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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第7章 失意の男たち
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第76話 集中力のその先

 トラノイキュービを見つけることに成功したレイジは、早速ターゲットの討伐に取り掛かる。

 様々な攻撃に翻弄され、追いつめられた中でようやく本調子を取り戻したレイジは、反撃に打って出た。

 接近戦で勝負に出るレイジに対して、トラノイキュービは頑ななまでに肉弾戦に応じてくれない。


「……今度は、光線だな」


 トラノイキュービの尻尾がレイジの方を向いた。レイジは、背後を取った。その直後に光線が放たれたが、明後日の方向に飛んで行った。

 さらにレイジは、尻尾を掴んで巴投げ。だが、向こうは無数の岩の弾丸をぶつけて対抗してくる。レイジは、胸の前で腕を交差させて防御の姿勢を取る。

 それから、すぐに右腕を伸ばして反撃の構えを取った。


「“スパーク”!」

 至近距離での雷撃を伴った一撃が、トラノイキュービの首にクリティカルヒット。

 しかし、一発や二発の打撃では、全くへこたれる様子は見受けられなかった。そればかりか、その素早い脚でレイジとの距離を取り始めた。

 レイジは、その姿を追いかけようと走った。すると、トラノイキュービは、周囲を霧で覆って姿を隠した。一寸先すら見えぬ状況。

 この状況で使ってくるであろう相手の攻撃は、水か岩。相手に見られる炎や電気、光は使えない。ましてや霧を飛ばす風はもってのほか。

 しかし、そう考えていたレイジの計算は外れた。人魂のように揺らめく炎で、レイジの注意を惹きつけてきたのである。


「なっ! 炎だと?」


 注意を引くためにあえて選んだ敵の選択肢。それにまんまと引っかかったレイジは、後ろから岩の弾丸で撃たれた。



「何か、少し感覚が違うな……熱くなるんじゃない。もっと冷静に相手を見据えて……」


 レイジの頭に血が上りそうになった。ルベールやエルトシャンと戦ったような、トランス状態とは少し違うのだ。

 ただただ、相手に集中する。他の余計な事は一切考えない。相手がエルトシャンに似ていようが、今はそんな事はどうでもいい。


「……お兄ちゃん!」

 ジョウの声援が、レイジの耳にハッキリと届いた。頑張れと声を枯らしている。


「ジョウ、そこを動くなよ! 何があっても、だ!」

「う、うん!」


 レイジは、声がした方を向いた。ジョウがいる方向が12時の方向。レイジは、彼をコンパスに霧の中で戦うことにした。

 どこから来ても構わないように、ひたすら身構える。目は使えないが、代わりに耳が使える。耳に全神経を集中させ、わずかな変化にも気を配る。


「……息を吸い込む音!」


 レイジは、7時の方向を向いた。そして、すぐに“ファイア”を撃った。

 気合の炎は、霧の中にまぎれた。しかし、「クゥン」とか弱い鳴き声が森の中に響き渡った。

 声さえ聞こえたなら、あとは簡単。その方向に向かって動くだけ。

 調子が上がってきたレイジの炎の威力は加速する。撃てば撃つほど調子が上がってくる。


「ガオーッ!」

 レイジの目の前に石の刃。右腕を斬られたのは、レイジの甘さ故。

 歯ぎしりが止まらない。己自身のふがいなさに、これ以上なく怒った。


「落ち着け、俺……! 躍起になってどうする!」


 興奮してしまっては、集中力が落ちてしまう。それで余計な力を使い果たしたのが、リーグ決勝の惜敗の原因だ。

 何があっても動じない。今回の戦いで、それを何よりの課題とした。もう一度、心を落ち着かせる。


「“ファイア”!」

 しかし、攻撃はトラノイキュービに当たることはなかった。

 レイジの一発が、周囲の霧を少し晴らした。少し先が見える程度になった。



「ウゥ……」 

 トラノイキュービは、姿勢を低くして唸った。獲物であるレイジを一心に見据えると、喉笛めがけて襲い掛かってきた。

 レイジは、身体を右方向に捻りながらかわした。心を落ち着かせることに執着したあまり、反応がわずかに遅れた。

 なおもトラノイキュービの攻撃は止まらない。ここに来て、肉弾戦を仕掛けてくるのだ。


「なぜ、ツメとキバで……?」


 レイジは、“ファイア”を近くの木にぶつけて、灯りをともした。それから、注意深くトラノイキュービの様子を観察する。

 何度も突進をかわしながら、ようやくトラノイキュービが強気になった理由に気づいた。

 鋭くとがった石をその身にまとっていたのだ。両前足のサーベルがギラリと、霧の中でも不気味に光った。

 突進をかわしたところで、石の切っ先がレイジの身体をかすめる。真空の刃がレイジを切り刻む。


 霧の中で様子見を長くし過ぎた。武装する時間を与えてしまったのだ。

 強化されたのは、肘のサーベルだけではない。犬歯も、さらには九つある尻尾も、石による武装をしている。

 しかも、それで動きが鈍重になることはない。後ろ足から炎を勢いよく噴射することで瞬発力を生んでいる。


「くっ……“ファイア”!」

 レイジが動きを捉えて一発撃っても、肘のサーベルの前には無力。威力が足りなさすぎるのだ。

