第61話 ライバル決戦 レイジvsエルトシャン Ⅱ
『レイジ選手、溶岩で体を固められてしまった! 脱出なるか!?』
本日二度目のカウントダウン。10以内に脱出できなければ、その時点でエルトシャンの優勝が決まってしまう。
レイジは、全身にグッと力を込めた。宣言通り、ヒートアップしているようだ。
しかし、無常にもカウントが進んでしまう。レイジの額に冷や汗が浮かぶ。
「レイジ……ここが正念場だぞ。魅せろ、お前の気合の炎!」
弟分への応援歌をバックに、フォードは仁王立ち。かみしめるようにつぶやいた。
「君の魂の炎は、そんなモノじゃないだろう?」
エルトシャンが煽る。レイジの全身にさらに力が入る。
カウントが7まで進んだ。徐々に岩が赤く光始めた。会場が、レイジの放つ熱気で少しずつ暑くなる。
レイジは、天を仰ぎ、目いっぱいの力で吠えた。すると、身体にまとわりついた岩石が砕け、溶岩が周囲に飛び散る。
カウント9からの復帰。諦めかけたファンも多い会場が湧いた。
その気になれば、岩すら融かす。その気合の炎はダテではなかった。
『まさに不撓不屈! レイジの気合が岩をも砕いた!』
「それくらいやってもらわないとね」
エルトシャンは、この結果が当たり前であるかのような口ぶりだ。
レイジの反撃が始まる。エルトシャンに急接近すると、インファイトで猛攻を仕掛ける。
左逆水平ラリアット、右フック、左エルボー、右回し蹴りからさらに回って左横蹴上、左の地獄突き、右アッパー。さらに、雷撃をまとった左のコークスクリュー・ブロー。
とにかく、エルトシャンに攻撃の隙を与えない。その考えのもとでの猛攻。複雑に絡み合った魔法は、考えさせる。レイジとの相性も最悪で、あまりにも厄介なのだ。
「もっと、もっと追撃を……!」
レイジは、力んでいる。左ジャブ、右フック、左回し蹴り、右裏拳、右横蹴上、“ロッソカリバー”逆手持ちの振り上げ。さらに“フレア・グラップ”による巨大な右ストレート。
エルトシャンは、まさに防戦一方。流れはレイジに向かっている。そう思われたが……。
「なるほど。僕に考えさせないために、このラッシュか……。でも、そんな単純なことで僕が倒せるとでも?」
「それは、俺が痛いほどよく分かっている」
この決勝戦まで、エルトシャンはミスターと称されたラオルドを除いて苦戦らしい苦戦をしていない。トリッキーな魔術の前に、名だたる猛者どもが倒れている。
レイジは、エルトシャンのすべての試合を見ていた。研究もした。それでも、変幻自在の魔術の前には苦戦した。
なおもレイジのラッシュは続いた。右ボディーブロー、左膝蹴り、右ローキック、右アッパー、左コークスクリュー・ブロー。さらに、右手で顔面を掴むとそのまま地面に押し倒す。
そのまま、“スパーク”を込めた左掌底を、エルトシャンの心臓に突き付ける。
「がはっ……!」
エルトシャンが、白目をむいて気絶した。レイジは、肩で息をしている。
『レイジ選手、気迫のインファイトでエルトシャン選手をノックダウン!』
三回目のカウントダウン。今度は、選手入場口では担架が控えている。
倒れたエルトシャンを奮起させようと、アリーナの半分側でエルトシャンの応援歌が流れる。
「光の剣で 奇跡起こせ
お前の虹は 栄光のアーチ 絶対勝つぞエルトシャン!」
このまま倒れるヤツではないという信用、カウントよ進んでくれという祈り。
カウントは4まで進んだ。二つが雁字搦めになって、レイジはわけが分からなくなった。
エルトシャンは起き上がらない。そればかりか、心臓の鼓動も息もない状態。
「レイジはん、とうとう……」
カウントが7まで進んだ。アザミは、感極まりそうになった。
