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漢気!ド根性ハーツ ~気合と絆こそが俺の魔法だ!~  作者: 檻牛 無法
第4章 ミリオン超えへの挑戦
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第35話 ネクロフィリア

「来い、J・J……! そのチェーンソー、鉄くずにしてやる!」


 J・Jがチェーンソーを構えながら、走ってくる。レイジは、逃げずにJ・Jを正面に捉えた。

 両手にともした炎を重ね合わせる。炎が一気に広がり、熱波を巻き起こす。レイジは叫びながら、その灼熱をぶつける。

 レイジの渾身の一撃、漢気溢れる言葉は空振り。

 逆に、チェーンソーが脇腹を斬っていく。あまりの痛みに、レイジはのたうち回る。

 転がりながらも、チェーンソーをかわす。どんなに泥臭い結果になろうと足掻いているレイジを、J・Jは見下していた。


「憎い……醜い。その限りある生に執着しようとする、その意地汚さが……!」


 J・Jが声を荒げている。彼からすれば、レイジの事がゾンビに見えたことだろう。深い傷を負わせてもなお、しぶとく生きているのだから。

 レイジは、痛みを堪えながら、荒くなった息を交えながら、J・Jに反論する。


「意地汚くても構わない。泥をすすって、雑草食ってでも……全力で今を生きられるなら!」


「そんなに生きることに躍起になって……とても正視に堪えない」


 J・Jのチェーンソーが、レイジの左太ももに当たる。レイジは、ひざまずいてしまった。

 その隙を狙って、J・Jの刃がエマに襲い掛かろうとしていた。フォードは、チェーンソーのエンジン部分を狙って膝蹴りを一発。

 直撃を避けることはできた。が、エマの右頬にかすり傷。せっかくの美人が台無しである。


「アニキ、ありがとう……。エマさん……すまない!」


 レイジは、立ちあがった。そして、申し訳なさそうに謝った。


「惚れた女を傷つけさせるたぁ……レイジ! おめぇは紳士じゃねぇ!」


 フォードは、レイジの情けなさを怒った。

 先ほどもJ・Jに言われたばかりだった。守りたければ、油断をするな……と。

 レイジは、己を戒め、もう一度J・Jの目の前に立ちはだかる。


「俺には、生きる理由がある。アイン村の無念を晴らすため。ライバルに負けないため。何より、昨日までの自分を超えるため……!」


「昨日の自分を超えて、今日より明日。そうして日々を重ねて、人生最後の日が最高でした……。その考えは素晴らしい。でも、その次の日は?」

 J・Jは、イヤミったらしく訊いてきた。


「明日は野となれ山となれ! 俺たちは、一瞬一瞬を強く生きているんだよ!」


「答えになっていないね。ならば、せめて……見届け人として、お望みどおり最期くらい輝かせてあげよう」


 もう一度、チェーンソーがうなりを上げる。一度でも当たろうものなら、致命傷は不可避。

 レイジは、常にギリギリのところでかわしている。さらに、いつでも反撃に打って出られるように、右手には常に炎。

 しかし、J・Jは、まともにレイジの相手をするつもりがない。時々エマに狙いを切り替えている。


「“ファイア”!」


 そのたびに、レイジはファイアを撃って気を引く。不意打ちも同然であるが、J・Jにまともに攻撃しようと思えば、それくらいしかなかった。

 しかし、J・Jからの反撃も重たい。チェーンソーがかすっただけで、皮膚が抉られていくのである。

 レイジ、劣勢。とても重いものを振っているとは思えないほどのスピード。そこに、圧倒的な殺傷力が加わる。

 そんなものをエマに向けられれば……。それは、レイジにとって自分が傷つく以上に恐ろしいことだ。


「俺の相手を……しやがれっ!!」


 チェーンソーの刃に、レイジの渾身の“ファイア”が命中した。いつかアニキの目の前で見せたのと同じくらいの威力。

 刃を融かすくらいに熱く、チェーンは容易に焼き切れてしまった。J・Jは、そのチェーンソーを投げ飛ばした。

 使い物にならなくなってしまったチェーンソーは、爆発した。中に入っていた魔力油が急激な温度上昇で発火したのだ。


「あーあ、僕の得物だったのになぁ」


 J・Jは、棒読みで言った。それから、刃渡り30センチほどのナイフを取り出した。その刃は、ガーネットのような質感で、不気味に輝いて見えた。

 チェーンソーの次は、不気味なナイフ。そして、重い武器を捨てたことで、J・Jの動きが軽やかに。

 レイジは、エマを背中で守りながらJ・Jのナイフを受け止める。より、防戦一方の展開を強いられる。


「このナイフは、短いけど妖刀だ。妖刀〝シヴァ”は、人の血を求め暴れる。ザポネの迷刀だ」


 J・Jが言うように、妖刀は軽くて短いが、ときどき妖刀に振られている。まるで、シヴァ自身が意思を持っているかのようだ。

 彼がエマを狙いたくても、シヴァは既に出血の多いレイジの方を狙いたがっている。

 これでは目的が達成できないと判断したJ・Jは、時間稼ぎを兼ねて身の上話をすることにした。


「……少しばかり、話をしよう。僕の事をただの殺人犯だと思っている、愚かな君に」


「なぜ、そんなことを……!」


「そう、いきり立つ前に話を聞いてくれ。僕はね……介護福祉士から葬儀屋に転職したんだ。そして、医者にもなった。今はサボり魔の刑務官、ときどき殺人鬼だけどね。……なぜだか、分かるかい?」


