第70話 ゲブの魔手 Ⅱ
ランドの一計により、フォードの一味のメンバーを攫い、それをダシにレイジを叩く作戦に出るゲブ。
早速、ランドとその部下をけしかけることに。攫うは、フォードの一味でも比較的戦力とは言えないアザミとギュトー。
居場所なら特定できている。リーグの時に泊まっていた、アリーナ近くのホテル。
ホテルマンに変装したランドの部下が、フォードたちのいる部屋の扉を叩いた。
「フォード様、フォード様!」
「……一体、どのような要件でしょうか。真夜中ですよ」
ランドの部下の切羽詰まった声に、ギュトーが慌てて飛び出してきた。しかし、フォード本人は、今は部屋にはいない。ギュトーとアザミだけだった。
これはランドたちにとって好都合。ホテルマンは、手招きして仲間を呼び寄せた。白いダブルボタンスーツの男たちが数名、わらわらとフォードの宿泊室に押し寄せてきた。
「アンタら、なんやの!?」
先ほどまでぐっすり眠っていたアザミが、目を覚ました。
そんな彼の目の前には、いくつもの銃口。動けば殺すぞ、と無言の威圧。
「な、なにを……!」
ギュトーは、ほどなくして羽交い絞めにされ、口をふさがれた。
スーツの男たちが、一斉に催涙ガスを部屋中にまき散らす。あまりにも早く、鮮やかなまでの手口。
彼らは、人さらいのプロ。ゲブのポケットマネーで、仕事が速い人たちが集まったのである。
ギュトーは、事態を飲み込むことが出来ずに気絶。すぐにロープで手足を縛られてしまった。
アザミが何も出来ない間に、ギュトーは連れ去られてしまった。
「あかん! “フリーズ”!」
アザミは、銃口めがけて氷の魔法を繰り出そうとした。せめて、己の身だけは守らねば……そう思った。
しかし、それよりも先に一人の男が回り込んでいた。アザミの首筋に強烈なチョップ。
普通ならば気絶してしまいかねない一撃。しかし、アザミは踏ん張った。反撃とばかりに、振り向きざまに地獄突きを浴びせる。
一人がノックダウン。しかし、相手は多数。たかが一人を倒したところで勢力は変わらない。
「“アイスエッジ”!」
氷の刃を投げつけるも、簡単に白ずくめの男にはかわされてしまった。
「フォードの一味、あの義兄弟さえいなければ無力なものだな」
白ずくめの一人が毒を吐いた。なんなら、失望させられたとでも言わんばかりの顔だ。
「否定できひんのが悔しい……」
アザミは、苦虫を噛んだ。
「生き延びたければ、アニキが来ることを願うんだな」
アザミの後ろにいた男が、50万ボルト相当のスタンガンでショックを与える。
アザミもほどなくして気絶。彼もまた、さらわれてしまった……。
◆
人攫いの行方は、小一時間ほどで見つかった。それも、全くの偶然だった。
場所は、元工業地帯だったシバレー郊外の町・ガレ。近くにVFマスク戦隊の拠点があったのだ。
たまたま夜風に当たっていたアズールが、人攫いを目にしたのである。
「おい、あれ……」
「どうしたんですか、アズールさん」
サクラは、アズールが指さした方向を見た。
「あれ、確か……レイジのところにいた仲間だったな」
「あの特徴的なメイク……確かに、そんな方がいらっしゃいましたね」
歌舞伎の女形のような格好のアザミは、遠目から見ても分かる。
人攫いというだけでも、アズールにとっては許してはならぬ悪だった。それが親友の仲間とあらば、なおのこと憤りを感じる。
「サクラ、追うぞ!」
「あ……待ってください! ルベールさんたちにも報告を」
サクラは、走るアズールを止めようとしたが、すでに遅かった。
彼女もしょっ引かれる形で追いかける格好となった。
「一刻を争う事態だ、レッドを待っていれば何が起こるか……とにかく行くぞ!」
アズールとサクラは、人攫いの跡を追った。いつになく、アズールが落ち着かない様子だ。
人攫いも彼らの姿に気づいた。ランドだけが二人の方を振り返り、人攫いたちを先に行かせた。
「……くっ、バレてしまっては致し方ありませんね。口封じとして、あなた方にも消えてもらいます」
ランドが指を鳴らせば、魔法陣が現れた。その魔法陣から現れたのは、二本のツルハシを持ったトカゲのような生き物。
ゴツゴツしたレンガの鎧、安全第一なヘルメットが特徴的なトカゲ怪人。2メートルはあろうかという巨大トカゲ。これで足止めしてアザミたちを目的地に運ぼうという算段のようだ。
