第47話 疼く左肩
レイジは、なおも厳しい修行を繰り返した。メカブリン軍団に続いて、次の日はインボ竜の討伐……5匹で3万4千ルド。
さらに、産業廃棄物の海の中でも生きられる機械“ガシャガシャーク”……1万2千ルド。
少しばかりの休暇を挟んだのち、郊外の館に巣食うフェレス退治……40匹まとめて6千ルド。
摩天楼の頂上に現れた、たばこの煙でできた雲の魔神“シケモスモーク”……12匹まとめて4800ルド。その他もろもろ……。
ブロール・リーグ二次予選開催までに、フォードの一味はメカブリンの件も合わせて、さらに35万6千ルドを稼いだ。
そして、レイジは、ダンジョンタワーの一階、そのロビーに来ていた。
『さぁ、始まりました“ブロール・リーグ”二次予選! 9638の冒険者の中から勝ちぬいた300名、そこにプラスアルファとして特別優秀な成績を収めた冒険者40名を加えての勝負!』
司会は予選から飛ばしまくっている。それこそ、機動武闘伝のような熱く濃いノリである。
レイジは、プラスアルファ側の冒険者だ。同じように、通算報酬額で特別優秀だと判断されたのが39組もいることになる。
他にも30倍という超高倍率を抜けてここに来た連中もいる。レイジは、緊張してきた。
『ルールは簡単、このダンジョンタワーを上った先にあるチケットを手に入れた32名だけが決勝へ進めます』
「……よう、小僧! またまたお手柄なんだって?」
「お前は、あの時の……!」
「そうだぜ、俺たちは泣く子も黙るヴェイルズだぜ。久しぶりだな」
イヤミったらしい顔で、レイジに挨拶するのはヴェイルズのルワ。
ルワは、レイジにじりじりと寄った。ここで厄介な冒険者を一人消してしまいたいのが本音なのだろう。
さらに、初めて会った時と同じように、剣をレイジに突き付けてきた。まだ決戦開始のゴングが鳴っていないのに、これは卑怯である。
「おい、やめねぇか!」
それを見かねた近くの青年が、ルワの剣をキックで振り払った。
真紅のハチマキ、黒と赤を基調とした半袖コートの、変わった服装が特徴の青年だ。茶髪で、さらに一部の前髪を赤く染めているようだ。どこかハデな印象を受ける。
ハデな青年は、VとFの文字をあしらったマークが刻まれたケータイのようなものをポケットから取り出した。それを見せた途端ルワの顔が青ざめた。
「げっ! そ……それは!」
「そうさ。俺は、真紅の炎の王者! ルベール・ヴァ―・ミリオン!」
ルベールと名乗った青年がハデなポーズととも前口上を決めると、なぜか赤い爆炎が上がる。
「ちっ、VFマスク戦隊か! 今は戦略的撤退してやるよ」
ルベール率いるVFマスク戦隊はメンバーが彼を含めて5人。フォードの一味より少し遅い発足ながら、稼いだ額は推定260万ルド。
VFマスク戦隊もまた、優秀な冒険者として一次予選パスの権利があったそうだが、ルベールは実力で上がりたいとのことで一次予選からの参加。
ルベールは、一次予選を首位通過。そのボーナスとして、この大会で既に30万ルドを獲得している。
「お前がフォードの一味、黒飛レイジだろ? 決勝で会おうぜ!」
ルベールは、口角を大きく上げてレイジに握手を求めた。
レイジは、形だけでもと思い、握手を交わした。またしても、ライバル出現。
しかし、レイジにはヴェイルズやVFマスク戦隊の面々よりも気になる挑戦者がいた。
その挑戦者の姿を見たとき、レイジの左肩がうずいた。あれから50日ほどが経っているが、今もなお傷跡は残っている。
全身の血が暴れるように流れる感覚が、レイジを襲った。絶対に負けたくない、負けられない“ヤツ”も来ていることを肌で感じ取っていた。
「アイツも、ここに来ている……!」
忘れない……忘れられない。フォードの一味立ち上げの日の夜のことが、鮮明に思い出された。
アイツに少しでも追いつくために、これ以上離されぬように……そうして鍛えた日々。
アイツもまた、特別優秀な成績を収めている冒険者ということで一次予選を無条件で通過している。
