第六話 『再会と銃声』
人工島の東側に広がる整然とした住宅地を進んでいたハルは、ヘッドギアから友軍が被害を受けたことを報せるアラームの音を聞いた。
ハルはすぐに建物の影に身を隠し、ヘッドギアのディスプレイを使って状況を確認する。
そして、リオのフレームが破壊されたことを知った。
「そんな。リオが……」
ハルの心に後悔が押し寄せた。
作戦遂行ではなく味方の救助を優先するべきだったかもしれない。
自分の行動が味方を、リオを見殺しにしたのかもしれない。
だが、後悔しても手遅れだ。
今のハルにできることは速やかに作戦を遂行することと、リオの無事を祈ることだけだった。
フレームが破壊されたからといって、彼女の死が確定したわけじゃない。
否定的に物事を考えるな。
信じるんだ。
ハルはディスプレイを外し、目的地を目指して走り出す。
その行く手を遮るように銃声が鳴り、ハルのすぐ目の前に弾痕が生じた。
ハルは反射的に後退し、自動小銃を構える。
「そちらのフレームの識別信号が一つ消えたようだな」
住宅地をまっすぐに通る道路の向こう側から老人の声が聞えた。
それはハルにとって、この場では二度と聞きたくない声だった。
「だがそれはこちらも同じだ。親愛なる我が同志、ミッドナイトが逝ってしまった。まったく、悲しいものだな。互いに仲間を失ったばかりだというのに、その死を悼むことすらできず、戦わなければならないのだから」
黒いフレームを装備した老人が道路の向こう側から現れる。
それは間違いなく、昼間にハル達を攻撃した白髪の老人だった。
「一応、自己紹介をしておこうか。私は昭和・平成連合解放軍特務隊所属、オータムと呼ばれている者だ。君は何という。名乗りたまえ」
オータムはハルに銃を向けたまま、彼が名乗るのを待つ。
しかしハルは口を開くことすらできなかった。
恐怖でも緊張でもない、得体の知れない感情が彼の頭にのしかかり、心を激しく震わせていた。
「ふむ……、答える気はないか。まあいいだろう。ではな、名もなき国防軍の兵士よ」
オータムはハルの頭に狙いを定める。
ハルはとっさに建物の影へ逃げ込んだ。
オータムは断続的にハルに発砲しつつ、距離を詰めていく。
「どうした。逃げるだけでは勝てないぞ。君が持っているものはなんだ。自動小銃の形をしたお守りだとでもいうのか。少しは反撃してみたらどうだ」
オータムは静かに挑発をくり返す。
それでもハルは逃げ続けた。今の彼に、反撃という選択肢はない。
オータムは弾丸を炸裂弾に換装し、ハルが身を隠していると思われる建物に片っ端から撃ちこんでいく。建物は次々と爆砕され、やがてハルは通りにあぶり出された。
ここにきてハルも覚悟を決めたらしく、銃口を相手に向ける。
しかし、どうしても引き金を引くことはできなかった。
オータムは構うことなくハルを狙って炸裂弾を撃つ。弾丸はハルの少し手前の地面に当たり、ハルは爆風に吹き飛ばされ仰向けに倒れた。
「まったく、君は本当に何をしに来たんだ。何もできず、何もする気がないのなら、さっさと帰りたまえ。私達は私達の使命を果たさなければならないのだ。無駄にできる時間はない」
オータムは装填されている炸裂弾をハルの周囲に向けて全て撃ちこんだ。
ハルは退避する間もなく爆発と爆風に襲われ、彼の体は激しく吹き飛ばされる。
爆音が消え、土煙がおさまった頃、ハルは自動小銃を抱えて立ち上がる。
その目はまっすぐに敵の姿を捉えていた。
「……何もできないのだから、そこで倒れていればいいものを。なぜ、立ち上がるのか」
オータムは銃に弾丸を装填し、ハルに向ける。
その瞬間、オータムのフレームにハルが撃った弾が当たった。
「僕にだって、できることはある」
ハルは銃口をオータムに向けたまま、語気を強めて言った。
「やりたいことも、やらなきゃいけないこともある。だから僕は、ここにいるんだ!」
その意志と信念を示すように、ハルは発砲した。
オータムは銃撃をかわしつつ反撃する。
廃墟と化した住宅地に銃声が何度となく鳴り響いた。
「そうだ。それでいい。やっと面白くなってきたな。やはり戦いとは、こうでなくては」
オータムはどこか楽しげな口調で言う。
ハルが攻撃に転じてから、オータムは適度に反撃しつつどこかを目指すように後退していた。
しかしハルはそれを気にすることもなく、攻撃することに意識を集中していた。
目の前にいるのは、倒すべき敵なんだ。
確固たる敵意がハルの心に固まりかけた、
その時、人工島の北側から爆発音が響いた。それは二度、三度と立て続けに響き、何かが崩れ落ちるような轟音も聞こえてくる。
ハルは攻撃の手を止め、オータムも立ち止まった。
「どうやら、全ての橋が落ちたようだな」
有事の際に人工島を切り離すことができるよう、すべての橋に爆薬が仕掛けられていることをオータムは知っていた。
しかし、橋を全て落とすということは今回の作戦にはない。
国防軍もそんなことをするとは思えなかった。
「……どうやら、何か良くないことが起ころうとしているのかもしれないな。急がなければ」
オータムはハルに背を向け、人工島の南へ向かって走り出す。
その行く先に戦術核があるかもしれないと判断し、ハルはオータムの後を追った。
もっとも、それだけが理由ではないことをハルは自覚している。
オータムと対峙した今、なんらかの形で必ず決着をつけるという意志と覚悟が、ハルを動かしていた。




