第十二話 『生きるも死ぬも』
銃を下げるという、敵に対してはあるまじき行為を受け、マーサはいぶかしげに言う。
「……なんのつもりだい」
リオは何も答えず、彼女の目を見た。
きっとこの人は、私を撃てない。
誰も殺せないし、死なせない。
もしこの人に殺意が少しでもあるのなら、私はとっくに死んでいるはずだ。
だから――。
リオは一歩、また一歩と前へ進む。
「それ以上進むな! 進んだら撃つ!」
マーサが叫ぶ。
しかしリオは止まらない。
なぜこんなことをしているのか、彼女自身にも不思議だった。
ほんの少し前までは、敵を殺すことばかり考えていたのに。
手を伸ばせば相手に触れられるという距離まで近づくと、リオは立ち止まった。
「あんた、死ぬのが怖くないのかい」
「怖いよ。でも、自分が死ぬのと同じくらい、私は人を殺すことが怖い。たとえそれが敵であっても。あなただって、そうなんでしょ」
そう言った時、リオはなぜこんなことをしたのか、わかったような気がした。
この人と私は似ているんだ。
この人は、本当は人を殺したくなんかない。
だけど今まで積み重なってきた苦しみや悲しみが大きすぎて、心がうまく抑えられなくなっているんだ。
ここへ来る前の、私みたいに。
「まったく、むかつくガキだよ。わかったふうなことを言って、何様のつもりだい」
マーサは銃を下ろし、道を開けるように下がる。
「でもまあ、いいだろう。あんたみたいなのが生きていれば、このろくでもない世の中も少しは面白くなるかもしれない。いきな。あとはあんたの好きにすればいい」
「そうする。ありがとう」
リオの顔に自然と微笑みが浮かぶ。
マーサはちいさくため息をついた。
リオは整備場の奥へ向かって走った。
遠ざかるリオに向かって、マーサは大きく声を出す。
「せいぜい、がんばって生きてみせな!」
リオは立ち止まり、振り返った。
マーサは自分のあごを突き上げるように銃口を当てていた。
その姿をリオが目にした瞬間、マーサは引き金を引いた。
銃声が響き、マーサの頭は粉々に吹き飛ぶ。
腐った果肉が地面に落ちるような音が聞こえ、マーサの体はぐらりと倒れた。
血と肉の生々しいにおいがリオの体に、頭に、心に染み込んでいく。
それから間もなく、整備場へ近づいてくる足音が聞こえた。
しかしリオは何も反応できず、頭を失ったマーサの遺体を、ただ茫然と見つめていた。




