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落日の国  作者: 青山 樹
第五章 『夜は星々のために』
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第十四話 『覚悟』

 大丈夫、とサツキは確信をもって言う。


「この人には、私達を殺す気がないから」


「君は何か勘違いをしているな」

 オータムは重く冷たい声を出す。

 しかしサツキは一歩、また一歩とオータムに近づいた。


「私が君達を殺さないのは、殺す理由がないからだ。私はこれでも臆病者でね、誰かを殺すとなれば、それ相応の覚悟を持たなければならない。君達にはそこまでして殺すだけの理由がないのだよ。言い換えれば、殺す価値がないということだろうか」


「そうだね。でも、殺す価値がなくても、生きる価値はあると思っているはずだよ」


 ちがう、とオータムは言う。

 サツキはさらに一歩進む。


「あなたは私を殺さなかった。それどころか、東日本へ行って生きろといった。生きる価値がないと思っているのなら、どうしてそんなことを言ったの?」


 黙れ、とオータムは声を震わせる。

 サツキは進み続ける。


「昼間の時だって、あなたは私達全員を殺すことができたはず。でもあなたはそれをしなかった……。ハル君を攻撃したのも」


「黙れ!」


 オータムは叫ぶと同時にスラスターを稼働させサツキとの距離を一気に詰め、彼女の腹めがけて拳を突き上げた。

 サツキの体はふわりと浮かび、地面に背中を打ちつけて倒れる。


「サツキさん!」


 ハルは叫び、オータムに発砲する。

 オータムは片腕でハルの攻撃を防ぎつつ、彼に向かって突進し体当たりをくらわせた。

 ハルの体は大きく吹き飛び、彼の手から自動小銃が離れる。オータムはそれをつかみとり、海へ向けて投げ捨てた。


「私には君達を殺す理由はないし、生かす理由もない……。だが、そうだな。君達があくまでも私を倒すといい、私が望む私の最後を邪魔するというのなら、今ここで殺しておくべきなのかもしれないな」


 オータムはうずくまっているハルに近づく。

 ハルは立ち上がることができず、顔だけを上げて、迫りくるオータムの姿を見た。


「本当に、それで、いいの?」

 オータムを引き止めるように、サツキの声が聞えた。

 オータムは立ち止まり、振り返る。

 サツキは片手を腹にあて、もう片方の手を固く握りしめ、足を震わせながら立っていた。

 そんな状態でも彼女の顔には表情がなかったが、その瞳には確かな意思が宿っていた。


「ああ、もちろんだ」


「うそだよ。やっぱりあなたは、私達を殺さない。もし本当にその意志があるのなら、さっきの攻撃で私を殺しているはず。でも、私は死んでない。私は、生きている」


 サツキは再びオータムに近づきはじめる。


「あなたと別れてから、私は祖父のことを考えた。私はどうやって祖父を殺したのか、祖父はどうして私を殺さなかったのか、考えた……」


 オータムの顔に、動揺の色が浮かぶ。


「でもやっぱり、本当のことはわからない。きっともう、それは見つけられない。だから私は、あなたが言ったことを信じることにしたの。祖父は私を殺さなかったんじゃない。殺せなかったんだ。祖父もそこまではしたくなかったんだと思う」


 オータムの表情をしっかりと読み取るように、サツキの目は彼に向けられていた。


「そんなことをするくらいなら自らの死を選ぶって、自分ならそうするって、あなたは言った。祖父も同じだったんだと、私は信じたい……。そして、あなたのことも。あなたは私達を殺せない。とくにハル君は殺せない。だってハル君は、あなたの家族――」


「黙れっ!」

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