 ギアを上げ、トランスすれば岩をも融かす炎が撃てる。しかし、それは勝負の制限時間があったからこそできた事。

 しかし、今はどこまで長引くか分からない野生との勝負。生きるか死ぬかの瀬戸際。


「……相手の動向をよく見るんだ。何か反撃のチャンスがあるはずだ!」

「お兄ちゃん! 諦めないで!」


 ジョウにとっても千載一遇のチャンス。何が何でも、諦められない。諦めたくない。

 トラノイキュービの目の色が変わった。ニンゲンに狩られた一族の無念を背負い、もはや殺意を隠す気すらないようだ。

 なおも突進攻撃で猛攻を仕掛けるトラノイキュービ。前足の剣で斬って、後ろ脚のブーストでレイジを蹴り倒す。

 レイジは、のけぞりながらも、その後ろ脚を捉えることに成功した。


「捉えた!」

 レイジは、そのまま前足のサーベルを蹴ってへし折った。

 しかし、トラノイキュービの武器は、まだ10本以上はある。尻尾を突き立てようとしてきた。


「岩の刃なら、簡単に融かせる」

 レイジが全身に力を籠めると、レイジの周りで強烈な爆発が起こった。九尾のシッポは、そのメッキが剥がれてしまった。

 霧の深い森が一変、灼熱色の紅葉が舞い踊る森へと変貌。これほどの爆発力を出したにも拘わらず、レイジには脈が速くなる感覚がなかった。

 力みは、ほとんどなかった。自分でも不思議なほどだった。


「お兄ちゃん! そんなに強かったの?」

「ああ。ただ……ジョウを巻き込んですまなかった」

「イイんだ、お兄ちゃんと一緒なら……熱くたって平気だ!」


 ジョウは、汗を拭って強がりを言った。だが、その強がりが、今のレイジにとっては非常に心強かった。もっともっと力を出せる、という証である。

 レイジは、九尾のシッポを掴んで、背中を思いっきり蹴った。まずは一本、引きちぎることに成功。


 わずかな間に武器を二つ失ったトラノイキュービは、それでも突進してレイジを斬ろうとしてきた。

 しかし、バランスの取れないその身体では、レイジはおろか、ジョウすら捉えることは出来ない。


「今回は、失敗したな」

 レイジは、なぜかため息をついた。集中力を高めて爆発力を高める方針は、失敗してしまった。

 だが、それでもレイジは、嬉しそうだった。あの時の炎が、少しずつではあるが蘇ってきたのだ。


「まあ、いいか……アツくなるのも俺らしいか」

 レイジは、ボロキレ同然のタンクトップを破り捨てた。

 結局は、トランス状態に入って、並外れた一発を撃つことを選択したレイジ。


「“クリムゾン・ファイア”!」

 レイジは、両腕をトラノイキュービに突き出して炎を撃った。

 二つの炎が螺旋を描いて、竜巻となる。竜巻は、トラノイキュービを巻き込んで、周囲を焼き尽くした。

 一発逆転を呼び込む火事場の馬鹿力、ここに復活!


「ふぅ……。どんなヤツかと思えば、やっぱりアイツの方がまだまだ強かったな」


「キャイィィン……」

 子犬のような鳴き声は、トラノイキュービの断末魔。

 レイジは、トラノイキュービの討伐に成功。そのまま、トラノイキュービの心臓を採取する。


「やったね、お兄ちゃん! やっぱり、お兄ちゃんはすごいや!」

「いや……ジョウの応援があったから、俺は頑張れたんだ」

 レイジは、サムズアップでジョウの忍耐力と応援をねぎらった。




 レイジたちが掘立小屋に帰るころには、既に正午を過ぎていた。

 今日の収穫は、十分だった。トラノイキュービの心臓はもちろん、ビキャクコブラの革、枯れ木の騎士から失敬した鉄剣。

 さらには、カルシウムと鉄分がタップリ含まれた真っ赤なキノコ・グロウシメジ。滋養強壮に良く効くブロムヘキシシの肉。その他もろもろ。

 どれもこれも珍しいものばかり。それらを手土産に家の中に入ると、ジョウの母親はとても驚いた。


「まぁ、アンタたち! こんなにボロボロになって帰ってくるなんて……何があったんだい?」

「実は、特効薬の材料を探していまして……」

「そ、それは……!」


 ジョウの祖父が、レイジが持っているものに関心を寄せた。

 確かにトラノイキュービの心臓だ。他にも様々な植物をレイジから受け取る。


「こりゃ、薬師の血が騒ぐわい!」

 ジョウの祖父は、袖を捲り、早速材料を調合し始めた。


「レイジさん、私のために危険を顧みず……ありがとうございます」

「いやいや、気にしないでよ。早く治るといいな」

「ええ……ありがとうございます」


 ジョウの姉が治るには、数日かかるであろう。レイジが苦心して材料を探してくれた事を、彼女は忘れないであろう。

 これ以上、ジョウ一家に厄介になるわけにもいかなかったので、レイジはこの家を出ることにした。


「ジョウの家族の皆さん、本当に世話になりました」

「イイんだよ、ウチの娘を助けてくれたんだ。また気が向いたら来ておくれ!」


「お、お兄ちゃん……僕も大きくなったら、フォードの一味に入れてくれる? 僕、それまでにすっごく強くなるから!」

 ジョウは、レイジを引き留めたくてその手を強く握りしめた。


「じゃあな、ジョウ! 楽しみにしてるぞ!」


 レイジは、ジョウの手をそっと離すと、一家に向かって手を振りながら山を下りて行った。

 トラノイキュービとの一戦で何かを掴みかけたレイジ。彼の修業は、もう少し続く……。

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