第七話 『ダイク』
橋が爆破された時、リオとキョウカは人工島の西側にある企業の集積地を進んでいた。
爆発音と橋が崩落する轟音は二人にも聞こえ、その歩みを止めた。
「おそらく、橋が全て落ちたのね」
キョウカは全ての橋に仕掛けられた爆薬のことを知っている。
敵は国防軍の援軍を足止めするため人工島を陸地から切り離したのだろう、と彼女は判断した。
「とにかく、先を急ぎましょう」
二人が進んでいるのはかつて物流センターとして使われていた場所で、見通しのいい広々とした敷地内には倉庫や営業所らしき建物がぽつぽつと点在していた。そのため身を隠せるような場所はほとんどない。
だが、一刻を争う事態となった今、キョウカは捨て身の覚悟でここを通ることにした。ここを一直線に進めば港湾センター跡地に到着し、そこから東へ進めばモノレールの整備場へ、第五観測所の技術室として使われていた施設へたどり着けるのだ。
「キョウカさん。私にかまわず、先に行って下さい」
リオは息を切らしながら言う。
キョウカがフレームを失った自分の速さに合わせて走っていたため、リオは自分が足手まといになっていると思ったのだ。
「だめよ。もし人工衛星に戦術核が搭載されていたり、自動的に発射するようプログラムが組まれていたら、きっと私では対処できない。リオさんの力が必要になると思う」
それに、とキョウカは励ますような笑みを見せる。
「丸腰になっている仲間を見捨てるなんてできないわ。とにかく今は、自分にできること、自分のなすべきことを考えなさい」
はい、とリオは答えた。
二人は敵に遭遇することなく港湾センター跡地に到着した。その東側にはいくつもの支柱に設置されたモノレールの線路が見え、線路の先には整備場らしき建物があった。
「あの建物よ」
キョウカがそう言った時、整備場からうなるようなエンジン音が聞こえ、二人めがけて何かが急速に接近してきた。
キョウカは回避する余裕がないと判断し、リオをかばうように前に立って自動小銃を構える。
現れたのは、ミッドナイトと同じタイプの黒いフレームをまとった老人だった。
バックパックのスラスターを最大限に稼働させ、地面すれすれを滑空しながら体当たりをくらわせようと突っ込んでくる。
キョウカは狙いを定め、発砲した。
老人は空中へ急上昇して銃撃をかわし、二人の頭上を飛び越えて、その背後に着地した。
「ひ、ひっひっひ、はっはっは! いやぁ、いいかんじに飛んだ飛んだ!」
老人は気合を入れるように拳をぶつけ合う。
彼の頭は見事に禿げていて、街灯の明かりを反射して輝いていた。顔には失われた頭髪を補うように白いひげがたっぷりと伸びている。
「おお、女子大生っぽいかんじの姉ちゃんに、ちんちくりんのロリ顔少女たぁ、いい組み合わせじゃねえか。ええ、嬢ちゃんたちよぉ、俺の仕事場に何か用かい?」
キョウカは銃を構え、老人に言う。
「探し物をしに来ただけよ」
「ほうほう、探し物ねえ。なんだいそりゃぁ」
「戦術核。あなたの仲間がこの島のどこかにあると教えてくれた」
「そうかい。なら、工房にゃ行っても無駄だな。あそこにはあんたら西日本の連中にくれてやるプレゼントが置いてあるだけだからよ」
「プレゼント?」
「ああ。たくさんの連中を生きることの苦しみから解放してやれる、それはそれは素晴らしいプレゼントさ! ひっひ、ひひ、はっはっはっはっは……」
老人は渇いた笑い声を上げる。
キョウカは即座に老人の頭を狙って発砲した。
しかし老人の腕は人間の限界を超えた反射速度で動き、弾丸をはじき飛ばす。
「よお、姉ちゃんよぉ。ひでえじゃねえか。いきなり頭を狙うなんてよぉ。そんなことしちゃいけねえぜ。そんなことしたらよぉ、あんた……」
老人の顔に、狂気にゆがんだ笑みが浮かぶ。
「人を殺し慣れてるって、バレちまうぞぉ!」
豪快なエンジン音が鳴り響くと同時に、老人はキョウカに襲いかかる。
キョウカは応戦しつつ、リオに言った。
「先に行って!」
「でも、キョウカさんが」
「早く!」
キョウカが叫ぶ。
ここにいたところで、自分にできることは何もない。
自分にできることは、やらなければならないことは、他にある。
リオはキョウカに背を向け、整備場に向かって走り出した。




