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落日の国  作者: 青山 樹
第五章 『夜は星々のために』
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第十二話 『生きるも死ぬも』

 銃を下げるという、敵に対してはあるまじき行為を受け、マーサはいぶかしげに言う。


「……なんのつもりだい」


 リオは何も答えず、彼女の目を見た。


 きっとこの人は、私を撃てない。

 誰も殺せないし、死なせない。

 もしこの人に殺意が少しでもあるのなら、私はとっくに死んでいるはずだ。

 だから――。


 リオは一歩、また一歩と前へ進む。


「それ以上進むな! 進んだら撃つ!」


 マーサが叫ぶ。

 しかしリオは止まらない。

 なぜこんなことをしているのか、彼女自身にも不思議だった。


 ほんの少し前までは、敵を殺すことばかり考えていたのに。


 手を伸ばせば相手に触れられるという距離まで近づくと、リオは立ち止まった。


「あんた、死ぬのが怖くないのかい」


「怖いよ。でも、自分が死ぬのと同じくらい、私は人を殺すことが怖い。たとえそれが敵であっても。あなただって、そうなんでしょ」


 そう言った時、リオはなぜこんなことをしたのか、わかったような気がした。


 この人と私は似ているんだ。

 この人は、本当は人を殺したくなんかない。

 だけど今まで積み重なってきた苦しみや悲しみが大きすぎて、心がうまく抑えられなくなっているんだ。

 ここへ来る前の、私みたいに。


「まったく、むかつくガキだよ。わかったふうなことを言って、何様のつもりだい」


 マーサは銃を下ろし、道を開けるように下がる。


「でもまあ、いいだろう。あんたみたいなのが生きていれば、このろくでもない世の中も少しは面白くなるかもしれない。いきな。あとはあんたの好きにすればいい」


「そうする。ありがとう」


 リオの顔に自然と微笑みが浮かぶ。

 マーサはちいさくため息をついた。

 

 リオは整備場の奥へ向かって走った。

 遠ざかるリオに向かって、マーサは大きく声を出す。


「せいぜい、がんばって生きてみせな!」


 リオは立ち止まり、振り返った。

 マーサは自分のあごを突き上げるように銃口を当てていた。

 

 その姿をリオが目にした瞬間、マーサは引き金を引いた。


 銃声が響き、マーサの頭は粉々に吹き飛ぶ。

 腐った果肉が地面に落ちるような音が聞こえ、マーサの体はぐらりと倒れた。

 血と肉の生々しいにおいがリオの体に、頭に、心に染み込んでいく。


 それから間もなく、整備場へ近づいてくる足音が聞こえた。

 しかしリオは何も反応できず、頭を失ったマーサの遺体を、ただ茫然と見つめていた。

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