第42話 アニキと阿修羅
レイジが“ブロール・リーグ”に参加する意向を固めたので、一行は決勝が行われるシバレーアリーナに向かうことにした。
スクランブル交差点前のグゴル駅から電車で30分と、比較的近い場所にあった。が、押し合いへし合いになる満員電車での移動は、地獄でしかなかった。
レイジも、この世界・カルミナに来てから初めての満員電車。慣れていたつもりだったが、久しぶりに乗れば悪酔いしてしまった。
会場に着けば、やはり屈強そうな冒険者たちが列をなしていた。もちろん、全員と戦うわけではない。が、緊張感は漂ってくる。
アリーナは、非常に大きかった。それこそ東京ドームよりもキャパがありそうなほど。
順番待ちをすること20分。ようやくフォードの一味に順番が回ってきた。
『冒険者パスをかざしてください』
レイジは、機械の音声案内に言われるがままにパスでタッチした。
『フォードの一味・黒飛レイジ。間違いありませんね』
「うん」
レイジは、機械の前でうなずいた。
『冒険日数、約40日。通算報酬額、推定182万4000ルド。参加資格を満たしていますが、黒飛レイジ様は冒険者として優秀な成績を収められていますので、二次予選からの参加となります』
「二次予選……?」
レイジは、訊いた。
参加者の数が膨大になるため、予選を二回に分けて行う。対戦形式は、二戦とも運営が用意したダンジョンの攻略。その中で他の冒険者たちを蹴散らし、早くクリアした者だけが本戦に出場できる。
しかし、レイジが真に訊きたいのは、予選の形式ではない。なぜ、自分のような人間が一次予選を無条件でパスできたのか、である。
『ビッグマハルでJ・Jを倒し、この速さで100万ルドを超えたためです。これは十分にすごいことであると、主催者側が判断したようです』
ライバルである勇者やエルトシャンが別格なだけで、レイジもレイジで十分に素晴らしいルーキーの一人。通常、冒険者が最初の1年で稼げる額は、頑張っても100万ルドと言われている。
しかし、フォードの一味は、それを大幅に上回るペースで稼いでいたのである。このまま順当よく行けば、一年で2000万ルドになるだろう。
J・Jを倒したその話題性、やはり一次予選で散らすには惜しいのだろう。機械はそのすごさを理解してくれていた。しかし、これを不服に思う冒険談も、少なからずいた。
「よう、ちびすけ。お前みたいなヤツがJ・Jを倒したって?」
「てめぇのような三流が倒せるわけないだろ。大方、新聞社でも買収して記事を書かせたんだろ?」
手続きを済ませ、フォードの一味に因縁をつけてきたのは、紫の弁髪と緑のモヒカン。服装がかなり世紀末だ。
彼らは、ならず者集団として地元でも悪名高いヴェイルズ、そのメンバーである。紫の弁髪が格闘家チャドで、緑のモヒカンが剣士のルワ。
ヴェイルズは、発足から12年で構成員はおよそ30名。通算報酬額は推定400万ルド。エルトシャンや勇者の足元にも及ばない相手だ。
そして、彼らの稼ぎの内容は芳しくない。レイジたちが修業の一環と称して倒したようなモンスターを相手に、それも報酬額を釣り上げて請けている。
ルワは、剣の切っ先をレイジの眉間にピタリとくっつけた。その気になれば、いつでも殺してやると言わんばかりに。
「買収だなんて、やっていない。この手で倒したんだ」
レイジは、握りこぶしを作った。しかし、それがルワの琴線に触れた。
「おいこら、適当な事言ってんじゃねぇぞ! おい! コイツは新聞社を買収してJ・Jを倒したことにしたケチな野郎だ」
ルワは高らかに叫んだ。注目が、一気にレイジたちに向く。
「俺の弟分がどうかしたのか?」
フォードは、穏やかな笑顔を見せながら、ルワたちに詰め寄った。
「てめぇの弟分が新聞社を買収して名声得て、さらに機械をだまして予選をパスしようってんだ! アニキとして、どう落とし前をつける気だ?」
「落とし前か……つける気はねぇよ。ってか、それ……今は危ねぇから、むやみに振るんじゃねぇぞ」
「俺は、本当にJ・Jを倒したんだ」
「嘘はお天道様が見逃さないってママから聞かなかったのかな?」
「そうだぜ、小僧。歴史は編集部で造られるんだろうけどよ……ウソは作れやしねぇんだぜ?」
「ひやはははは。お前ら、笑わせるなよ」
とても聞く耳を持ってくれないヴェイルズの面々。フォードもレイジも、冷静だった。
笑いたければ笑えばいいし、ウソだと思いたきゃ思い込めばいい。それくらい開き直っているからこそ、冷静なのである。
「アンタら……! レイジはんを笑いはったら、ウチが許さへんで」
アザミは、血気盛んに腕を振りかぶる。しかし、フォードは、アザミの前に右腕を伸ばして制止させる。
「落ち着け、アザミ。今、ここでコイツらと張り合う意味がねぇ」
「せ、せやけど……」
「まぁ、見てろって!」
フォードは、息を深く吸い込んだ。それから、ゆっくりと吐き出した。
フォードの目の色が変わった。ヴェイルズを鋭く睨みつけると、辺りの空気がビリビリと震えた。
鬼神のごとき気迫が周囲を圧倒する。レイジも、一瞬だけ意識が吹っ飛びそうになった。
これが、元・レイゾン。これが、元・副将。これが、超ルーキーの冒険団、そのリーダー。
「な、なんなんだ。アイツ……」
「どんなトリックを使いやがった」
「ただの気迫だ。俺に本気で勝ちたいなら、大将か将軍でも連れてこい……!」
レイジの目には、フォードの後ろに、いかつい顔をしながら重火器を持っている阿修羅のようなものが見えた。
目をゴシゴシとこすってから再び見ても、やはり阿修羅が見えるのだ。フォードの気迫が、そのような幻を見せているようだ。
「……すごい」
フォードが今までに見せたことのない気迫に、レイジの口から思わず感嘆の言葉が出てしまった。
今まで身近にいたアニキの背中が、急に遠くなったような気がした。出来ることならあの気迫を習得してみたい、とも思ったレイジであった……。
「あの青年の気迫か……全身の血が逆流するかと思ったぜ」
「ヴェイルズもケンカを売る相手が悪いよ」
「そりゃ、アレを倒した奴の兄貴分だ! とんでもないに決まってるだろ」
なにやら、周りが騒がしい。レイジは、緊張してしまう。これだけの人数の前で注目されるようなことに慣れていないのだ。
「レイジ、胸張れ! 決勝戦は、これよりずっと多い人の前でやることになるんだからよ!」
フォードは、レイジの背中をポンと叩いた。




