第31話 巨人に轟け!新たなるキアイの形!
オレンジギガントの猛烈なパワーを受ければ、無事では済まされないという状況のなかで、レイジは新たな試みを提案してきた。
並大抵の炎が効かず、その筋肉質な体格が弾丸をはじく。ナイフが刺さっていても、どこ吹く風。
「試したいこと……ですか?」
「“スパーク”をやるんだ……!」
ここに来て、レイジは電撃という新しい選択肢を出した。ファウストの家では、一度たりとも練習したことのないものだ。
「電気かいな。精神エネルギーを持つアンタなら出来るやろうけど、ここでやる事ちゃうで!」
レイジの持つ魔法は、精神力に強く依存する。その精神エネルギーを電気に変換できれば、スパークもできるだろう。
しかし、理屈上は簡単でも、それを実行に移すのは難しい。つい一カ月ほど前までは、魔法のマの字も知らなかったようなヒヨッコだ。
そもそも、レイジは炎のコントロールでさえ、ときどき効かないこともある。そんな状況下で、雷のコントロールをぶっつけ本番でやるには、あまりにもムチャだ。
アザミは、ここでは賛成できなかった。また、あの日のように千本スパークをこなしてからでなければ、実践投入は不可能だ……そう思っていた。
しかし、フォードは、賛成だった。わずかでも現状を打破できるなら、それに賭けたい状況だった。
「レイジ、やるからには必ずモノにするぞ!」
絶体絶命の状況の中、レイジの試練が始まった。
『ぎがああああ!!』
オレンジギガントが、左腕で木を薙ぎ払った。今は、とにかく逃げるしかない。とても、レイジの新技を試せるような状況ではない。
逃げながら、ギュトーはフォードと方針について話し合っていた。
「フォードさん、あなたなら弱点をどこと捉えますか?」
「巨大な一つ目……と言いたいところだが、行動が読めなくなっちまうのが辛いところだな」
「そもそも届くわけあらへん。せやから関節から攻めてたんとちゃうの?」
「いや、届くさ。ギュトー、一本借りていいか?」
「いいですよ」
フォードは、ギュトーから牛刀を借りると、軽い身のこなしで木の枝に飛び移った。枝から枝へ、跳ねるように進んでいく。
オレンジギガントと距離を一気に詰めたフォードは、その縦に長い耳を狙う。そのために、ヤツの右肩に飛び乗った。
ウサギのような両耳をつかむと、素早く耳を斬った。
「次は……やっぱりここだな!」
今度は、肩を斬る。のこぎりのように、何度も刃を往復させ、ズブリと肩の肉を切っていく。
オレンジギガントが暴れ出したところで、フォードは肩甲骨を強く蹴って逃げた。
さらに、バランスを崩したオレンジギガントの膝裏から折れたマチェットを強引に引き抜く。
「ぎがああああ!!」
「アンタ、それ出来るんやったら、最初からやらんかいな!」
アザミは呆れていた。
「あくまでも、お膳立てだよ! コイツの新しい必殺技のよォ!」
オレンジギガントから一回逃げた理由は、レイジが集中するための時間稼ぎだった。
フォードが足止めしたのも、それが一番の理由だった。そもそも、タイガーゴイルのときから、彼はレイジの成長のために戦っているようなものだった。
レイジは、心をいったん落ち着かせた。いつものように、高ぶる心では炎にしかならない。
火花を飛ばすイメージ。ここから発展させていく。しかし、イメージを集中させても、手が熱くなる一方。
「思い出せ……思い出すんだ。アイツの“サンダー”を」
レイジは、つぶやきながら思い出していた。アレは、チェアノの浜辺での事だ。
エルトシャンと戦った時に受けた、雷の数々。その屈辱、その痛みは、今もなお覚えている。
体に染みたイナズマの衝撃を、目の前の敵にぶつけるのみ。
「いける! “スパーク”!」
一瞬だけ、バチっと鋭い音がした。
しかし、オレンジギガントが怯むまでには至らない。しかし、レイジの方は逆にしびれてしまったようだ。
オレンジギガントは、拳を振りかぶった。フォードは、とっさに飛び込んで、しびれて動けないレイジを抱えて逃げた。
