第46話 雷撃をその手にⅣ
レイジの“スパーク”の特訓を兼ねたメカブリン掃討計画。棍棒ではなく鉄パイプ、そして鉄板を盾として装備している軍団が相手だ。
仲間たちも手伝ってくれるが、それはあくまでも補助。アザミは、ひたすら回復に徹する。ギュトーは、ナイフでメカブリンの肉体部分を斬るしかできない。
レイジに一味のエースとしての自覚を持ってほしい。フォードは、そう思ってレイジに厳しい事を課したのだ。
「くっ……思ったより当たらない」
「拳が遅い! チャージに時間がかかりすぎだ!」
“スパーク”を成功させたといっても、一回撃ちだすのに時間がかかりすぎている。
まず、神経を集中させて火花が青白くなったところで、拳を引く。それから、コークスクリュー・ブローを決めるのだ。
とても、大会で使えない。なので、当たり前のように電気を使えるようにする。これが、このクエストを達成するうえで設定した目的だ。
ワンテンポもツーテンポもかかるような技。その間に1撃2撃食らうこともザラである。
5匹をいなしたところで、早くもレイジの額からうっすら汗が浮かんでいる。
「レイジ、しっかりしろ!」
「分かっている」
慣れない技を主軸に組み立てる、今回の戦闘。千本ファイアの時のことを思い出していた。
もっと素早く撃ちだす。一発撃っただけでへこたれない。ずっと集中を切らさず、レイジは目の前の敵を見据える。
その後も集中力を切らすことなくメカブリンたちを相手取る。時々、間違って“ファイア”を繰り出すこともあった。
もちろん、“ファイア”でどうにかなるような相手ではない。“ファイア”のたびに、アニキからの喝が飛んでくる。
「おい、違うだろ! “スパーク”じゃなきゃ倒せねぇって」
「ぐはっ……」
メカブリンの痛恨の一撃。ロケットパンチが、レイジの腹に命中したのだ。
胃液を吐き出して、レイジがダウンする。ここまで75発の“スパーク”を撃ち、47体のメカブリンを撃破。
それでなくとも、昨日の激しいトレーニングの疲労が残っている。立つのもやっとのこの場面。
右腕がビリビリと痺れる。大粒の汗でシャツが搾れる。ボロボロの中、レイジの瞳の色が変わった。
「……ピンチはチャンス、そうだろ! レイジ!」
「おうよ! 俺はまだ、まだまだ……もっともっとやれる!」
まだ6割近く残っている。全滅させたかったら、あと120発ほどの“スパーク”が必要になってくる。
レイジは、拳を床にぐっと撃ちつけ、その反動で立ち上がった。それから、口元を拭った。
「うおあがあああああ!!」
レイジは、上体を大きくそらしながら吠えた。喉が張り裂けそうな雄たけびは、周りにいたメカブリンを委縮させる。
フォードほどではないが、気迫としては十二分。スイッチが入り、トランス状態だ。
レイジの左足が、バチバチと青白い火花を飛ばす。今なら、蹴りでも“スパーク”が決まるだろう。
「メ、メギャアアアアア!」
強烈な回し蹴りから放たれた稲妻の衝撃が、メカブリンを大きく吹っ飛ばした。近くにいた一匹も、巻き添えを食らう。
追いつめられて、ギアチェンジしたレイジ。“スパーク”の威力も増している。
少々のダメージを気に留めずに、攻撃の手を緩めることなく。一匹、また一匹とメカブリンが鉄くずに変わっていく。
「いいぜ。すげーぞ。サイコーじゃねぇか!」
この頑張りに、フォードは応えたくなった。持ち前の身軽さとパワーでメカブリンを蹴散らしていく。
もちろん、力加減は間違えない。レイジに倒させて、糧としてもらうために、あえてトドメは刺さない。
追いつめられてからの方が、明らかにペースが上がっている。命中精度も、技を出す速さも、最初に比べれば格段に上がっている。
「“スパーク”!」
レイジの身体が赤く染まっている。心が燃えて、体温が上がっている。
