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落日の国  作者: 青山 樹
第五章 『夜は星々のために』
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第十三話 『弔いの場で』

 ハルの追撃をかわしつつ人工島の南を目指していたオータムは、突然立ち止まって空を見上げた。

 ハルは反撃に出ると思い、攻撃の手を止めて距離をとる。


「……ミッドナイト、ダイク、マーサ。安らかに眠れ。親愛なる我が同志達よ」


 ひとり言のように言ったあと、オータムは再び走り出した。

 ハルは警戒しながら後を追う。


 ミッドナイトという名前に、ハルは聞き覚えがあった。人工島で最初に遭遇した敵だ。他にも二人分の名前が出ていたから、敵は三人の仲間を失ったのだろう。その死を悼む気持ちはあるらしい。

 敵とはいえ、同じ人間であることを、ハルは意識せずにはいられなかった。


 しばらくして、二人は人工島の海岸線に沿ってつくられた公園に出た。

 等間隔に並んだ街灯は東から西へ続く公園の敷地と、南側に広がる海を照らしている。波の打ち寄せる音が、静かに、そしてどこか寂しげに聞こえた。

 オータムは西へ向かって公園を進んだ。

 ハルに反撃する様子なく、罠にかけようという気配もない。

 そのためか、ハルはいつの間にか攻撃の手を止めていた。


 突然、オータムは立ち止まった。


 ハルのほうへ振り向くことなく、じっと前を見ている。

 ハルは慎重にオータムへ接近する。そして、ハルもまた立ち止まった。

 立ち止まらざるをえないものが、そこに見えた。


「サツキ、さん……」


 ハルが目にしたのはサツキの姿だった。

 今までハルはオータムのうしろ姿だけを見て走っていたため、彼女がそこにいることに気づかなかった。

 彼女は手術着のような簡素な衣服だけを身に着けており、武器らしいものは何も持っていない。

 そのすぐ手前には、スチール製のロッカーらしきものが横たわっている。そのまわりには小さな箱がいくつか置いてあった。


「ハル君、ひさしぶりだね」


 淡々とした口調でサツキは言う。やはりその顔に表情はなく、瞳は透明で感情がない。


「そうか……。彼女の名は、サツキというのか」


 オータムにとってもこれは予想外の事態だったらしく、かすかに声が震えていた。


「しかしなぜ、君はこんなところにいるんだ。仲間のもとへ行ったとばかり思っていたが」


「あなたが来るのを待っていたの」


 サツキは両手を強く握りしめたまま、まっすぐにオータムを見る。


「あなたなら、この人をちゃんと弔うために戻ってくると思ったから」


「なるほど。たしかにそうだ。君の言う通りだ。ミッドナイトもダイクもマーサも逝ってしまった。残るは私一人だ。君達が優勢である以上、私もいつ死ぬかわからない。だからその前に、クラウドをおくってやろうと思ったのさ。それで――君は私に会ってどうするつもりなんだ?」


「あなたを倒す」


 サツキが言う。

 その言葉に確固たる意志があることを、オータムは理解した。


「そうか。しかし、あまり現実的な考えではないな。見たところ君は完全に生身の状態だ。いかに君が生体兵器と言えど、君の体に施されているのはフレームの操縦性を向上させるための改造であって、生身の戦闘に特化しているわけではないだろう」


「改造って……。サツキさん、どういうことですか?」


 ハルは困惑の声を上げる。

 するとオータムは、呆れたように短くため息をついた。


「そんなことも知らなかったのか。仲間だというのに、情けないものだな」


「私のことはどうでもいいよ」


 サツキはオータムに向かって一歩前へ進んだ。


「サツキさん、その人から離れて! 早く!」


 ハルは叫び、自動小銃を構える。

 オータムもすかさずハルに銃を向け、横目でサツキの様子をうかがった。

 緊張がハルとオータムの間に走る。


 しかしサツキは動じなかった。

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