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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第7章 失意の男たち
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第63話 嵐のような面会

 ブロール・リーグでの一件は、しかとデズモンドカンパニーの面々にも届いていた。

 特に、シバレーにいたディメテルの部下・ゲブは頭を抱えていた。


「しかし、あのオバハン……何としてでもレイジを倒せって、ムチャ過ぎんだろ」


 相手は、自分が敗れたエルトシャンとも十分に張り合える男。その闘志の炎で岩をも融かす瞬間をこの目で見てきた。

 並大抵の事では、真正面から対抗するのでは、まともに勝てるような男ではない。

 ゲブが手をこまねいていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「誰だ! 俺は今、気が立ってんだよ!」

 ゲブは、怒鳴って追い返そうとした。しかし、ドアの向こうは退かなかった。


「ゲブ様、私です……ランドです」

「なんだ、ランドか。入れ!」

「失礼いたします」


 ゲブは、苛立ちながらもランドを部屋に入れた。身長2メートルを超える筋肉ダルマは、並々ならぬトレーニングの証。

 坊主頭で彫りの深い顔立ちと、威圧感たっぷりのランド。しかし、そのイカツイ外見に反して、物腰はとても柔らか。

 ゲブは、太い葉巻に火をつけると、ふんぞり返ったまま煙を勢いよく吐き出した。


「で、どんな要件なんだ?」

「あのレイジという青年について、私も少し調べたのですが……」

「俺もちょうど調べてたとこなんだよ。でも、倒す方法が見つかんねぇでよ……」

「そうではないかと思いまして、このようなものをご用意しました」


 ランドがゲブに手渡したのは、一枚のDVD。ゲブは、早速それを再生した。

 DVDには、今日の昼まで開催されていたブロール・リーグ本戦の映像が一試合残らず収録されていた。

 ゲブは、レイジが出てくるまで早送りで飛ばした。そして、シンバート戦をじっくりと見る。その目つきには、鬼気迫るものがあった。


「何かあるはずだ……奴の弱点!」

 時折巻き戻してはコマ送り。これを何回も繰り返して、隅々まで映像に目を通していた。


「明確に弱点と言えるかは定かではございませんが、“マインドブレイカー”を名乗る彼との勝負で、手こずっていたのがヒントかと」


 シンバートの言葉責め、人格攻撃を受けているレイジは文字通り手も足も出ていなかった。

 しかし、フォードの言葉一つで復活している。レイジの強みも弱みも心根にある、ランドはそのように推測を立てたのだ。


「おそらくですが、このレイジ……フォードの後ろ盾を強みにしています。そして、精神攻撃にかなり弱い事が考えられます」

「あんなにド派手にドンパチやっても、所詮ルーキーはルーキー。まだまだ青二才ってか」


 ランドは、「そういうことになりますね」と小さく返した。ゲブは、もう一度天井を見上げるとタバコの煙を勢いよく吐き出した。

 それからゲブは、したり顔でランドを見つめた。これならば、確実に勝てると確信出来たらしい。ディメテルにヒステリー起こされなくて済むという安堵も見えた。


「弱点がよく分かった。このDVDを心理学者に見せろ! メンタリストをかき集めるんだ!」


「はっ!」

 ランドは、すぐにゲブの部屋から出て行った。




 時を同じくして、レイジのいる病室。

 フォードが気遣って出て行った部屋に一人。様々な思いがもつれ合って、自分でも何を考えているのか、全く分からない。


「今日の自分は、エルトシャンと向き合った俺は、果たしてベストを尽くしたと言えたのだろうか」

「次は負けなければいい、とアニキは言ってくれたけど、明日からどう頑張ろう……」

「世の中は天才ばかりだ……でも、俺には何もない……持たざる者だ。どんなに頑張ったって……」

「何の取り柄もないなら、今から作ればいい? 違う、作れなかったから何の取り柄もないんだ」

「結局、俺は何の成果もあげられなかった。何一つできない無力な人間なんだ」


 ずっと、ぶつぶつと独り言。恐ろしいまでにネガティブになっており、廃人になりかけている。

 まるで、昼間のエルトシャン戦、およびマスクドレッド戦での勢いが八百長であったかのような、そんな落ち込みようだ。

 日本からカルミナに来た直後くらいの、弱気なレイジが戻ってきた。戻ってきてしまった。


「黒飛レイジ様、面会の方です」

 扉の向こうから、看護師の声がする。


「誰も通すなと言ったのに!」

 レイジは、つい声を荒げてしまった。