使い続けているうちに、腕がしびれそうになる。それこそ、アザミの持つ“キュアー”の回復魔法で追いつかないほど。
それでも気合で耐え抜く。撃ち込むごとに、ダメージを受けるごとに、その“スパーク”の威力は増していく。それに比例するように、反動もまた重くなる。
鉄くずの山を次々に築き上げていくフォードとレイジ。クエストの開始からおよそ6時間。とうとう120匹の討伐に成功した。
ここでようやく、ミノルヴァさんが気絶から立ち直った。ミノルヴァさんは、廃工場の中へと入っていった。
そこで目にしたのは、ポンコツと化したメカブリンの山。そして、ぐったりと大の字に倒れているレイジの姿であった。
「あ、あれ……? いつの間にか終わっている?」
ミノルヴァ、唖然。フォードの気迫で気絶したかと思えば、いつの間にか産業廃棄物が大量に出ていたのだ。
「おうよ! 多分、これで駆除は大体終わったはずだぜ。確かめてみるか?」
「はい。では……」
ミノルヴァは、フォードを連れて工場内を確認することにした。どれだけ探しても、体力の残っているメカブリンはいない。
本当に廃工場内に残っていたメカブリンが全滅していることを知ったミノルヴァは、感嘆のため息をついた。
「ず……随分と早い」
たった四人の一味が、120体はいたであろう機械生物を制圧している。ミノルヴァは、さらに報酬を払いたくなった。財布をコソコソといじった。
そんな彼が知る由もないが、今回のクエストをレイジの育成に当てているのである。その意識の高さも、ミノルヴァからすれば敬意を示すに値する。
「フォードさん、ありがとうございます。これで、この土地も心置きなく売却できます!」
「礼なら、アイツに言ってやってくれよ。今回、一番頑張ったのがアイツだからよ」
フォードは、レイジの方を親指で示した。この勝負で疲れ切ったのか、当のレイジは深い眠りに落ちている。
今回の一件でレイジが放った“スパーク”は、ミスした分も含めて204発。あまりにもタフな戦いだったのだ。
このクエスト、元々は工場を取り壊そうとしていたのだが、市の調査でメカブリンがいることが発覚したのが原因だった。狂暴な魔物がいては取り壊すに取り壊せなかったのだ。
市としても、環境保全だったり再開発を考えている。なので、廃工場が舞台でありながら、20万ルドを超える報酬で依頼されていたのである。
「彼が……ですか」
「せやで。ウチらは、レイジはんのお手伝いをしただけどす」
「これで、この工場も心置きなく取り壊すことができます。ありがとうございます!」
ミノルヴァは、フォードに報酬が入った封筒を手渡して、深々と頭を下げた。
封筒を受け取ったフォードは、21万ルドにしては少し分厚いように感じた。なので、中を確かめることに。
「10……20……。おい、ちょっと多くねぇか?」
1万ルド札が20枚と6枚。このクエストの報酬額は21万ルドのはずだった。
ミノルヴァは、さらに5万ルドを弾んだようだ。
「これは私から、ほんの心遣いでして……」
「そんなの、別に良かったのによ。5万ルドもありゃ、一年間は普通に食っていけるだろうに」
「いいんです。私……女房にも娘にも逃げられましてね。ただただお金を貯め込むだけのあなたといても、と数年前に……」
ミノルヴァは、闇の深そうな事をサラッと言った。
「せやったら、なおさら要るやろ。もしもの時とか……」
「どうせ、私では使いきれない財産ですから。冒険者であるあなた方に使ってもらった方が、このお金たちも喜ぶでしょう」
「そこまで言うんなら、受け取るけどよ……あんまり無理すんなよ」
金は天下の回り物。ただただタンスにため込んでいては、その価値は出ないというものである。
フォードたちは、メカブリン全滅の報酬として21万プラス5万ルドを受け取った。




