第62話 ライバル決戦 レイジvsエルトシャン Ⅲ
試合時間50分が経過。決勝戦も、いよいよ大詰めである。
どちらも満身創痍。あと一発食らったら、というところで踏ん張っている。
粘り強い一戦に、タフな勝負に終止符を打とうと、両者ともに急接近。
レイジの右フック、右逆水平ラリアット、左飛び膝、右アームハンマー、右回し蹴り。さらに、気合で左腕を動かして、アッパー。さらに、ムーンサルトキックでエルトシャンに土をつける。
しかし、エルトシャンも黙っていない。“ファイア”二発、“サンダー”四発、五本の真空の刃“ウィンド”で切り刻み、エクスカリバーによる居合切り。さらに、渾身の“フリーズ”でレイジを凍らせる。
ただし、凍らせて動きを止められたのは、ほんの一瞬である。レイジは、左地獄突き、右裏拳、左エルボー、右水平チョップ、右逆水平
ラリアットと反撃。最後に“ロッソカリバー”を大きく振り下ろす。
一歩も譲れないエルトシャン、彼も気合で耐え抜いた。“アクア”の弾丸六発、“ライト”の弾丸十発。最後は砂交じりの竜巻でレイジを吹き飛ばす。
『最後の最後までガチ、判定勝ちなどいらぬとばかりに、互いの力と技がぶつかり合うッ!』
「あの日、君に出会えてよかったよ。天才の肩書に胡坐をかいていた自分に気づけたんだ」
「……試合中にシャラ臭ェこと言うなよ。まだ終わっちゃいないぞ」
勝負は終盤も終盤。エルトシャンは、急に感慨深そうな顔をした。
レイジは、エルトシャンに喝を入れる。負けたくないと決めた目標が最後の最後に気が緩んでいるところなど、見たくもないのだ。
「おおおおおおッ!!」
レイジは、拳の嵐をエルトシャンに叩きつける。
エルトシャンも、負けじと“エクスカリバー”で斬撃の雨をぶつける。
奇跡は信じない。己の力のみで勝利を手に入れる。その思いがシンクロしている。
顔中に、体中にアザと切り傷を作りながらも、攻撃の手が緩まることはない。
お互いに限界まで戦い抜いた。時間も残りわずか。おそらく、次の一手で勝負が決まってしまうことだろう。
「お前を倒すために培ってきた力を……」
「君に追いつかれないために編み出した技を……」
今ここで見せるとき! 二人の思いが、ここでぶつかり合う。
「俺も、奇跡起きやがれなんて、もう言わない! ……奇跡を、起こすんだ!」
レイジの全身から、赤く輝く炎。強く握りこぶしを作りながら、エルトシャンを鋭くにらんでいる。
「“ゼクスカリバー”」
「“クリムゾン・クライシス”!」
六色の剣が、同時にレイジに襲い掛かる。その強力な炎の前では、水も蒸発し、岩も融ける。
炎と風が、レイジの持つ闘志の火力をさらに上げる。どれだけ雷に打たれようと、全くひるむ気配はない。
猛然と突っ込んできたレイジ。その軌跡は溶岩となって、彼の闘志を物語っているようだった。
「この一撃に、すべてをかける!」
レイジは、右手を振り上げた。エルトシャンの顎に灼熱の鉄拳がクリーンヒット。
だが、それと全く同時に、エルトシャンの光の剣が、レイジの右胸を貫いていた。
互いに致命傷となりうる一発。しかし、目の前の敵が倒れないから、踏ん張っている。
試合時間は、残り一分。
「“ツインッ! プラズマァァァァァ”!」
レイジは、今度は両腕に電撃をほとばしらせた。
「次は絶対に成功させる!“スターダスト”!!」
エルトシャンが指を鳴らすと、上空に再び赤い光。しかも、先ほどよりも強く輝いている。
「“ドラグーーンッ”!」
両手首を合わせて、エルトシャンの胸に掌底をぶちかます。
雷が落ちるような音とともに、エルトシャンの全身に激しく火花が散る。
レイジの両腕にもビリビリとくる感触はあった。今までにないほどの威力を、持て得るすべての力を振り絞りたかったのだ。
「ここで全部出して、お前を倒せなきゃ……悔いが残るッ!」
「くっ……ぬおおぉ……!」
エルトシャンは、最後の最後で“エクスカリバー”での悪あがきを見せた。
だが、剣が届く前に、彼は膝をついた。全ての魔力を使い切り、力なくうつぶせに倒れた。
それと同時に、レイジの頭上に直径1メートルほどの隕石が落下した。
闘技場の中央に、レイジと隕石を中心にクレーターが出来上がった。彼もまた、死力を尽くして戦い、倒れて動けない。
ダブルKO、再び。試合終了間際になって、カウントが始まる。
「レイジさん、立ってください……ここさえ立てたら!」
ギュトーの声にも力が入る。
「エル様……起きて!」
「レイジ、気合だ!」
歓声が真っ二つ。どちらが勝ってもおかしくなかった勝負、最後は己が信じる方にエールを送っている。
カウントが9まで進んだ。観客たちが、判定ないし再試合になることを覚悟した時だった。
両者ともに、ふらつきながらも立ち上がった。両者ともに、立つのもやっとの状態。
割れんばかりの声援、惜しみない拍手が二人に贈られた。
あと数秒立っていれば、判定戦にもつれるという展開。にらみ合いが続いた。
レイジの目には、ライバルの姿が霞んで見えた。トランス状態が切れ、全身の痛みが津波のように押し寄せてくる。
