EP2 魔術の合成
「“ファイア”! “ウィンド”!」
エルトシャンは、右手から炎の玉を飛ばした。その直後に左腕を振り抜いて風の刃を繰り出した。
風の刃が炎の玉に追いつくと、炎の玉が爆発を起こした。炎と風を操れるからこそ成せる簡単な芸当。
しかし、ルシファーは涼しげな顔だ。特に驚いた様子も見せない。
「“フレア・マシンガン”」
ルシファーの反撃。右手のマシンガンから、炎の弾丸を雨のように飛ばす。
エルトシャンは、それを華麗なステップを魅せるがごとくかわしていく。
「“アクア”!」
エルトシャンは、炎の弾幕に対し、水の弾丸で対抗することを選んだ。
しかし、その水の弾丸は、爆発を伴いながら水蒸気へと変わっていく。あまりにも炎の温度が高かったようだ。
ならばとばかりに、エルトシャンは“サンドーラ”を唱える。今度は、砂煙で炎をかき消す戦術。
これは、確かに炎の弾幕には効いている。しかし、ルシファーは、翼を大きくはためかせる。
翼の一振り、まさに暴風。砂ぼこりとともに、熱波が押し寄せてくる。
「うおっ!」
エルトシャンは、その風に吹き飛ばされて、背中を岩盤に叩きつけられた。
さらに、ルシファーの豪快な左フックが襲い掛かる。重い一撃。
一度ルシファーにペースを取られてしまえば、そこからは泥沼。銃弾の雨が撃ちつけられ、拳のガトリングが火を噴く。
エルトシャンは、早くも劣勢に立たされた。
「なんという強さだ……」
「たかがニンゲンが……! このハーピー族の魔力を悪用しようと企んだ報いを受けよ!」
エルトシャンは、上には上がいることを初めて痛感した。たかが6色の魔術で粋がっていた自分が恥ずかしくなってきた。
ルシファーの恨みは、深海のごとく深く……。ただただ、自分に酷い事をしたニンゲンを駆逐するためだけに動いている。
魔人の強さもさることながら、殺意も尋常ではない。確かに100万を超える値打ちはある、とエルトシャンは思った。
「くっ! “ウィンド”!」
「ニンゲンがこのハーピーに勝てると思うなよ。“ウィンド”!」
魔力の根競べ。エルトシャンは、簡単に競り負けて吹っ飛んだ。
ルシファーは、追撃のために滑空しながら接近してきた。
「“ストーン”!」
エルトシャンの前に、岩の盾が現れた。しかし、ルシファーは左腕の一振りで粉砕。
右腕をピタリとエルトシャンの胸にくっつけると、ゼロ距離で“フレア・マシンガン”をぶっ放す。
「討伐隊と称して数十ものニンゲンが群れを成しても、この俺を倒せなかった……。たった一匹のニンゲンに何が出来る!」
「君を狂わせること」
エルトシャンは、古びた日誌のことを思い出していた。
「知ったような口を……!」
ルシファーの鉤爪が、エルトシャンの首を掴んだ。
たった一人の人間の欲望、およびそれを実現させるだけの行動力。これらが、ルシファーを魔人に変えたのだ。
エルトシャンは、ルシファーに悟られぬように、こっそり“アクア”で水の弾丸をいくつも出していた。
「カナベラル宇宙開発部……」
エルトシャンは、日誌をルシファーに叩きつけた。これを書き記した人物こそが、全ての元凶だといわんばかりに。
その一言が、拘束を緩めることに成功した。エルトシャンは、そこからスルッと抜け出して、“サンダー”を唱えた。しかし、空振り。
「なぜ、お前がそれを知っているのか。それは、どうでもいい」
ルシファーの左手に、バチバチと火花が飛び散る。さっきのお返しと言わんばかりに、掌底をエルトシャンにぶつける。
胸部にクリーンヒット。エルトシャンは、心臓を抑えながら膝をついた。
さらに、ルシファーお得意の“ウィンド”が襲い掛かる。エルトシャンは、再び岩盤に叩きつけられた。
