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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第7章 失意の男たち
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第67話 弱き己を乗り越える Ⅰ

 体力が回復したレイジは、ノートを開いて神経毒に効く植物を探していた。

 その植物の名は、シンパス草。刺々した赤い葉で、その辛さは鷹の爪の十数倍ほどといわれている。

 走りながらシンパス草を探すこと10分。山間を流れる川のほとりに、求める薬草はあった。

 レイジは、その薬草を採取すると、早速口に含んだ。


「うげぇ……辛いッ!」

 漫画のように口から火を吹き出したくなるほどの辛さ。レイジは、身を転がしながら、その辛さに耐えていた。

 それと同時に、いくらか摘んでおけば、スパイスにも使えそうだとも思った。

 手足のしびれや震えが治ったところで、レイジはシンパス草を摘んでバッグに詰めた。


 神経毒を治したところでランニングを再開。ブルヘッドオーに邪魔されたが、残り4キロを難なく突破。

 さらに、筋力のトレーニング。腕立て50回、スクワット50回、V字腹筋50回。

 体のバランスを正すストレッチも欠かせない。立木のポーズ、英雄のポーズ、ジャックナイフ、三日月のポーズ。

 これらまとめて4セットをこなした頃には、とっくに正午を過ぎてしまっていた。


「予定を大幅に過ぎてしまったな……さぁ、急ごう!」


 レイジは、靴ひもを結びなおした。タオルで汗を拭くと、昼食と休憩の時間を削って、いよいよ修業が始まる。

 まずは、適当な木を石で削って的を作る。それから25メートルほど離れて準備は完了。

 これは、比較的遠い対象に“ファイア”を当てる練習である。それと同時に、この距離でも威力を落とさない練習でもある。

 今は、追いつめられている状態でもなければ、心を強く突き動かす熱さがあるわけでもない。そんな中、レイジは一発撃ってみた。


「“ファイア”!」


 右手に炎の球が浮き上がった。野球ボールほどの大きさだ。レイジは、それを的に向けて目いっぱい投げつける。

 風を受けて炎の勢いは増した。しかし、その勢いが失速するのも早かった。15メートルほど飛んだところで、完全に消えてしまった。

 何かの間違いだと思いたかった。たった一発、届かぬ球を投げただけで汗が止まらない。


「……何だか、久しぶりに弱い俺に戻った気がする」

 この結果に、レイジは思わず苦笑い。ビッグマハルで修業を始めたばかりのころに戻った。

 また1から修業し直す必要がある。それ自体は覚悟していたが、いざそうなれば応えるものがあった。


「もう一回、基本からだな……」


 レイジは、この炎のルーツをよく思い出した。この炎は、エルトシャンやマスクドレッドのそれとは異質なもの。

 精神の力を解き放って出される炎。気合、あるいはド根性。ピンチをチャンスに変える火事場の馬鹿力。

 アニキに認められたい、恋したエマを守りたい。ライバルに勝ちたい。そんな思いを胸に、レイジは難敵強敵を打ち破ってきた。

 それが思い出せるのならば……!