「し……痺れた」
「危ねぇ、レイジ!」
「うう……すまない」
結局、レイジの目論見は失敗に終わった。しかし、フォードが怒ることも呆れることもなかった。
新たな試みは、最初は上手くいかなくて然るべきなのである。確かな手ごたえさえあれば、それで充分である。
また地道に修業をすればいい。レイジは、そのように考えた。しかし、フォードは諦めたつもりはないようだ。絶対にオレンジギガント戦でモノにさせてやろうと息巻いている。
「逆に自分が痺れたっつーことは、今度こそイケるぜ。また隙を作ってやるから、もう一発ぶちかませ!」
レイジは、うなずいた。試すと決めたからには、とことん試したい。
「せやったら、ウチも助けなあかんやないの。“フリーズ”!」
アザミも、呆れながらレイジへの助力を惜しまない。敵を凍てつかせる魔術で応戦。
筋肉ダルマは、逆に言えば“冷え”には弱い。みるみるうちに、オレンジギガントの動きが鈍っていく。血の巡りが極端に悪くなって行っているのだ。
この鈍っていく様子こそが、レイジが“スパーク”で成功させたかったことである。神経をマヒさせて、身体の自由を奪う。
「ぎがああああ!!」
オレンジギガントは、全身を震わせた。体温を上げてきたのである。並みの人間の持つ“フリーズ”程度では、また動けてしまう。
勇者が一刀両断したのだから、あまり強くはないだろう。そう計算していたレイジ、ここに来て大誤算。苦戦していたタイガーゴイルを一発で仕留めるくらいに強い、が正解。
レイジは、立ち尽くしていた。また、自分が足手まといになるのではないか、と不安に駆られた。
初めて受けた討伐クエスト・ロケトパス戦では、船酔いゆえにずっと休んでいた。その情けなさを思い出してしまった。
フォードは、並み外れた身体能力を駆使して巨人に真っ向から挑んでいる。アザミも、ある程度は使える氷の魔術でフォードを補助している。
動きが鈍った敵の筋を斬るは、ギュトーの包丁さばき。レイジがいなくても、この三人が持ち味を活かすことで、少しずつ敵が弱っている。すべては、レイジがレベルアップするための布石だ。
「おい、レイジ! 何をボーっと立っていやがる!? 俺たちは、お前のために頑張っている」
「そうですよ、レイジさん。あなたの特性、聞きましたよ」
「俺の特性?」
「ええ、フォードさん曰く……その精神力を爆発させることで、魔法のような事を起こす……ってね。そのあなたが、ここで諦めてどうするんですか? 諦めたら、文字通り何もできないのでは?」
ギュトーは、もう一度ヒザ裏を狙ってマチェットを深く突き立てた。
一度は折れたマチェット。これこそが、レイジを新たな高みへと導く道しるべになる。
「レイジはん! ここで漢を魅せな、また足手まといになるで!!」
「もう足手まといになるもんか……! “スパーク”!」
アザミの喝が、レイジの背筋をビリビリと駆け巡った。そして、右腕全体から白い火花が飛び散る。
レイジは、ギュトーが突き立てたマチェットを強くつかんだ。そして、心を本能のままに爆発させる。
「はあああああ!!」
『ぎがああああ!!』
オレンジギガントの神経にクリティカルヒット。しかし、それと同じくらい、レイジの神経にも電撃が走る。
この勝負、ダブルノックアウト! レイジも、白目をむいて気絶している。
「アカン、レイジはんもかなり痺れとる! “キュアー”!」
まだまだ、実践投入をするにはお膳立てとアフターケアが十分に必要な、レイジの新技“スパーク”。
ほとんど失敗したようなものだが、確かな手ごたえはあったことだろう。
ギュトーは、オレンジギガントの心臓部めがけてマチェットを突き立てた。
これによって、オレンジギガントはただの肉片と化した。フォードたちは、その亡骸を抱えて、朝焼けのダベヤ村へと帰るのであった。
本日分の更新が遅くなって申し訳ありません。




