第十一話 『覚悟』
極度の緊張状態にあったリオは、銃を握ったまま腰を落とした。
「あんた達は最初からだまされていたのさ。考えてもごらんよ。本当にあたしらが戦術核を手に入れたのなら、東日本から衛星だかミサイルだかを西日本に打ちこむに決まってるじゃないか。なんでわざわざこんなところまで来て使わなきゃならないんだ」
「じゃあ……、じゃあ、あなた達は、何のために、こんなことを」
「もう一度、戦争を始めるためさ」
リオはマーサに目を向けたまま、言葉を失った。
「あたしも詳しくは知らないが、どうやら連合と同盟の上層部で結論が出たらしいね。東日本と西日本をそれぞれ別の国として分離させることに決まったそうだ。だけど世論がそれを許さない。東にしろ西にしろ、世論は日本の統一を求めている。それを納得させるには、東と西でもう一度戦争をして、痛み分けにもっていくしかないのさ。あたしらはな、そのための火種をこしらえるためにここへ来たんだよ」
マーサはリオに銃を向ける。
「戦術核の情報をつかみ、あんた達がここへ来た時点で、もう計画は始まったのさ。今頃同盟政府は連合による核攻撃を口実に西日本の世論を納得させ、戦争の準備に取り掛かっていることだろう。連合はとっくに戦争の準備を済ませている。解放軍は明日にでも、本州を分断している放射能の壁を越え、西日本へ攻め込むはずだ。あんた達は知らないだろうが、放射能に汚染されている地域よりもそうでない地域のほうがずっと広いんだよ。だから解放軍は、一気になだれ込んで西日本に大打撃を与えることができる」
「そのために、あなた達は、こんなことを……」
「そうさ。そもそもこの戦いのきっかけをつくったのはかつての日本政府、今の同盟政府だ。あたしらは生きるために抵抗し、戦いが始まった。とはいっても、今回の作戦に参加した連中はみんなここを死に場所と決めた奴らばかりだけどね。まったく、バカな連中だよ。死に時と死に場所を決めたとたん、妙に生き生きとしやがるんだから。まあ、最後くらいは思い切り暴れたいと思ったんだろうよ」
マーサは呆れたようにため息をつき、含みのある笑みを浮かべた。
「さて、長々としゃべっちまったが、あたしの言ったことが真実だと思うかい?」
「え?」
「あたしはあんたの敵だ。あんたはあたしの敵だ。敵に本当のことを教えると思うかい。あたしの言ったことが時間稼ぎのためのでたらめだってことも、十分考えられるだろう」
たしかにマーサの言う通りだった。
人工衛星には本物の戦術核が搭載されているかもしれないし、その照準は西日本に向けられているかもしれない。
私がなすべきことは、西日本への核攻撃の危険性を完全になくすことだ。
そのためには、目の前にいるこの人を排除しなければならない。
「真実を知りたいのなら、前へ進むしかないだろう。そのためにはあたしを殺さなきゃならない。あんたにそれができるかい? 自分達が生きるために、人殺しになる覚悟はあるのかい」
マーサはリオを問いただす。
リオは立ち上がると、マーサとまっすぐに向かい合い、銃を向けた。
「もし、本当に戦術核が搭載されていたとして、あなたは本当に西日本へ発射してもいいと思っているの? 何の罪もない人達を、たくさん殺してもいいと、本当に思っているの?」
「もちろんさ。あたしだけじゃない。この作戦に参加した奴らはみんなそう思っている。西日本の連中を殺したがっている。実際に何人かの国防軍の兵士は、あたしらに殺されただろう」
それは事実だった。第五観測所の隊員は全滅しているだろうし、第七観測所も大きな被害を受けた。
そして、リオ自身も、敵に殺されそうになったことがある。
しかしリオは、マーサからは彼らから感じたような殺意をほとんどまったく感じなかった。
彼女の目に憎悪や敵意はあっても、殺意はないように思えたのだ。
リオは静かに息を吐き、ゆっくりと銃を下げた。




