表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第7章 失意の男たち
80/165

第77話 スチームパンクな秘密基地

 ジョウと別れ、山奥での修行を夕方まで行ったレイジ。今度は電車に揺られながらシバレーに戻る。よほど疲れたのか、車内で荒い寝息を立てていた。

 結局、シバレーにたどり着いたのは19時。さらに、そこから電車とバスで郊外を目指す。彼に課せられたもう一つのミッションのためだ。

 シバレーから電車で南東へおよそ40分、シバレー最大のベッドタウン・ジョゼにたどり着いた。

 郊外というには高層マンションが背丈を競い合っており、まだまだ都会であることを感じさせる。相変わらず続く摩天楼の森、レイジは冒険者パスを見ながら歩いていた。


「さてと、このクエストの依頼主は……ここかな?」


 歩き続けること7分、レイジは一つの高層マンションを見上げた。それから、深呼吸を一つ。

 マンションの名は“メゾン・リブリブ”、数あるマンションの中でも格安の家賃がウリのこのマンションに、レイジは足を踏み入れた。

 このマンションの1732号室が依頼主・タウォクさん58歳の住んでいる部屋である。レイジは、その部屋の呼び鈴を鳴らした。


「す、すいません……クエストを見て来た黒飛レイジですが」

「はい! 上がってください」


 タウォクは、玄関を開けてレイジを出迎えてくれた。還暦前だけあってか、腰は曲がっており、顔もシミと白髪が目立つ。

 息子バハラのことで気苦労が絶えないのか、特に眉間のシワが深く、どこかやつれているようにも見える。

 そんな彼女に案内され入ったリビングは、古びた安っぽい家具が並んでいた。レイジも日本史の資料でしか見たことのないような、そんな家電ばかりだ。何年も修理しながら使っているのだろう。

 とてもではないが、無制限の報酬などといった気前のよさそうな家には見えなかった。


「どうぞ、おかけください」

 タウォクに勧められるまま、レイジは椅子に座った。座面が少したわんだような気がした。

 レイジは、どうにも落ち着かない様子だった。それもそのはず、自分の意志で、一人でクエストを受けるのは、今回が初めてなのだ。

 そわそわしていると、タウォクが薄い紅茶をマグカップに注いでくれた。そのマグカップも10年単位で使い込んでいるのか、柄が色あせていた。


「あの……報酬が無制限だとお聞きしたのですが」

 この家の惨状を見て、レイジは不安になって訊いてしまった。


「ええ。息子の自立のためならば、安いものです」

 タウォクは、妙な自信をちらつかせてきた。


「だとしたら、俺が望むことは一つ……彼と気が合えば、俺たちの仲間に引き入れることです」

「でも、大丈夫かしら……。うちの息子、テコでも動きませんでしたから」


 レイジが自信を自信で返した時、タウォクはため息交じりに返答した。


「頑固一徹……か。そうでもなかったら12年間も引きこもりなんてやってないか」

「ええ。ですから、気が合う仲間になるというのは難しいかと……」


 タウォク曰く、このクエストは過去にも何人か受けたらしい。しかし、そのたびに冒険者たちが門前払いを食らったとのこと。

 今、何をしているのか。それさえ掴むこともままなっていない。

 さすがは無制限の報酬。それに見合った難易度。どれだけ報酬を貰おうと割に合わないと、冒険者たちの間で噂になっていった。


「まだ若いから言えるんでしょうけど……会ってみなければ、分かりませんよ?」

「だと、いいのですが……」


 いつしか、受ける者もいなくなった幻のクエスト。レイジには、ここまで残っていたことが奇跡にさえ思えてきた。

 バハラに直接会う前に、彼の事を少しでも知っておきたいレイジは、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。