「いや、エルトシャンの事だ……まだ、何かあるぞ」
フォードは、神妙な面持ちで倒れたままのエルトシャンを見つめていた。
カウントは残り一つ。10が宣言されたとき、優勝が決まる。
ジタバタしても、どうにもならない。レイジは指を組み、強く目を閉じた。運を天に任せる。
しかし、レイジの勝ちの権利は、虚しく消えた。
カウントが10まで進もうとしたとき、エルトシャンはスッと起き上がった。
『エルトシャン選手、復活! 土壇場でレイジ選手に負けない意地を見せたッ!』
「どうやって、起き上がった?」
レイジは距離を取り、構えながら訊いた。
「雷魔法で心臓マッサージ、風魔法で人工呼吸……それに近いことをやったまで」
心臓と呼吸が止まるほどの衝撃があっても、脳が動いてさえいれば何度でも復活するらしい。
何度でも起き上がり、そのたびに奮起するのは、別にレイジだけの特権ではない。
両者再び見合って、第二ラウンド開始。
「お前が復活して嬉しいような……決着をつけられなくて悔しいような、なんかそんな気分だ」
「その想い、正直に話してくれて嬉しいよ。今度は、こっちの番だ! “エクスカリバー”!」
光の剣が飛んでくる。またしても、レイジの左肩を貫いた。
そう何度も同じ場所を攻められては、レイジの闘争心に火が付くというものである。
「“エクス……”」
「甘いッ!」
再びつきつけられようとした光の剣。レイジは、それを右手で掴んで抑えた。その手のひらからは、血がしたたり落ちる。
レイジは、剣ごとエルトシャンを投げた。しかし、エルトシャンは、すぐに空中で体勢を整えて優雅に着地した。
ここからは、エルトシャンの魔法ショー。ファイア、アクア、サンダー、エクスカリバー、ウィンド。そして、レイジが吹き飛んだ先に、すかさずストーンを落として攻撃。
序盤にレイジが見せたインファイトを、そのままやり返したのである。
「くっ、なかなかやるな……」
レイジは、場外寸前のところで踏ん張った。
「僕だって、ダテに鍛えたわけじゃない。僕の魔術は、まだ真価を見せていないんだよ?」
エルトシャンは、サラサラの虹色ヘアーをかきあげながら言った。
煽られたレイジは、全速力で走った。
「二刀流“ロッソカリバー”!」
「“エクスカリバー”!」
最初のぶつかり合いが、再び。しかし、明らかにレイジの剣を振る速度は上がっている。
両者ともに一歩も譲らぬ剣の応酬。あまりの速さで、観客の目にはレイジの斬る姿が千手観音に見えたことだろう。
エルトシャンも、レイジの猛攻の前に防戦一方。なかなか、攻める手立てきっかけがつかめない。
「まだ真価を見せていない、って言ったな。防ぐだけでいっぱいのくせに、随分とビッグマウスなことで」
「そっちこそ、飛ばしすぎなんじゃないか? 肩で息をしているように見えるよ?」
エルトシャンは、半身を翻すと“ウィンド”でレイジを吹き飛ばした。それも、ただの風ではなく、砂塵と霧を織り交ぜた風。
相変わらず寸前で踏ん張るレイジ。目を開けていられないほどのカオスな風。
それでもレイジは、力強く一歩ずつ踏みしめながら、闘技場の中央を目指した。
ほどなくして、風は穏やかになった。だが、レイジの目には、エルトシャンが何人にも分身したかのように見えた。
「ど、どれが本物なんだ……」
エルトシャンの分身が、レイジを取り囲む。そして、クルクルと走る。
本物を目で追いかけようと、レイジは躍起になった。しかし、エルトシャンの魔手が容赦なく襲い掛かる。
「“ストーン”!」
レイジの足元から岩がせりあがってきた。レイジは、そのまま空中に放り投げられた。
