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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第7章 失意の男たち
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第69話 ゲブの魔手 Ⅰ


 場所は変わり、山奥。すっかり遅くなったので、ジョウを送っている最中だった。

 左肩にモンスターの肉を詰めた袋を担ぎ、右手にはたいまつ。両手が塞がっていて、戦える状態ではない。

 道なき道を進みながら、レイジはジョウの話を真剣に聞いていた。


「僕の家は、とっても貧乏なんだ。お父さんもいないし……」

「だから、こうして食材を探しに山に出かけている、ということか?」

「そうなんだ。だから、僕の夢は冒険者! クエストってやつでいっぱい稼いで稼いで、僕が家族を……!」


 ジョウの握り拳の硬さは、彼の意思の強さを物語っていた。

 彼の境遇は、日本のレイジとは真逆だった。その日の水も食料もままならぬほどの貧乏。しかしながら、家族に頼りにされている。

 たかが人間関係に疲れたという理由だけで、特急に飛び込んだ自分の浅ましさを痛感したレイジ。苦境にも強いジョウの事が羨ましく思えてきた。


「強いんだな、ジョウは……」

「でも、お兄ちゃんには敵わないや」

「いや、ハートの話。毎日辛いのに、頑張ってるんだなって」

「これでも僕は、幸せなんだ。お姉ちゃんとお母さんとおじいちゃんと……」


 とても家族を大切にしていることが聞いていて分かる。レイジは、己の親不孝を恨んだ。

 レイジは、言葉に詰まった。というよりは、辛そうな表情を抑えるのに精いっぱいといったところか。



「お兄ちゃん、大丈夫?」

「あぁ……別に問題ないよ。ちょっと疲れが溜まってただけだから」

「だったら、いいけど。それでね……」


 ジョウは、嬉々として家族との思い出を語ってくれた。事細かく、さらに明るく話してくれるので、道中で暗いムードは払拭された。

 山道を進むこと、約一時間。この辺りには夜行性の動物やモンスターが少ないのか、運よく他の生物に遭遇することもなかった。

 ジョウの家は、山奥にある掘っ建て小屋。アイン村にあった家よりも、さらに粗末なものだった。


「お帰り、ジョウ! 随分とボロボロじゃない!」

 ジョウを出迎えてくれたのは、恰幅のいい肝っ玉母ちゃんだった。その服は、ジョウと同じようにボロキレを継ぎ接ぎしている。


「実は、かくかくしかじか……」

 レイジは、ジョウの母親に諸事情を話した。彼が姉の病を治す材料としてトラノイキュービを探していること。

 そして、その過程で、雷に打たれて倒れた木の下敷きになったところを助けたこと。さらに、遅くなったので安全のために送ったこと。


「それで、あなたがジョウと一緒にいた……と」

「はい。ジョウ君は無事に送り届けたので、俺はこれで……。良かったら、これを皆さんで」


 レイジは、ブルヘッドオーの肉以外のすべての食料をジョウ一家に渡した。そして、彼自身は、踵を返そうとした。

 貧しいながらもささやかな幸せがある家庭に対して、厄介になるのが申し訳なく思えてきたのだ。


「ジョウ、明日も来るから」


「あんた、待ちな! うちのジョウを助けてくれたんだ。お礼くらいさせとくれよ」

「いやいや、礼には及びませんよ」

「兄ちゃん、どうせ一人なんだろ? 今晩くらい泊っていきな」


 気の強そうなお母さんの事だ、一度言ったら折れないことだろう。

 お礼をしたいという思いを無下にするのは、もっと気が引けることだった。

 なので、レイジは肝っ玉母さんのお言葉に甘えることに。


「ありがとうございます」

「さ、こんなにいい食材が手に入ったんだ。腕によりをかけて夕食作るわよ!」

 肝っ玉母さん、張り切る。


 レイジは、掘っ建て小屋の中へと入っていった。

 中は、ワンルーム。せんべい布団が四つ、かまどといくつかのランタン以外に目立った物はない。家具も最低限の最低限しか揃っていない。

 雨風さえしのげるのならばそれで充分、といったところか。しかし、壁にも天井にも細かい穴があり、それすらままなっていない。