「10年以上も前の事なので、覚えていたらでいいです。引きこもった理由を訊いても?」

「何か、学校で上手くいかなかった……とか、そんな感じでしょうか」


 回答は、かなり曖昧な推測だった。直接話を聞いたという可能性は低い。親子間での会話は、まともにかわされていないようだ。

 引きこもった理由については、直接本人から聞き出すほかない。レイジは、それ以外のことで気になる事を訊きだす。まずは、この部屋の間取り。


「そういえば、この家……1LDKですよね。それから、俺たち以外に誰かがいる気配がないのですが……」

 引きこもりと言えば実家、そんな固定観念にとらわれているがゆえの質問だった。

 このマンションの部屋は、一人暮らし用に設計されている。そのため、親子水入らずで住むには少々


「主人は、息子が幼いころに蒸発しまして……。息子は少し離れた場所にいるのですが……何か妙な家に住んでいるらしくて」

「その妙な家というのは……いつ頃から?」

「息子が幼いころから作っていたもので、かなり前からあったんじゃないかと」


 バハラは、子供のころから工作の類が好きで、そして得意だったらしい。その手で秘密基地を作って、10年ほどで人が住むには苦労しない程度の空間に進化させたらしい。

 タウォクは、その秘密基地の特徴をメモに残してくれた。


「工作好きか……。それで、ほかに彼が好きそうな事とか趣味をお聞きしても?」

「他にこれと言って……」

 タウォクの眉間のしわが、より一層深くなった。

 彼女が記憶を手繰り寄せている間、沈黙が流れる。レイジの紅茶も、いつしかヌルくなっていた。


「そういえば、以前行ったとき、玄関先にポスターが捨てられていたような」

「ポスター?」レイジは、訊き返した。

「ええ。魔法少女というものでしょうか……フリフリした女の子が描かれたポスターでした」

「アニメが大好き……。俺も、以前は少しばかり好きでしたよ。アレコレ……ね」


 工作が好きで、魔法少女が好き。趣味が分かったものの、たったそれだけ。

 結局、最も訊きたかった人となりだとか、経歴といったことは推測の域を出ることはなかった。


「息子は、あんな事をするような子じゃないんです。働きもしないで私から金をむせび取る子じゃ……!」

「信じたい気持ちは分かる……でも、実際やっている。その理由も含めて、俺は彼を知らなければなりません」

「……頑張ってください、レイジさんだけが頼りです」




 レイジは、タウォクから手渡された地図やメモを参考に、バハラがいるという妙な家へと向かった。

 場所は、郊外を外れた河川敷。ホームレスたちがブルーシートで造った六面体の家が並ぶ中、ひと際目立つ建造物があった。

 スチームパンクな雰囲気の建造物は、ホームレスたちの居住面積を足し合わせても及ばない。

 巨大な歯車が回り、何十本もある太いパイプから絶えず蒸気が吹いている。ゴテゴテしたこの家に、バハラはいる。


「すいません。バハラさんはいますか?」

 レイジは、赤茶に染まった扉をノックした。低くくぐもった金属音が、夜の河川敷に響き渡る。

 しかし、バハラからの返答はなかった。そればかりか……。


『侵入者発見、侵入者発見!』

 電子音声が流れると同時に、バハラの家にあるサイレンが光った。一斉に、レイジに大砲が向けられた。

 警備システムが作動してしまったのである。レイジは、慌てて玄関から離れた。


「おわっ!!」

 レイジは、何とか砲撃をかわすことができた。

 こんな危険な家、確かに門前払いを食らわせるには少々やり過ぎである。


 それから、すぐにむき出しの歯車が目立つメイドのような見た目のロボットが現れた。

 いくつものレジ袋を足元に置くと、すぐさまレイジを羽交い絞めで取り押さえる。どうやら、不審者に思われたらしい。

 その後、砲口が再びレイジの方を向いた。メイドロボの力は想像以上に強く、砲撃が始まる前に抜け出すことはできなかった。


「もう、何だってんだよ! 俺は、ただお前に会いに来ただけだぞ!」

『不審者、許スマジ! 不審者、駆逐セヨ!』


 よほど、レイジに会いたくないらしい。警備システムで、容赦なくレイジをハチの巣にしてくる。

 いくつもの大砲が直撃して、メイドロボの腕がレイジの肩を締め上げて……説得に一苦労するというレベルではない。

 バハラが目の前にいると分かっていながら、その根城に近づくことさえ許してくれない。


「これが客に対するもてなしかよ……」

 レイジは、愚痴を吐いた。


 本当は、力ずくで説得することを嫌っていた。だが、向こうは力ずくになろうともレイジを追い払いたいらしい。

 態度が態度なら、こちらもそれ相応の対応をせねばならない。レイジは、反撃に出ることにした。


「バハラ、アンタがその気なら、俺もやってやる。やられっぱなしじゃ、漢が廃る!」


 レイジの目の色が変わった。ここまでボロボロにされた今、ピンチをチャンスに変える力が発揮できる。

 まずは、メイドを大外刈り。関節をグッと締め上げれば、ギチギチとメイドロボが悲鳴を上げる。

 なおも、砲撃が続く。しかし、ルベールとの情熱対決を制した時の感覚を取り戻しつつある彼には、ヌルいなんてものではない。岩をも融かす一発を撃てる彼には、鉄壁の要塞も脆く見える。