エルトシャンは、追い打ちをかけるように“エクスカリバー”を投げてレイジの腹を貫く。
さらに天から“サンダー”を落として、レイジに大打撃。
『エルトシャン選手、完膚なきまで追いつめる猛攻!』
試合時間は、まもなく30分。レイジの身体は既に傷だらけだった。無数の切り傷、打痕、火傷と見るもおぞましいほど。
それでもレイジの目は死んではいない。レイジは、半袖ジャンパーを脱ぐと、アザミに投げ渡した。
「わっ、またかいな」
「レイジ……お前は今、最高にカッコいいぜ」
フォードは、口角を上げた。
レイジは、ふらつきながらも立ち上がった。相変わらずエルトシャンが何人もいるように見えている状況は変わらない。
破るすべは、既に思いついたようだ。その証拠に、口元の血を拭って不敵な笑みを浮かべていた。
「“クリムゾン・ファイア”!」
レイジは両手を目いっぱいに広げると、身体を大きく一回転させた。
すると、向こうが序盤に見せてきたのと同じような竜巻がレイジを取り囲んだ。
烈火の竜巻に巻き込まれた分身は、消え去ってしまった……。レイジの額には、大粒の汗。
「力技で僕の“フォグマ・ファントム”を破ったのは、君が初めてだ」
吹き飛ばされても、半身を翻して受け身を取ったエルトシャン。レイジの底力に感心していた。
レイジの猛攻は止まらない。炎を拳に込めてひたすらストレート、何度でもストレート、不屈のストレート。
エルトシャンも負けじと魔法で対抗する。炎を吹き飛ばす風、かき消す水、防いでくれる岩。
レイジもヒートアップした。闘技場の床さえ融かしてしまうほどの熱気、再び。
さすがにエルトシャンの持つ水と大地の魔法でも、防御してもしきれない。
アリーナの温度が一気に上昇したことで、やはり倒れる観客が続出する事態となってしまった。
『こ、この熱さと勢い……。天は、この才能を今日まで隠していたというのか!?』
魔法のエネルギーと魂の炎がぶつかり合い、熱気がアリーナには収まりきらない。
マスクドレッド戦の時にも比肩するほどの熱気。いや、それ以上か。
緊急事態で、アリーナの屋根が開いた。上空は曇り空、遠くで雷が鳴った。
「“サンダー”!」
エルトシャンが指を鳴らせば、上空から雷が落ちてきた。
天候をも利用した一撃。レイジは、全身を射抜かれたが、やはり天に向かって叫んで耐え抜いた。
レイジの雄たけびが、このアリーナに雨を降らせた。それでも、心に滾る炎が消えることはない。
雨粒がレイジに当たっては、蒸発していく。
「はああああッ!」
レイジが拳を振り抜いた。
「甘いよ! “アクア”!」
今度こそ水魔法で対抗を目論むエルトシャン。しかし、レイジは手を変えた。
「“スパーク”!」
レイジの左手が、エルトシャンの右手を掴み上げた。電撃が、エルトシャンの体内をめぐる。
しかし、エルトシャンはこれしきの事ではひるまなかった。逆に“サンダー”でお返し。レイジの左腕がビリビリと痺れる。
「か、怪物ルーキーだわ……」
「こりゃ、どっちも引く手あまただろうな」
逆転に次ぐ逆転、観客たちは土砂降りの中で固唾をのんでいた。
右掌底、左ローキック、右ラリアット、右エルボー、右フック、左回し蹴り、右裏拳。レイジは、左手が使えない中でも果敢に攻め抜いた。
しかし、左手が使えない分、バランスをとる事が難しい。そのために、レイジのラッシュは明らかにペースも威力も落ちていた。
エルトシャンが“エクスカリバー”で薙ぎ払うと、レイジは大きく吹き飛ばされた。あわや場外寸前である。
「まさか、それで限界だなんて冷めたこと……」
「心躍る勝負だもんな」
「だったら、君の期待に応えないと失礼に当たるね」