 一番窓側のせんべい布団では、ジョウが昼間言っていたように姉が病で寝込んでいた。


「……ゴメンね。あんたに心配かけて」

「いいんだ、お姉ちゃん。僕にはレイジのお兄ちゃんがいるから、どんな事だってへっちゃらさ!」


 ジョウは、せんべい布団で寝込んでいる姉の手を取りながら言った。

 彼の姉は、いかにも儚げな少女といった印象だ。手は枝のように細く、そしてわずかに青白い。

 時折せき込む様子が見られることから、容態はかなり重いようだ。


「私は、オーベンと申します。弟が本当に迷惑を……コホッ、コホ」

「迷惑だなんて、とんでもない。どうせ、今は一人なものですから。それより、大丈夫ですか?」

「ええ。時折来るお医者様は、安静にしていれば大丈夫だと」



「ほら、出来たよ! 母ちゃん特製のシチューだよ」


 鍋いっぱいに作られたシチュー、そして大皿に溢れんばかりのブルヘッドオーのローストが並んでいる。

 シチューの優しい匂いと、ローストのスパイスの香りが食欲をそそる。レイジの腹が、雷のごとく鳴った。


「レイジのお兄ちゃん、よっぽどお腹が空いてたんだね」

「そういえば……」

 レイジは、赤面した。


 朝から、マトモな食事をしていなかった。ワークアウトだの、炎の練習だの……そんなことに夢中になっていたのだ。

 いざ緊張の糸が切れると、食欲が堰を切ったようにあふれ出てくる。


「どうせ食べ盛りの年ごろなんだろ。あたしと父さんの分は気にしなくていいから、たんとお食べ!」

「では、いただきます!」


 レイジとジョウは、がっついた。食事は質より量と言わんばかりに、おかわりの乱発。

 食欲がとどまるところを知らない。さすがは食べ盛りだ、とジョウの祖父は二人をほほえましく見ている、



「何から何まで悪いですね」

「イイんだよ! アンタが獲ってくれた食材で、こうして美味しいものが作れるんだから!」


「あ……このシチュー、チーズが入ってる!」

 口いっぱいに広がるチーズのコクと野菜の甘み。ギュトーに勝るとも劣らない料理の腕前。

 レイジとジョウ一家の美味しい夜は続くのであった。




 場所は変わり、シバレーのとある雑居ビルの一角。

 ゲブは、相も変わらずイライラしていた。四日後にディメテル自らレイジ打倒に赴く、という報告が入ったのだ。

 それまでに始末しなければ、また怒鳴られる。それが嫌で頭を抱えているのだが


「……ゲブ様、報告です」

「何だ、ランドか。どうした?」

 ゲブは、キレ気味にランドの報告を聞くことに。


「レイジという男についてですが……精神的ショックで入院していたとのことです」

「していた……。ということは、今の所在は?」

「申し訳ありませんが、レイジだけが何故かこのシバレーにいないのです」


 ゲブは、何も言わずにデスクを強くたたいた。その額には、はち切れんばかりの血管。

 そんな事を聞きたいのではない。レイジを追い詰める妙案、あるいは所在の事を聞きたいのであって、いないことを知りたいわけではない。


「ゲブ様……」

「んだ、つまらねぇ報告しやがって! てめぇはすっこんでろ!」

「一つ提案なのですが、フォードの一味の誰かを餌に、レイジを呼び寄せるというのはいかがでしょう?」


 ここで、ゲブの怒りがいくばくか収まった。鬼神のごとき形相だった顔から、少しばかり力が抜けた。

 要するに、仲間の誰かをさらう、という提案だ。レイジにとって最も影響を及ぼすのは、間違いなくフォードだ。

 しかし、あのレイジを鍛えた手腕からして、その強さは折り紙付きだ。ましてや、相手は軍隊の副将軍まで上り詰めた漢。そう簡単にさらえるとは思えない。


「だとしたら、候補は二人か。どちらも男というのが気がかりだが……」

「それから、精神的ショックで入院していたので、メンタルはかなり追いやられているかと」

「叩くなら、吹っ切れるより先に……ってところか。よし、今なら一味は寝ているはずだ、さっさと実行だ!」


 レイジの知らないところで、ゲブの魔手がフォードの一味に襲い掛からんとしていた……。

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