「バハラ、とにかく顔を見せてくれ。さもなくば、実力行使に出る」

 レイジは、鉄の扉へと右手を伸ばした。その手のひらには、炎が燦然と輝く。


『危険人物! 危険人物!』

 今度は、ライフルを持ったドローンのようなメカがいくつも現れた。これは、もはや秘密基地というよりは、スーパーロボットだ。

 小さな戦闘機を打ち落とそうと、レイジの意識が変わった途端、今度は秘密基地の足元にキャタピラが現れた。逃げるつもりだ。


「動ける引きこもりとは、これは驚いた」

 逃げて攻撃して、とにかく人を寄せ付けない執念で作り上げた黒鉄の城。一周回って感心すら覚える。

 もうもうと煙を上げて走る城と、それを追いかける蛮族の格好をしたレイジ。仕事帰りのサラリーマンの目には、シュールな事この上ない光景に見えるだろう。


「このままでは距離を詰められない! 何が何でも……! “レッド・クライシス”!」

 バハラのご尊顔を一目拝みたい! そんな思いが爆発し、レイジの全身を真っ赤な炎が包む。

 レイジの足が速くなった。要塞に少しずつ、近づいて行っている。しかし、それを阻むかのように砲撃とドローンの挟み撃ち。


「“ロッソカリバー”二刀流!」

 今度は、燃える剣を構え、ダブルコークスクリュー。回転と同時に砲弾をかわし、ドローンを一機撃墜。

 わずかとはいえ、足止めを食らったレイジ。再び距離が遠くなっていく。


「やっと、追いついた! “クリムゾン・ファイア”!」

 もうすぐ、鉄の扉。レイジは両手を前に突き出して、灼熱の竜巻を起こす。

 絶対に思いを貫く。そのためにも、もっともっとアツく……!


「気合だあああああ!!」

 レイジが雄たけびを上げると、要塞の扉が赤く光った。それからほどなくして、扉に穴が開いた。

 この異常事態が、要塞の足を止めることに成功。レイジは、汗にまみれたTシャツの裾を絞ってから、要塞の中へと入る。


「ちょっと手荒だけど、お邪魔します」

 レイジは、容赦なく要塞の中へと入っていった。

 陳列棚には、魔法少女やブレザー姿の少女のフィギュアがズラリ。噂通り、かなりの萌え好きのようだ。

 いずれも、日本では見たことのないようなキャラクターばかり。


「……なっ、何ですと!? 扉を融かして入るとは、強盗でもやりませんぞ!」

「アンタがバハラか。俺はレイジ……勝手に入ってしまって悪かったな」


 コレクションを一通りみたところで、色白で背の低いメタボの男が現れた。

 ビン底眼鏡に、キャラクターTシャツ、ダボダボのチノパン。そして、一息で早口で語る習性。

 明らかにそうであると分かるようなこの男こそ、件のバハラであった。


「おまいのせいで“魔法少女トワ・エ・ノエル”二期の再々々……々放送が見られませんでしたぞ!」

「再放送かよ……」

「とにかく、某とノエルたその逢瀬を邪魔する輩に、断罪の闇を!」

 バハラは、ポカポカパンチでレイジを殴った。しかし、体重の乗っていない遅いパンチは、レイジには何ともない。


「あんなに、あんなにセキュリティ万全だったのに、破ってくるなんてヒジョーシキもいいところですぞ。大体、人間にそれほどの魔力を持つ者が要るはずもありませんぞ」

「それが、普通にいるんだよなぁ……ここに。そして、俺のマブダチも、俺と同じくらいアツい炎が使える」


 レイジは、ドヤ顔で言った。嘘は言っていない。

 恥をかいたバハラは、黄色い歯をギチギチと鳴らしながら、顔を真っ赤にしていた。


「と……とにかく! ここは、某とノエルたその愛の要塞。何人たりとも、この聖域を侵すことは許されませんぞ。よって、レイジ氏には直ちに帰っていただきますぞ!」

「……帰れって言われたら、俺だって素直に帰ったさ。でも、アンタは何も言わずに俺を攻撃した」

 レイジは、ドスを利かせながら言った。腕組みして険しい表情をみせたが、バハラは退かなかった。


「う、ウソは泥棒の始まりですぞ。あの執念深さ……メイドロボもドローンも壊した実力。レイジ氏は、某の事を地の果てでも追いかけるつもりだったのでしょう。……ノエルたそをよこせって。で、ですが……ノエルたそはお主の彼女ではありませんぞ。某の嫁ゆえ、同担拒否させていただきまする」

「……ノエルとかいう人の話は、一旦おいてほしい。話がややこしくなる」

 どこからどう切り込むか。レイジは、頭を悩ませるのであった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