第二話 『西の空に背を向けて』
リオとキョウカは整備場で調査をしていた時から何発かの銃声を聞いていた。
しかし二人は救援に向かわず、核攻撃の危険性を完全に否定するため調査を続けた。
まずは目的を果たさなければならない。
そのために自分達はここまで来たのだから。
核攻撃の危険性を完全に否定できた後、二人は銃声が聞こえた海岸通りの方角へ向かった。
整備場を出てからは一度も銃声が聞こえておらず、リオの不安は高まっていく。それを振り払うように、彼女は全力で走った。
やがて二人は海岸通りに出た。そこに広がっていた光景を目にして、リオは言葉を失った。
そこには、拳銃を持ったままうつ伏せになって倒れているハルの姿があったからだ。
街灯の明かりは、ハルから広がっている血だまりを照らしている。
「ハル!」
リオは叫び、ハルのもとへ走った。
キョウカは銃を構え、周囲に敵がいないかどうかを確認し、ハルから少し離れたところで倒れている敵兵らしき老人とサツキの姿を見つけた。ハルのほうはリオに任せ、キョウカはサツキのもとへ向かう。
リオは倒れているハルに何度も強く呼びかける。それにこたえるように、ハルの体はかすかに動いた。
まだハルが生きていることを知ったリオは、応急処置をするため自分のインナースーツのファスナーを下ろし肌着を脱いで、負傷している足にきつくしばりつけて止血する。
その痛みで気がついたのか、ハルは小さく声をもらした。
リオはハルを仰向けに寝かせ、彼の顔をのぞき込む。
「ハル……。よかった。生きてて、本当に、よかったよぉ……」
リオはボロボロと涙をこぼす。
彼女の涙はハルの顔にあたり、そのぬくもりはハルの意識を少しずつ覚醒させた。
ほどなくして、ハルはキョウカの声を聞く。
「みんな、無事のようね」
キョウカは背負っていたサツキを地面に寝かせ、ハルのそばにひざをついた。
「状況から考えるに、ハル君がサツキを守ってくれたのね。ありがとう……」
「僕、が…………? そうだ、先生は……」
「センセイ? それは、あそこで死んでいる敵兵のこと?」
その言葉を聞いた瞬間、ハルはあの一瞬の出来事を思い出す。
サツキを守るため、ハルは先生を撃った。
その弾は命中し、先生は倒れた。
僕は、家族を、殺したんだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ハルは叫ぶ。
突然のことにリオは体をびくりと震わせ、キョウカは後ずさった。
ハルはリオから離れようと暴れ出し、拳銃を握りしめて自分の頭に向ける。
「ハル、何してるの、やめて!」
リオはハルの腕をつかむ。
ハルは彼女の手を振り払おうともがき、叫んだ。
「殺したくなかった、殺したくなんかなかったんだ! やっと会えたのに、わかりあえると思ったのに! でも、僕は、サツキさんを守らなきゃならなくて、だから、でも、でもっ!」
ハルが何を言っているのかリオにはわからなかったが、それでも彼が本気で死を求めていることはわかった。
リオはハルを取り押さえるようにのしかかり、拳銃を握っている彼の手を全力でつかむ。
それでもハルは暴れ続け、叫び続けた。
「いやだ……。もう、いやだよ、こんな世界、これ以上、生きて、何の意味があるんだ!」
声の限りハルは叫ぶ。キョウカはそんな彼のそばに立ち、おそろしく冷静な口調で言った。
「そこまで死にたいと思うのなら、あなたの自由にすればいい」
キョウカのその言葉は、ハルとリオの動きを止めた。
「もし、あそこで死んでいるのがあなたが探していた家族で、あなたが殺したというのなら、その苦しみは想像もできないほど重いものでしょう。だから死をもって解放されたいと望むことを、私は否定できない」
でも、とキョウカはかすかに声を震わせる。
「あなたが殺めた命のことを、あなたが本当に大切に思うのなら、あなたはその苦しみを背負って生きるべきだと私は思う。あなたの家族は……、彼はきっと、それを望むはずよ。あなたには生きる義務と、価値がある。あなたは仲間を守った。あなたが生きることを望む仲間もいる。あなたの帰りを待つ人だっているでしょう。だから」
キョウカはハルの目を見たまま、ひざをつき身をかがめ、彼のほほにふれる。
「生きて。あなたを思う人のために。そして、あなた自身のために」
ハルは何もこたえず、嗚咽をもらしながら涙を流していた。