「それが……どうしても友人が心配だという事で聞いてくれないものですから。もう、すぐ前まで来ています」


 レイジは、舌打ちした。面会はもちろん、報道陣も拒否したはずだった。こんな姿を見られたくなかったのだ。

 それでも会いたい人物は、今の彼には全く想像できなかった。


「マブダチが心配でもお見舞いもさせねぇって、どういうことだよ! 入るぞ!」

「ちょ、ちょっとルベール様! 乱暴なことは……」

「おい、リーダー! 落ち着け! 本人の意思なんだからあきらめろ」


「マブダチが心配で何が悪い? レイジ! お前、大丈夫なんだろうな」

 扉の向こうで、ひと悶着が起こっているようだ。トラブルメーカーの名はルベール。準々決勝で戦ったマスクドレッドの正体だ。

 ルベールは、強引に看護師のバリケードを突破し、レイジの病室に入った。ここまで来られたのなら、レイジも諦めざるを得ない。

 さらに、4人の男女がなだれ込んできた。VFマスク戦隊の面々が揃って会いに来たらしい。


「何の用だよ?」

 レイジは、ケンカ腰で訊いた。


「そうピリピリするなよ。あの後、お前が運ばれたって聞いたからよ……」

「そ、お見舞い! アンタ、うちのルベールとフレンズらしいじゃん!」

 メレは、屈託のない笑顔で言った。彼女の笑顔は、今のレイジにはあまりにも眩しすぎて、見ていられなかった。それほどまでに、彼は落ち込んでいる。


「コレ、みんなで考えて決めたんです。月並みなモノですけど、良かったらどうぞ」

「なんか、ゴメン……」

「そこは“ありがとう”ですよ、レイジさん」


 レイジは、サクラから手渡された紙袋の中を覗き込むように調べた。

 タオルや果物に混じって、アンスリウムの小さな鉢が入っていた。レイジは、それを手に取り、怪訝そうな顔で見つめた。


「その赤い花、なんか情熱的じゃん? アンタやリーダーによく似合うってサクラが言ってたよ」

「ええ。勝負しているときのレイジさん、情熱ですごく輝いていたから……」


「でも、あの勝負のあと、泣きながら気を失ってたらしいじゃねぇか」


 それで励ましにきたらしい。一度は全力をぶつけ合った間柄、ルベールには他人事には思えなかった。

 しかし、全部見られていたかと思うと、レイジは顔を両手で覆った。あまりにも恥ずかしいところを、中継されていたのだ。


「俺のところの馬鹿が迷惑かけてすまなかったな。一度こうと決めたら絶対に折れない性分で……」

 アズールは、苦笑いしながら言った。彼も止めようとしたが、気迫に負けたらしい。


「おい、アズール。バカは余計だろ」

 言われ慣れているのか、ルベールは軽くあしらうように返した。


「で、レイジ。体の方はどうなんだ……って聞くまでもねぇか」

 ルベールは、いくつもある点滴と輸血を見ながら言った。


「近くで大事な人が落ち込んでりゃ、それを励ますってのもマブダチの役割だろ?」

「それはそうかもしれないけど……」


 レイジには分からなかった。日本には、友達と呼べるような相手はいなかった。だから、どう接すればいいのか、よく分からないのだ。

 フォードやアザミのようなちょっと目上のオトナとも違う、完全に横のつながり。フランクに腹を割って話せる間柄なのかもしれない。

 考えれば考えるほど分からなくなり、レイジは頭を掻きむしった。


「こんな時、どう返したらいいんだよ! こんな事されたの初めてだから……」


「心配するな! 俺は、お前が元気になるまで絶対に応援する!」


 根はいい奴なのかもしれない。ただ、あまりにも不器用で実直過ぎるだけで……。レイジは、そんな風に思った。

 ルベールは、レイジの右手を包み込み、強く振った。これが同世代の女の子だったら、おまじないだったかもしれない。しかし、野郎にやられたら、それは乱暴というものである。

 絶対に元気になれよ、入院生活に負けるなよ、などといった事を力強く説いてくるルベール。この圧力は、初めて会ったアニキと同じ……いや、それ以上かもしれない。


「……もういいよ、気持ちだけで十分」

 そうつぶやきながら、レイジは苦虫を噛んだような顔をした。


「いや、まだ足りねぇだろ! おとといは熱さ勝負したけど、今日はお前に俺の情熱をプレゼントしに……」

「病院だってのに、ずっとうるさいぞ。ちょっとは自重しろ、レイジが迷惑がってるだろ」


「励まそうって気持ちは嬉しいけど、今は……」

「かえって惨めになるようで辛くなる……そんなところか。みんな、帰ろう」


 アズールの鶴の一声で、VFマスク戦隊は帰っていった。

 再び一人になったレイジ。掛け布団を頭まで被って、ふて寝した。


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