第41話 アンリミテッドに挑む前に
「無制限の報酬……依頼主は誰だ?」
レイジが見つけたクエストに、フォードも興味を示した。
「タウォクさん58歳。ロケトパスとかみたいに企業が出してるのでも、J・Jのようなお尋ね者でもないみたい」
そのクエストの見出しには、“うちの息子を外に出してほしい”とあった。依頼主は、50代後半にもなるマダム。
文面によれば、息子であるバハラは、15歳のときから引きこもりになり、もう12年が経とうとしているようだ。
息子であるバハラは、他人と関わることを極度に嫌うのに、最近では親の金を無心するようになってしまったこと。そして、本来はそんな子ではないと信じたい気持ちもつづられていた。
読むだけで数分はかかるほどに、想いが書き連ねてあった。息子のためとあらば、金も惜しまないのも本当のようだ。
最後は、こう締めくくられていた。どんな手段を使っても構いませんので、どうかバハラを外に出して自立させてください。
読み終えたとほぼ同時に、信号が変わった。数万もの歩行者が、思い思いの方向に邁進する。
フォードたちは、ひとまず駅ビルのある方向へと進んでいった。
依頼を読んでいたギュトーは、泣きながらの横断となった。子を思う親の気持ちに、涙腺が耐えられなかったらしい。
「分かります、ダメになった子供を何とかしてやりたい気持ち。無力だからこそ、親がこうして恥を忍んで依頼したと思えば……」
「おい、ギュトー。気持ちは分かるけどよ……さすがに泣きすぎだぜ?」
フォードは、ギュトーの背中をさすった。それでも、ギュトーの嗚咽が止まらない。
「……なんで、ウチらみたいな冒険者に依頼したんやろ?」
「さぁな。大方、外の世界を見てきた俺たちの話を聞かせてやりてぇ……って寸法だろうぜ」
過去にも、何人かの冒険者が依頼を受けているようだ。しかし、誰一人としてバハラを外に出すことはかなわなかったようだ。
無制限の報酬が出るほどの強敵を期待して受注した者も、少なからずいた。しかし、その内容を知るや否やキャンセルされた、とクエストの文面にはあった。
駅ビルの中にあるファストフード店で、このクエストを受けるかどうかの議論がなされた。
レイジは、年老いたタウォクの事を気がかりに思った。しかし、フォードは呆れているような様子だった。
「……言っとくけどよ、これは家族の問題だ。そして、バハラって奴の問題だ。俺たちがどうこう出来るような案件じゃねぇよ」
「アニキ……」
レイジは、言葉に詰まってしまった。
「せやで、レイジはん。アンタがデズモンドを倒す言わはるから、旅をしとるんや。それを忘れたらアカン」
「姐さんまで! 俺とギュトーは……!」
完全に意見が真っ二つ。千本ファイアの最終日と同じように、レイジたちの想いが交錯する。
「よく考えてみろよ。俺たちは、ただの引きこもりを引きずりだすために来たんじゃねぇんだぞ。この先どうなるかは、あの親子の勝手だろ?」
確かに、家庭の問題である。クエストでもなければ、部外者がどうこうする権利も義務もないのである。
しかし、レイジはフォードの物言いに若干の不満を感じていた。それが先ほどは上手く言えなかったのだ。
「そうじゃない。アニキは……俺を助けた日の事を覚えてる?」
「どうしたんだよ、急に」
「世界中の人間が笑って暮らせるために……困っている人は、誰だって助けずにはいられないのがアニキの悪いクセじゃなかったのかよ!」
レイジは、初めて会った日にフォードが言ったことを、そっくりそのまま返した。
フォードは、痛いところを突かれたのか、頭を掻きむしった。
「そう言われちゃ、やらねぇわけにはいかねぇな。ただし……条件が二つある」
フォードは、そう言って左手の親指と人差し指を立てた。これで2を意味しているようだが、日本とは違う指使いだ。
それから、パンフレットのようなものを右手でレイジに出した。
「一つは、この大会だ」
「……何これ?」
レイジは、パンフレットをめくった。“ブロール・リーグ”という名の大会に参加する冒険者を募集するものだった。
出場条件は、通算報酬額が100万ルド以上の冒険団、ただそれだけ。そのメンバーから代表して、一人が参加を許されている。
予選は、シバレーアリーナにたどり着くまでに設けられたダンジョンの攻略。先着32名が本選に出場できる、といった寸法だ。
優勝賞金2000万ルド、準優勝が1000万ルドで、準決勝敗退となっても250万ルド。これだけの報酬を得られたならば、冒険団としてはかなり名誉なこと。
開催は10日後。レイジはこの大会に参加するために、再び修業ということになる。
「この大会にお前が参加して、ベストを尽くしてこい!」
世界各地から猛者が集まるようなこの大会。フォードが言い渡したのは、実質優勝の事である。
これに優勝できるだけの実力を見せてから、バハラ説得に取り掛かることを意味する。
「これに優勝……」
レイジは、ツバを飲み込んだ。フォードは、「お前ならやれる」と言わんばかりに笑った。
「アンタならやれるで。仮にも、100万越えの賞金首を倒した男なんやから!」
アザミも、レイジの背中を押す。
「分かった、やってみるよ!」
「それから、もう一つ。これは単なる魔物討伐とか賞金首、はたまた採集とはワケが全く違うって事を頭に入れることだぜ」
ある程度の名声があれば、それがバハラ説得の足掛かりの一つになるだろう。そう考えたフォードの計算は、果たして正しいのだろうか。
そして、レイジはブロール・リーグに優勝することができるのだろうか……。




