第72話 似た者同士
翌朝、フォードのタレコミを載せたシバ経が発売された。他国の新聞に比べて4倍程度の価格にも拘わらず、飛ぶように売れている。
残念ながら、フォードが巻き込まれた事件のことについては一面ではなかった。しかし、比較的最初の方に載せてもらえた。
地下鉄でサラリーマンたちが分厚いシバ経を広げながら読んでいる様子は、もはやこのシバレーの名物。
フォードは、新聞社からホテルに戻っていた。後は、祈るように吉報を待つのみ。
ビュッフェ形式の朝食をゆったりと食べ、備え付けのトレーニング室で身体を鍛える。
得体のしれぬ敵に仲間を取られたにもかかわらず、どこか余裕があった。無数の市民が味方してくれている、そんな風に思っているがゆえの余裕であろう。
フォードは宿泊室に戻り、シバ経の記事に目を通していた。やはり、フォード以外にも新聞社に依頼を載せている人は多かった。
しばらく新聞をよみふけっていると、ホテルマンが扉を叩いた。
「フォード様。ロビーでルベール様たちが面会を希望されています」
「分かった、すぐ行く」
フォードは、分厚い新聞を折りたたむと、急いでロビーへと向かった。
「今朝の新聞、読んだぜ。やっぱり、お前らもそうだったとはな……」
「やっぱり……?」
フォードは、ルベールらメンバーの数を指で数えた。他にもメレ、リュイ。そして、傷だらけのアズール、以上4名。
一人、足りないのだ。VFマスク戦隊は、5人で一つの組織。
「お前のところも、一人いねぇのか。確か、女がもう一人いたはずだ」
フォードが腕組しながら言えば、アズールは彼から目をそらした。
「お前の仲間を助けようとして、俺がヘマした」
アズールは、歯を食いしばりながら応えた。その握りこぶしは硬く、ブルブル震えている。
「すまなかったな、アザミたちのために……」
「別に構わない」
「ってか、アンタのところ……逆に一人じゃん!」
メレは、目を丸くして驚いた。
「ちょっと……声がデカい」
「アンタのところ、みんな仲間取られたって事?」
メレのテンションは、相も変わらずおかしい。
「いや、レイジだけは無事なはずだ。アイツは今、修業中だ。少なくとも明後日の昼まで帰ってこねぇ。ここから先は、ちょっと場所を変えて話そうと思う」
メレが大きな声で驚いたせいか、野次馬が集まりつつあった。
この間まで行われていたリーグにおいて、好成績を収めた二つの冒険団。話題のルーキーが注目の的にならないわけがない。
「だとしたら、我々の拠点“Vファクトリー”に来てもらう」
リュイの提案で、フォードはVFマスク戦隊の拠点へと招待されたのであった。
◆
VFマスク戦隊の拠点“Vファクトリー”は、ガレ駅から徒歩10分程度の場所にあった。
ファクトリーと名乗るだけあってか、工場を生活できるようにリノベしたようだ。無骨な外装からは想像もつかないほど、洒落た家具が置かれている。
フォードは、黒革のソファにドカッと座った。メレは、そんな彼に紅茶を淹れる。
「それから、俺のいた部屋に犯人が残してった文章だけどよ……」
フォードは、クシャクシャに丸めた脅迫状を手渡した。アズールたちは、その文面に目を通した。
「しかし、あなた……仲間を取られた割には随分と落ち着いている様子だが?」
リュイは、眼鏡を整えながらフォードに訊く。
「一応、手は打ってあるからよ。新聞読んだなら分かるだろ?」
「確かに隅々まで目は通した。だが、アレは握手と言わざるを得ない。実質、他の冒険者や警察に協力を要請したようなもの」
「あんな状況じゃ、新聞の力を借りるしか考えられなかったんだよ。やたら羽振りのいい編集長で助かったぜ」
「フォード、アニキだか何だか知らねぇけどよ……仲間取られた割には、ちと薄情すぎやしねぇか?」
ルベールは、妙に落ち着いているフォードの様子を腹立たしく思った。そして、考えるよりも先に、手が出た。
まずは、右頬へストレート一発。そして、フォードの襟をつかんで睨んだ。
「薄情って……俺だって犯人に怒ってねぇワケじゃねぇんだ。ただ、お前も少しは落ち着け」
フォードは、掴まれている手首を捻って、拘束から解放された。
「こっちは、お前のせいでサクラを取られてんだ……これが落ち着いてられるかってんだ!」
ルベールは、再びフォードの頬にグーパン。フォードは、口元を拳で拭った。
ベッタリと血が拳についた。仲間を取られた怒りは、分からなくもない。ルベールの気持ちも、もっともな事。
「こういう時だからこそ、落ち着くんだ。打てる手は打つ。ただ怒ってるだけじゃ、何も進まねぇぞ」
「……まだ殴られ足りねぇのか!」
ルベールは、完全に頭に血が上っている。怒り任せの拳をフォードに突き付けるも、簡単にかわされてしまった。
もう一発手を出すも、やはり手のひらで受け止められてしまった。力に訴えかけようとする相手は御しやすい。
「仲間がピンチで怒れねぇ奴は……リーダー失格だ!!」
「……かもな。仲間を守れねぇ時点で、俺たちは似た者同士だ」
フォードは、開き直った。それが挑発的に聞こえたのだろうか、ルベールはフォードに突っかかる。
「待て、ルベール! フォードの言っていることも正しい」
アズールは、ルベールを後ろから取り押さえた。
「離せ、この野郎! コイツの顔は、何回殴っても気が済まねぇ!」
「真に憎むべきは、この男ではない……この男の仲間を攫った犯人に他ならない」
「リュイ、てめぇまで……」
必死にもがいて暴れるルベールに、リュイは正論を突きつけた。しかし、聞く耳を持ってくれなかった。
別に、フォードがサクラを攫ったわけではない。むしろ、彼もまた被害者の一人なのである。
「相手は、得体の知れねぇ敵だ」
「なぁ、ルベール。ここは少しばかり頭を冷やして……手を組もうぜ」
フォードは、ルベールに手を差し伸べた。
「その提案、ウチとしてはチョー賛成なんだけど!」
「レイゾンの元副将に、リーダーと同等の力を持つ弟分……。その話、乗らざるを得ないな」
これ以上ない相手からの共闘の提案。考えるまでもないと言わんばかりに、リュイも乗ってきた。
「お前ら……勝手に決めるなよ! リーダーの俺が、まだ何も言ってねぇだろ」
「ルベール、ここは乗るべきだ。今は、頼れる戦力が欲しい局面だ」
「今は、アイツがいねぇし俺一人で、どうしても信用ならねぇってんなら、潔く身を引くぜ」
「ちょいとばかり考えさせてくれ」
アズールにも乗るように勧められたルベールは、今一度フォードの目をよく見た。
口先では割と飄々としているように感じられたが、フォードもまた瞳の奥の方で怒りに燃えているように見えた。
「……で、どうする?」
「さっき、俺たちが似た者同士だって言ったよな。だったら、取り返したい思いは一緒だろ!」
「良い表情するじゃねぇか。んじゃ、よろしく頼むぜ!」
ルベールは、フォードと固く握手した。VFマスク戦隊とフォードによるタッグ、ここに誕生する。
彼らの逆襲が、ここから始まろうとしていた……。