「……熱くなれ、俺!」


 レイジは、心を震わせた。その心に滾る思いに比例して、レイジの炎もまた強くなる。

 この胸に秘めたる思いは、たった一つ。弱かった昨日までの自分を超えること。

 レイジは、再び的に向かって炎の球を投げつけた。先ほどよりも熱い想いで撃った一発だったが、やはり20メートルも届かない。

 上手くいかないからと、落ち込む余裕はない。すぐに次の一発を撃ち込むのみ。


 5発、10発……と繰り返してきた。しかし、そのいずれも的に届くことはなかった。

 熱い思いはあるはず。それでも、上手くいかない。何がどうなっているのか、レイジには想像がつかなかった。


「……全く、上手くいかない。どうしたんだ、俺!」

 自分で自分を責めるまでに焦ってしまった。膝をつき、岩場に拳をガンガンと撃ちつけた。

 どうすればいいのか、それさえ見当もつかない。それでも、今はガムシャラに炎を撃つしかなかった。

 何度やっても、ブロール・リーグで見せた炎が出せない。涙が込み上げてくる。


「俺は、アニキや皆がいなきゃダメなのか……?」

 レイジの苦悩は止まらない。あの時も、ライバルがいて倒すという明確な目標に全力を注いできた。

 ところが、今は弱い自分を超えるという全力をもってしても力が出ない状態。

 上手くいかない原因を探っては堂々巡り、袋小路にハマってしまう。頭がパンクしそうになったレイジは、頭を掻きむしった。


「もう、考えたって分からないなら……!」

 悩むくらいなら、動く。レイジは、まだ午後の体力トレーニングをこなしていないことを思い出した。

 先に、そのトレーニングをこなすことを考えた。動けば、またどこかで上手くいかなかった理由にたどり着けるだろう。

 レイジは、走り出した。午後も、午前中にこなしたメニューが待っている。


 気合の炎が上手くコントロールできないことを忘れて、ひたすらに山道を駆け抜けた。

 その途中、落差30メートルほどの滝を見つけた。普通の人なら危ない場所だと思うことだろう。

 しかし、今の彼にとって、これ以上ないパワースポットに思えた。ちょうど、おあつらえ向きに


「アニキは言っていたなぁ……落ち着かないときは“瞑想”だって」

 レイジは、ノースリーブを脱ぎ捨てると、轟々と流れ落ちる滝に打たれた。

 滝行は、日本古来より伝わる精神修業。今のレイジには、うってつけだ。

 肩や頭に、強く打ち付ける水を感じながら、今の落ち着かない気分を消していく。


 滝に打たれることおよそ30分。レイジは、川岸に戻った。目の前の景色がより鮮明に見える気がした。

 今は、非常に落ち着いている。この精神状態ならば、きっとうまくいく。根拠こそないが、何となく自信が湧いてきた。

 レイジは、もう一度的を作って、25メートルほど離れた。滝行の前に比べて、遠くは感じない。


「今なら、やれる! “ファイア”」

 強く自分に暗示をかけた。それから放った一発は、会心の一発。勢いは全く変わることなく、的を射抜いて燃やした。

 成功に喜びたくなる気持ちを抑え、もう一度。心の持ちようで極端に精度が変化するシロモノ、油断はできない。

 10発、また10発……と冷静に撃ち込む。精度も勢いも、レイジなりに納得がいった。



 自信と冷静さを取り戻したところで、レイジは夜営をする場所を求めていた。日は西に傾きつつある。

 ここは大自然の中、安全と思える場所が全くないような状況。さらに、天気は変わりやすい。ここまでずっと晴天だったのが奇跡ともいえるほど。

 レイジは、適当な横穴を見つけた。“ファイア”で周囲を照らし、安全を確認する。


「ここなら、ゴブリンもドンブリンもいなさそうだ」


 横穴は、人が3人寝られる程度の広さ。奥に何かがあるわけでもない。

 人間が休むには、十分に優秀な横穴。レイジは、ここで夜を明かすことを決めた。

 夜営をするうえで必要な物資は、燃料と食料、そして水。燃料は、そこらへんにある木を使えば全く問題はない。水も、少し進んだところに川がある。

 しかし、問題は食料。缶詰が一日分しかない。暗くなる前に、どこかで調達する必要がある。


「さてと……」


 レイジは、この横穴の近くで食料の調達を始めた。人里離れた山奥だけあって、木の実も小動物も数多く生息している。

 木登りさえできてしまえば、木の実の採取には困らなかった。しかし、タンパク質には困った。警戒心の強い小動物相手に、炎では分が悪すぎた。

 しばらく追い回しても、肉を得ることは叶わなかった。そればかりか、急に横殴りの雨が降り始めた。水はけの悪い地面がぬかるむ。


「このまま探すのも危険だな……」


 食料なら、木の実と缶詰でどうにかなる。空腹さえ耐えられるのならば、の話だが。

 レイジは、諦めて拠点に戻ろうとした。その矢先の事だった。近くで、雷が落ちる音がした。レイジは、思わず伏せた。


「だ、誰か……助けて!」

 どこからともなく、助けを呼ぶ声がした。取り戻した力を、使うべきときが来たのだ。

 レイジは、一心不乱に声のする方へと走っていった。雨に打たれながら、泥をはねながら……。

 幾度となく転び、服を泥まみれにしながらも、止まらなかった。いや、止まれなかった。


「おーい!」

 レイジは、叫んだ。


「こっちだよ……」

 かなり、近い。レイジは、トレーニングで疲れ切った体にムチを打った。

 そして、たどり着くころには、肩で息をしているほどに。


「助けに来たぞ……」

「お兄ちゃん、お願いします!」


 助けを求めたのは、10歳くらいの茶髪の少年。雷が樹に落ちて、少年を下敷きにしている。

 レイジは、持ち上げようと踏ん張るが、びくともしない。


「ちょっとだけアツいけど、ガマンしてくれ!」

「うん! 僕、助かるなら何だっていいよ!」


 少年は、少々のダメージを厭わない覚悟だ。ならば、レイジも半端な覚悟で人助けするわけにはいかない。

 気持ちを切り替えるんだ……! この少年を、助けるんだ! その思いが爆発する。


「“ロッソカリバー”!」


 炎が刃となり、倒れた木を一刀両断。一歩間違えれば、少年を殺しかねない選択。しかし、覚悟を決めたからこそ、賭けに出られた。

 レイジは、何度も木を切り裂く。刻んで刻んで、燃やして……そうして細かくして、少年を引っ張り出すことに成功した。

 少年を少し火傷させてしまう結果になったが、背中の傷に比べれば微々たるもの。


「ありがとう、お兄ちゃん! 強くて優しいんだね!」

「強くて優しい……」

 レイジは、少年の言葉を繰り返した後、口元をへの字にした。

 別に強くない、と言おうとしたが、少年の羨望のまなざしが胸に突き刺さった。

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