「……全ては、あの科学者から始まった。俺を絶対に戦わせるために!」
「それで、どこか苦しんでいるようにも見えるわけだ……」
本来、ハーピー族の持つ魔力は、誰かを傷つけるためにあるのではない。誰かの傷を癒すためにある。身体だけでなく、精神も。
しかし、ルシファーの持つ魔力の質と量に魅せられた男が現れた。たった一人のマッドサイエンティストが、それを軍事活用しようとしたのだ。
戦う事を許されない血統と、戦うために改造されたDNAと武器。相反する二つが、ルシファーの体内で暴れ狂っているのだ。
「ニンゲンに何が分かる……! この俺の苦しみが分かってたまるか!」
ルシファーが、右手をエルトシャンに向けてきた。今度も“フレア・マシンガン”が飛んでくると警戒して、さっと左にかわそうとした。
しかし、その魔道兵器はブラフだった。翼の一振りが、再びエルトシャンに襲い掛かった。もう、エルトシャンに残された手立ては一つ。
「“エクスカリバー”!」
光の剣が、ルシファーの左胸を貫く。そして、飛んで行った光の剣は、“アクア”で作った水の玉によって、その軌道を変幻自在に変えてゆく。
そして、再びルシファーを、今度は右の広背筋を打ち抜いた。エルトシャンが、初めてルシファーに当てた一撃。新しい決め技だけあって、その威力はなかなか。
ルシファーは、殺意に満ち満ちた目でエルトシャンを睨んだ。まるで“ニンゲンに傷つけられたのは久しぶり”だと言わんばかりに。
「このルシファーに……ニンゲンの小手先の技はもう通用せんと思え! “サンダーレイン”!」
ルシファーは、手当たり次第に雷をガンガン鳴らす。雷鳴とともに、時々ルシファーが喉を潰す勢いで叫んでいるのが分かった。その額には大粒の汗が浮かんでいる。
雷のコントロールは非常に荒く、とにかく怒りをぶつける事さえできればそれで十分なように見える。エルトシャンは、雷の雨を簡単にかわしていく。
その最中で彼は、この勝負がどちらに転ぼうと、空しい結末にしかならない事を予感した。それ以前に、勝てる見込みが全く立たないのだが。
ルシファーが疲れたところで、エルトシャンの反撃。右手から“アクア”、左手から“サンダー”を繰り出した。しかし、そのどちらも簡単にルシファーには避けられた。
“アクア”で出した水の塊は、“サンダー”によって消えてしまった。ルシファーは、エルトシャンの不出来をあざ笑った。
「ニンゲンの持つ魔術も、所詮はその程度の脆いものだ……簡単にかわせる」
「いや……かわされるのは、計算通りさ!」
エルトシャンは、したり顔。今度は、右手を強く前に突き出して指を鳴らした。
すると、この空間全体を覆いつくすほどの爆発が、二人に襲い掛かった。
エルトシャンも無事では済まされない諸刃の剣。ルシファーを吹き飛ばし、背をつけるには十分な威力。
「な、なにが起こったというのだ……?」
「水を電気分解し、それを着火して爆発させる……名付けて、“ハイドロボム”」
エルトシャンは、口元に付着した血を拭いながら言った。
レイジ相手に“エクスカリバー”を撃ったのと同じように、この技もぶっつけ本番だった。
水と雷、そして火の魔術が使えるエルトシャンだからこそ出来た芸当である。
さらに、“エクスカリバー”の軌道を“アクア”によって屈折させて、ルシファーに命中させるのも成功している。
エルトシャンは、自分の持つ魔術のコンビネーションに、勝利の可能性を見出していた。
6色の魔術を操れるのだから、その応用の幅はルシファーの比ではないはずだ。
「簡単な化学のトリックも織り交ぜた……というわけか。調子に乗るなよ!」
ルシファーは逆上した。エルトシャン、さらなる反撃に出られるか……。




