第十三話 『弔いの場で』
ハルの追撃をかわしつつ人工島の南を目指していたオータムは、突然立ち止まって空を見上げた。
ハルは反撃に出ると思い、攻撃の手を止めて距離をとる。
「……ミッドナイト、ダイク、マーサ。安らかに眠れ。親愛なる我が同志達よ」
ひとり言のように言ったあと、オータムは再び走り出した。
ハルは警戒しながら後を追う。
ミッドナイトという名前に、ハルは聞き覚えがあった。人工島で最初に遭遇した敵だ。他にも二人分の名前が出ていたから、敵は三人の仲間を失ったのだろう。その死を悼む気持ちはあるらしい。
敵とはいえ、同じ人間であることを、ハルは意識せずにはいられなかった。
しばらくして、二人は人工島の海岸線に沿ってつくられた公園に出た。
等間隔に並んだ街灯は東から西へ続く公園の敷地と、南側に広がる海を照らしている。波の打ち寄せる音が、静かに、そしてどこか寂しげに聞こえた。
オータムは西へ向かって公園を進んだ。
ハルに反撃する様子なく、罠にかけようという気配もない。
そのためか、ハルはいつの間にか攻撃の手を止めていた。
突然、オータムは立ち止まった。
ハルのほうへ振り向くことなく、じっと前を見ている。
ハルは慎重にオータムへ接近する。そして、ハルもまた立ち止まった。
立ち止まらざるをえないものが、そこに見えた。
「サツキ、さん……」
ハルが目にしたのはサツキの姿だった。
今までハルはオータムのうしろ姿だけを見て走っていたため、彼女がそこにいることに気づかなかった。
彼女は手術着のような簡素な衣服だけを身に着けており、武器らしいものは何も持っていない。
そのすぐ手前には、スチール製のロッカーらしきものが横たわっている。そのまわりには小さな箱がいくつか置いてあった。
「ハル君、ひさしぶりだね」
淡々とした口調でサツキは言う。やはりその顔に表情はなく、瞳は透明で感情がない。
「そうか……。彼女の名は、サツキというのか」
オータムにとってもこれは予想外の事態だったらしく、かすかに声が震えていた。
「しかしなぜ、君はこんなところにいるんだ。仲間のもとへ行ったとばかり思っていたが」
「あなたが来るのを待っていたの」
サツキは両手を強く握りしめたまま、まっすぐにオータムを見る。
「あなたなら、この人をちゃんと弔うために戻ってくると思ったから」
「なるほど。たしかにそうだ。君の言う通りだ。ミッドナイトもダイクもマーサも逝ってしまった。残るは私一人だ。君達が優勢である以上、私もいつ死ぬかわからない。だからその前に、クラウドをおくってやろうと思ったのさ。それで――君は私に会ってどうするつもりなんだ?」
「あなたを倒す」
サツキが言う。
その言葉に確固たる意志があることを、オータムは理解した。
「そうか。しかし、あまり現実的な考えではないな。見たところ君は完全に生身の状態だ。いかに君が生体兵器と言えど、君の体に施されているのはフレームの操縦性を向上させるための改造であって、生身の戦闘に特化しているわけではないだろう」
「改造って……。サツキさん、どういうことですか?」
ハルは困惑の声を上げる。
するとオータムは、呆れたように短くため息をついた。
「そんなことも知らなかったのか。仲間だというのに、情けないものだな」
「私のことはどうでもいいよ」
サツキはオータムに向かって一歩前へ進んだ。
「サツキさん、その人から離れて! 早く!」
ハルは叫び、自動小銃を構える。
オータムもすかさずハルに銃を向け、横目でサツキの様子をうかがった。
緊張がハルとオータムの間に走る。
しかしサツキは動じなかった。




