第37話 一面を飾った漢
「気合だとか仲間だとか……死んでしまえばなくなってしまうようなものに、何の価値がある!」
「そんな事、てめぇのモノサシで決められると思うなよ!」
J・Jの問いかけに、フォードは声を荒げて返した。
答えになっていない返しではあるが、J・Jを怒らせるには十分だった。
J・Jの“ファイア”が、なおも強まっていく。ギュトーの支えだけでは、押されてしまうくらいだ。
「レイジはん。ここはいったん引いて、また隙を……」
「……レイジ君の目は、まだ諦めていないわ! レイジ君、頑張って!!」
エマの声援を背中に受け、レイジは踏ん張る。勢いが少しばかり出たが、やはり劣勢に変わりはない。
片手だけでは、手練れの魔術師が繰り出す全力の炎を押し切るには足りない。
「レイジ、まだテメェは本気じゃねぇだろ?」
フォードは、はにかみながらレイジに言った。ギュトーの後押しがある
もし、右腕が使えるなら……持てるすべての力が発揮できる。J・Jを相手に競り勝つ可能性も高まる。
それを考えたフォードは、強気にそれを提案する。
「今のお前なら、その右腕も動かせるだろ?」
「でも、まだ痺れていて……!」
急な提案に、レイジは戸惑った。“スパーク”の失敗によって、しばらく動かすことができないのだ。
「神経じゃねぇ、気合で動かすんだよ! てめぇの身体中で暴れている、その気合で!」
レイジは、ビリビリと痺れる右腕を強引に動かそうとした。動かせないのが思い込みならば、今こそ思い込みを解くべき瞬間。
だが、その右手は、思うように動いてくれない。だらしなく肩から垂れているだけの役立たずだ。
「君と僕とで、何が違う……? 同じ“ファイア”ではないのか?」
「どうせ最後になるやろからタネ明かしや。アンタの“ファイア”が魔力なら、レイジはんは精神力や!」
エネルギーの一体系である魔力と、それにとらわれない心の力。
誰かの声援が、精神的支柱からの喝が、レイジに力をくれる。J・Jは、そんな特異な彼をこの世で最も恐ろしいと思った。
その気になれば、誰もたどり着けぬ高みへと行けてしまうのだ。
「認めない……認められるものか。心の力など、まさしく虚無ではないか!」
「レイジ君、もうひと踏ん張り!」
エマは、もう一度レイジに声援を送る。右手を一度引き、ありったけの精神力を右手に注ぎ込んだ。
自分は行ける、どこまでも! そう思えば、マヒしていたはずの腕が動いた。気合で動いた右腕は、左手と同じように炎を出した。
ようやく、J・Jの放つ“ファイア”に釣り合った。そればかりか、J・Jの方が疲れを少し見せている。
「うあああああ!!」
レイジは、勢いよく右手を突き出した。さらにもう一段階、心の力が爆発する。
この夜、アイザー国立公園が真昼のように明るく照らし出された。
「君のどこに、そんな力が……!」
J・Jは、レイジが繰り出した一発逆転の業火に巻き込まれ、倒された。
レイジも、持てるすべての精神力を消費したのか、全身が汗と血にまみれている。そのまま、前のめりに倒れこんだ。
「ハァ……ハァ。やった……のか?」
「レイジ、自信持て! お前の力で……お前だけの実力で150万の賞金首を倒したんだぜ!」
フォードは、レイジの前に立ってサムズアップ。レイジも、何とか右腕を上げながらサムズアップで返した。
アザミは、倒れたJ・Jに縄を雁字搦にかけて、捕縛。
「か、確保!」
遠くでJ・Jが倒れたのを確認していた市警が、駆けつけた。。
倒れていたレイジは、出血多量で気を失っていた。救急隊員が、彼の容態を見てすぐに応急処置を施す。
それから、いつの間にかマスコミが戻ってきた。フォードがレイジの右腕を上げると、マスコミから歓声が上がった。
「悪いが、取材は治療を受けてからで頼むぜ」
J・Jに斬られた傷の数々は生々しく。すぐに点滴と輸血のチューブが何本も装着されている。
マスコミへの対応は、フォードが代行。エマたちは、レイジを心配して病院に同行することになった。
◆
J・Jの身柄が確保された翌朝。ディーニタイムスの一面は“16歳の少年、J・Jを倒す”だった。
快楽殺人鬼に果敢に挑み、ボロボロに打ちのめされながらも倒したその功績は、海を超えて報じられることとなった。
レイジは、ディーニ市警から警視総監賞を受けることになった。さらに、元々の懸賞金150万ルドに加え、新聞社からも謝礼金として30万ルド、ビッグマハル政府からも感謝状が渡された。
占めて180万ルドがフォードの一味に支払われた。これまで5ケタで燻っていたように見えた冒険団が、たった一夜にしてミリオネア。
“勇者”キャプテン・オールA、“虹色”のエルトシャンと肩を並べたレイジ。その二つ名は“不撓不屈”。
天井知らずの諦めの悪さが呼び寄せた、奇跡の逆転。この二つ名に相応しい勝利といえるだろう。
とんでもないルーキーが今年は三組もいる。冒険者界隈は活気づいている。それで都合が悪いのがアザミであった。
「アザミ……お前んとこの仲間が大手柄らしいやんけ」
はかま姿の初老の男が、アザミと偶然出くわした。彼こそがミクリア公爵家当主・テンマ。
彼は数日ほど前に、ここビッグマハルに来ていた。アザミらしき人物が、週刊アドベンチャーに載っていたのである。
アザミを探すために、わざわざ公務をキャンセルしてまで来たのである。アザミからすれば、驚きでしかない。
「オトン……なんでそないな事を?」
「あんな新聞買わされたら、嫌でも目につくっちゅーねん!」
ディーニタイムスに載っていた写真の中には、アザミの顔がしっかり映ったものもあった。
そこから類推するに、レイジの治療を待っている間はディーニを離れる事が出来ない。だから、公爵からすれば探す手間は省けたようなものである。
「……力づくでもウチをザポネに帰したいんか? せやったら、ウチはテコでも動かへんで」
「ワレみたいな武士道の欠片もあらへん奴なんかに、公爵家の人間名乗らせられへん。好きにせい!」
連れ帰されると思っていただけに、意外な言葉だった。勘当宣言である。
アザミは、オヤジを強くにらんでから去っていった。その去り際に、テンマは一言だけ掛けた。
「……漢や言うんやったら、一度決めたことくらい最後まで貫けや」
息子に届くかどうかの声量。絶縁宣言を受けたアザミは、怒りを抱えたままレイジのいる病院へとお見舞いに行くのであった……。