この怪人の名前は、ムジコリザード。人間が両手で扱える大きさのツルハシを片手で操れる剛腕の持ち主だ。
「サクラは、アイツらを追ってくれ。俺は、あとで追いつく」
アズールは、Vフォンでコードを入力すると、変身の構えを取った。
サクラは、言われるがままに白ずくめの男たちを追いかけた。
「ルベールのいないVFマスク戦隊など、ソースのない目玉焼きと同じこと! このツルハシの錆にもならんわ!」
ムジコリザードは、ツルハシをブンブン振り回しながらアズールを煽る。
レイジの見舞いに行った後、リーグで彼に負けた悔しさから、ルベールも武者修行の旅に出てしまったのだ。
メレとリュイも後を追ったが、拠点を守る人が必要だろうということで、アズールたちが残っている。
「俺も随分と見くびられたものだ……VFチェンジ!」
「揺蕩う流れを刀で切り裂く。紺碧の水面の王者、マスクドブルー!」
アズールが戦闘スーツに身を包む。色は青、ルベールと色違い。
背中の太刀を抜くと、左手の逆手持ちで構える。
「弱そうな武器だな。ツルハシで壊してくれる!」
「ナマクラかどうか……その目で見ればいい! “アクアスラッシュ”!」
ブルーの太刀は、揺蕩う水におおわれていた。ブルーが切り上げるように振ると、水は三日月のような形になってムジコリザードに向かって飛んでいく。
高圧の水で敵を切り裂くブルーの得意技だが、ムジコリザードの硬いレンガの前には傷をつけることが精いっぱいだった。
「……思ったより硬いな」
「強化してその程度のパワー。だから、お前はソイソースのない目玉焼きだ」
ムジコリザードは、ツルハシを高速で回しながら、ブルーに突進してきた。しかし、重量級なのか、その動きはかなり鈍い。
ブルーは、太刀を高速で回転させて対抗。揺蕩う水が円盤となって、トカゲの勢いを防ぐ。
「“スクリューシールド”!」
太刀がツルハシをはじき、高圧の水が鎧に傷をつける。硬くて強い相手ながらも、ブルーが少しばかり優勢になりつつある。
ランドが指を鳴らせば、魔法陣から30人ほどの白スーツ男が現れた。銃を持った者、剣を持った者が半分ずつ。
とても人では対処しきれない数となったところで、ムジコリザードは水を得た魚になったように口数が増える。
「あの男たちは、別にお前の仲間ではないのだろう……? なのに何故助けようと躍起になる?」
「そういうお前こそ、俺にかまけていていいのか……? 今頃、俺の仲間が追い付いている頃だ」
「くっ……質問に質問で返すとは。それに話題を強引にすり替えやがって!」
「それがどうした。仲間ではないが、マブダチってやつだ……それだけで躍起になる理由がある」
ブルーは、鼻で笑った後、開き直ったように言った。
「行け、者ども! 調子に乗っている青いヒーローをぶちのめせ!」
ムジコリザードがツルハシをブルーに向けると、白スーツの軍団が一斉にブルーを取り囲んだ。
1対32の殺陣。圧倒的不利な状況の中、ブルーは「ふっ」と不敵な笑みを浮かべた。これでようやく面白くなった……そう言いたげだ。
最初に、銃弾が四方八方から飛んできた。しかし、ブルーは素早く宙返りして、一番近くにいた白スーツにドロップキック。
さらに、太刀を一振りして、先ほども見せた“アクアスラッシュ”。これで、あっという間に5人が伸びた。
「さっき、言ったな……レッドがいなければカスも同然だと。取り消すか?」
「取り消す気は微塵もございません。我々には、まだ戦力がある……」
ランドも不敵な笑みを浮かべている。
「それはそうと、俺なんかに戦力を傾けていいのか? 俺の仲間・サクラもかなり腕は立つぞ?」
ブルーは、白スーツの一人の心臓に太刀を突き立てると、クールに問いかけた。
「その不自然なまでに満ち満ちた自信……まさか?」
「気づくのが遅かったな。お前らを足止めする事だけが、俺の目的だったわけだ」
すべては追跡を試みているサクラに戦力を傾けさせないため。チームのエース格であるアズール自らオトリの役を買ったのだ。
それを知ったところで、ランドの不敵な笑みは変わらない。この化かし合いを制するのは、果たしてどちらか……。




