第十四話 『覚悟』
大丈夫、とサツキは確信をもって言う。
「この人には、私達を殺す気がないから」
「君は何か勘違いをしているな」
オータムは重く冷たい声を出す。
しかしサツキは一歩、また一歩とオータムに近づいた。
「私が君達を殺さないのは、殺す理由がないからだ。私はこれでも臆病者でね、誰かを殺すとなれば、それ相応の覚悟を持たなければならない。君達にはそこまでして殺すだけの理由がないのだよ。言い換えれば、殺す価値がないということだろうか」
「そうだね。でも、殺す価値がなくても、生きる価値はあると思っているはずだよ」
ちがう、とオータムは言う。
サツキはさらに一歩進む。
「あなたは私を殺さなかった。それどころか、東日本へ行って生きろといった。生きる価値がないと思っているのなら、どうしてそんなことを言ったの?」
黙れ、とオータムは声を震わせる。
サツキは進み続ける。
「昼間の時だって、あなたは私達全員を殺すことができたはず。でもあなたはそれをしなかった……。ハル君を攻撃したのも」
「黙れ!」
オータムは叫ぶと同時にスラスターを稼働させサツキとの距離を一気に詰め、彼女の腹めがけて拳を突き上げた。
サツキの体はふわりと浮かび、地面に背中を打ちつけて倒れる。
「サツキさん!」
ハルは叫び、オータムに発砲する。
オータムは片腕でハルの攻撃を防ぎつつ、彼に向かって突進し体当たりをくらわせた。
ハルの体は大きく吹き飛び、彼の手から自動小銃が離れる。オータムはそれをつかみとり、海へ向けて投げ捨てた。
「私には君達を殺す理由はないし、生かす理由もない……。だが、そうだな。君達があくまでも私を倒すといい、私が望む私の最後を邪魔するというのなら、今ここで殺しておくべきなのかもしれないな」
オータムはうずくまっているハルに近づく。
ハルは立ち上がることができず、顔だけを上げて、迫りくるオータムの姿を見た。
「本当に、それで、いいの?」
オータムを引き止めるように、サツキの声が聞えた。
オータムは立ち止まり、振り返る。
サツキは片手を腹にあて、もう片方の手を固く握りしめ、足を震わせながら立っていた。
そんな状態でも彼女の顔には表情がなかったが、その瞳には確かな意思が宿っていた。
「ああ、もちろんだ」
「うそだよ。やっぱりあなたは、私達を殺さない。もし本当にその意志があるのなら、さっきの攻撃で私を殺しているはず。でも、私は死んでない。私は、生きている」
サツキは再びオータムに近づきはじめる。
「あなたと別れてから、私は祖父のことを考えた。私はどうやって祖父を殺したのか、祖父はどうして私を殺さなかったのか、考えた……」
オータムの顔に、動揺の色が浮かぶ。
「でもやっぱり、本当のことはわからない。きっともう、それは見つけられない。だから私は、あなたが言ったことを信じることにしたの。祖父は私を殺さなかったんじゃない。殺せなかったんだ。祖父もそこまではしたくなかったんだと思う」
オータムの表情をしっかりと読み取るように、サツキの目は彼に向けられていた。
「そんなことをするくらいなら自らの死を選ぶって、自分ならそうするって、あなたは言った。祖父も同じだったんだと、私は信じたい……。そして、あなたのことも。あなたは私達を殺せない。とくにハル君は殺せない。だってハル君は、あなたの家族――」
「黙れっ!」




