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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第4章 ミリオン超えへの挑戦
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第36話 ヒーローの特権、必要十分条件


「まさか、そんな一撃も出せるなんてね。正直、驚いた……」


 J・Jは、痛恨の一撃を受けた腹部を抑えながら言った。ここで、ようやくレイジが厄介なことを理解したようだ。

 レイジにとっては、未完成の一撃。それでも、今までで最も成功への手ごたえがある一発。


「俺もびっくりした。こんなに強い一撃になるなんてな……」


 右腕には、まだ電気の衝撃が残っている。それでも動かない。

 J・Jは、シヴァを構えてレイジを何度も切りつける。右手が使えない状況、バランス感覚が狂う。

 利き腕ではない左手で“ファイア”を撃っても、狙いが上手く定まらない。

 J・Jは、レイジの右腕に妖刀シヴァを深く突き立てた。


「その煩わしい魔力を封じてあげよう! “ドレイン”!」


 タイガーゴイルが使ってきた魔術。相手の魔力を吸い上げる技だ。

 レイジは、妖刀シヴァが刺さっていることだけに痛みを感じている。


 さらに、J・Jからの追撃。レイジは、左腕一本で妖刀シヴァの猛攻を耐え抜く。左腕も赤く染まる。

 、J・Jの猛攻はナイフだけではない。強烈な膝蹴りがレイジの腹に襲い掛かる。

 レイジは、胃液を吐き出して、腹を抱えてうずくまる。それでも、レイジは“ファイア”を繰り出した。

 マッチの炎ほどの大きさだったが、J・Jを驚かせるには十分。


「魔力を吸えない……だと?」


「レイジはんの魔法は、ちょっとしたトリックがあんねや!」


 アザミ、ドヤ顔。ちょっとどころではないのだ、変化球どころか魔球である。

 J・Jは、レイジではなく再びエマに切り替えてきた。エマの眼前まで妖刀シヴァが迫った時……!

 