ここでエルトシャンが選んだのは、聖剣よりも一段階上。六色の聖剣・ゼクスカリバーを召還したのだ。
真っ先にレイジを刺したのは、光の剣。次に、上空から雷の剣。
さらに、闘技場の下から突き上げるように大地の剣、レイジの真正面から真空の剣。乱れ飛んでくる斬撃の嵐に晒され、レイジの黒タンクトップもボロボロである。
残るは、水と炎の剣。先に水の剣がレイジを斬ろうとしていた。しかし、レイジは吠えた。
「はあああああッ!」
気合がレイジの周りで爆発すると、水と炎の剣は跡形もなく消えてしまった。
「“フレア・グラップ”!」
両方の拳に火が灯った。あっという間に5メートル級の巨大な炎へと燃え広がった。
その巨大な拳の形をした炎を、レイジはハンマーのように叩きつけた。
『多彩な魔術もなんのその! レイジ選手、力技でねじ伏せた、気合で耐え抜いた! エルトシャン選手、勝利の虹を天に架けられるかッ!?』
少しして煙が消えると、エルトシャンがボロボロながらも余裕ある表情を浮かべて立っていた。
「アリーナの屋根が開いてよかったよ。この状況なら、試せるね」
エルトシャンは、白いコートを脱ぎ捨てて、紫のカットソー姿になった。
「天に虹? 僕が目指すのは、もっと上だ」
エルトシャンは、天を高く指さした。そして、指を鳴らした。すると、上空から赤い光のようなものが現れた。
大技“ゼクスカリバー”でさえも、気合で乗り切ったレイジ。だが、彼は青息吐息。
「まさか、君がここまで食らいついてくるとは思わなかったよ」
「何をしたか知らないが、お前も限界らしいな……こんな光に望みを託すんだからさ」
レイジは、不敵な笑みを浮かべながら上空の赤い光を見据えた。
「奇跡起きやがれ……なんてしみったれた事言うつもりはないし、考える気もないよ。“ロン・フェオン”!」
エルトシャンが指を鳴らせば、緑色の風がレイジに向かって吹きあれた。その風の音はきわめて甲高く、まるで龍が吠えているかのようだった。
さらに、緑色の風が一点に集中すると、龍の姿を形成した。再びエルトシャンが指を鳴らせば、風の龍がレイジに超音速で突っ込んできた。
完全に空中に放り出されたレイジ。このまま吹き飛べば、客席に激突するという状況。レイジは、右手を真後ろに目いっぱい引いた。
「“クリムゾン・ファイア”!」
出しうる限りの炎を出した。再び、ジェット噴射で闘技場の中央に戻る。
そして、ボロキレ同然のタンクトップを破り捨てた。その身体は、まるで今日の勝負を物語るがごとく、生傷でいっぱいだった。
『レイジ選手、ギリギリのギリギリから舞い戻った!』
「随分としつこい……そんな風に思ってるだろ? 俺は、不撓不屈だぞ!」
「君のことだ、何が起こっても不思議じゃないさ」
「成功するかどうかなんて、今は考えない! “スターダスト”!」
エルトシャンは、左手を大きく振り下ろした。
すると、上空にあった赤い光は、少しずつアリーナに向かって近づいているのが見えた。
その正体は、彼の言葉通り“流星”。天よりもはるかに高く広い場所から、このカルミナに向けて落とした流星の魔術。
この2ヶ月で自分よりも優れた魔術師に出会い、伝授してもらった技。しかし、今日までマスターすることは叶わなかった。
成功するかどうかも分からないものに賭けなければならないほどに、彼はライバルを認めているようだ。しかし……。
「……失敗したな」
隕石を降らせる大技だったが、レイジの胸元で燃え尽きてしまった。
相手は、膨大な魔力を消費したらしく、肩で息をしている状態。疲労度で言えば、ほぼ同じ状態か。
「でも、感覚は掴んだ。次は失敗しない……!」
エルトシャンは、握りこぶしを作り悔しそうな顔をした。