カウントダウンは、試合終了を告げるものへと変わっていた。だが、一秒が果てしなく長く感じられる。
『ここで試合が……いや!』
「ガフッ……」
緊張の糸が切れてしまった。レイジは、口から血を吐き出した。
せめて道連れにしようと、エルトシャンの襟を掴もうと手を伸ばした。だが、エルトシャンは、伸ばされた手を振り払った。
レイジは、悔しさで顔を歪ませながら、再び力なく倒れる。
『勝負ありッ! ゆ、優勝は……エルトシャン選手!』
「うおおおおお!!」
エルトシャンは、思わず吠えた。うつむきながらも、右腕を天高く上げた。振り上げた拳に向かって、再び歓声が贈られた。
一方で、レイジは悔しさで胸が張り裂けそうだ。あと、ほんの一瞬だけでも立っていられたなら……悔やんでも悔やみきれなかった。
レイジは、泣きながら気を失っていた。顔は汗と涙と悔しい表情でぐちゃぐちゃ。フォードは、思わず闘技場に駆け寄った。
「……レイジ!」
『フォードの一味のリーダー、フォードが乱入! 何か判定に不服かッ!?』
「……不服なんかあるもんか」
フォードは、心身ともに激しく傷ついたレイジを励ました。
しかし、レイジはショックの大きさから。救急隊員も、すぐに駆け付ける事態だ。
「ふぉ、フォード様……よろしいでしょうか?」
「あと少しだけいいか?」
そう言って、フォードはレイジの傷ついた身体を抱きしめた。
よくやった、お前は頑張った。何度も何度も噛みしめるように語り掛け、今日の試合での活躍ぶりを絶賛した。
アツい抱擁は十数秒ほど続いた。歓喜の裏で熱い絆があった。多くの人は知る由もないが、エルトシャンと救急隊員の目にしっかり焼き付いた事だろう。
「では、フォード様」
「ああ、頼む」
担架で運ばれるレイジの姿は、とても見るに堪えなかった。フォードの励ましも虚しく、より惨めに思ったのだろう。
ライバルを超えられなかった、栄光を掴めなかった。手にしたのは、たった二枚の小切手のみ。
「レイジ……敗戦を嘆くことはないさ。僕は、手を抜かなかった」
エルトシャンは、運ばれていくレイジを横目に見ながらつぶやいた。
ブロール・リーグ、閉幕。優勝はエルトシャン、二千万ルドの獲得。準優勝はレイジ、一千万ルドの獲得。
さらに、ラオルドを倒したその功績が評価されて、エルトシャンは殊勲賞を貰っている。賞金は500万ルド。
敢闘賞は、準々決勝の燃える一戦が評価されて、レイジとマスクドレッドの両名。こちらも賞金が500万ずつ支払われることになった。
かつてないほど、ルーキーが大暴れした今大会。エルトシャン、VFマスク戦隊、並びにフォードの一味の名を一躍世界に広めた。
◆
その日の夜、レイジは見知らぬ天井を見上げていた。無数のチューブがつながれており、包帯が幾重にも巻かれている。
真っ先に思い出したのは、昼間の出来事。エルトシャンに負けたショックで、数時間も気絶していたようだ。
「お、目が覚めたか!」
フォードは、ずっと付きっ切りで看病してくれていたようだ。
「アニキ……俺……」
レイジは、かすれた声でつぶやいた。激闘から数時間たってもなお、泣きたい衝動が収まらない。
あの一戦にすべてを懸けていただけに、そのショックの大きさは他人には計り知れない。フォードは、珍しく言葉に詰まった。
「あんなに毎日頑張って、辛いこともたくさんあった。それでも、アイツには勝てなかった!」
レイジは、目を強く閉じた。その眉間には、くっきりとシワが寄っていた。
「これまでの頑張りって、何だったんだろうな……まだ足りなかったのかな」
矢継ぎ早にレイジはつづけた。あまりのショックで廃人まで一歩手前、そこまで追い込まれていた。
「こんなに辛い思いをするって分かっていたら……!」
レイジは握りこぶしを作った。挫折する未来が分かっていたら、という後悔に変わっていた。
ずっとレイジの言葉を聞いていたフォード。その顔は一気に険しくなった。
「それは違うぞ、レイジ。優勝できなかったけど……アイツに負けちまったけど、敢闘賞をもぎ取ったじゃねぇか!」
「アイツに勝てなきゃ、意味がないんだ! デズモンドの血を少しだけ引いているヤツに負けているようじゃ、俺は……」
「……次、負けなきゃいいだけの話じゃねぇか。過ぎた事悔やんだって仕方ねぇだろ?」
「アニキには、俺の辛さが分からないんだ。闘っていないから……!」
落ち着かない気分をなだめようとしたフォードだったが、結局は逆効果に終わってしまった。
レイジの顔に怒りの相が現れた。喋るたびに語気も強まっている。
もはや、殺気立っているようにすら感じられる、レイジの刺々しい物言い。フォードは、ため息をついて落ち着いた。
「確かに、俺が直接戦ったわけじゃねぇ。今は励ましの言葉が惨めになっちまうのも仕方ねぇな」
フォードは、レイジに背を向けた。
あんなに噛みついていたレイジだったが、今はシュンとなっていた。
アニキに気を遣わせてしまったことを、申し訳なく思ったのだ。
「……ほとぼりが冷めるまでは、一人にしといてやる。気が晴れたら、また呼んでくれ」
そういって、フォードは病室を後にした。