「エマさん!」


 レイジは、エマを抱えてJ・Jの魔の手から逃がした。

 フォードのようにカッコよく……とはいかないものの、彼女が傷つかないならそれで十分だった。


「ありがとう、レイジ君」



「随分としぶといね、醜くて仕方がない。どうせ、君は死にかけのドブネズミなのだから潔く死ねばいいのに……」


「……日本じゃ、ドブネズミは美しいんだぞ。そんなことも知らないのか?」


 なぜ、レイジがそんな事を知っているのか、それは誰にもわからない。本人も親戚から聞いたくらいの話である。

 J・Jは、そのフワフワしたレイジの持論が理解できずに、首を傾げていた。初めて聞かされたフォードたちもしかり。


「ドブネズミが綺麗かどうかなんて、どうでもいい。ただ……僕は、君を殺したくなった」


 J・Jが、レイジの目を見て言った。何が何でも屈服させたくなったのだ。

 ネクロフィリアである彼が、死ぬよりも辛い屈辱を与えてやろうと、サディストになる。

 突き立てたり斬ったりではない。皮を剥ぐような一撃に切り替えつつある。


「魔力を封じる呪文……“フェン”!」


 J・Jの左手から、黒紫色の糸のようなものが無数に表れた。無数の細い糸が、レイジに複雑に絡みつく。

 動きを拘束するだけでなく、絡んだ相手の魔力の流れを止める闇の魔術。普通の魔術師になら、大いに効果を発揮するこの呪文。

 しかし、レイジは、左手から炎を出して糸をたやすく焼き切った。

 J・Jの目線からすれば、先ほどから理不尽な事が起こっている。このような少年に、J・Jが操るよりも高等な魔法が使えているとは思えない。その思い込みが、焦りを生む。


「なぜ“ドレイン”も“フェン”も効かない……! どっちも魔術師には効くはずだ」


「……俺の魔術は、一味違うからだ。そんなチャチな魔術で俺の炎が封じられると思ったら、大間違いだッ!!」


 レイジは、ノドから血が出るほどに叫んだ。すでに、身体は限界だった。


「アニキ……アレを頼む!」


「……アレか。いいぜ!」

 レイジが歯を食いしばったのを確認してから、フォードは右頬を強くビンタした。

 魂をも揺さぶる一撃。左頬いっぱいに紅葉。しかし、レイジは、これでは足りないとでも言いたげな顔だった。


「だったら、私からも! ……頑張ってね」

 左頬は、エマが。


 二人から闘魂注入を受けたレイジは、両手の拳をぐっと握りしめた。

 J・Jから見れば、ただの仲間割れに見えたことだろう。しかし、レイジは気合を回復させていた。

 彼の出す炎は、稲妻は、精神の力に由来する。彼の身体には、魔力が一ミリも流れていない。したがって、魔力を吸収したり、魔力の流れを封印したりといった類の技が全く効かないのだ。

 心の力さえあれば、使える。彼の技の特異性を利用した、変わった力の回復方法である。


「自分を追い詰めて何になるのかな? まさか、逆境に強いとでも言いたいのかい?」


「ああ、そうだ! 俺は、絶対に退かない! お前とは、一騎打ちで……そう決めたからには貫く!」


 レイジは、もう一度“ファイア”を撃った。弱くなりつつあった一撃に、キレが戻った。

 J・Jの頬をかすめる。その仮面が焼けるよりも前に、彼は仮面を外した。

 30代半ばだろうか。肌の張りも失いつつある塩顔が、その素顔だった。


「あの顔……新聞に載ってたんと一緒や」


「敵が強ければ強いほど、ピンチであればあるほど……俺は一段階上に行ける!」


「一発逆転、不撓不屈……ヒーローの特権振りかざして、何になるんだ」


「お前のような凶悪犯が倒せる……!」


 レイジは、満身創痍。さらに怒りが爆発している。自然と彼の周りには炎が燃えていた。

 相変わらず右腕がマヒしている状態。にもかかわらず、フォードとのケンカで見せたとき以上の火力が出ている。



「……“レッド・クライシス”!」


 レイジは、灼熱のオーラをまといながらJ・Jに急接近。自分でも驚くほどの速さだった。身体のリミットが少し外れているのだ。

 しかし、それに伴う痛みは全く感じない。彼の頭はJ・Jに対する怒りでいっぱいで、トランスしているも同然の状態だった。

 そのスピードだけで言えば、J・Jに勝るとも劣らない。しかし、小回りが利いていない。


「熱くなって変身……またヒーローの特権かい。煩わしい」

 J・Jは眉間にシワを作りながら言った。


「特権でもなんでもねぇぞ。ただ大事な人のためだけを思って動ける……それだけが、ヒーローの必要十分条件だぜ!」


「それが生きる者の美学だというのなら、僕は切り捨てる。君と同じ呪文でねじ伏せてくれる! “ファイア”!」


 J・Jは、両手を前に突き出して、灼熱の炎をレイジに向けて飛ばした。数メートルほどの高さまで燃え上がる炎だ。

 レイジも応戦しようと、左手だけを突き出して“ファイア”で対抗する。これまでにないほどの熱を相手にぶつけるのだ。

 威力が明らかに違う。レイジが踏ん張り切れずに押されている。



「これはマズいですね。明らかにレイジさんが競り負けています!」

 ギュトーが、レイジの背中を支える。レイジの全身が灼熱のオーラに包まれているため、火傷は避けられない。しかし、そんなことは二の次。

 彼が背中を押して踏ん張らせたところで、レイジが競り負けている現実は変わらない。


「ありがとう、ギュトー!」


「アカン……レイジはんの方が負けとる!」


 “レッド・クライシス”で全力を出しているレイジ。J・Jに焼き尽くされる前に、彼は勝てるのだろうか……。


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