第45話 雷撃をその手にⅢ
レイジが初めて“スパーク”を成功させた頃には、すでに日が傾いていた。それでも、モノにするための修練は続いた。
一度成功させたからといって、感覚まで掴めるわけではない。今度は感覚を養えるまで、ひたすら反復。
失敗のち失敗、ときどき成功。こんなことを繰り返して、あっという間に日が暮れる。
20時になった。ほとんどぶっ通しで練習をしたため、レイジの体力がそろそろ限界だった。
「今日は、これくらいにしようぜ!」
フォードは、レイジの体力を気遣って提案した。
「まだ、まだだ! 俺は……」
もう、全身のあちこちが悲鳴をあげている状態。それでも、レイジの心には、滾るものが残っている。
「あまり根詰めても仕方ねぇだろ。休養だって、お前には大事な鍛錬の一つだぜ?」
「アニキが言うなら、今日は……」
ここで、レイジの気力が尽きた。深く寝息を立てながら、ぐっすりと眠ってしまった。
「やっと分かってくれた。てか、寝ちまいやがったか……」
フォードは、困ったような顔をしながら、レイジを背負ってホテルまで運ぶ。
◆
2日目は、郊外に出てクエストの受注。フォードとレイジが汗を流していた間に、アザミたちが炎に強く雷に弱いモンスターをピックアップしてくれていたようだ。
魚系統のモンスターの討伐を何件かピックアップしてくれていたようだが、どれも電撃よりは熱に弱いものばかりである。
やはり、狙い目は機械系の敵。回路をショートさせることができれば、簡単に倒せるだろうという算段である。
それで選んだのが、メカブリン軍団の討伐。どうやら、海岸沿いにある廃工場を根城にしているらしく、政府としても手をこまねいている問題。
討伐報酬は、全滅に限り21万ルド。これほどおいしいクエストは、そうはないだろう。ということで、フォードたちは廃工場へと向かった。
シバレーアリーナ近くのホテルからは、電車で40分。ガレ駅で、依頼者である元工場長と落ち合う。
黄色のメットに緑十字、鼠色のつなぎがよく似合う初老のオジサマ。彼こそが工場長。フォードを見かけるなり、すぐに手をぐっと包み込んだ。
「おお! まさかフォードさん御一行に来ていただけるなんて!」
「いいって事よ。俺たち、修業の一環で来たからよ」
「こ、これを修業の一環ですか! なんと意識の高い一味でしょう」
工場長、感激のあまり号泣。元県議員ばりの嗚咽が、駅構内に響く。
アザミは、目を細め、恥ずかしそうにしていた。
「泣くんはええけど、鼻くらいかみなはれ」
「いやーすみません。私が工場長だった、こういう者でございまして」
申し遅れたといわんばかりに、工場長が名刺を渡してくれた。……まだ声が上ずっていた。
工場長の名前は、ミノルヴァさん。
「で、件の工場というのはどこになるんですか?」
「ああ、そうでした! では、ここからは私の車で」
ここから先は、工場長が所有しているワゴン車での移動。ガレ駅から20分程度の場所だった。
灰色で直方体に近い建物、ケーブルでつながっている無機質な鉄塔の群れの中を進む。いくつも建っている煙突からは、煙の類は一切出ていない。
それにも関わらず、廃工場の空気はよどんでいた。海は黒、ヘドロと工業廃棄物が混じったカオスな水質。生物が棲めるような状態でないのは、明らかだった。
人が健康的に働くには、劣悪な環境になって数年前に捨てられた工場がいくつも並んでいる。地球で声高に叫ばれている環境問題も、カルミナの星ではどこ吹く風である。
「この先の工場だな?」
フォードは、工場から聞こえるわずかな生物の声を感じていた。
「ええ。その先、左手方向にあるのが我々の所有していた工場であります」
ミノルヴァは、1024と書かれた建物の前で停車した。降りたフォードは、赤茶に変色してしまった鉄の扉をゆっくりと開けた。
待ち構えていたのは130センチくらいの赤いメタボな怪物。身体の一部が歯車になっており、金属の装甲を持っている。
メカニカルなゴブリン……だから、メカブリン。そして、鳴き声も……。
「メェカブリリイイイイ!!」
「……なんか、久しぶりに聞いた気がする」
レイジたちは、どこか懐かしさを覚えていた。ゴブリンが“ゴブリン”と鳴くのだから、メカブリンも“メカブリン”と鳴くのだ。
こいつらが捨てられた工場に蔓延っていやがる。早いところ駆逐しなければ、再生計画が頓挫したままなのだ。それだけではない。
それ以上に気になったのは、廃工場の中のニオイだ。明らかに、臭い。それで、ギュトーが察した。
「なるほど、悪臭と海の汚染の原因は、このメカブリンというわけですね」
「ええ、こいつの体臭にはNOXや二酸化硫黄が混じっています」
そして、工業油にも似た成分の排泄物が、そのまま海に垂れ流し。ミノルヴァ曰く、人間が去ったのと時をほぼ同じくしてメカブリンが現れたらしい。
その数は、およそ120体。そのいずれもが、真正面から戦えば頑丈である。昨日の“スパーク”の感覚を掴んでいれば、そこまで難しい相手ではないだろう。
しかし、その数の多さは厄介である。フォードは、深呼吸した。
「よし、お前ら! ちょっとだけ気張れよ」
「……アレですか」
「な、なな……なんでしょうか」
フォードが全身に気を入れると、一昨日と同じように阿修羅のような幻が見えた。例の気迫が、再び。
相手がモンスターであるのなら、少なからず委縮したり逃げ出したりするはずだ。
しかし、効いているのは、比較的近くにいてフォードと視線を合わせたメカブリンぐらいだった。機械と生物の中間のような奴らには、まともに効いていないようだ。
そればかりか、ミノルヴァが泡を吹いて倒れる始末。
「あ、ヤベ……やっちまった」
「もう……アンタ、力加減分かってへんのに」
アザミは、頭を抱えながら呆れていた。フォードは「悪いな」と頭を掻きながら返した。
フォードの一味は、工場の内部へと入っていった。かつて生産ラインを支えていたベルトコンベアは、今はメカブリンのベッドだったり、椅子だったり。
完全に魔物の住処と化していた廃工場。レイジたちは、入口すぐの場所で足止めを食らっていた。
「よし、レイジ! 早速、行こうぜ!」
「……おう!」
レイジは、握りこぶしに青白い火花を散らした。そして、捻りを加えた一発で、一番手近にいたメカブリンをぶっ飛ばす。
雷鳴が工場内に響き渡る。その衝撃は、フォードが出した気迫ほどではないが、周りをビビらせるには十分。
「“スパーク”!」
「メ、メキャ……」
体の一部が機械仕掛けのメカブリンは、ショートしてしまった。
まだまだ数が残っているメカブリンの群れ。レイジの試練が、まだまだ続く……。




