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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第7章 失意の男たち
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第65話 謙虚になれよ

「……お前、エルトシャンとコイツに何やったんだ?」

 フォードのドスの利いた声。思わず、すくみ上るほどの迫力だ。


「何を……って言われてもね。エル様とケンカ別れした原因がこのイモ野郎にあるって事よ!」

 リーベは、“自分は悪くない”というスタンスを貫くつもりだ。


「確かに、俺はあの日……エルトシャンに突っかかった」


 チェアノの一騎打ち、歴然とした差を見せつけられた勝負だった。あの屈辱があったからこそ、レイジは昨日まで頑張ってこられた。

 しかし、それは彼も同じことだった。レイジからも変わるキッカケを与えていたのだ。昨日久しぶりに手合わせした時は、まるで性格が変わっていたように感じられるほどに。


「あの日があったから、俺は変わろうと頑張った。それは、アイツも同じことだっただろうな」

「あの勝負さえなければ……エル様は私のモノだったのに!」


 嫉妬のこもったリーベの平手打ちは、レイジの右頬にクリーンヒット。しかし、それでものけぞらなかった。

 歯を食いしばり、唸るように息を吐くと、ギリッとリーベを睨んだ。


「なんで、こんな冴えない奴の肩を持ったのよ!」


 答えは分かっている。並々ならぬ執念、勝ち目がなくとも一矢報いてやろうと諦めない強さだ。

 ビッグマハルでは、その心根の強さが炎となり電撃となり出ることを知った。地道な鍛錬を繰り返し、ついには150万の賞金首を倒したのだ。

 しかし、その強さの源を証明するだけの力が、今はない。彼女の言い分はもっともな事であると、レイジ本人もそう思えてならない。


「確かに、俺も不思議だ。だから、リーベがアイツに何かしたとしか思えないんだ」


「……くっ!」

 もう一発ビンタが飛んでくる。しかし、レイジは、彼女のその手をはじいた。

 右手がダメなら脚、とばかりに膝蹴りにシフトしてきた。しかし、レイジはそれも左手ではじいて受け流した。


「それ以上はダメだ。アンタがその気なら、この右手のマグナムが火を噴くぞ」

 さらに、レイジは右手の三本の指でピストルの形を作り、リーベの額にピタリと指先を当てる。

 もちろん、撃つつもりはない。それ以前に、成功するかどうかの保証が全くない状態。フラフ、ハッタリでしか使えない。


「それされると、話したいことも話せないんだけど。その手をどけなさい」

「出来ない相談だ。アンタが正直に白状するまでは、いつだって撃つことが出来るんだ」



「リーベが何をしたのか、よく分かった」

 フォードは、再び腕組みしながらリーベを睨んだ。


「何もしていないわよ! 私が悪くないと何度言わせる気?」


「その腐った性格から、想像できるっての。こんな事だから、エルトシャンに愛想尽かされたんじゃねぇのか」

「さっきから、レイジの事をずっとイモ呼ばわり……。そうやって、人を評価できねぇようなヤツが、超ルーキーを惹きつけられるとでも思ったのか」


 もう、アニキとして我慢がならなかったフォード。

 睨み一つで委縮させられる男の逆鱗に触れた。これ以上、怒らせると何をするか分からない。そう思ったリーベは、観念した。


「分かったわよ、全部話せばいーんでしょ。あの日の夜、アンタの陰口で盛り上がってたの。敵なんだから当然じゃない」

「だろうな」

 フォードは、分かり切っていたような口ぶりだった。


「誰よりも稼ぐ、誰よりも強くある。そのために同業者蹴落とすのが世の常でしょ。男で冒険者なのに、どうしてそんな事が分からないかな?」

「だとしたら、エルトシャンは一人でも強くなれるし稼げるって思ったんだろ。実際、アイツはすごい奴だ……悔しいけどな」


 レイジは、顔を少し歪ませながら言った。まだ、敗戦の悔しさを拭いきれていないようだ。