決勝で会いたい人物は、ルワでもルベールでもない、エルトシャンである。
「おい、レイジ! 何、怖気づいてんだ?」
フォードが背中を強くたたいた。別に怖気づいてなんかいないが、
「アニキ……」
レイジは、振り返った。尊敬するアニキは、腕を組んで穏やかな表情を見せていた。
「いいか。今は、俺を信じてちゃだめだ! ここまで頑張ってきたお前の努力を信じろ。出来ないが出来るようになったお前を信じろ!」
そう、この大会はチームの代表一名による戦い。孤高の戦いだ。
チームを背負い、レイジは、この場所に立ったいるのだ。
アイン村で奇跡の生還を果たした時のレイジとは、違う。自信を持って、この二次予選に臨めばいい。
「お前なら、やれる! 俺の弟分だからよ」
フォードは、レイジの両肩を持った。レイジは、力強くうなずいた。
『それでは、皆さん! 準備はよろしいでしょうか!』
実況が、準備を煽ってくる。
「アニキ……応援していてほしい。俺、頑張ってくるよ!」
「おう! しっかりな!」
レイジは、スタート地点へと急いだ。
『さあ、二次予選! 開幕!』
銅鑼の力強い音とともに、冒険者たちが一斉に走り出した。340名をふるいにかけて、32名を選ぶ戦いが今、始まった。
冒険者たちは、まず上へ上へと目指していく。一番を走るのは、当然のようにエルトシャン。スタートダッシュを華麗に決めた。
そのあとを必死に追うのは、VFマスク戦隊のルベール。一次予選は首位。はたして、二次予選も快進撃を遂げられるか。
一方で、レイジは出遅れていた。ヴェイルズ代表・ルワに妨害されたのである。出鼻をくじかれて、今は後ろから数えて20番目くらい。最終グループの真ん中に位置付けられてしまった。
このダンジョンタワー、様々なモンスターが待ち構えている。上がってすぐの二階は、スライムの群れが待ち構えている。
一次予選を突破した連中ならば、倒すこと自体は、まさにへのへのカッパである。しかし、レイジはここで……。
「ぬあああ!!」
『おおっと、レイジ選手! なんと、ここでスライムを思いっきり投げ飛ばす!』
いつか黒飛家で見た野球。そこでライトの選手が魅せたレーザービーム。その真似だった。
辛酸を舐めまくった50日間の成果もあり、スライムはベッタリと前の集団に絡みついた。
気合というより、ヤケクソで投げたスライム。会心の一撃! レイジ選手、ここで一つ前の集団をごぼう抜き。
『さぁ、先頭集団。ここで早くも5階に到達。やはりルベール選手とデッドヒートを演じているのは、エルトシャン選手!』
5階は、ザポネでしか見ることのできないシュテンオーガの根城。それが30体ほど。
目が一つしかない赤鬼が巨大なひょうたんを背負い、金棒を装備している。さらには虎柄のトーガに身を包んでいる。
迫力満点。これを倒さなければ、先へ進むのは困難。先頭集団、ここで足止めを食らう。
「さてと……鮮やかに行かせてもらうよ!」
「抜け駆けなんてズルいぜ! ……変身!」
ルベールは、ガラケーのような変身アイテムを開くと、変身コードを入力した。
すると、まばゆい光に包まれながらルベールは戦闘スーツを身にまとう。
『ここで、ルベール選手が本領を発揮! 変身しなければ倒せないと判断したか!』
現れたのは、赤い戦闘服、VとFをあしらった仮面をまとった戦士。
本当であれば、5人そろって前口上を決めたいところだが、そうも言っていられない。
「ハートが燃え、ソウルがたぎる! 真紅の炎の王者、マスクドレッド!」
マスクドレッドがポーズを決めると、やはり赤い爆炎が彼の後ろで発生する。それによって、周りの面々が吹き飛ぶ。
エルトシャンは、シュテンオーガがマスクドレッドに注目している間に先を越そうとした。しかし……。
「シュテエエエン!」
酔っぱらったような足取りながら、素早くエルトシャンの前に立ちはだかる。
どうやっても、倒さなければならない現実は変わらないらしい。
エルトシャンたち、これをどう切り抜けるか……!




