予想さえも的確。
「せあぁっ!」
フォードは、ランドに急接近すると、半身を翻して強烈なエルボーを腹部に決める。
ランドが胃液を吐きながらのけぞる。さらに、もう一発……といったところで、ランドは堪えて指を鳴らした。
「“ストーン”!」
岩の柱は、フォードの左腕を飲み込むようにしてせりあがってきた。普通の人間であれば、この拘束にうろたえることだろう。
しかし、フォードにとっては、こんな岩の柱はどうということはない。幾多もの戦場を駆け抜け、屈強な猛者やドゥバン将軍と鍛えた心と体があればこそである。
フォードは、回し蹴りで柱の根元を砕くと、続いて左の拳で上部分をそぎ落とした。
「自分だけじゃどうにもならねぇから、召喚の類を使って仲間を使っている……そうだろ?」
フォードが、ランドを一睨みすれば、ランドの額から汗が止まらなくなった。このままでは、一矢報いることもなく倒されてしまう。そう確信したのである。
「ゲブさんの言った通りだ。何があっても、アニキなる人物に手を出してはいけなかった……」
礼儀正しい言葉は鳴りを潜め、冷静さを失ったランド。すっかり、顔が青ざめていた。
どれだけ兵力を出そうと、一騎当千のフォードの前には無力。そして、さらにランドを絶望させる出来事がもう一つ……。
「何事かと思えば、やはり敵組織と交戦していたか……」
「リュイ、メレ!」
二人が駆けつけてきたのである。アズールだけであれば勝ち目はあったが、そこに緑と桃。ランドの勝ち目は、さらになくなった。
「ピンチだから早く来いって言われたけど……フォードもアズールも、チョー余裕そうじゃん!」
メレが、ふくれっ面で言った。確かに、軍勢はほとんどいない。ランドが絶望していることもあって、士気も下がり切っている。
もはや、VFマスク戦隊が出る幕ではない状況。それを知ってか知らずか、まだルベールの姿がない。
「念には念を、ってことだ。それより、ルベールは……?」
「朗報だ。サクラたちの居場所を特定することに成功したらしい。今、その建物に潜入して、救出に向かっているらしい」
「おお! だったら、こっちもさっさと片づけて、ルベールを手伝いにいくぞ!」
思わぬ朗報に、フォードたちも喜ぶ。
だが、彼らは知る由もなかった。ルベールが、さらなる強敵を前に一人で奮闘している事実を……。