 別に仲間がいようがいまいが強くなれる。実際、エルトシャンもチェアノのときよりも格段に強かった。まさに、孤高の魔術師だった。

 魔人ルシファーを倒し、さらに政界の要人の警護を請け負うまでになった男。そして、史上46人目となる、天から流星を呼ぶ魔術にも成功している。

 すべては、一人で。すべては、追いつかれたくないライバルのために。他人の悪いところしか見えないリーベには、とても想像力の及ばな領域。


「こんな私を放っておいて、一人で強くなれる? そんなものあり得るわけ……」

「人が変われないとでも……? アンタの思い込みの方があり得ない」

「いつだって、私が正しいの! こんな冴えない男の推測なんて、間違ってるに決まってる!」


 出てくる言葉のほとんどが感情任せだ。とても、普通に会話が出来る状態ではない。

 何が何でもレイジの心を折ろうと躍起になっている。しかし、レイジは冷静沈着。


「アンタのせいで、この私の冒険者生活はどん底だったのよ。何をしてほしいのか、分かるわよね?」

 ここまでくれば、もはや脅迫の域。リーベに余裕の欠片もない。


「いつまでそうやって他人のせいにして生きていくつもりだ?」

 フォードは、分かっているうえで話題を強引に変えにかかった。


「この期に及んで、まだ分からないわけ! それなりの誠意を見せなさい、って話。慰謝料を払いなさい! そして、私たちの傘下に入るの」


 リーベは、声を荒げた。せっかくのセクシーな美女が形無しである。

 それに傲慢を押し通そうとするリーダーでは、組織も脆いことだろう。入る気など、フォードたちにはなかった。

 誰かを加えれば、また空中分解してしまうことだろう。そんな予感しかしない。


「前の俺だったら、素直にそうしただろうな……」

「でしょう? 頭下げて靴舐めてそうな顔だもんね」

 どこまでも失礼な女だ。レイジは、腹が立ちそうなのを耐えた。


「でも、今は違う! こんな理不尽にNOと言えるんだ!」

 レイジの力強い言葉が、逆にリーベをキレさせる。

 断っていいはずがない、断る権利がない。そう呟きながら、彼女は歯ぎしりする。

 さらに彼女に追い打ちをかけんとばかりに、フォードは不敵な笑みを浮かべながら話しかける。


「一つ、お前に問答とシャレ込もうか。エルトシャンとコイツ、本当にカッコいいのはどっちだろうな?」

「アンタたちのようなのがカッコいいとでも? モテるとでも? エルトシャンも結局は人を容赦なく切り捨てられる冷たい男だった!」


 とうとうリーベがナイフを片手に叫びだした。もはや、ヤマンバか何かである。

 あんたを殺して私も死ぬ……刑事ドラマのような緊迫したセリフを吐いたリーベだが、そのナイフの刃先は細かく震えていた。


 フォードは、レイジに目配せした。慈悲はいらない、一思いに撃て……そういう合図だった。

 しかし、レイジは、あまりにも呆れてしまったので“ファイア”の弾丸を撃つ気力が失せてしまった。レイジは、そのまま右腕を下した。

 撃つ意思を見せないことで油断しきったところを、レイジは左の掌底でリーベの腹を強く突いた。リーベは、一瞬で気絶しその場に倒れ込んだ。


「もっと謙虚になれよ」


 レイジは、吐き捨てるように言うと、そのまま女神像を後にした。

 謙虚になる、というのは自分に対しても言い聞かせた事だった。昨日の自分は、実力を過信しすぎていたからだ。

 だからこそ、アドレナリンが止まらない試合だった。だからこそ、大きな壁に真正面からぶつかった。

 そうなれば、やるべきことは一つしかない。早速、レイジは提案する。


「アニキ……少しばかり、時間が欲しい。数日くらい」


 レイジは、自分が今やりたいことをフォードに話した。

 もう一度、あの炎を出すためにも、もう一度修業をしたいという思い。それをエルトシャンのように一人で達成したい思い。

 素直に熱い思いを説明したレイジ。恐る恐るフォードの顔を見上げると、そこには自然に笑うアニキの顔があった。


「いいぜ。それと、ついでにもう一個……アレやってこい!」

「アレ……?」

「そう、アレだぜ!」

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