「どういうことだよ?」


「どれも、人の最期に立ち会えるじゃないか」


「……あんた、さてはネクロフィリアやね?」


 アザミの問いかけに、「ご名答」とJ・Jは嬉しそうに返した。

 人の死に興奮する趣向の持ち主。レイジは、この男の猟奇性を垣間見て、震えた。


 このJ・Jという男、あまりにも歪んだフェチの持ち主である。人間、最期が一番美しい。そんな思想のもとに、快楽殺人を繰り返していたのだ。

 J・Jは、度重なる医療ミスで世間からのバッシングを受けた。裁判で見事に事故だったと主張して、無罪を勝ち取っているのだ。


「そうさ、人間の死に際がたまらなく好きなのさ。新聞で何回も医療ミスが取り上げられていたらしいけど……アレは、敢えてそうした」


 J・Jは、語る……。

 すべては、己の欲望を満たすため。現在の職である刑務官に就いたのも、人を斬る快感を忘れられないため。


 医療ミスは、己のイズムを達成するため。そればかりか、介護時代は老人を虐待して死亡させたとして、責任を追及されている。

 だが、その時の裁判では「心神喪失による責任能力の欠如」を理由に無罪を勝ち取っていた。無論、これは演技だった。

 介護の世界ではブラックリスト。とても医者のライセンスも取れそうになかったが、裏金で免許を買ったのだ。それも、偽名で。


 何度も名前と経歴を変え、人の命に携わる職を転々としている。

 この男だけは、絶対に医療の現場に……いや、人間社会に溶け込ませてはならない存在だ。


「そんなに人間の最期が好きなんやったら、デスマスクでもいかがどす?」


 アザミは、能面のようなものを投げつけた。しかし、J・Jは、要らぬとばかりに一刀両断。


「そこの殿方、あなたは分かっていない。生物の最期だからこそ美しい。永久保存できるようなものに、興味はない。最期を迎えた身体が骸に変わる。これこそ芸術だ」


「それと……僕は極端なサディストでね。死に様の悲痛な声がたまらなく愛おしいんだ。断末魔こそ、世界で最も美しい歌だ」



 介護も葬儀も医療も、人の命に携わる仕事。最期に立ち会う可能性があるというだけで、J・Jには魅力的な職だった。

 どこまでも狡猾。どこまでも自分勝手。そんなJ・Jに、レイジの怒りが止まらない。


「人の命を何だと思っている! 罪もない人間を次から次へと……!」


「そうさ……狙っているのは罪も穢れもない人間だけだ。それが、どうしたというのだ?」


 J・Jは、開き直っていた。お前たちから見て、この思想のどこが悪いというのだ……そう煽るように言っている。

 レイジは、今、初めて本物の凶悪犯と戦っている。刑事ドラマの二時間SPでしか見たことのないような、そんな悪党だ。


「人間、誰だって最期は無機物だけになる! 故人の記憶も思い出も何も残らない。その無常感にケチをつけるというのかい?」


「ぐっ……!」


 レイジの背中に、電流が走った。根拠は全くなかったが、今なら成功させられる自信がある。

 オレンジギガント戦を皮切りに、何度か試していた新しい必殺技“スパーク”。今まで一度たりとも成功したことがない。

 しかし……雷にでも撃たれたかのように、全身を貫くこの感覚! 体がはち切れそうな怒りがあれば……!


「こんの……クソ野郎おおおおお!!」


 轟雷……叫喚!!

 レイジは、青白い火花を散らした右手で殴った。コークスクリュー・ブローの捻りとともに、イナズマの衝撃が白い鉄面皮に炸裂する。

 ようやく成功したかに思えた“スパーク”。しかし、レイジの右腕は、最初に受けた傷の影響に加え、ビリビリと痺れて動かない。


「せ、成功しとる……! アンタ、この土壇場で!」

 アザミは、両手でガッツポーズしながら喜んだ。


「いや、失敗だ。奴がノックダウンしてねぇ!」


 フォードは、険しい表情でレイジを見据える。未完成にもかかわらず、怒りに任せて撃った一発だったのだ。

 レイジは、左手しか使えない状況。自分の技で自滅して、追いつめられた。

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